アコースティックギター、ベース、ドラムを軸にしたシンプルにして等身大な肌触り。伸びやかに奏でられるサウンドはまるで柔らかな陽射しに包まれる安心感、頬をなでて吹き抜ける風の心地よさをそのまま音楽に変換したかのように、とてもやさしく温かい。

3月1日に配信リリースされたLilubayの2nd EP『Home away from home』はまさしく自然体な3人の佇まいそのものを体現した作品だと言っていいだろう。遡ること約1年半ほど前、より多くの人のもとに自身の音楽を届けていきたいと願いを込め、バンド名をaddからLilubayに改名した彼ら。3人にとって今作はLilubayとして世に放つ名刺代わりの一作でもある。

INTERVIEW:Lilubay

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常に不穏な空気が漂う今この時代にもっとも必要な音楽

「やっぱり日々、疲れちゃうじゃないですか。いろんなことがありますし。でも時代の流れを意識したというよりは、単に好きな音楽を突き詰めたらこうなったっていう感じなんです。僕は激しい音楽も好きだけど、ホッとする音楽ももともと好きだし、それぞれ別のところだと違うのかもしれないけど、この3人で集まったときにはこういう音楽が馴染むんですよね

たしかに去年の夏前はジャンルとか方向性とか迷ってましたけど、結局、自分たちがいちばん好きでやりたいことをやるのがいいんだなって吹っ切れたことで、今の自分たちにフィットするものが作れた気がします」(バンビ:B.)

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バンビ(B.)

ご存知の通り、Lilubayは現在無期限活動休止中のバンド、「きのこ帝国」の西村“コン”が中心となり、元アカシック、現「可愛い連中」として活動中でもあるバンビ、ソロアーティストとしても活動するタグチハナの3人でスタートしたバンドだ。それぞれのバックボーンをよく知る音楽ファンからすれば、たしかに『Home away from home』に通底する人肌の温かさは意外とも受け止められるかもしれない。

だが今作こそは、コロナ禍を筆頭に、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめとした不安定な国際情勢や、頻発する自然災害や陰惨な事件、日常生活を脅かす社会問題など常に不穏な空気が漂う今この時代にもっとも必要な音楽なのではないかとけっして大仰ではなく思う。心からリラックスしながら音の一粒一粒、言葉の一つひとつにじっくりと耳を委ねられる、それはなんと幸せなことか。

これまでにLilubayとしてリリースされているのは“FAITH”、“酸いも甘いも”(ベルクラシックグループ ウエディングTV-CMソング)、“ぼくのつくった魔法のくすり”の3曲、いずれも単曲のデジタルシングル。“ニヒルな月”(映画『Bittersand』主題歌)、“舌鼓”(テレビ大阪『ホメられたい僕の妄想ごはん』エンディングテーマ)とadd時代の後期もデジタルシングルのリリースが続いており、複数曲がコンパイルされた作品のリリースは2020年9月発表の1st EP『Not Enough』以来、約2年半ぶりとなることを思えば、やむを得ない“迷走”でもあっただろう。

自身の外側にあるテーマに対して曲を作る面白さに目覚めた半面、締切や制約のないところでイチから自分たちの音楽を作るという場面に立ち返ったときに「急にふわっとしてしまった」とバンドのメインソングライターでもあるタグチハナは当時の自身を振り返る。

 

「2021年はタイアップを3つぐらいいただいて。初めての経験でしたし、何かに対して曲を書くということは大変だけど、すごく楽しくもあって、私たち自身、とてもひらけた感覚があったんです。ただ、自分たちが単独で何か作品を出すってなったときに“あれ? 何がしたいんだっけ?”みたいになってしまって。もどかしさもすごく感じましたけど、とりあえず曲を作ろうって、とにかくいろいろやっていました(笑)」(タグチハナ:Vo&Gt.)

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タグチハナ(Vo&Gt.)

突破口となったのは今作の3曲目に収録されている“わがままな私と、子どもみたいな君”だった。方向性も定まらないまま、とにかくひたすらに曲を作り続けていた時期の、いちばん最後に生まれたこの曲に「これ、すごくいい!」と西村、バンビも即反応。それをきっかけに一気に進むべき道が見えてきたのだという。

 

「やっと目が覚めたというか、“これを探していたのか!”みたいな気持ちになりました。“わがままな私と、子どもみたいな君”はこのEPのなかでもいちばんのほっこりソングなんですけど、アコギ主体のバンドの良さがすごく出せた曲というか。歌い方にしてもそれまでは声を張ってみたり、めちゃくちゃハイトーンで歌ってみたり、いろいろやっていたんですよ。

