――その第一弾は中島愛さんを迎えた2012年の“Transfer”でしたが、これはlivetuneさんの楽曲の中で初めて実在するボーカリストを迎えた曲でしたね。

そうですね。「ボーカルを入れて作品を作りたい」とはずっと思っていたんですよ。でも、これまで楽曲提供という形で仕事をさせてもらう機会はあったものの、自分のプロジェクトではまだ実現出来ていなくて。そこで今回、いい機会だからやってみようと思ったんです。この曲は『ガンスリンガーストラトス』の主題歌としてオファーをもらったんですけど、その時に「声優さんとか、ゲームと親和性の高いボーカリストさんでやりたい」という話を頂いて。そこで、もともと好きだったまめぐちゃん(中島愛)に声をかけたんです。

livetune adding 中島 愛 -“Transfer”

――コラボレーションというと、すべてを自分の思い通りにコントロールすることは難しい反面、予想外のいい結果を導く可能性もあるのが面白そうですね。

たとえばボーカロイドで曲を作る場合、曲も声の調整も全部自分でやっていくことになるんで、自分の思い通りのものに仕上げることは出来るんです。でもそれだと、どれだけ上手くいってもMAXが決まっているというか、100%しか出せなくて。一方で、ボーカリストの人と一緒にやるレコーディングって、やっぱり僕はそこにマジックみたいなものがあるなって思うんですよね。振り幅が大きい部分があって、時には調子が悪くて80点しか出ない時もあるかもしれないけど、すごく調子がいいと120点が出る可能性もあるというか。

――今回のアルバムの中でも、予想外のマジックが起こった瞬間はありましたか?

今回参加してもらった人たちは、もうその場その場で、曲に合う人にお願いしていったんですけど、一番予想外の変化が起きたのは鬼龍院くんとの曲ですね。彼とはもともと友達だったんですけど、レコーディング中に彼が「何かやらかしたくなるんだよね」って言ってて。「じゃあ、思ったままやってみてよ」って言ったら、最後のGLAYのTERUさんみたいに駆け上がるようなメロディーが飛び出したんです。で、「それ面白いから採用!」ってことにして(笑)。他にも今回は、レコーディング中に曲が変わることが結構ありましたね。9mmの滝さんのギターも面白かった。普通レコーディング中って座ってギターを弾くことが多いと思うんですけど、滝さんは立って弾くんですよ。それどころかジャンプしてて(笑)。「こんなのなかなか見られないな!」と思ってたんですけど、あまりにジャンプするんで、最後には滝さんの帽子が落ちて……(笑)。それくらいのテンションで臨んでくれたんです。

逆に三森さんとか、やのあんなとか、クラムボンの原田さんとの曲は割と原曲のまま仕上がりました。原田さんってキャリアが20年近くありますし、そういう人がオファーを受けてくれたのは大きかったです。クラムボンは僕が高校生の頃から聴いていて。最近ミトさん(クラムボン)と仲良くさせてもらってるんで「ミトさん、ちょっと相談があるんですけど飲みに行きませんか?」って誘って直談判したんです(笑)。鬼龍院くんも直談判でしたね。彼には渋谷の飲み屋でお願いしたんですけど、「直接言ってくれるからやりたくなるよね」って言ってくれて。彼は友達だったんで、よそよそしいのも変だな、と。たぶん、直接言わなかったら受けてくれなかったとも思いますしね。

――あと、豪華なゲストの顔ぶれを見ていてもそうですが、今回のアルバムからは「メインストリームのど真ん中で勝負してやろう」という決意のようなものを感じました。

そうですね……やっぱりそれはあると思います(笑)。僕はJ-POPのことはよく分からないですけど、自分がどういうところに一番行きたいかを考えた時に、やっぱり「ドン・キホーテにCDを置かれたい」っていうのがあって。あそこってEXILEやAKB48のCDがあって、日本の一番のメインストリーム=日本の音楽の最終地点だと思うんです。そこに行けるように頑張ろうって決意したのが今回のアルバムでもあって、その辺りの気持ちは、鬼龍院くんとの曲にも出てると思いますね。ここ1年ぐらいですけど、自分の中で「このままじゃいかんだろう」って気持ちがあって。音楽産業自体が縮小していってる今、無難なことを続けるんじゃなくて、何かしらチャレンジをし続けたいって思うようになったんです。

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