――すごいな、しかも時代を越えてシンクロしてる(笑)。“賽の河原”は、三途の川とリンクする言葉ですよね。

志人 そうですね、三途の川の手前にある。僕は、賽の河原がなんとも救いようのないものというか、「そんなことあるか!」って言いたくなるように、理不尽な場所なんですよね。親よりも先に亡くなってしまった子ども、それがたとえ交通事故や病気であろうと、本人や親が望まなくても、親より先立ってしまった子が行く地獄らしいんです。鬼がずっと見張っていて、石を一つ目は父のため、二つ目は母のためって、石を積んでいくんですけど、そこで、最後成仏をしようとする三つ目を積む瞬間に、鬼がこん棒で壊して、もう一回最初から積み直すんですよ。

――成仏する寸前に、何度もそれを繰り返すような。

志人 そうですね。その悲しい状態というのは、外の山を見ていただくと分かると思うんですけど、まだ裸山なんですよね。地面の方を見ると、緑がだんだん生まれてきて、これが5~6月になると、ここはジャングルになって、この家が隠れるぐらいに緑でいっぱいになります。冬は枯れちゃって死んだように見えるんですけど、またそこから種を宿して、命が生まれてくるんですよね。だから、死んでもいなければ生まれてもいない状態なんじゃないかなというのはあって。季節が過ぎていく過程で冬に作った極だけれども、春がきて、また暖かくなればいいなあと待ち焦がれるのと同じというか、最後まで聴いて、また天国に行って、地獄に行くという輪廻を繰り返す。僕も最後まで聴いてみると、また頭から聴きたくなりますね。

――アルバムの曲順として“賽の河原”は6曲目で、折り返し地点にあるような気がしていて。前半の天に召される感じと地球の核を目指す感じ。そういう意味で、折り返しとしても、すごく合理的な位置にあると思うんですけど、意識して6曲目に置いているんですか?

佐藤 確かにこのトラックはアルバムの中でも節目になると曲順を考える時点で感じてはいたんですが、その意識をせずともある意味、必然として前後半のコントラストのピークという折り返し地点にくる結果となりましたね。

――聞き流せないし、ふと立ち止まる。そういう意味でもインパクトがあるし、アクセントにもなっている重要な曲だと思っていて。

オータ ジェットコースター感がありますよね、天国から地獄に行く。キーボードの横山にシンセとか鍵盤を入れてよってお願いした時に、横山が海外旅行した時の雑踏の音を、最初から最後まで入れてきたんですよ。

――フィールドレコーディングですか?

オータ そうそう。トゥーマッチだなと思ったんですけど、採用しているのがイントロまでの間に、雑踏の音とトラックが入って、志人さんの歌が入ったときにちょうどフェードアウトで途切れるぐらいにしてあって。それも現世の感じというか、現世の雑踏が遠ざかっていって、志人さんの歌と同時に天に昇っていくっていうような。現世から天国に行って、地下へバーッと潜っていくスピード感というか、自分が一体どこの位置にいるのか分からないぐらいに目まぐるしく、一曲の間で天国と地獄の距離感のようなものも楽しめるっていう。

――L.E.D.チームが志人さんに会うために檜原村を訪ねたという話がありましたけど、今みたいに表情や声のトーンを確認して、顔を合わせて話したことによって、お互いの距離感はかなり変わりましたか?

志人 変わったと思いますね。曲を作って、今回のインタビューで話して、という流れですけど、今度は楽器を持ってセッションしたい。ちょっと遊びながら、ゆっくり過ごして、曲とかを作ってみたいですね。

――メールだと伝わらないかもしれないから会って話したい、という熱もすごく響いたんじゃないかと思っていて。

志人 それもありますね。「明日行きます」ってメールをいただいて、「いいんですか?! 明日かぁ」って嬉しかったですね。今日みたいに、たくさんの人が遊びに来て帰っていくことなんてないですし、(種田)山頭火の詩みたいに、咳をしても一人っていう感じでしたから。ここまで来ていただけるのは本当に嬉しかった。僕、檜原村で音楽フェスをやりたいんですよ。村が北と南という具合に分かれているので、例えば、北で一日目をやって、南で二日目をやる。キャンプ場にも掛け合ったり、駅まで送迎バスも出してもらったり、アーティストの方にも暖かく寝てもらえる場所を用意したり、お客さんにもフェス以外にも美味しいものを食べてもらいたい。美味しい空気を吸って、楽しんで帰ってくれるような環境を考えて、これから村長と色々話して、今年の秋から動こうかと思っています。

