LAUV(ラウヴ)の待望の1stアルバム『~how i’m feeling~』が完成した。2018年5月にプレイリスト『I met you when I was 18.』を公開し、その17曲とそれ以降にデジタルリリースされた3曲をCD化した日本独自企画盤が昨年4月に出てはいたが、ワールドワイドでのアルバムはこの『~how i’m feeling~』が初めてである。つまりこれが彼にとってのデビュー盤ということになるわけだ。
アレッシア・カーラ(Alessia Cara)からBTS(防弾少年団)まで6組のアーティストとのコラボレーション曲を含む全21曲は、ヒットポテンシャルの高いポップソングが多く並び、LAUVがソングライターとしてもシンガーとしても『I met you when I was 18.』から大きく進化していることがよくわかる。ただ、ひとつ気になることもある。ハッピーだったりロマンティックだったりのラブソングよりも、自身の心の痛みや孤独感を赤裸々に歌詞に綴った曲がやけに多いのだ。それはどうしてなのか。LAUVに話を聞いた。
Interview:LAUV
――遂に1stアルバムが完成しましたね。いまの気持ちは?
すごくいい気分だ。今回、僕は初めてアーティストとしての自分の全てを見せることができたと思う。
――アルバムには21曲(ボーナストラック含めて全22曲)が収録されています。全部で何曲くらい書いたんですか?
40曲くらいかな。いや、もっとあったかもしれない。だから選ぶのに苦労したよ。
――21曲というのはなかなかの多さですが、そのくらいたっぷり入れることに拘った。
いや、単純に好きな曲を全部入れただけだよ。はっきり言って、いまの時代、ルールはないと思うんだ。
――このアルバムのテーマについて話してください。
自分のなかのさまざまな部分を全て受け入れるということ。これは、ひとりの人間のなかに複数の人格が存在していることを描いた作品なんだ。それを表現するために6つのキャラクターを生み出した。紫は実在している僕、青は夢見がちで可哀想な僕、緑は間抜けな僕、黄色はポジティブな僕、オレンジはやんちゃな僕、赤は刺激的な僕。それらが合わさって僕という人間が形成されている。ひとりのなかにボーイバンドがあるような感じをイメージして作ったんだよ。
――“Sims”のオフィシャル・ショート・フィルムにも出てくるその6つのキャラクターは、どのように生まれたんですか?
一緒に仕事をしている仲間と「アルバムの曲はすごく多様で、色とりどりのサウンドがある」って話をしているなかでアイデアがでてきたんだ。アルバムは、「自分は誰なんだ」「ネット上では自分をどう表現すればいいんだ」というような実存的な危機意識から作っていった。そういうところもこの6つのキャラクターに反映させている。自分のなかにあるのはひとつじゃなくて、いろんな側面があるということをみんなにわかってもらいたかったんだ。
――アルバム・タイトルを『~how i’m feeling~』とつけたのも、そのことと関係ある?
まあそうだね。ある朝起きて、その日の感情だったり、その日はどんな自分でいるのかというのは、当然違うわけで。それを正直に歌いたかった。
――前回のインタビューで「新しい家に引っ越してスタジオも作ったから、そこで制作することが多くなった」と話していましたが、アルバムもそこで作ったんですか?
ほとんどの曲がそうだね。何曲かはほかの家で制作したけど、いわゆるレコーディングスタジオで録音した曲はない。レコーディングスタジオが好きじゃないんだ。
――歌詞を見てみると、ハッピーなラブソングやロマンティックな曲よりも、あなた自身の心の痛みだったり孤独だったりを赤裸々に表現しているものが多いようですが、この1~2年は辛い時間が多かったのでしょうか?
このアルバムの制作の大半は、2018年から2019年の初めにかけて起きたことを自分なりに消化することを意味するものだった。僕は多くの問題を抱えていて、寂しくて、孤独で、精神的に最悪の時期だったんだ。そこから抜け出したときは、以前よりもっと幸せを感じることができた。制作によって辛い日々を消化していったわけだね。
――辛い状態に陥った理由を話すことはできますか?
うん。話すのはかまわないよ。鬱病と強迫性障害だと診断されたんだ。具体的な理由はなく、ただどんどん不安になっていった。不安になる理由を自分で探して治そうとしてみたけど、無理だった。緊張と孤独からそうなってしまったようで、僕はもうひとと関わることができないし、生きていられないんじゃないかと思ったんだ。それがまさしく強迫性障害の特徴なんだけどね。どうしてもネガティブな思考にとりつかれてしまって、自分が誰かを傷つけてないか心配になってしまうんだ。みんなに嫌われているんじゃないか、僕は悪い人間なんじゃないかって考えてしまって、どん底状態だったね。
――その時期は音楽に向き合うのも辛かったのでは?
