2024年、沖野修也・沖野好洋による兄弟ユニット・Kyoto Jazz Massive(以下、KJM)の年表に新たな歴史が刻まれた。30周年記念アルバム『KJM COVERS KYOTO JAZZ MASSIVE 30th Anniversary Compilation』が、12月4日(水)にリリースされる。

急きょ録音した未発表曲も含め、彼らがプロデュース、リミックスした「カバー曲」をコンピレーションした本アルバム。DJ/プロデューサーとして国内外のジャズシーンを盛り上げてきた彼らだからこそ描ける、「KJMらしさ」を凝縮した作品集に仕上がった。

今回、QeticではKJMの2人にメールインタビューを実施。アルバム制作の経緯と過程、そして「今までの10年」と「これからの10年」について話を伺った。

INTERVIEW
KYOTO JAZZ MASSIVE

【INTERVIEW】KYOTO JAZZ MASSIVE|ジャンルも、時代も超えていく。30周年を迎えたKJMがたどり着いたクロスオーバーの境地。 interview2412-kyoto-jazz-massive1
左)沖野好洋/右)沖野修也

楽曲選定の基準は「いかにKJMらしさを生み出せるか」。

10周年の際には参加アーティストの書き下ろしによる新曲で構成されたコンピレーションアルバム『10th Anniversary “FOR KJM”』(2004年)を発表。20周年では過去5年の間に手がけた作品を集約した『KJM WORKS~Remixes+Re-edits』『KJM PLAYS~Contemporary Classics』(2014年)を2枚同時リリースしたKJM。

30周年となる2024年に彼らが挑んだのは、未発・既発を含むカバー曲を集約したコンピレーション・アルバムの発売だった。どういった経緯でカバーアルバムの構想に至ったのだろうか。

「以前からカバー作品に焦点を当てたアルバムを作りたいとは思っていました。ただ、ライブバンド録音の作品とプログラミング録音の作品をどう融合させるか、既発曲と新曲のバランスはどうするのかといった、いくつかの課題があって。なかなか踏み込めず、タイミングを見計らっていたんです。

30周年という節目を迎えた今年は、まさに構想を実現するのに絶好のタイミング。兄(修也)とも『カバー曲をまとめて作品化しよう』と具体的な話が挙がり、制作に着手しました」(弟・沖野好洋/以下・好洋)

今年6月にリリースされたEchoes Of A New Dawn Orchestra(EOANDO)とのコラボEP『KJM EOANDO – Kyoto Jazz Massive 30th Anniversary Edition』を制作していた時点で、既にカバー・アルバムの内容はある程度決まっていた。

EP制作中もEOANDOのメンバーに、アルバムの収録候補曲を聴いてもらっていたという2人。そもそもKJMは「カバー曲を制作する否か」という判断基準を、どこに据えているのだろうか。

「基本的には我々が気に入ってDJでも使っている曲、長くかけ続けている曲の中から、レコーディングしたい曲を選んでいます。あとはKJMがフィーチャーするボーカリストの声とマッチするかどうかも、重要な判断基準のひとつです」(兄・沖野修也/以下・修也)

「KJMのフェイバリット曲をクラブ仕様にアレンジしたいから、自分たちのテイストに合うから……など、個々の楽曲がレコーディングに至るまでの決め手はさまざま。ただ、KJMらしいサウンドが生み出せる楽曲かどうかや、収録される作品のコンセプトに合うかどうかは、選定の重要なポイントになっていると思います」(好洋)

では、彼ら自身が捉える「KJMらしいサウンド」とは。KJMのアイデンティティについて、修也は「クロスオーバー」というキーワードを挙げる。

「ジャズとファンクの融合はもちろんのこと、ゴスペルとブギー、スピリチュアル・ジャズとフュージョン、ブラジルとソウルといった異なる音楽をクロスオーバーさせること。その『交える感覚』こそがKJMのスタイルだと捉えています。

さらには原曲の良さを活かしつつ、オリジナルが生まれた当時にはなかった現代的なサウンドをアレンジに加えることも、KJMらしさに繋がると考えています。

今回のアルバムに収録した11曲は、いずれもオリジナルの時点で複数のジャンルが組み合わさっている楽曲ばかり。ハイブリッドなサウンドに、さらにハウスやテクノ、ブロークンビーツを取り込み、縦軸と横軸の広がりを作ることは常に意識しています」(修也)

バランスをとる塩梅に難航する瞬間もあった。

これまでも「KJMがカバーする意味」を慎重に考えながら、カバー楽曲の制作を手がけてきた2人。メロディーの良さを活かすボーカリストのセレクションや、使用する楽器のチョイスにも「KJMらしさ」を垣間見ることができる。

