L.E.D.のニューアルバム『in motion』は、2ndアルバム『elementum』で確立した地球上のテクスチャーの描写と、『Music For Cinemas e.p.』で挑戦した未知なるSF世界を描く新境地、これまで培ってきたL.E.D.らしさをさらに突き詰めた充実作である。この目に映る景色を特別なものに変えてくれるサウンドスケープは、まるでInstagramの多彩なフィルターのように、ノスタルジックな手触りを残す。どうかアルバムを聴く際には、パッケージ封入のブックレットに一度目を通してほしい。今回の取材に同行してくれたイタリア人写真家・Luca Gabinoの美しい風景写真をはじめ、ブックレットの写真を媒介にすることで、よりL.E.D.の表現を味わうことができるはずだ。
そんな一瞬でいつもの景色を塗り替えてくれるL.E.D.のサウンドスケープに、『in motion』では大きな変化を感じずにはいられなかった。それは、不気味に陰陽を行き来する得体の知れないオーラを纏った楽曲の存在だ。降神のMC志人を迎えたコラボレーション曲”賽の河原”である。
“賽の河原”は一言で表現すると、いい意味で徹底的に遊び倒されたトラックである。前半のゆったりとした展開からメタル調の重厚なギターを合図に曲が変化し始め、次第にカオティックな展開に発展。日本神話のような文学的リリックを自在に操る志人のフロウが、渾身のツインドラムとパーカッション、狼煙を上げるようなサックスと絡み合い、それぞれのパートが次第に熱を帯びてくる。L.E.D.と志人、互いが呼応し合うことで化学反応をもたらし、得体の知れないエネルギーとスリルに満ちた楽曲が生まれた。その意味では、アルバムの中で最も異彩を放っている楽曲である。全10曲というボリュームの中で6曲目に置いていることからも、後半戦の幕開け、あるいはアルバム全体の節目の意味合いを担う重要なポイントとも捉えられる。
そこでQeticでは、“賽の河原”の異質感を紐解くために、L.E.D.のリーダー&ベースの佐藤元彦とドラムのオータコージ、そして志人による対談を、東京都唯一の村である檜原村の志人邸にて行なった。熱量の高いコラボレーションを経た両者が明かす“賽の河原”、まさかここまで深い背景があったとは…。
なお、今回の対談はQeticとウェブマガジンCONTRASTによる合同企画。CONTRASTでは、佐藤が色濃く影響を受けた電子音楽家moshimossとPolar Mを迎えた対談をお届けする。そちらも合わせてチェックしていただきたい。
Interview:L.E.D.(B:佐藤元彦/Ds:オータコージ)× 志人
――まずは今回のコラボの経緯から聞いていきたいのですが、L.E.D.と志人さんとして、もともと面識はあったんですか?
佐藤 以前レーベルでイベントをやったときに、ゲストに降神として呼んだときがバンドとして志人くんとの最初の出会いですね。
志人 そうでしたね。
オータ 2010年の年末ぐらいだったよね。
――その後に定期的な交流は?
佐藤 その後、2ndアルバムの『elementum』の制作に入っている時に、コラボでリリックを乗せる人と何かやりたいっていう話が出たんですよ。先のライブで降神の圧倒的な世界観に触れていて、その印象が強烈に残っていたので、すぐに志人くんにとお話をしたんですけど、ちょうど、志人くんはカナダでのレコーディングと重なっていて、スケジュールが合わなかったということがあって。
志人 ああ、ありましたね。
佐藤 そこで泣く泣く断念したんですけど、次で絶対やろうと、その時から思ってましたね。
――その当時のトラックは、今回の“賽の河原~八俣遠呂智の落とし子と鬼八の祟り~”(以下、“賽の河原”)とは全く違うものだったんですか?
佐藤 その時は全然違いましたね。
オータ “bluemoon in Togakushi”じゃない?
佐藤 そうそう。その時、志人くんとやろうと思って用意してたものは、アンビエントな感じというか、割とゆったりしたチルな曲で、コラボが頓挫したのでそのままリリックをのせずにインストとして完成させて、『elementum』に入れたんですよ。
――じゃあ、そこでタイミングが合えば、実現する可能性があったわけですね。
佐藤 今でも乗せてもらいたいと思ってます(笑)。
志人 こちらこそ(笑)。たしか降神で作ってみないかっていう話だったんですよね。やってみたいですね。
――お互いのものづくりという意味では、志人さんはL.E.D.どんな印象を持っていました?
志人 色んな表情を持っていて、インプロビゼーションのような即興性もありますよね。やはり、ライヴを観ていても、わくわくする感じがありました。
――逆にL.E.D.が思う志人さんの印象はどんな部分でしょう?
佐藤 もう圧倒的というか、スタイルの独創性はものすごいインパクトですよね。個人的な話ですけど、自分はいわゆる誰もがイメージするMCスタイルに対して、憧れがある反面、ストレートには同調できない部分があって。語弊あるかもしれないですが、特に西海岸的でアッパーなスタイルになってくると不自然さを感じてしまったり、気恥ずかしくもあったりもするんです。でも、そういうものとは全く別次元で成立してる降神、志人くんのスタイルを見て、こういうアプローチもあるんだ! というインパクトが強烈に残ってます。最初に聴かせてもらったのはオータくんからだっけ?