うん。2018年の大半はそうで、曲を作るのがきつかった。本当はその年にアルバムを作る予定だったんだけど、納得のいく曲が書けなかったんだ。セラピーや薬の治療を始めてから、ようやく曲が書けるようになったんだよ。
――そうだったんですね。それを乗り越えて曲を作り、特に手応えのあった曲や新しい扉を開けることができたと思えた曲は、どれですか?
“Drugs&The Internet”だね。初めて自分を追い込んで、これまでに作ってきた曲とは違うタイプの曲を作れたという実感があった。「クレイジーな曲ができた!」って思ったよ。現代を生きるひとはSNSのリアクションをどうしても気にしすぎてしまう。なんて言われるかを気にして、自分の行動を変えてしまったりとかしてね。僕にもそういうところがあって、さっき言ったようにみんなに嫌われているんじゃないかって考えにとりつかれたりもした。でもこの曲が書けたことで、これからは型に捉われずいろんな曲を作っていこうと思えたんだ。
――ほかに手応えのあった曲は?
“El Tejano”もこれまでと違ったムードの曲だから手応えがあったよ。“Who”は初めてベルティングボイスで歌った曲で、やってみて面白かった。“Modern Loneliness”も大事な曲で、僕が長い間感じていたことを歌っているし、きっと多くのひとが共感してくれると思う。“Billy”はけっこう奇抜な曲でね。どこからともなく生まれた曲って感じなんだ。まあ、どの曲も自分なりに冒険してできたものだよ。『I met you when I was 18.』を制作しているときは全てを同じ場所で書いている感覚があったけど、今作は冒険しながら書いた感じだ。
――アルバムにはゲストを迎えてのコラボレーションで作った曲が6曲入っています。その6組についてと、一緒にやってみての感想を聞かせてください。まずアン・マリー(Anne-Marie)から。
ひとりずつ話すの? OK。アン・マリーは僕の友人のなかで最も面白いひとりだよ。いい意味でぶっとんでいて、よく笑い、一緒にいると元気をくれる。一緒に仕事ができてよかったよ。“fuck,I’m lonely”は僕がオリジナルの曲を送って、彼女に自分のパートを録ってもらって、すごくスムーズに進んだんだ。
――続いてアレッシア・カーラ。
僕は彼女のファンで、前から歌声が大好きだった。ライブも観に行ったし、すごく尊敬していたんだ。それで曲を送ったら気に入ってくれたので、彼女なりにひねりを加えてもらうように頼んだ。互いのメンタルの話をしたりして、僕らはすぐに仲良しになれたんだ。“Canada”の2番の歌詞は彼女が書いてくれた。そして素晴らしいアレンジもしてくれた。声も最高だよね。
――L.A.を拠点に活動するシンセ・ポップ・バンドのLANYはどうでした?
LANYとコラボしてほしいというファンの声がツイッター上に多かったんだ。ポール(・クライン)とは去年から会うようになって、互いに惹かれるようになり、LANYのツアー中に“Mean it”のアイデアを送ったら気に入ってくれて、それで彼が彼のパートを歌ってボイスメールで送ってくれた。で、そのあと一緒にスタジオで完成させたんだ。いつか一緒にライブでこの曲を歌いたいね。
――BTSとはどういうきっかけで?
去年、彼らがロンドンでショーをしていたときに初めて会った。すごくいいひとたちで、会ってすぐに彼らの“Make it right”のリミックスに参加しないかと誘ってもらったんだ。彼らのアルバムのなかで一番好きな曲だったから「もちろん!」って答えてリミックスをした。そのあと僕が作っていた曲で“Who”という彼らにぴったりな曲があったから、初めのバージョンを送ったら、ぜひ一緒にやりたいと言ってくれた。とても自然な流れだったね。
――メキシコのソフィア・レイエスとはどうでした?
彼女とやるきっかけは面白いんだ。L.A.の家の近くに「El Tejano」というレストラン・バーがあって僕はこの曲を作ったんだけど、偶然彼女もそのお店が好きだったらしくて。曲を送ったら「私もEl Tejanoが大好きなの!」って(笑)。完璧だって思ったよ。そんなこと知らずに曲を書いたんだからね。そこはL.A.っぽくないバーで、引っ越してきた頃にいろんな経験をしたところなんだ。彼女とはMVも一緒に撮ったけど、すごく優しいひとだよ。
――イギリスのアン・マリー、カナダのアレッシア・カーラ、L.A.のLANY、韓国のBTS、メキシコ出身のソフィア・レイエス(Sofía Reyes)、それに前回のインタビューで話題に出たオーストラリア育ちのトロイ・シヴァン(Troye Sivan)と、出身や拠点を置く国がそれぞれ違うわけですが、意識的にいろんな国のアーティストを相手に選んでいるんですか?
