Laura day romanceの2ndフルアルバム『roman candles | 憧憬蝋燭』が、3月16日(水)にリリースとなった。これまで、作品毎に表情やコンセプトを変えつつも、インディーロックとポップミュージックを融合させながら、豊かで、どこか懐かしさを感じさせるサウンドスケープを作り上げてきた彼ら。

1stフルアルバム『farewell your town』から約2年振りのリリースとなる今作は、彼らが培ってきた表現力を遺憾なく発揮させつつも、音にしても歌詞から読み取れるメッセージにしても、目に見える変化が感じられる作品となっている。当インタビューでは、そうした変化の過程を追うべく、結成時から現在に至るまでのLaura day romanceの軌跡を追う。

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INTERVIEW:
Laura day romance

音楽性の両極を突き詰めて中心点を見出す

──活動最初期である2018年にリリースされた1stEP『her favorite seasons』や2ndEP『because the night』は、インディーロック色が強い作品でした。元々、音楽性の意思統一をした上で活動をスタートさせたんですか?

鈴木迅(Gt/Cho) いえ、そういった擦り合わせはしていなかったです。ただ、<フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL)>に出たい、という共通意志はあったので、野外で演奏して映える音楽をやる、というやんわりとした方向性はあったように思います。あとは、シャムキャッツやミツメといった、バンドのフォーマットで独自のインディーミュージックを確立しているアーティストに惹かれていたので、自分たちもそういうバンドをやりたかったんですよね。

川島健太朗(Vo/Gt) シュガー・ベイブが念頭にあったんだと思いますが、男声と女声のツインボーカルというのも決まっていましたね。最初はハーモニーを作り出すことに苦労しましたけど、かっちゃん(井上)と声が似ているとか、重なり合った時の感じが好きだと言われることもあったので、やっていて面白かったです。

礒本雄太(Dr) 僕は最初、サポートメンバーとして加入したんです。同じ大学サークル内で結成されたLaura day romanceに誘われた身で、さらにいえば、自分はインディーミュージックにもほとんど触れてこなかったので、誘いを受けた時の一言目は「何で?」でした(笑)。でも、だからこそ、自分のプレイとバンドの方向性がどういう風に嚙み合っていくのか? という面白味を感じていました。

──相乗効果ですね。両EPが対になる情景をイメージした作品であることや、1stフルアルバム『farewell your town』がコンセプトアルバムであることを踏まえると、ひとつのテーマを基にして作品作りをすることに魅力を感じているのでしょうか?

鈴木 そうですね。アルバムに筋が通っているといいますか、一貫した流れのある作品が好きなので、自ずとそういった作品に仕上がっていくのかもしれないです。でも、先行的にテーマを設けて曲作りをするというよりは、曲が増えていく中で徐々に自分のやりたい主題が決まっていき、集まった楽曲の中から、それに合う楽曲を拾い上げていく、という感じです。なので、楽曲のストックはかなりある状態なんです。基本的には最初にかっちゃんに聴いてもらって、そこでOKが出たものだけがバンド内で共有される、という基本ルートがありました。今はちょっと違うんですけど。

井上花月(Vo/Tamb) 私自身、明確な判断基準を持っている訳ではないので、感覚的に良し悪しを伝えているという感じです。悪い、というか、ピンとこない時は反応でバレちゃうんだと思います。でも最近は、判断を求めずに、迅くんがやりたい曲をやるようになったよね。

鈴木 ああ、そうかもしれないね。最初は、僕自身DAWが使えないということもあって、弾き語りの状態で楽曲の魅力がどれだけ伝わるか? ということを重視していたんです。でも、そうなるとメロディの強い曲だけが勝ち残ってしまうし、いざアレンジをしようとなった段階で、脂っこくなり過ぎてしまう。なので今は、自分の頭の中でアレンジまで詰めた状態にした上で、プレゼンしています。なので、最初に比べると熟考するようになりましたね。

──そうした変化の中で、今作『roman candles | 憧憬蝋燭』もまた、サウンド面での奥深さや、歌詞から読み取れるバックグラウンドなど、今までよりもぐっと深度の上がった作風に仕上がっていると思います。今作は、かなり長い時間を掛けて作り上げていったのでしょうか?