でも、これはいい意味で全然気張らずに歌えているんですよね。そういうのも含めて、今のLilubayがいちばん表現したいポイントはこういう柔らかさと温かさなのかもしれないってコンちゃんもバンビくんも思ってくれたんだと思います。2人ともかなりの“寄り添い師”なんですよ(笑)。バキバキのハードな曲もできるのに、こういうサウンドにも寄り添ってすごくあったかいものに仕上げてくれる、ホント、スペックの高い2人なので。きっと2人にとっても新しい一面となる作品になるんじゃないかな」(タグチ)

「去年の夏頃にEPにしようということで話が決まったのかな。それまではフルアルバムもいいかな、とかいろいろ考えて、曲作りもいろいろチャレンジしていたんですよ。それこそ、めちゃくちゃキメの多い、ロックな曲とかも作っていたんですけど。

ただ、自分たちの音楽の良さや核になる部分ってなんだろうなっていうことを考えたときに、バラエティに富んだ曲がバーッと並んでいるよりも、まずはLilubayとしての色が濃いものを届けたいなと思い始めたんです。この3人だからこそのサウンド性、ソングライティングの持ち味をしっかり伝えられるものと考えると5曲入りのEPがいちばんいいんじゃないかなって」(西村“コン”:Dr.)

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西村“コン”:Dr.

曲調も音像も世界観も、そして収録曲数に至るまで『Home away from home』という作品は彼らがたどり着いた今のLilubayだからこその最適解だ。そして、こんなにも温かな作品を紡ぐことができたのはミュージシャンとして、また、人としてのフェーズが少しずつ変化してきているのも理由ではないかとタグチは自己を分析する。

 

「実は私、めちゃくちゃネガティブなんですよ。一人だとすぐイライラするし、落ち込むし。だから、たとえ自分に直接起こったことじゃなくても、イヤなこととか良くない状況が目に入るとすごいストレスがかかるんですね。目の前で喧嘩されると、自分は関係ないのに泣いちゃったり。

でも、だからこそやさしい音楽が好きだし、温かいものが好きだし、自分が誰かに与えるものはできるだけハッピーにって思ってるんです。もちろん、そんな余裕がなくてすごく暗い曲ができるときもあるし、それはそれでそのときの自分としてそのまま形にするんですけど。10代の頃なんかは攻撃的・反抗的な気持ちで音楽をやってたりもしましたから(笑)

そう思うと今は少しずつ自分のフェーズが変わってきているのかもしれないです。ここ数年は周りの人たちや環境、それこそ家族や友人、メンバーにすごく恵まれているって感じますし。今回の作品も、自分がもらった温かいものを返していきたいなっていう気持ちになれたんですよね」(タグチ)

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セルフプロデュースで作り上げ、名刺代わりとなる一作に

今作のほぼすべての作詞作曲はタグチが手掛けるなか、西村がメインコンポーザーを務める“mani・cure”から『Home away from home』は幕開ける。このバンドをスタートしたときから取り組み始めたという西村の打ち込みを主体に、さまざまな楽器の音が散りばめられたカラフルながらも、どこか乾いたチルなサウンドがなんとも耳に快い、オープニングにもふさわしい1曲だ。

 

「これは午後の休日みたいな気分で作り始めたんですよ。平日のお昼にカフェでまったりしたり、あてもなく散歩したりってなかなかできないじゃないですか。でも、たまにある、そういうゆとりのある時間がすごく好きで。そんなことを考えながら、音を探していったんです。その話をしたら、ハナがぴったりな歌詞を書いてくれて。

あと、今回はすべてセルフプロデュースで作ったんですよ。ディレクションも全部自分たちでやって。この曲の冒頭のボイスカウントも最初はなかったんですけど、レコーディングで急遽、ハナに入れてもらったらすごくハマったんですよね。あとで曲順を決めるときも、おかげですんなり1曲目に決まったっていう(笑)。この曲以外でもやりながら思いついたものを入れられたり、ちょっとミスってもいい味が出ているほうを選んだり、メンバーの好みやクセがより色濃く出たEPになっていると思います」(西村)

 

色褪せず今も背中を押してくれる大切な思い出を胸に明日へと踏み出していく前向きな心情を歌った表題曲の“Home away from home”、どうしようもない悲しみもやるせない寂しさもまるごと抱きしめて希望へと導く“Knock”の軽快な力強さ。英語詞がじんわりと胸に沁みる“rainy day”は今作のなかではもっとも古く、ライブの人気曲としてファンの間でずっと音源化が望まれてきた楽曲だという。ちなみに3人にとっての“Home away from home”とは何か、一人ひとりに聞いたみた。

