lyrical schoolがとんでもないことになっている。
「技巧的なスキルと華麗なマイクリレーで唯一無二のポジションを確立しているグループ」というイメージはすでに浸透しているように思うが、加えて近年の音楽的挑戦は非常に素晴らしく、ここにきて再びジャンルを超えて様々なリスナーを惹きつけはじめている。この度、延期の末に満を持してリリースされたニューアルバム『Wonderland』は、“今”の時代を震わせる様々なジャンルの音楽が導入されたスリル満点の必聴作だ。

一層の充実が図られた今作のクリエイター陣だが、今回はその中でも作詞で参加したvalkneeと作詞作曲で参加したRachel(chelmico)をお呼びし、lyrical schoolのminanをあわせての鼎談が実現。Zoomgals等で独自の活動形態を仕掛けるvalkneeと、こちらもマルチな活動で注目を集めるRachelだけに、話は『Wonderland』制作秘話はもちろんのことヒップホップシーンを俯瞰した話や女性アーティストとしての想い等多岐に渡り、示唆に富む鼎談となった。笑いと感動、そして発見が詰まった10,000字インタビューを、どうぞお楽しみあれ。

Interview:
minan(lyrical school)
×
Rachel(chelmico)
×
valknee

鼎談:minan × Rachel × valknee|フィメールラップの流動性と自己肯定の原動力 interview210419_lyricalschool-010-1440x960
L→R Rachel(chelmico)/minan(lyrical school)/valknee

NewAL『Wonderland』制作背景
「ちゃんとリリスクのものにして返してくれる」

──『Wonderland』リリースおめでとうございます!制作を終えての手ごたえを教えてください。

minan 今まで出してきた中で、私個人的には断トツで一番好きなアルバムになりました。今までのアルバムは、一枚を通して聴いた時にストーリーが感じられるものを作ってきましたが、今回はそれよりも一曲一曲がとにかく個性的で、かなりカラフルなアルバムになっていて。もちろん通しで聴いても世界観を感じてもらえると思うんですけど、1曲ずつ聴いてもらってもかなり個性が強いので相当楽しいんじゃないかな。

──その中でも一番個性が強くて、まず聴いていただきたい曲はどれでしょう。

Rachel (胸を押さえて)ドックン……!

一同 (笑)

minan (Rachelの方を見て)“Fantasy”!※

※作詞:Rachel(chelmico) 作曲/編曲:ryo takahashi, Rachel(chelmico)

Rachel 来るか来るか!? と思ったよ?(笑)

minan 一曲の中で何回も展開が変わって本当に面白い曲だなって思うし、ほかにも、valkneeさんに作ってもらった“FIVE SHOOTERS”も、夜の遊園地、夜の都会感が感じられてすごい好きです。

──なるほど。ではまず“Fantasy”からいきましょうか。Rachelさんのリリックが面白くて、ヴァースではとにかく韻を踏みまくっているこの曲ですが、制作にあたりどのようなオーダーがあったんですか?

Rachel まさに「ファンタジー」というテーマをいただいて、いつもchelmicoでトラック作ってもらっているryo takahashiと一緒に進めていきました。ファンタジーだけど(単に)「わあステキ!」と言う感じで作っていくのはもったいないなぁと思い、自分たちの曲としてメンバーに歌ってほしくて、どうすればいいだろうと考えて書きました。

──展開もめちゃくちゃ面白くて、色んな楽しみ方ができますよね。

Rachel いまフックで歌ってもらってる部分は、「もっと展開をつけてほしい」と(プロデューサーの)キム(ヤスヒロ)さんから言ってもらって、「おぉ!」って。

──最近のlyrical school(以下、リリスク)の曲ってだいぶ攻めてますよね。

Rachel 「いいの?」って思った。

──「そっち冷笑系? ならこっち燃焼系」という時流をとらえたラインもあります。

Rachel この子に歌ってほしい、というのは最初から全部のパートにありました。だけど、一応プロデューサー的にもどう見せたいかの意見を聞いてからパート割りをしようって思ったら、全く同じ意見でした。「そっち冷笑系? ならこっち燃焼系」のところとかも、(やっぱり)risanoだよなっていう。そういうのも込みですごく面白くなったなって思いました。

lyrical school /Fantasy (Full Length Music Video)

──valkneeさん作詞の“FIVE SHOOTERS”、“SHARK FIN SOUP”もかなり攻めてますね。

valknee どちらの曲も、トラックありきでキムさんから注文があって。ただ、具体的な注文というよりは、トラックを聴いて浮かんだ言葉でリリックを書いてほしいという感じの話でした。

