22歳の新鋭ラッパー・クボタカイが1stアルバム『来光』をリリースした。本作の特徴は、クリープハイプに代表される日本の詩的なギターロックの世界観とラップをハイブリッドさせた、ありそうでなかったオルタナティブなポップミュージックの表現だ。
今回のインタビューではアルバムの制作過程に加え、フリースタイルMCバトルの大会<KING OF KINGS>の西日本選抜に勝ち残るほどのスキルを持った彼が、なぜ現在のスタイルにたどり着いたなどについて聞いた。
INTERVIEW:
クボタカイ
「今週のジャンプ読んだ?」と同じノリで
「今週のダンジョンヤバかったね」
━━ラップをはじめたきっかけをおしえてください。
一番最初に聴いたヒップホップの曲はサイプレス上野とロベルト吉野さんの“ちゅうぶらりん feat. 後藤まりこ”でした。この曲は『ゴッドタン』のエンディングテーマだったんです。ラップをやりたいと直接的に影響を受けたのは<高校生RAP選手権>と『フリースタイルダンジョン』ですね。高校でめちゃくちゃ流行ってたんですよ。「今週のジャンプ読んだ?」と同じノリで「今週のダンジョンヤバかったね」みたいな。それで僕も興味を持って、高校3年の時にやり始めました。『フリースタイルダンジョン』を観終わったあと、お風呂場で韻を踏む練習したり。『ドラゴンボール』を読んだあと、格闘したくなるのと同じ感覚でやってました(笑)。
━━ラップ歴3ヶ月で『NHK 番組 #ジューダイ』のラップ企画で優勝したんですよね?
高校の同じクラスにフリースタイルで超すごいやつがいたので、地元では「フリースタイルやってます」って言い出せなかったんです。なので卒業して福岡に行ったタイミングではじめました。Twitterでサーチしたら家の近所でサイファーやってるのを知って、通うようになってどんどんのめり込んでいきました。
━━福岡のヒップホップシーンはハーコーで有名です。
そうですね。でも僕は相手をディスするより韻を踏みまくってラップで勝ちたいスタイルだったので、特に怖い経験はしたことないです。みなさんすごく優しかった。どのバトルも先輩の胸を借りる気持ちで戦ってました。
━━『来光』やこれまでの作品を聴いていると、フリースタイルバトル出身というプロフィールが意外に感じられます。
ラップは純粋に大好きなんです。自分の作品でもっとヒップホップ的な表現をしたこともあったけど、自分で聴いて全然ピンとこなくて。頑張ってご飯作ったけど、なんか美味しくない。何かが足りないみたいな。ちょうどその頃、失恋をしたんです。福岡の中州を歩いてる時、電話で振られて。胸の中にものすごい情動が渦巻いて、もうどうにかなってしまいそうだった。「これは何かにぶつけないとダメだ!」と思って、自転車に乗って速攻で家に帰って、YouTubeにあったR&B系のフリートラックにメロディで(ラップを)ハメてみたら、これまでにないしっくり感があった。歌詞も自分が思ったことを書けてるし、「俺のスタイル、これじゃね?」って(笑)。
「自殺防止センターが混線してる
この国ってめちゃくちゃヤバい」
━━『来光』が面白いのは、ラップカルチャーが根っこにあるのがしっかり感じられるけど、同時にさまざまな音楽とハイブリッドしてポップミュージックに仕上がっていることでした。クボタさんは最近だとどんなアーティストを聴くんですか?
結構いろいろ聴きます。んoonさん、工藤祐次郎さん、クラムボンさん、EVISBEATSさん、Gateballersさん……。海外だとトム・ミッシュ(Tom Misch)も大好きだし。あと椎名林檎さんやCHARAさんも超ヤバいと思うし。
━━CHARAさんはTwitterで“せいかつ”のリリックに反応されてましたね。
嬉しいというより「何が起きたの?」って感じでした(笑)。
━━制作はどのように進めるんですか?
曲によってまちまちですけど、元になるデモを作って「こういう感じにしてほしい」とトラックメイカーさんにアレンジをお願いしてもらうこともあるし、逆に「このトラックでやらない?」と提案してもらうこともありますね。
━━1曲目の“僕が死んでしまっても”はどちらのパターン?