 

「僕は下北沢ですね。僕たちが最初に開催した企画のライブが下北沢だったんですよ。そんなにたくさん下北沢でライブしてるわけじゃないんですけど、そう聞かれて浮かぶのは下北沢なんですよね」(バンビ)

「ちょっと範囲が大きくなりますけど、僕は東京がそういう場所だなって。実家もありますけど、上京してからのほうがもう長いくらいですから。実家とは別に東京という、もうひとつ生活のある場所があって、そこでいろんな出会いがあったり、一緒に音楽をやってる人がいたり……そう考えると不思議な感覚にもなるんですけど。でも、どこかに出かけて“帰ってきたな”と思える場所でもあるので」(西村)

「私はずっと東京ですけど、母の趣味で都内で10数回、引っ越しをしてるんですよ。しかも全部近場で(笑)。なので、どこかひとつの場所というよりは、大事な人がいる場所が自分にとってのホーム、みたいな。私の記憶には大切な街がいっぱいあって、この曲(“Home away from home”)もそういういろんな場所の記憶を織り込みながら書いたんです。一つひとつに全部、宝物みたいなストーリーがあるんです」(タグチ)

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今作はLilubayにとってもかけがえのない“Home”となるに違いない。帰る場所ができた彼らは、この先に何を目指すのか。

 

「Lilubayとしてまさに名刺代わりにできるような、“Lilubayはこれです!”と言って渡せるような、まとまった形での作品が出せて本当に嬉しいです。これを聴いてもらったらきっと今の私たちがわかるんじゃないかなって。作品の方向性が決まるまではとにかくいろんな曲を幅広く作っていたんですけど、それによって私たちにフィットしているのはこういう音楽なんじゃないかなって自分たち自身、改めて知れた気もしますし。

とにかく私は野外でライブがやりたいです。私たちの音楽はきっと自然が合うと思うんですよ。山でも海でも湖でも、自然のある場所に行ってライブができる、そんなバンドになりたい。このEPはその一歩でもあるのかなって。あと、このバンドを始めてから“あったかい気持ちになれたよ”って言ってくださる方が増えている気がしていて、だったらもっと堂々とそう感じてもらえる音楽を作って届けていきたいな、と」(タグチ)

「きっと僕もメンバーもみんな、音楽で誰かを救おうとか、そんなことは思ってなくて。もちろん“救われました”と言ってもらえたら、それはすごく嬉しいことですけど。僕は風景みたいな音楽が好きで、Lilubayもそういう音楽になれるんじゃないかなって思うんです。日常の風景に溶け込めるような、そういう音楽を目指したい」(バンビ)

「ふだんは気づきにくいけど、いちばん大事なものって実はそばにあったりするじゃないですか。そういう存在に僕らの音楽がなれればいいなっていう想いは持ってます。特別だけど当たり前にその人のそばにあるような、そういう音楽に」(西村)

 

今作に収められている5曲は、わかりやすくキャッチーなラブソングや応援歌といった類の音楽とは一線を画するが、人と人の間にある柔らかな愛情を照らしたり、あなたがひっそりと抱える痛みにはきっとそっと寄り添ってくれる。

『Home away from home』というタイトルが“遠く離れていても家と呼べる場所”“第二の故郷”“まるで自分の家のような場所”といった意味を持つように、“小さな入江”の造語であるLilubayという彼らの名が“メンバーや聴いてくれる方々にとっての、小さな理想郷のような存在になりたい”という願いを込めて付けられているように。

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Text:本間夕子
Photo:Kazuma Kobayashi

PROFILE

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Lilubay

2019年11月、西村”コン”(きのこ帝国)を中心にシンガーソングライターのタグチハナ、 バンビ(可愛い連中、ex.アカシック)によって結成。個性のある3人が、不思議なほどまとまり、特定のジャンルに囚われない抜群のアンサンブルを生む。2021年、映画・ドラマのテーマソングとして立て続けに書き下ろし曲をリリース。2021年10月15日、初のワンマンライブにて「3ピースバンド」として⻑く広く音楽を伝えられるようバンド名を「Lilubay」に改名。新曲「酸いも甘いも」がウェディングCMタイアップに決定。2022年12月7日、配信デジタルシングル『ぼくのつくった魔法のくすり』をリリース。 2023年3月1日、待望の2ndep「Home away from home」がリリース。

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INFORMATION

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Home away from home

2023年3月1日
Lilubay

1.mani・cure
2.Home away from home
3.わがままな私と、子どもみたいな君
4.Knock
5.rainy day

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