佐藤 その場に居合わせたい。

オータ 行きたいですね。

志人 ずっと続けていきたいですね。村長ね、オカリナをやってるんですよ。だから、結構音楽が好きかもしれない。あと、ジャズだと、山下洋輔さんが檜原村のフジの森という南の方で、20年間ぐらいジャズのコンサートをやっていて。「深山太鼓」という地元の伝統芸能と一緒にやったりしていたんだけど、ここ三年ぐらいは山下洋輔さんがやってなくて、村の人たちも「ジャズフェスティバルどうしたの?」みたいになってしまっていて。楽しみが減っちゃったので、僕でも何かできることがないかなと思うんです。

――佐藤さんとオータさんは初めて檜原村を訪れた時の印象はどうでしたか?

佐藤 とにかく綺麗だったんですね、純粋に。居心地が良すぎて、空気の良さと原風景みたいなものが周りにあって。そこに志人くんの手料理と、香取(純米酒)もあったので、俺たちはもう帰りたくないって言っていて(笑)。そんな気持ちになるようなヴァイヴスだった。あと、KINGDOM AFROCKSのドラムの方も住んでいるって聞いて、実際に来てみて、なるほどというか、住んでみたくなるという感覚をまず感じましたね。

オータ 僕は、空気ももちろん良いんですけど、単純にコラボレーションという意味で、降神の志人がどういう暮らしをして、どういう風景の中に溶け込んで生きているのかということの興味が大きかったので、いい意味ですごくショックを受けたというか。もちろん風景もすごくいいし、志人さんの家も素晴らしかったんですけど、こういうところに住んで、ああいう音楽を奏でているんだと知って、「ああ、素晴らしいな」と感じたんですね。

佐藤 自分は今、京都の左京区に住んでるんですよ。そこからそんなに遠くはない大原というのどかな原風景の残る村落があるんですが、桧原村は、そこによく似ていて。大原へは、大好きでよく行くんですが、とにかく時間の流れがゆったりと落ち着いてて、その中にいると色々とちょうどいいバランス感を保てるんですね。京都に移り住んだのも、そういった場所の持つ空気に魅かれてというとこは大きかったですね。若い時は関係ないのかもしれないけど、30代を越えて40代となってくると、良い意味で場所に支配される制作の環境というのは、志人くんの作品を聴いていてもすごく感じたし、自分自身にとってみてもそう思いますね。

志人 自分の妻がこの村の出身だったというのもありますけど、来る以前も僕は千葉の長生村で、15年間おじいちゃんが耕していたところで畑をずっとやっていて、早々と村に身を置きたいなとはずっと思っていたんです。檜原村に身を置いてからの曲としては、“賽の河原”が、初公開の曲なんじゃないですか。スガダイローさんと“詩種”という、この村を舞台にしたアルバムを作りましたけど、それは2012年の5月上旬の頃で、まだ檜原村に越してきていない時に作ったんですよ。だから、自分のふるさとに思いを馳せる時に作った曲と、いざそこに身を置いた時にできるものとは違いますよね。大都市のビル群の中でしか書けない曲もあるし、余計なことを考えすぎている状態ならではの音や言葉もあると思っていて。それをさらに突き詰めてやっていくのか、それとも、あまり余計なことを考えないで生きていくのか。檜原村は、ちょうどバランスが取れるというか、都市にも出やすいし、極端になりすぎずにいいのかなと思いますね。