いや、特に意識してそうしているわけじゃない。6組が異なる国の出身だって考えたことがなかったくらいで。本当に自然とそうなったんだ。でも自分と同じアメリカのひととばかりやるのはつまらないと思う。グローバル化って言葉は堅苦しくて好きじゃないけど、実際に音楽と文化がこんなにグローバル化している時代だし、いろんな国のひととコラボレーションするのを楽しみたいんだよね。
――ところで、いま世の中で起きていることで、あなたが特に関心のあることはなんですか?
人間同士の本当の繋がりについてのことかな。いまの時代って、みんなが孤独であることを共有している感じだよね。ソーシャルメディアは、気持ちを高めてはくれるけど、満たしてくれるわけではない。たくさんのひとと繋がっていても、人間同士の深い繋がりにはならないというか。関心があるのはそういうことだね。あと、メンタルヘルスの問題も。僕が「Blue Boy Foundation」という財団を立ちあげたのも、社会のメンタルヘルスの問題に取り組むためなんだ。
――最後の質問です。アルバムを作り上げたいま、5年後にはどんな活動をしていたいと思っていますか?
僕は5年後や10年後のことを考えない人間なんだ。そんなことを考えるのはつまらないと思う。とにかく好きなことをやり続けて、人間的に成長したいね。振り返ったときに、ああ、いろんな新しいことに挑戦できたなって実感できる生き方をしていたい。既にもう新しい曲を作り始めているんだけど、これからもっとたくさんの曲を発表したいし、「Blue Boy Foundation」の活動にも力を入れたい。ツアーで回る先々でもメンタルヘルスの問題に取り組んでいる団体のひとたちと会って、サポートできることがあればしていきたい。あとフリースタイル・ダンスをもっとうまくなりたいね。
Text by 内本順一
LAUV
LAUV(ラウヴ)。LAを拠点に活動するシンガーソングライター/プロデューサー。Lauvの由来は、母親がラトビア系であり、彼が獅子座ということもあり、ラトビア語のライオン「Lauva」の最後のaを抜いてLauvと名付けた。本名:アリ・レフ(Ari Leff)。ラウヴの名前を知らしめるきっかけとなったのは、彼がNY大学在籍時に発売したシングル「The Other」。そしてその後発売されたシングル「I Like Me Better」は世界的大ヒットを記録した。またチャーリーXCXの「Boys」(ゴールド・ディスク獲得)など、アーティストへの楽曲提供も行っている。2017年秋にはエド・シーラン来日公演のオープニング・アクトの出演が予定されていたが、エド・シーランのケガにより来日公演が延期となり、ラウヴの来日は中止となった。同年、デビューEP『ラウヴEP:ジャパン・エディション』を10月25日に発売。2018年3月、初の単独来日公演を代官山UNITで2回実施。2019年1月、トロイ・シヴァンを迎えたシングル「i’m so tired…」を発売。同年4月、デビュー以来デジタルで発売してきた全20曲を収録した来日記念盤『I met you when I was 18.』を発売。同年年5月、ジャパン・ツアーを東名阪で開催。2020年3月6日、全世界待望のデビュー・アルバム『~ハウ・アイム・フィーリング~』を発売。
RELEASE INFORMATION
〜ハウ・アイム・フィーリング〜 (〜how i’m feeling〜)
2020.03.06(金)
ラウヴ (Lauv)
LAUV/Traffic Inc.
TRCP-260
¥2,200(+tax)
ボーナス・トラック収録/解説:内本順一/歌詞対訳付
Tracklist
1. Drugs & The Internet
2. fuck, i’m lonely (with Anne-Marie)
3. Lonely Eyes
4. Sims
5. Believed
6. Billy
7. Feelings
8. Canada (feat. Alessia Cara)
9. For Now
10. Mean It (with LANY)
11. Tell My Mama
12. Sweatpants
13. Who (feat. BTS)
14. i’m so tired…(with Troye Sivan)
15. El Tejano(feat. Sofia Reyes)
16. Tattoos Together
17. Changes
18. Sad Forever
19. Invisible Things
20. Julia
21. Modern Loneliness *リード・トラック
22. i’m so tired… (Stripped Live in LA)*ボーナス・トラック