その一方、制作の現場では「複数のジャンルを横断しながら、新旧のバランスも整えてカバーを成立させる」という絶妙なバランスを攻め込みたいがために、難航する場面もあった。

「新旧のバランスをとる塩梅が特に難しかったのは“No Cross No Crown”ですかね。オリジナルがリリースされたのは1979年。
ただリバイバルの影響もあってか、原曲のスラップベースが既に現代的に聴こえて。新たなエッセンスを加える隙がないように感じました。

どうやってKJMらしさを新たに付与するか。レコーディングでは弟(好洋)やベーシストのROOT SOULとかなり協議を重ねましたね。最終的にスウェーデンのプロデューサー・Opolopoにアレンジしてもらうことで、ゴスペルブギーだった原曲をエレクトリックなファンク・ソウルに変換しました」(修也)

また今回のアルバムリリースにあたり、急いでレコーディングを行なった楽曲も。“Kowree Sambazzi”はマスタリングの納期が2週間後に迫る中、急遽収録が決定した楽曲とのこと。ボーカリストやエンジニアの予定が1日だけ揃い、その場で完成まで漕ぎつけた、いわば「奇跡の一曲」だ。

「アルバムの制作を進めるうちに『既発のカバー曲だけではなく新録も入れよう』という話になったんです。そこで僕は兄がDJでよくプレイしていた“Kowree Sambazzi”を推しました。

オリジナルはスピリチュアル・ジャズ/ファンクと、ブラジリアンが融合した作品。まさに兄と弟の得意分野が融合したKJMらしい曲なんです。改めてベストなチョイスだったと感じます」(好洋)

アルバムには既発曲と新録曲に加え、あえてライブバージョンをチョイスしたトラックも収録。“Black Reneissance”と“Love is Everywhere”は、KJMがライブ活動を再開したことも記念し、晴れてライブ版がアルバム入りを果たした。いずれもフロアの熱気が伝わってくる、臨場感あふれる仕上がりとなっている。

「“Black Reneissance”はライブのイントロで一度だけプレイした曲で、まさにKJMのレアトラック。“Love is Everywhere”は既発のリミックスした作品を入れる案もありましたが、やっぱりこのライブバージョンが好きなんです。会場の盛り上がりがプレイにも反映されているんですよね」(好洋)

これまでの10年、そしてこれからの10年と、その先へ。

今回のアルバムを聴くと、30年もの長い時間を経て「KJMらしさ」が醸成されていったことが、言葉で説明せずとも伝わってくる。ただ、特に20周年から30周年に至るまでの10年間で起きた変化も、2人の紡ぐ音に強く影響を与えたように伺える。2014年から2024年に至るまでの軌跡を、彼らは次のように振り返る。

「僕自身がレコードショップを経営しているのもあり、クラブミュージックの存在がセールス含めてさらに厳しくなっていることを痛感した10年でした。ただ、中古盤市場の成長を感じた10年でもあります。現場で使えるクラブミュージックだけではなく、今後何十年も残っていくクラシックスも生み出そう、と考えるようになりました。

KJMが打ち込みのハウスやクロスオーバーから、生バンドを起用したレコーディングにシフトしたのも、ある種の必然的なものだと捉えていて。とにかく模索を重ねた10年間だったと思います」(好洋)

「この10年で起きた日本のクラブジャズの収束/UKジャズの勃興とともに、KJMも再始動し、ヨーロッパでのライブを活性化させていったんです。我々にとって重要な期間だったと思います。

同時にコロナの影響で、リスナーの音楽体験が変化したのも印象深い出来事でした。踊れるジャズの需要が減ると同時に、踊れないジャズへの関心が高まった。そしてサウンド・バーやレストラン、ホテルといった『クラブではない場所』でジャズDJが活動するようになったんです。活躍の場が広がる瞬間を感じました」(修也)

そしてこの10年間で、修也はUKやUSの若い世代を中心に、ジャズやソウル、ファンクが注目されつつあると指摘。次の10年に向け、よりシーンが拡大していくことを期待する。

「アンダーソン・パークやサンダー・キャットたちが来日するたびに、渋谷のザ・ルーム(修也がプロデュースするクラブ・バー)を訪れてくれるんです。我々がやっている事は間違いではないし、むしろ今の時代にリンクしていると感じます。

実際、日本のジャズ・シーンでも若いDJが台頭してきています。僕がかつてバンド時代のMONDO GROSSOと結託していたように、彼らも国内の若いミュージシャンと連動し、同世代のファンを開拓してほしいです」(修也)

【INTERVIEW】KYOTO JAZZ MASSIVE|ジャンルも、時代も超えていく。30周年を迎えたKJMがたどり着いたクロスオーバーの境地。 interview2412-kyoto-jazz-massive2

