──アルバム『IS(Is Superpowered)』は、より低音の土台が強調された仕上がりになっているように思います。ライヴでのそういった、アナログなフィードバックで低音を探っていくようなかんじが影響しているのでしょうか。

会場ごとの音の違いとかは自分にとって楽しめる要素なので、ハコの音を録音して使ったりもしていますね。あと低域は、フランク(・ブレットシュナイダー)とロバート(・リポック)にメンタル込みで鍛えていただけて大感謝です(笑)。

──今回のアルバムではおなじ〈raster-noton〉の盟友であるフランク・ブレットシュナイダーとロバート・リポックがプロデュースで参加しています。プロデュースの流れは実際にはどのようなものでしたか?

ライヴでやった素材を纏めて一度自分なりに完パケしたものを、フランク、ロバート、あとオラフ(・ベンダー。〈raster-noton〉のコ・ファウンダー。Byetone名義で活動)も交えてみんなでスタジオに入って、選曲やアイデアについて考えていくかんじでしたね。

──じゃあその時にはもうミックスまで終わっている?

終わってます。だからそのままあまり変わってない曲もありますね。あとは“もっとヴォーカルを入れたほうがいい”とかの意見をもらったりとか。みんなすごく的確なんです。たとえば“この曲はベースを入れ替えてみたら?”と言われて入れ替えると、それだけで曲がぐっと良くなったり。たぶん自分ひとりだけで作っていたといたら、こんなに曲にヴァラエティが出なかったと思います。

──アルバムは曲によってヴォーカルを加工するアプローチもそれぞれちがいますし、そういったところにもヴァラエティが出ていますね。

ヴォーカルの加工は曲に対してそれぞれ変えました。ヴォーカルに対しては昔からやりかたが一緒で、もうヴォーカル用のエフェクトも決まっちゃってたんですけど、今回はそれをなるべく避けてやってみましたね。もうちょっとなんていうか、声のエゴの部分をなくそうと。もしくは、あえてもっと出してみるとか、そういったメリハリを考えてみました。

──それはどういう部分が基準になって声のエゴの部分をなくしたり、あるいは誇張したりしているんですか?

曲がどういうふうに聞こえるといいか、ですね……。たとえばある曲では声のエゴが邪魔するよりはリズムに集中したほうがいいだろう、とか。

──でもいわゆるプロパーなダンス・ミュージックのバックグラウンドがあってそうしているわけではないですよね? 純粋なダンス・ミュージックからは逸脱しながらも、一方ではダンスというアプローチがしっかりある。そういったバランス感覚はどういうところから生じているのですか?

たとえばヴォーカルにしても、“声”とか“歌”というものは好きなんですけど、歌い上げるというよりも、あくまで機械的でいたいんです。音楽を作るにあたっては、なるべく人間性とか感情とかそういうものは排除して作りたい。ライヴだとすごくがーってなっちゃいますけど、制作ではうまく切り替えて理性的でありたい、というか。

──たとえばライヴに反して、ミックスなんかはすごく理性的な作業ですよね。そういった、ライヴで得たものをオーディオ作品に落とし込むにあたって意識していたところはどういった点になります?

とにかくデータをキッチリまとめることですね。ライヴはそこまでしなくていいですけど。最初のころはあんまりミックスで細かいことやってても、“これ効果あるのか”って半信半疑だったんですけど、前回のEPとそのあとのライヴ以降からはずっと細かいミックスに集中してます。もうずっとそこばかり。最近は音も聴かないで波形だけ見ながら重箱の隅をつついたり。

──え、音聴かずにやるんですか?

そうです。アレンジとかも終わってある程度作ったら、最後のミックスでは波形だけ見て周波数の整理整頓を。こないだは2日ぐらい聴かずにずっと波形だけいじってました。で、さいごに聴くと“おおー!”って(笑)。

──それはあえて視覚情報だけでいい、という割り切りなんですか? 聴覚が邪魔になるとか?

音を聴かないとその曲がどういう音だったかを忘れるので、それがいいんです。何日か経ってそれを聴いた時に、すごい客観的になれる。

──ある音に対して客観性を取り戻すということなら、単純にしばらくの期間聴かなければいいわけですが、でもその聴いてない間も波形をいじる、ということですよね? 具体的には聴かない時にどういう作業をするのですか? 波形を見ながら“このへん出すぎてるからイコライザーで削ろう”とか?

いや、なんていうか、音に対しての空間というか、あるところが出すぎて全体のバランスを崩しているとすると、以前はイコライザーとかヴォリュームとかで削ろうとしようとしてたんですけど、それをひょいと空いている場所に動かす、というか……。聴かずにそういう作業をやってると、自分で想像していなかった意外な効果をもたらしてくれるんです。それがおもしろくて。

──そうなってくると曲のアレンジや構造自体に対する考え方にも影響してきますよね。たとえばカールステン・ニコライ(〈raster-noton〉主宰。notoやalva noto名義で活動)のように、楽曲をメロディやリズムではなく周波数で捉える、というような。

自分はカールテンほどにはなれないですけど、考えは似たようなものになってくるのかもしれないですね。ただ、今回のアルバムでは、まだそこまでのことはやってないです。

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