メロディと歌詞はギターで作りました。なんか嫌なことがいろいろ重なってしんどい時期があったんですよ。それで歌詞にある通り、自殺防止センターに電話したんです。蒸し暑い夏に自分の部屋から。けど、つながんなくて。自殺防止センターって最後にすがりつく場所なのに、そこが混線してつながんないこの国ってめちゃめちゃヤバいと思ったんです。そしたら急に冷めちゃった。いろんなことがバカバカしくなってしまって。その時に思ったことを簡単に書き残して、後日歌詞に整理してまとめました。サビが最初にできたので友達に聴いてもらったら「めっちゃいいね」と言ってもらえたんで、Taro Ishidaさんと一緒に形にしようと思いました。
━━近年、どんどん曲の尺が短くなってるこのご時世に、アルバムの1曲目で6分超えの曲を入れるラッパーはヤバいと思いました(笑)。
事務所の人にも言われました(笑)。でも僕はこの曲を一番聴いてほしいと思ったんです。
━━それは伝わりました。マーケティングとかじゃないんだなって。アーティストとしての誠実さというか。
でもね、この曲は「がんばってください」というメッセージソングではないんです。押し付けるつもりは毛頭ない。ただ僕自身の身に起こったことを曲にしただけ。それを聴いてほしかった。ある意味自己満足です。でも曲を聴いて、何かを感じてもらえたらすごく嬉しい。
僕が死んでしまっても – クボタカイ (Official Music Video)
━━クボタさんのリリックには若者の生々しさを感じます。そういった実体験以外、例えば映画や小説からアイデアを得たりすることはありますか?
ヒントをもらえたりはするけど、例えば「『ジョーカー』を観たから曲作ろう」みたいなことはないですね。自分の中で血肉化されたら、自然と作品に出ちゃうことはあるかもしれないけど。
━━「僕が死んでしまっても」の印象に引っ張られているのかもしれないけど、『来光』を聴いて、クボタさんは未来に何も期待してないのかな? って感じました。それは世代的なものなんでしょうか?
どうだろう? 世代的ってことじゃないと思います。悲観的なのはあくまで僕の感覚ですね。底抜けに明るい曲を書こうと思ってトライしてみたこともあったけど、僕は自分の感情を表現したくて音楽を作ってるのに、思ってもないことを書くのは本末転倒だと思ったのでありのままでやってます。
韻はドラムに似てることに気づいた
━━アルバムを聴いていて、PUNPEEさんのフロウに影響を受けてるのかなと思いました。
結構よく言われますけど、決して真似したわけではないです(笑)。とはいえ、僕は日本語の特性を最大限に活かしたラップという面で、PUNPEEさんはひとつの頂だと思ってる。普段から意識してるわけではないですけど、自分でも思ってないところで影響が出てしまってるのかもしれない。自分なりに分析すると口腔の動きが似てるのかもしれない。「か」行の響きとか。
━━PUNPEEさんは聴き心地もいいし、韻も硬いですよね。
わかります。僕、韻を踏むのが大好きなんです。“せいかつ”も実はめっちゃ踏んでて。例えば頭の《水色の「ワンピースを買った」》は、次の《飲みかけの「缶ビールの殻」》で長い韻を踏んでる。サビも《君は「泣いている」/なぜか「泣いている」/分から「ないでいる」》《歌詞を「書いている」》と踏んでて。
━━気づかず気持ちよく聴いてました。
韻大事です。“春に微熱”も子音で踏んでて。《綿毛の行方》《私の知らぬ〜》《渡した言葉〜》《は 大した事ない》とか。
━━“Youth love”の《この病に知性は「衰退中」/でも本当は暗いとこで「したい chu」》という言葉遊びも楽しかったです。
フリースタイルだけしてた頃は長い韻を踏んだり、意外性のある面白い言葉で遊んだりするのが好きだった。でも自分で音楽を作り始めてから「韻とはなんだろう?」と考えるようになって。で、韻はドラムに似てることに気づいたんです。ドラムってスネアやキック、ハイハットがそれぞれ違う音でリズムを刻んでいて、重なり合ってグルーヴを生む。韻もそれに近い。歌の中でアクセントを付けて、気持ちよくグルーヴさせるためのものだと。そこから言葉の意味や韻の硬さだけじゃなくて、聴き心地を意識するようになりました。だから僕は子音で踏むことが多いのかも。踏み切れてないけど、口心地がいい言葉。
━━なるほど。そういう意味ではPUNPEEさんはそこのバランス感が絶妙ですよね。
そうなんです。でもバトルはバトルで大好き。実は4月7日の<戦極MC BATTLE>に出ます。バトルは2年半ぶりです。昔の僕はアウターマッスルのラップだったと思う。でも今目指すのは鎮座DOPENESSさんのようなインナーマッスルのラップ。その場でいかにヤバいラップを即興で作り、返せるか、みたいな。正直、どうなるか全然わかならない。いいバトルができないかもしれないし、ステージに立ったら勝ちたい気持ちが強くなって、昔みたいなスタイルになっちゃうかもしれないし(笑)。
自分の好みに合う何かを探すより
自分で作ったほうが早い
━━クボタさんの楽曲は、日本の音楽文化にラップが定着した以降のポップミュージックだと思いました。
そう言っていただけるのはありがたいですね。僕は星野源さんの活動スタイルが理想的なんです。コアな音楽のエッセンスを抜かずにポップな形にしてお茶の間まで届けるっていう。しかも演技までできて。表現のいろんなチャンネルを持ってるあのスタンスは理想ですね。
━━ということは、音楽以外にもいろんな表現をしてみたい?