2024年11月現在、KJMは既にサードアルバムのデモ制作を進めているという。過去のインタビューでは「KJMは100年くらい続くだろう」と語っていた2人。来たる10年後、2034年のデビュー40周年に向けて、彼らはどのように歩みを進めていくのだろうか。

「セカンドアルバム『Message From A New Dawn』(2021年)をリリースした時、海外の反応を目の当たりにしたんです。やはり作品を出すことの大切さを実感しました。

だからこそ、とにかく次の10年は、これまで出した曲よりも良い曲を作ることに尽くします。それしか考えていません。KJMがレジェンド枠に入ることや、100年続くブランドになることは、その結果でしかないと思っています」(修也)

「40周年までKYOTO JAZZ MASSIVEが存在するのかは正直分かりません。ただ、兄・沖野修也が構想するKJMの未来像は、もはや兄弟ユニットの域を越え、ワールドワイドな広がりを見せていると思います。

94年のデビュー作品が、KJMをコンセプトとした周辺アーティストたちのコンピレーションであったように、今後はさらに若い世代のDJ/プロデューサーたちを巻き込んでいきたい。そして我々の意志を継ぐアーティストたちの発掘・サポートに努めていきたいです」(好洋)

Text:Nozomi Takagi

INFORMATION

【INTERVIEW】KYOTO JAZZ MASSIVE|ジャンルも、時代も超えていく。30周年を迎えたKJMがたどり着いたクロスオーバーの境地。 interview2412-kyoto-jazz-massive4

KJM COVERS – Kyoto Jazz Massive 30th Anniversary Compilation

2024.12.04(水)
CD:POCS-23048 / 価格:3,300円(税込) 3,000円(税抜)
レーベル:SELECTIVE RECORDS
ディストリビューション:VMG
【収録予定曲】
01. Black Renaissance (Live) / Kyoto Jazz Massive *Harry Whitaker
02. No Cross No Crown / Kyoto Jazz Massive *Gloster Williams And Master Control
03. Kowree Sambazzi feat.Vanessa Freeman & Bembe Segue / Kyoto Jazz Massive *Medina & Mensah
04. Mystery Of Ages feat.Bembe Segue (KJM Edit) / Kyoto Jazz Massive *Carlos Garnett
05. Karmapa Chenno feat.Bembe Segue (KJM Edit) / Kyoto Jazz Massive *Don Cherry
06. Off And On feat.Rob Gallagher & Bembe Segue / Kyoto Jazz Massive *Moacir Santos
07. Face My Window (KJM Remix) / Jazzanova *Sam Sanders
08. Love Is Everywhere (Live) / Kyoto Jazz Massive *Pharoah Sanders
09. Endless Flight / Kyoto Jazz Massive * Rodney Franklin
10. Carnaval / Orquesta De La Luz (Prod. by Kyoto Jazz Massive) *Orquesta Esencia
11. Just As We / Arvin Homa Aya (Prod. by Kyoto Jazz Massive) *Caroline Peyton
*印はオリジナル・アーティスト

詳細はこちらCDはこちら配信はこちら

【INTERVIEW】KYOTO JAZZ MASSIVE|ジャンルも、時代も超えていく。30周年を迎えたKJMがたどり着いたクロスオーバーの境地。 fc1477b98cffa1b19b5391bcf5251c59

KYOTO JAZZ MASSIVE 30th Anniversary Live
『KJM COVERS』Release Party ft. Vanessa Freeman

2025.01.16(木) COTTON CLUB [東京] *Full Band Live
2025.01.17(金) 24PILLARS [名古屋] *PA LIVE
2025.01.18(土) BAR Inc [大阪] *PA LIVE
 
2025.01.16(木)
COTTON CLUB
[1st.show] open 5:00pm / start 6:00pm
[2nd.show] open 7:45pm / start 8:30pm
MEMBER
Shuya Okino [Kyoto Jazz Massive] (MC,SE,cho)
Yoshihiro Okino [Kyoto Jazz Massive] (DJ,MPC,SE)
Vanessa Freeman (vo)
Kenichi Ikeda [ROOT SOUL] (b)
Kaztake Takeuchi [A Hundred Birds] (key)
TABU ZOMBIE [SOIL&“PIMP”SESSIONS] (tp)
Soki Kimura [OSAKA MONAURAIL] (ds)
Takashi Nakazato (Percussions)
Chloe Kibble (cho)
CHARGE/料金
[全席指定]
テーブル席 : ¥7,700
ボックスシート・センター (2〜4名席) : ¥10,000
ボックスシート・サイド (2〜4名席) : ¥9,000
ボックスシート・ペア (2名席) : ¥9,500
ペア・シート (2名席) : ¥8,500
※料金は1名様あたりの金額となります。
詳細はこちらKYOTO JAZZ MASSIVE
沖野修也沖野好洋