鈴木 去年の始め辺りには既にアルバムの草案があって、そこから2021年5月から7月に掛けて、配信シングルとして“fever”、“東京の夜”、“happyend”の3作品をリリースしながら寄り道をしつつ、アルバム制作に戻りました。

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(L→R)川島健太朗、井上花月、礒本雄太、鈴木迅

──この配信シングルの3作品は、アルバム作品の質感とは異なり、温度感が高めな仕上がりになっているなと思いました。

鈴木 1stアルバムの時はエモーショナルな部分をなるべく排除したい、というブームが自分の中にあって、シングルの時は逆に、エモーショナルな部分を全面に出したいという気分だったんです。自分たちがエモーショナルの極地まで振り切ったらどういう音楽ができるのか試したかったことと、聴いてくれた人を驚かせたいという気持ちが、シングル化した3曲に還元されています。なので今回の2ndアルバムは、前作のベッドルームっぽいコンパクトな雰囲気と、エモーショナルな部分を共存させたら面白いなと思ったし、その面を際立たせる為にかっちゃんをソロボーカルにして、自由度の高い感情表現ができる余白を持たせた、という意図もあります。

──今作で各曲の密度がかなり上がっていると感じるのは、より繊細さや綿密さを重んじるようになったことが影響しているように思いました。アルバムの全体的なイメージとしては、どういうものがあったのでしょうか? アルバムタイトルからは、エリオット・スミス(Elliott Smith)の代表作が想起されますが。

鈴木 去年一年を通して、外側に向けてエネルギーを放つ曲が多いように思いましたし、そうした風潮に辟易したムードがあったと思うんですよ。なので、逆に僕らは、エネルギーが内側に籠るような作品を作りたかった。そのイメージが「蝋燭」と合致しましたし、自分の中にあるアイデアを内側で燃やし続けて亡くなったエリオット・スミスの人生そのものに通じるなと思ったんです。

静かに、淡々と、自分の中でエネルギーを燃やし続けて生まれた灯が、誰かの為になったらいいなという想いが今作に込められていますし、シングル3曲のように誰かをガツンと鼓舞するというよりは、エモーショナルだけれども、しっかりと聴き手に寄り添うことのできる作品にしたかったんです。

──前作の雰囲気を継承しつつも、あくまで逆のアプローチに挑むと。

鈴木 前作に対して逆のアプローチを仕掛けることで、両極を突き詰めていき、その結果、自分たちの中心点を見出していく、という意味合いがあります。なので、聴いてくれる人も、徐々に僕らの核に近づいていってもらえたらいいなと思いますね。そういう意味では、今作はかなりバランスの良い作品に仕上がっていると思います。

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「寛大さ」がアルバムに良いゆとりを生む

──2021年は、コロナ禍の影響もあって、インプットがメインとなる生活を強いられたのではないかと推察するのですが、皆さんはどういった過ごし方を経た上で、今作の制作に臨まれたんですか?

礒本 僕は、今まで通りの活動ができなくなったことによる気分の落ち込みや焦りで、一時期、音楽を聴けなくなってしまったんですよ。その最中にリリースされた、サニーデイサービスの『いいね!』を聴いた時に、自分の中の初期衝動といいますか、バンド欲が刺激されたんです。ちょうどその頃にアルバム制作も進み出したんですけど、初期衝動とは全く異なる表現をしなくてはいけない作品だったので、そこのバランス感は鍛えられましたし、プレイヤーとしても進歩できたと思います。

川島 時期的なものや色々な事情が重なったことで、今作の制作プロセスは変則的だったんです。迅がDAWを使えないこともあって、サポートベーシストの内山さんがスタジオにパソコンを持ち込んで、内山さんと迅でアレンジを組み立てていきましたし、新しい機材を買って音作りを今まで以上に凝ってみたりなど、ポストプロダクションとして出来ることをがっつりやり込みました。シングル3作品の制作段階で、バンド内での役割も見えてきたこところがあったので、今回はギターの音作りに関して積極的に動きましたね。

鈴木 ギターの音作りに関しては、プロデューサーさんを交えつつ、今までで一番詰めていったよね。

川島 そうだね。なので、スタジオとブースの間をめちゃくちゃ行き来しました(笑)。元々、ギターの機材をいじることが好きなので、結果的に自分の経験にも繋がりましたし、今後はもっと良い音が鳴らせるだろうなという自信が生まれました。

井上 私は、バンド活動が滞ってしまった時に色んな音楽を聴いていたんですが、フィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)やアーロ・パークス(Arlo Parks)など、特に海外の女性シンガーの楽曲を中心に聴いていました。今作に於いては彼女たちの歌の影響をかなり受けていると思います。単純に女性シンガーソングライターの歌や歌詞が好きだということもありますし、歌い方のバリエーションを増やしたいという目的もありました。

──井上さんの中で、Laura day romanceで歌う上で一番マッチした歌い方というのは、はっきりしているんですか?

