“終わりが紡ぐ、新たな始まり──
LITTLE FUNNY FACEが“誰かのための絵日記”に記す、感情の記憶
個展<An Ending, A Beginning>”

トイレでボーっとする人、部屋着でカップラーメンをすする人、酔い潰れた友だち。アーティスト・LITTLE FUNNY FACEことNARIの作品は、日常を生きる人々のちょっぴりルーズな“ありのまま”の姿を鮮やかに描写する。そこに登場する人々は、ボディ・ポジティブを表現するとともに、肌の色もさまざまだ。

そんな等身大の表現が共感を呼び、各地での個展・POP UP開催や、企業・ブランドとのコラボ企画など精力的に活動してきたNARIが、2024年4月27日(土)から5月6日(月)まで、代々木上原「WEED HEIGHTS」にて個展<An Ending, A Beginning>を開催する。約1年ぶりの本展の開催に至るまでには、さまざまな心境の変化があったといい、それは作品にも色濃く表れている。そんなNARIに、作品制作にあたる姿勢や個展に込めた想いなど、幅広く伺った。

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長い年月を経て辿り着いた、
「誰もが持っている心情」を描くということ

──まず作風の変化について伺いたいです。約1年前に開催された個展<Wordless>から、作品の雰囲気が変化した印象を受けました。これまでNARIさんが描いてきた鮮やかでポップな作風と対比して、より繊細さが表現されているように思います。

前回の個展から「誰もが“見た”ことがあるシーン的なキャッチーさ」を追求するよりも「誰もが“持っている”心情を目に見える形にしたら、どんな絵になるだろう?」ということを追求するようになったんです。

使用する画材も、元々使用していたアルコールマーカーとあわせて、アクリル絵の具でも描くようになりました。マーカーは背景が塗りつぶしにくかったり極端な明暗を出しづらかったりしたのですが、絵の具だと広範囲をきれいに塗りつぶせて、光と陰影も表現しやすくなりました。それによって絵に奥行きも出せるようになったし、作品が持つメッセージも伝わりやすくなったと感じます。

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例えば、今回の個展<An Ending, A Beginning>で展示予定のフォトブースを描いた作品。光と影のコントラストを表現することで、物語の中心部分だけでなく隅にいる登場人物の行動やドラマを浮かび上がらせています。さまざまなキャラクターにスポットライトを当てることで、より多くの人の心に響く作品になるのでは、と思って。仮に、観た人がこのシーンを実際に見たことや体験したことがなくても、複数いる登場人物の「誰かの気持ちになったことはあるな」というふうに、自分を重ねてもらえたらうれしいです。

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──なるほど。色使いもこれまでの作品と比べると落ち着いた印象を受けますね。

マーカーと違って色を自由に作り出せることが大きな理由のひとつかもしれません。それから、これまでの作品では純粋に「好きな色」を感覚で選んで使うことが多かったので、あとから振り返ってみると鮮やかな色が多かったりして。反省点と言うと言い過ぎですが、明るい色合いの影響でポジティブなイメージばかりが先行してしまって、本当に伝えたいことが隠れてしまうこともありました。

──「本当に伝えたいこと」とは、どんなことでしょうか?

これまでの私の作品は、ありのままを肯定する“ポジティブな絵”というふうに捉えられることが多かったです。もちろんそういった側面もあるのですが、一つひとつの作品を紐解くと、実はネガティブな感情から生まれたものだったりもします。特に30代になってからは、「日常のクスッと笑っちゃうようなシーン」だけでなく、もっと「心の奥深いところ」を表現したいという気持ちが大きくなっていって、それが画材や色使いの変化につながっていきました。

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──NARIさんの作品は、人と人との温もりや繋がりを想起させるシーンが特徴的ですが、どんなところから着想を得ていますか?

着想源は昔からずっと変わらなくて、自分が生活しているなかで見たものや感じたことを作品に落とし込んでいます。というのも、私にとって「絵を描く」ことは、「感情の絵日記をつける」ようなものなんです。だから、家でやることないなって気持ちさえネタになるし、映画を観て感じたことが1枚の作品になることもあります。多様な肌の色の人物を描く理由も、純粋に私の周りにいるさまざまなバックボーンを持つ友だちを登場させたかったからだし、「みんなが、より自然に共感できる作品を作りたい」という、とてもシンプルな気持ちから。

言い換えると、「日々を生きること」自体が原動力になっています。「絵日記をつけたい」という欲自体は、自分の感情を外に見える形にしてすっきりさせたい、という気持ちからきているのですが……!

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──NARIさんの作品からはピースフルな励ましばかりを感じていたので、「すっきりさせたい」という気持ちがあるのは意外でした。

ありがとうございます。実はずっと、私の制作は自己と向き合うためのものだと思っていたのですが、「それだけじゃないかも」と思える出来事がありました。この間、街を歩いていたら昔から個展に来てくれているファンの方が私に気づいて声をかけてくれたんですが、うれしそうな反面、どこか悲しそうだったんです。「どうしたの?」って聞いたら、パートナーとお別れしたばかりだったらしくて。私は喋るのが上手くないので良い言葉をかけられなかったのですが、そのときに唯一伝えられたのが「私の作品をもう一回見返してみてほしいな。それでちょっとでも元気が出たり、前向きになれる絵があったりしたらいいな」ということでした。

そんなふうに言えたのは、自分にとっても大きな気づきで。私が絵日記(=作品)を残すことで、もしかするとそれが同じような経験をした人を助けられるのかもしれないって思えたんです。だからこそ、楽しい思い出だけじゃなくてマイナスな思い出も作品として描きとめて並べておきたいなって。

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<An Ending, A Beginning>は、
1本の映画のような個展に

──4月27日(土)から開催される個展<An Ending, A Beginning>について聞かせてください。個展のタイトルに込められた想いは?