オータ そうだね。僕はもう降神が大好きで。志人さんの『ジレンマの角』も限定のアナログを買いました(笑)。
志人 本当ですか! もう家にも数枚しかないですよ(笑)。
オータ それぐらいに大好きなんですよ。世界観といい、志人さんの言い回しというか、本当に独特で。もうね、心掴まれてます。だから、絶対にコラボしたいという気持ちがあって。
佐藤 あと『elementum』の当時は、“bluemoon in Togakushi”じゃないけど、わりと共通して「和」の雰囲気みたいなものを好きだった感じがあったじゃん。
オータ あった、あった。
佐藤 僕らからみて、景色も含めて日本人であるからこそというとこも体現しているのが降神であって、志人くんだったから、そこで惹かれた部分もすごくあって。もし一緒にやったら、自分たちのそういう部分がどう引き出されるのかなと。
オータ 僕、スガダイローくんとセッションを何回かやっていて、『elementum』の時に志人さんとのコラボのタイミングが合わなかった後、ダイローくんと始めたじゃないですか。あれはかなり「スガダイロー、畜生!」と思って(笑)。
佐藤 悔しかったのと「俺も一緒にやりたいよ」みたいな?(笑)
志人 (笑)。僕がスガダイローさんの“七夜連続 七番勝負”の第一夜、最初の勝負相手だったんですよね。そういう流れで、「あ、オータさんもやってるんだ」ということで、僕もすごく気になっていたんですよ。
オータ 僕はダイローくんと同い年なんですよ。意気投合して、その後もセッションとかして、そしたら志人さんと音源を作っていたから、「なんで音源まで作ってるんだ?!」と思って(笑)。
――ははは! でも、そこからコラボレーションという形にできるって、ドラマがありますよね。
オータ そうですよね。ちょっと「やられたな」という感じはあったんですよ(笑)。
――志人さんがオファーを快諾した理由としては、何が大きかったのでしょうか?
志人 もう音がカッコよかった、それですね。僕はどんなに親しい相手でも、音を聴いてダメだと、リリックを書けないかもしれないってお断りさせていただくことがあるので、L.E.D.は音を聴いて、書いてみたいというのを感じましたね。
――まずは音ありきというスタンスなんですね。
志人 やっぱり、結構狂った生活を送っているヤツでも、音楽が本当に良かったりすることはあるし、それは人となりという部分とは違うんですよ。今回は作っていく過程で、曲がどうなるんだろうと煮詰まってしまって、メールのやり取りでは、なかなか伝わりづらいなとなった時に佐藤さんとオータさんと北澤さん(Bayon Production担当)が会いに来て下さって。そこで会って、曲をより良くしていこうと皆さんが考えて下さったおかげで、出来上がった曲であると思うので、まずどういう人が奏でた音楽かは分からなかったんですが、何百回、何千回と曲を聴いていくにつれて、結構頭を抱えたんですよ。「いやー、どうするよ?」って独り言を言ったりして(笑)。しかも後半が…あれ何分ですか?
オータ 2~3分ですね。
志人 最初、完全にドラムだけだったじゃないですか。「これ、どうしよう?」って頭を抱えたんですけど、あれだけクセのある曲をもらうと、「やるっしょ」みたいな気持ちが逆に芽生えてくるんですよね。
――闘争本能に火がつくんですね。
志人 そうそう。「これでこう来られて、どうすればいいんだ?」っていう状態の方が逆に面白いなと思って。前半も普通の拍子と違う変拍子だったりして、自分も4/4拍子のズンズンタッの中に、ちょっと欠伸が出てしまう部分もあったりしたので、そういう時にこうなるのかと驚いて。しかも後半が普段挑戦したことのないドラムのパターンだったので、近所にいるアフリカンドラムを叩く方と修行したりして、「そうか。こういうノリ方もあるんだな」と新鮮でしたね。だけど、アフリカンドラムともまた違うんですよね。ドラムの乗せ方ってすごく勉強になりました。
――最初はドラムだけだったということは、オータさんが“賽の河原”のベーストラックを作ったんですか?
オータ ドラムは4/4の流れもあるんですけど、6/8の流れも作って一緒に混ぜて、歪んだビートにするっていうリズムの構想が最初からあって。最初からそういう曲を作りたいなと思っていて、後半のパーカッションの構想もあったんですよ。そもそも最初は、志人さんとコラボできるという話でもなかったので、当初はアルバムの一曲という一環で、「アルバムの曲を書いてみない?」ってリーダー(佐藤)から言われて書いたんです。はじめは普通のインスト曲を書くつもりだったんですけど、僕は曲をほとんど作ったことがなかったし、L.E.D.の1stで一曲作ったことがある程度なんですよ。だから、作り方も特殊というか。
――特殊、ですか。
オータ 好きなレコードとかを引っ張ってきて、それを一部だけサンプリングして、自分なりにエフェクトをかける。それをループさせるような作り方をしてたんですよ。リズムの構想もあったので、そういう曲が仕上がった時点で、サンプリングの要素もあるヒップポップ的な音楽の作り方、これに言葉を乗せてみたらいい音楽になるのかもしれないなというところから、だんだんイメージが膨らんできて、あのパーカッションの部分にも言葉が載ったら面白いんじゃないかと思って。The Last Poetsっていうアーティストがいるじゃないですか。コンガと言葉だけみたいな。
志人 ヒップホップのルーツですよね。
オータ あれをもうちょっと崩して、怒濤のパーカッションのソロの上に言葉が乗ったら、すごく面白いんじゃないかなって。その辺が着想というかヒントになって、だんだんイメージが膨らんできたという感じですかね。それで、『elementum』の頃から待ち焦がれていたというか、志人さんに是非言葉を乗せてもらいたかったという順番ですね。僕らがトラックを作って、志人さんにメールを投げたんですけど、僕、投げた時に細かくメールの文面を作ったんですよ。やっぱり丸投げというのも失礼かなと思って、それ以前にコラボレーションの仕方もよく分からなくて。