井上 1stアルバムまでは、カラっとした歌い方というか、あえて上手に歌い上げ過ぎないようにしていた節はあります。でも、“東京の夜”の際には情緒の浮き沈みを表現するようにエモーショナルに歌い上げましたし、今作はまたさらに、カラっとしつつもより繊細に聴こえるような歌い方を試みました。今回は声を何層にも重ねる録り方をしたので、テイクごとに口の動きがあまりズレないように気を遣ったりもして、苦労した部分もありました。

──今、井上さんのボーカルのお話や、アレンジに関する鈴木さんのお話もありましたが、他にもサウンド面で変化した部分はありますか?

川島 ギターのプレイに関しても、アコースティックとエレキで分担しつつ、それぞれが持つノリを尊重し合いながらバランス感のあるアンサンブルができた手応えがありましたし、バンドとしてのグルーヴがより強まった部分が増えてきたと思います。

鈴木 バンドのグルーヴ感としてなら、“魔法は魔女に | magic belongs to witches”がそうなんですけど。僕自身、コーラスワークを作るのが苦手といいますか、型にはまりがちになってしまうので、かっちゃんにアレンジを委任したんです。そこで出してもらったコーラスワークやハモりの当て方が、感覚的かつ独創的なものだったおかげで、曲の持つパワーや浮遊感が広がりましたし、バンドメンバーに託したからこそ広がったり、極められたりした部分はかなりありますね。ドラムに関しても、礒本に託したからこそ得た推進力が間違いなくあって、そうして得たボトムの強さがバンドのカラーにもなっているので、「託す」という手段を選べるようになって良かったなと思いました。

礒本 普段こんなに言ってもらえることがないので泣きそうです(笑)。でも、今作からは迅の求めているものが、今まで以上に明確に分かるようになった感覚はあります。

川島 ギターに関しても、ドライだったりウェットだったり、音の質感に対する意見も提案し合うことができたので、感性や好みが違うからこそ成しえた相乗効果が、今まで以上に成果として出ているように思います。

鈴木 メンバーの中で、許容範囲が広がったといいますか、揺らぎに対する寛大さが育っていった感覚はありますね。ずれているけど良いと思える、といった感性が、アルバムに良いゆとりをもたらしているように思います。英語と日本語を交えたタイトルの見せ方についても、日本人作家の本を読むようになったことで気付けた、日本語ならではの曖昧さや、人称の多さが呼び起こす繊細さが影響しています。それも、はっきりしないものに対する許容とだと思いますし、英語と日本語を連ねることで増える視点があるんじゃないかなと思っています。

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多様な聴き方がある上で、色んな楽しみ方を提示する

──許容に対する変化というのは、歌詞に関しても同様に影響をもたらしているのでしょうか?

井上 変化としては、去年、友人とPodcastを始めたことがきっかけで、人と深く話をする機会が増えたんです。その中で、考えなきゃいけないことや、社会でのさまざまな問題に対しての自分の意見を、音楽の中できちんと提示したいと強く思うようになりました。今までは、物語の中で完結していればいいと思っていたし、友情や恋愛といったテーマにスポットを当てることが多かったんですけど、今作の歌詞に関しては、社会に向けた目をもつことで、逆に自分自身のパーソナルな部分をより認識できた経験に焦点を当てています。人種差別やフェミニズムとかに関する本も一層読むようになりましたし、そういう視点を含めた楽曲も増えていますね。

Call If You Need Me

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──社会問題への視点など、視野を広げつつも、歌詞はより詩的で、想起されるイメージがより豊かになっているようにも思います。