――人里離れている印象はなくて、車がなくても公共の交通機関は整っているし、むしろ生涯暮らしていける場所ですよね。

志人 僕は、ものを書く、音を奏でるという部分では、去年から今年に関しては、季節がどういう風に過ぎていくのかが楽しみで、畑をやりながら、まずはそれを見てみようとしていたら、前半は猿にやられてしまって(笑)。カボチャなんかをこんな感じで両手に抱えて持って行くんですよ。欲張りすぎだよっていうぐらいに(笑)。家の近くに栗の木があるんですけど、木の上に猿が乗っかって、ゆさゆさ揺さぶって栗の実を落とすんですよ。そこの曲がり角を曲がった瞬間に猿がいて、咄嗟に人間は、しーって言っちゃうんですね。そしたら、猿がイガグリを投げてきましたね。足元に落ちて、本当に猿には圧倒されましたね。

佐藤 『さるかに合戦』みたい(笑)。

志人 だから申し訳ないけれど、曲をたくさん作って、良いものが出来ましたと皆さんに言いたいんですけど、去年は獣と戦ってました。それこそ、餌場で餌を作っている感じになってしまって。一生懸命作っても、収穫前日とかに取っちゃうから、本当に頭を抱えて。

オータ 例えば、志人さんがめちゃめちゃアーバンな暮らしをしていて、マンハッタンとかに住んでいてコラボしても、僕は別にいいというか。そこにはそこの色んな状況もあるでしょう? 人間って、何か状況とか思いとかで存在しているわけじゃないですか。だから、僕はたまたま東京にいるのが都合良くて、仲間も東京にいるし、仕事も東京の方がやりやすい。それは状況がそうしているし、僕の思いがそうしているということなんですよね。だから、志人さんが檜原村にいるというのは、僕の考え方で言うと、志人さんがここに住んで、何をして、何を感じて、どういう言葉を奏でるのか、ということに繋がっていくんです。

志人 環境は色々あれども、どこにいても自分は自分なんだと分かった気がしますね。

オータ 志人さんとコミュニケーションが取りたいとしたら、すごく器用な人は、気軽に電話して「すごく大好きなんだよね、志人くんの曲」なんて言うのかもしれない。僕らもそう出来れば良いんですけど、やっぱり不器用というか、音楽でしか人とコミュニケーションを取れない。だから、こういう音楽活動をしているのであって、今回コラボレーションをして良かったと思ったのは、志人さんのことをすごく良く知れたということに尽きますね。フリーセッションもバンドもそうだし、自分が音楽を通して何がしたいのかなと思った時に、結局はコミュニケーションが取りたいんだと。

――会話しているのと一緒なんですね。

オータ そうそう。今みたいに話をしている時と同じような感覚になれるというか、そういうことがしたいんだなと改めて思いました。だから、志人さんが話した一連の話も、すごく興味深いし、まさに僕が今聞きたかったことでもあるというか。音楽に何を求めるかは、人それぞれだと思うんですよ。僕の場合は、やっぱり人に興味があるんだなってことで。

――そうやってコラボレーションを続けていけるといいですよね。

オータ そうですね。もちろん檜原村の環境とか、風景とかにもすごく興味があるんですけど、その風景を選んだ志人さんに興味がある。それが、僕が音楽を続けていくモチベーションなのかなって思いました。

佐藤 オータくんが言っていたことはまさに根幹にありつつも、単純にコラボレーションということに関すると、人間はもちろん土台にあるんですけど、やっぱり音そのもので考えてしまうのが自分なんですよね。だから、バンドのメンバーと10年もやっていれば、それぞれの個性とかそいつが出す音の感じとかを分かった上で、色々と積み重なって音が出来てくるんですけど、バンドを組んでいるが故に、バンドの外の人との音作りの上で密接な関係はなかなか持てないじゃないですか。でも、コラボという形を作らせてもらうと、そのバンドにある普遍的な枠組みとはまた別の中で、ものづくりをする場をいただけるというか、そういう意味で、またやりたいなという気持ちはすごくあって。

――佐藤さんは、志人さんとのコラボはどんな意義があったと振り返りますか?