はい。デザインもやりたいし、絵も描きたい。この前、フォトショップとイラストレーターは買いました(笑)。今は音楽をやってはいるけど、僕は「好きなもの」を作りたい。自分の好みに合う何かを探すより自分で作ったほうが早い。本当はジャケもMVも全部自分でやりたいんですよ。
━━基本がDIYなんですね。
そこは父の影響がデカいですね。ものづくりが大好きで、実家の家具はほとんど父が作ってるんです。そういう血が僕にも流れてるのは間違いない(笑)。父は部屋とか自分で作っちゃうんで。
━━『来光』に自作トラックがないのはなぜですか?
トラックメイクのスキルが足りないからです。自分ひとりではやりたいことを細部まで詰めることができない。
━━ソフトは何を使ってるんですか?
「STUDIO ONE 4」ですね。MIDI鍵盤につないで。あとはさっき言ったみたいにギターで作ったりもします。トラックメイクに関しては、僕が尊敬する人たちのところに合宿に行って技を盗みたいくらい。シーズン1はShun Maruno、シーズン2はTaro Ishida、シーズン3はYonkeyみたいな。
━━Qeticの対談企画『クボタカイの合縁奇縁(あいえんきえん)』も今後楽しみです。
僕がファンの人に声をかけてお話させてもらってるだけなので、企画という形にしていただき感謝です(笑)。
━━ちなみに今後対談してみたい人はいますか?
実は今回、この企画を立ち上げるにあたって、会いたい人の候補を何名か挙げさせてもらったんですよ。でもね、尊すぎて書けなかった二組がいて。超会いたいし、お話したい。けど、恐れ多くて。
━━僕が大好きなLITTLE CREATURESの青柳拓次さんが昔雑誌のコラムで「好きと言い続けると向こうから寄ってくる」という旨のことを書かれて。10代の僕はそれを信じて40代まで生きてきましたが、これは意外と本当だと思います。
マジか。じゃあ言います。カネコアヤノさんとクリープハイプさんです。極端な話、ジャスティン・ビーバーのような世界的大スターより会いたい。それくらい食らってきた人たちだから。実現してほしいです(笑)。
Text by 宮崎敬太
Photo by Maho Korogi
クボタカイ
宮崎出身1999 年生まれ。
ラッパー/ トラックメーカー/ シンガーソングライター。
2017 年より拠点を福岡に移し、フリースタイルラップ、楽曲制作を開始。Hip-Hop、R&B、Rock からPops まで幅広い音楽と文学の香りを感じさせるリリックで注目を集める中、2019年3月に自主制作EP盤「305」を販売するが即完売し話題となる。リスナーであった石川陸監督よりオファーをうけmoosiclab2019にて映画主題歌に抜擢。フリースタイルラップでも頭角を現しており、NHK 番組「#ジューダイ」のラップ企画にてラップ歴3ヶ月での優勝や国内最大級のMCバトル「KING OF KINGS」西日本選抜、またその他の大会でも数々の好成績を残す。
2019年12月デビューEP「明星」をリリース。収録曲「ベッドタイムキャンディー2号」「せいかつ」「TWICE」のMVが話題となり、各種チャートにランクイン。福岡KiethFlack、渋谷 VUIENOSで行われたリリースパーティは即時完売となり大盛況を収めた。2020年2月シングル「パジャマ記念日feat. kojikoji」リリース。
3月に連続リリースした「春に微熱」のリリックビデオYouTube再生回数は240万回を超える。
2020年8月みゆなのシングル「あのねこの話」にフィーチャリングとして参加。
SpotifyバイラルTOP50入りし、AWA急上昇ランキング1位を獲得。2020年12月4日に大阪ANIMAにてライブを行い大盛況となる。そして2021年4月7日に自身初のフルアルバムとなる「来光」をリリース予定。
INFORMATION
来光
2021年4月7日(水)
DDCB-14076 ¥3,000(tax incl.)
クボタカイ
収録曲
M1.僕が死んでしまっても
M2.MENOU
M3.ベッドタイムキャンディー2号
M4.MIDNIGHT DANCING
M5.TWICE
M6.春に微熱
M7.博多駅は雨
M8.インサイダー
M9.パジャマ記念日feat.kojikoji
M10.Youth love
M11.拝啓(Freestyle)
M12.せいかつ
M13.アフターパーティー