井上 作詞をする上でやりたいことができたという実感があるのが、“well well | ええと、うん”と“wake up call | 待つ夜、巡る朝”なんです。“well well |ええと、うん”のイメージは、性自認が女性である人が、女性として生きることへの不安や、さまざまな考えを巡らせつつも、家に帰れば子どもの頃のように無邪気に遊んでいる、というもの。“wake up call | 待つ夜、巡る朝”に関しては、最初はもっと死生観が反映されているようなダークなものだったんですけど、社会に対する考えを持つ人が、自分の個人的な部分に目を向ける、というイメージなんですよ。

鈴木 僕一人で作った段階では写実的な歌詞が、かっちゃんの考えや感性が加わることで、より立体的になるといいますか。“wake up call | 待つ夜、巡る朝”の最後の歌詞の《他愛無い生活を続けていくの》からの部分は特にそうで、元々はこんなにポジティブなフレーズではなかったんです。彼女は、社会問題に目を背けることなく、その中でサバイブしていきながらもしっかりと前向きに進んでいく、という熱を宿してくれるんですよね。

井上 そうだね、うまく言えなかったところをちゃんと言ってくれてありがとう。

──あらゆる問題と向き合いながらも、前向きで豊かな人生を歩んでいきたい、という意志の表れなんですね。

井上 暗いニュースを見ると、リアルな生活の中でもかなり落ち込んじゃうじゃないですか? そうした現実をきちんと受け止めた上で、自分の人生をどう前向きに歩んでいくか? という部分を歌詞にしていきたい、という気持ちは強くありますね。

鈴木 昔は、かっちゃんと歌詞の言葉選びで喧嘩したりもしていたんです。でも今作に関しては、互いに寛容になりましたね。例えば“little dancer | リトルダンサー”の中にある《二日酔い》というワードなんて、昔なら絶対に使わなかったですし。でも逆に、そういう言葉が入ることで、浮遊感のあるメロディが地に足付けることができたと思いますし、そういう意味でも寛容になれたことは大きな一歩だなと思います。

井上 日本語だからこそ表現できるニュアンスだったり美しさだったりというのが、今作ではかなり活かせていると思っています。それも、自分が大人になるにつれて自ずと変わっていった物事の見方も関わっているのかな、と思います。

鈴木 音楽を聴く目的として、逃避したい人もいれば、探求したい人もいると思うんです。そうした多様な聴き方がある上でも共通項となる言葉を含ませていけば、色んな人に、色んな聴き方や楽しみ方を提示できるはずですし、そのアクションはバンドとして、何に代えても絶対に守っていきたいですね。

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Laura day romance -『roman candles|憧憬蝋燭』teaser movie

Text:峯岸利恵
Photo:河澄大吉

PROFILE

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Laura day romance

井上花月(vocal)
礒本雄太(drums)
川島健太朗(guitar, vocal)
鈴木迅(guitar)

2018年1st EP『her favorite seasons』をリリースし、数々のフェス/イベントや「SUMMER SONIC 2018」に出演。2019年2月に開催した自主企画”Blanket ghost Thanksgiving” はshowmore、ベランダを招きソールドアウト。同年1st Single『sad number / ランドリー』をリリース。2020年には1st Album『farewell your town』をリリースし、初の配信ワンマンライブも開催。2021年には『fever』 『東京の夜』 『happyend』と3ヶ月連続配信リリースを行い、精力的に活動を続けながら『happyend』はアパレルブランド foufouとのタイアップソングにも起用。そして2022年3月16日には2nd Album『roman candle/憧憬蝋燭』をリリースし、5月に東名阪で初のワンマンツアーを開催予定。

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INFORMATION

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roman candle | 憧憬蝋燭

2022年3月16日(水)
Laura day romance
¥2,500(+tax)
UXCL-273
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形態:CD

<収録曲>
1.花束を編む | making a bouquet
2.well well | ええと、 うん
3.wake up call | 待つ夜、 巡る朝
4.winona rider | ウィノナライダー
5.ether | 満ちる部屋
6.aching planning | 傷ましいやり方
7. little dancer | リトルダンサー
8. 魔法は魔女に | magic belongs to witches
9. waltz | ワルツ
10. step alone | 孤独の足並み
11. happyend | 幸せな結末
12. fever(CD Only Albumbundle Track)
13. 東京の夜(CD Only Albumbundle Track)

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