“SHARK FIN SOUP”はオリエンタルなというオーダーでしたけど、でも最近は文化の盗用とかも厳しいから、そこは絶対に抵触しないように抽象的にしようと思って。あとは、結構メンバーから着想したというか、どれだけでもお金をかけられるMVがあったらメンバーのどういうシーンを見たいか、ということを意識しました。アルバム曲なのでMVは撮らないだろうとは思ってたんですけど、例えば舞台上にminanちゃんとかが出て、バッと振り返って、みたいなのを思い浮かべながら書いたり。hinakoちゃんが廊下を駆けてるシーンとか。

──確かに、リリックには視覚的要素を表すワードが散りばめられているなと思いました。フロウも、valkneeさんっぽくされているじゃないですか。valkneeさんがラップの指導もされたんですか?

valknee レコーディングの時に、ディレクションで一緒に入りました。でも、仮歌を歌っても彼女たちの持ち味によって段々と私の仮歌からずれていくのがちょうど良くて。自分すぎるくらいに録音しても、ちゃんとリリスクのものにして返してくれるから、いいなぁと。

──具体的に、「こういうフロウで」みたいなオーダーもされましたか?

valknee 基本は仮歌通りに、「私がやってるみたいにやってみて!」って言うんですけど、結局、持ち味が勝っちゃう(笑)。最終的には、彼女達なりのものにして録音できました。

──“FIVE SHOOTERS”はいかがでしょう。

valknee 夜とか星空、夜景、空に上がっていくものを断片的に出して、ジェットコースターで落ちる前の上がっていく瞬間のような上昇しているイメージと、アイドルとしてアーティストとしてリリスクに成功してほしいなという気持ちを入れました。

minan あぁ嬉しいなぁ……。

valknee いい景色を見てほしいな、みたいな気持ちですかね。

minan もちろん私たちのことを考えて作ってくださっているのは分かっていたけど、ここまで制作の裏側についてお話を直接聞けることってなかなかないので、いま改めて聞いてぐっときちゃいました。嬉しい。

Rachel 普通に、ファンだからね、(私たち)二人。

──制作を依頼する側とされる側という、ビジネスライクな関係性を超えたムードが出ている!

valknee レコーディングの日ってそこまで曲の裏側とかって言ったりしないですもんね。それよりも、感覚的に録音した方がいいのかな、みたいに思っちゃってあんまり語らず入ってしまうというか。

──言わない方がいいものができるということもありますもんね。どちらが良いとは言い難い。

minan でも、私けっこう聞きたいかも。

Rachel 人によるのかな。考えすぎちゃう、分かんないってなっちゃうメンバーもいるかも。

──minanさんはメンバーの中でも冷静に俯瞰して見たいっていう方だから、いいのかもしれないですね。

Rachel 聴いたことに対する処理の能力が高くて、キャパがでかいし実力もあるからできる。

minan すーごい褒めてくれてる(笑)。

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楽曲の印象・聴いてほしいポイント
「今までのリスナーじゃないところにも届きそう」

──『wonderland』制作において、メンバーの関係性で何か変化はありましたか?

valknee “MONEY CASH CASH CASH”とかメンバー皆キレキレすぎて、びっくりした。

minan コロナ禍でライブができなくて、もちろんメンバー同士も会えない、みたいな期間が半年くらいあって。レコーディングが始まるくらいでようやく皆が会う、みたいな感じ。久しぶりのラップということもあって気合いが入っていたのかもしれないですね。あとは、コロナ禍でライブをしていない間もそれぞれが家でスキルアップのために練習していたので、それらが出せたアルバムなのかもしれません。

──(Rachelさん、valkneeさんが制作に関わった)三曲以外の曲で、ぜひ聴いてほしいポイントがある曲があれば教えてください。

minan 私が個人的にめちゃくちゃ聴いてほしいっていうのが、“Danger Treasure”。この曲はアルバムの中で一番最後にレコーディングしたんですが、メンバーの高めのテンションというか「これで終わりだ! アルバムの集大成だ!」くらいの高めのテンションが詰まっています。曲を撮り終わったあとに軽く打ち上げみたいな感じでスタジオで皆でピザ食べたんですけど。お酒もちょっと飲んで。お酒が入ってきたrisanoが「さっきのテイク、完成しちゃったんだけどもう一回やり直していいですか?」って。レコーディングスタジオのエンジニアさんもちょっとお酒入ってたんで「いいよ、やろっか」てもう一回スタジオ入って。それで録ったテイクが一番良くて、それがこの曲の冒頭のrisanoヴァースに使われている。

Rachel、valknee ええぇ~!