佐藤 志人くんとは、直接制作の場は共にしなかったですけど、バンド感覚のままやれた初めてのコラボだと思います。志人くんとメンバーがそれぞれの役割の中で、曲に対する分析をして、持ち場でをしっかりとやりきって出来上がっていく過程がものすごくバンドっぽかったんですね。実際、スタジオに一緒にいたわけでもないし、タイムラグもあったものの、振り返ってみると、ぶつかり合ったとこも含めて、その流れはほんとに自然でした。原田郁子さんとやった時は、そういう感覚とはまた違った次元で面白いことが出来たし、Salyuさんとはそれともまた別の感覚の”共同作業”だったし、コラボと一言でいっても、色んな形があるんだなと。あと、今7人でやっているバンドでの作り方は、経験的にパターンがあって、その中でつくろうとしてしまいがちで、ある意味で予想がつくけど、コラボとなると、まだまだ読めない。メンバー以外の人と向き合うことで、自分たちでも予想できない面白い音が出来る可能性が生まれ、バンドの枠を意識しないでいられるという普段にはない構造が出てくるんだと思います。それが今回の“遊び倒す”ということに繋がったんだと。そして、矛盾してておもしろいんですが、今回のコラボは、感覚的にはバンドのままにやってるのに、普段のバンドの枠を越えたとこへ辿り着いていたという理想的バランスをもたらしてくれたと思います。それは志人くんが、バンド感を共有してくれる人で、枠を設けないという基本スタンスがあったからこそ僕らもそこへ導かれたんだと思います。

志人 僕もそうですね。今回は、ミックスエンジニアの方も自分の音源を以前から聴いて下さっていたみたいで、それもあって、すごく伝えやすかったです。無理を言ってギリギリまで修正をお願いして、大変な作業だったと思いますけど(苦笑)、そういった部分でもすごく話をしやすかったし、やりやすかった。すごく良いコラボレーションだったと思います。

text&interview by Shota Kato[CONTRAST]
photo by Luca Gabino

Event Information

[twocol_one]L.E.D.
2013.05.11(土)@伊勢シティプラザ
2013.05.12(日)@京都 CLUB METRO
2013.05.24(金)@タワーレコード渋谷店 B1F「CUTUP STUDIO」
2013.05.26(日)@名古屋 新栄Live & Lounge Vio
2013.06.16(日)@岡崎城二の丸能楽堂
2013.06.22(土)@江ノ島OPPA-LA
[/twocol_one]

[twocol_one_last]志人
2013.05.05(日)@荻窪velvet sun
2013.05.06(月)@岡崎 CIBICO 4F 5F 屋上
2013.05.25(土)@荻窪velvet sun
2013.05.28(火)@荻窪ベルベットサン
2013.05.29(水)@富山市 NewPort
2013.05.30(木)@今池バレンタインドライブ
2013.05.31(金)@アメリカ村・clapper
2013.06.01(土)@尾道・香味喫茶ハライソ珈琲
2013.06.02(日)@岡山・ブルーブルース
[/twocol_one_last]

Release Information

Now on sale!
ポストカード+ステッカーつき!
Artist:L.E.D.
Title:in motion
Bayon production / YOUTH INC.
BAYON-001
¥2,500(tax incl.)

Track List
01. in motion
02. ChinaCheeseGirl
03. stratosphere 
04. 空水になる feat. Salyu 
05. icedust
06. 賽の河原 ~八俣遠呂智の落とし子と鬼八の祟り~ feat. 志人 
07. summer nostalgia 
08. hitofudegaki pt.2
09. pineapplestep
10. morning mist

Now on sale!
セッション音源のremixつき!
Artist:L.E.D.
Title:in the universe
Penguinmarket Records/YOUTH INC.
PEMY-020
¥1,575(tax incl.)
Now on sale!
“I’ll feat 原田郁子(クラムボン)”のPV収録DVD-Rつき!
Artist:L.E.D.(エル・イー・ディー)
Title:elementum
Penguinmarket Records / YOUTH INC.
PEMY-015
¥2,500(tax incl.)
【インタビュー】L.E.D.と志人による濃密対談。遊び倒したコラボ曲“賽の河原”について、志人が暮らす檜原村を舞台に語り尽くす! news1017_led_music-for-cinemas-e.p-200x200 Now on sale!
数量限定!
Artist:L.E.D.(エル・イー・ディー)
Title:Music For Cinemas e.p
Penguinmarket Records/YOUTH INC. & Gumbo Groove (PEMY-018)
Knowledge Alliance/PCI MUSIC
¥1,000(tax incl.)