<An Ending, A Beginning>は直訳すると「終わりと始まり」です。30代を迎えてから今までの人生を振り返えったときに、「何か一つのことが終わると、繋がるように次の新しいことが始まった」という感覚が強くありました。もっと若い頃は、物事の終わりに対して悲しさや切なさを感じることの方が多かったですが、終わりが新たな始まりを生んでいて、むしろ、終わりがあることで人生は続いていくということに気づいたんです。そんなメッセージを込めて、<An Ending, A Beginning>というタイトルをつけました。

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──前回の個展<Wordless>では、あえて作品名を展示せず、来場者がすべて観覧し終えたタイミングで作品名が書かれた紙を受け取り、自分の感想と並べて鑑賞できるというサプライズを仕掛けられていましたね。そういったアイデアはどこから生まれているのでしょうか?

展示方法などのアイデアは、アーティストとしての“ビジネス視点”から生まれています。アートにまだ興味がない方を含む幅広い層に、私の作品を実際に見てもらう機会をどうしたら作れるか、という課題を常に意識していて。原画と対面した感動がご購入に繋がったり、より作品に思い入れを持っていただけたりすることが多いので。アーティスト寿命を縮めないためにも特にこれからの時代、“アーティスト活動”と“ビジネス視点”のバランスを楽しく保っていくことが大事だなと思っています。

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──SNSでいつでもどこでも作品を見られる時代だからこそ、正面から原画と向きあえる個展に足を運んでもらうことは、アーティスト活動においても大切な機会ですよね。

今回の個展<An Ending, A Beginning>でも、やっぱり実際に原画を観に来ていただきたいので、展示方法にもまた仕掛けを作る予定です。観にきてくれる人に内緒にしたいので、詳しくは言いませんが(笑)、一本の映画を観るような気持ちで楽しんでもらえるんじゃないかと思います。あと、ささやかながら来場してくださった方に特別なギフトを送りたくて、今回のために制作したLINEスタンプを購入できるQRコードをお渡しする予定です。

──個展の開催が今から待ち遠しいです。最後に、本展の見どころとメッセージをお願いします。

<An Ending, A Beginning>では、新作15点に加えてアーカイブ作品も数点展示する予定で、私史上最大サイズの作品も登場します。最近、サイズの大きな作品を観て、“吸い込まれるような感覚”に感動する機会が多くて。その感動をみなさんにも味わってもらいたいと思い、初めて大判サイズの制作にも挑戦しました。今ってスマホからどんな作品も観られる時代ですが、「実物と向き合って過ごす時間」って、やっぱり「画面とにらめっこ」とは全然違うと思うんです。SNSが発達した時代だからこそ、ぜひリアルでの体験を楽しみにご来場いただけたらうれしいです!

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Text:那須凪瑳
Photo:橋本美花
Edit:Kazuki Hyodo

ARTIST INFORMATION

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NARI (LITTLE FUNNY FACE)

目鼻を除き、唇のみを描き込む独特のスタイルが印象的なアーティスト。日々を生きるうえで誰しもが抱く感情や、飾ることのない人間らしさを美化することなくキャッチーに表現する。また、バラエティに富んだ愛のかたちを描くことで多種多様な性のあり方を社会に発信している。自身のギャラリーショップを東京阿佐ヶ谷に構えるとともに、各地での個展・大型百貨店でのPOP UP SHOP開催、アパレルブランドとのコラボレーションなど、勢力的に活動中。

Instagram(NARI)Instagram(SHOP)WebstoreHP

EVENT INFORMATION

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開催場所:代々木上原 WEED HEIGHTS
東京都渋谷区上原1-7-20
小田急線 代々木上原駅より徒歩6分
※入口は建物の南、井の頭通り側です。Google Maps では北側に案内されることがありますのでご注意ください。
TEL: 070-9095-9245
開催日時:2024.4.27(Sat.) ─ 5.6(Mon.) 12PM-7PM
※初日27日のみ5PMよりオープンとなりますのでご注意ください。
ウェルカムドリンクをご用意しております。
 
「昨年の個展では、言葉にならない瞬間たちを切り取った作品群で多くの人々の心に“本当に大切なもの”を問いかけたアーティスト・NARI。本展では、人生の中で連続する“終わり”と“始まり”がテーマとなる。何かが始まれば終わりがあるし、その終わりは次の何かの始まりでもある。悲しいだけのものではない。会場を後にするとき、あなたはきっとそんなふうに背中を押されていることだろう。」

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会期中、ご来場者様限定でLITTLE FUNNY FACEオリジナルLINEスタンプが購入できるQRコードをお渡しします。