valknee 普段と違うかも! 確かに。

──valkneeさん、Rachelさんは(ご自身が制作に関わった)三曲以外で特に好きな曲はありますか?

valknee やっぱり“MONEY CASH CASH CASH”ですかね。“TIME MACHINE”もめちゃくちゃリピートしてるんですけど。心地よくて何回も聴いちゃう感じで。“MONEY CASH CASH CASH”の方はひっかかりがすごい。これ何? ってぎょっとする感じというか。今までのリリスクじゃないと思って好きになった。大げさなリリックもいいですし。

Rachel やっぱ直球で好きなのは“TIME MACHINE”ですね。

valknee 今までのリスナーじゃないところにも届きそうだよね。展開がいいよね。“Fantasy”も“TIME MACHINE”も。

Rachel “SHARK FIN SOUP”も好きですし。

valknee ありがたい~(笑)。

Rachel ファンだから。さっき(valkneeさんが)言ってた視覚的なイメージみたいなのも、なるほどっていう発見がありましたね。え、なんでオリエンタルなの? みたいな(笑)。一気にそこがやっぱり『Wonderland』感というか、中腹にかけて混沌としていく感じがあって。その並びもあって好きな曲ですね。

──“SHARK FIN SOUP”は、ランチタイムなのかなと思いました。曲順的に。

minan なるほど~それは考えてなかった! なるほどね。

valknee だとしたら“MONEY CASH CASH CASH”で起床ってやばいですね(笑)。

──朝イチでアゲていくよ! っていう(笑)。

lyrical school/TIME MACHINE (Full Length Music Video)

客演文化におけるフィメールラップの流動的なコラボレーション
「違うからもういいよ、ってことではなくて、違うけどちょっと話そうよ」

──ヒップホップは昔から客演文化が盛んですよね。それがありつつも、最近は特に流動的なコラボレーションが行われていて。まさに『Wonderland』がそうですが。valkneeさんの参加されているZoomgalsなどは“サークル”と名乗ってもいたりと、新たな活動形態として注目を集めています。なぜここにきてそのような動きが生まれていると思いますか?

valknee それまで私、思想が同じでないとコラボするべきじゃないと思ってたんですよ。「この子はなんとなく近いシーンにいるしいい感じだけど、なんかtwitterでの発言から察するに私の考えと違うな」という人とはコラボするべきじゃないと思ってたんですけど、コロナをきっかけにもうちょっとガードをゆるめるというか、「だいたい世界平和を願ってればいいかな」みたいな。

一同 (笑)

valknee 世界が良くなっていくというのを目指してる人ならまぁいいか、みたいな。細かく違ってもなんかコラボしてもいいかなっていうマインドになってきて。それでZoomgalsをつくるときに、それを考えながら声をかけたんですけど。そんなことで仲たがいしてる場合ではない、みたいな。

──もっとつながっていかないと、ということですね。

valknee だいたい同じ方向を見てるけど、こことここが私とあなたは違うよね、ていうのも……何ていうんだろう、攻撃とかじゃなく、言ってもおかしいことではないかなって自分としては納得できるようになりました。

Rachel Zoomgalsは私も好きでチェックしてるんですけど、この人たち結構違うのになんで一緒にいるんだろうって。だけど、メンバーの中でこことここはちょっと似てるなとか感じてたので、そこは納得いって、なんか……セーラームーンみたいで好きなんですよ。みんな全然違うのに、「君たちセーラームーンです」みたいな感じで言われちゃって、しゃあなし集まってるみたいな(笑)。

一同 あはははは!(笑)

Rachel だけど、喧嘩しながら、意見言いながら、一緒の夢に向かってるって感じがすごい好きで。だから今の話を聞いて、やっぱりそうなんだって。答え合わせというか、納得いきました。そういうのすごい好きです。言いたいことは言っていいと思うし、だからこそああいう曲が創れるのかなっていうか。ばらばらの皆が一緒に一曲やることによって熱い気持ちになれるのかなって。リリスクも私はそんな感じで見てて、皆がバラバラで言うこと聞かない。楽曲制作も思い通りにいかなかった時もあるんですけど、それが面白くて。全員必要じゃん! みたいな。仲良しこよしみたいな一面がありつつも、皆違うんだろうなってレコーディング見てて思ったし。解釈の仕方も違ってて、そこが好きなんだろうなって思いました。今のリリスク大好きです。

minan 嬉しい……嬉しい!

──「Zoomgalsはライバル同士でもある」っておっしゃってるじゃないですか。仲良しだけどライバルっていう、そういうのもありますよね。

valknee やっぱり仲良しすぎると「許し」みたいなのが発生しまくりそうで(笑)。アイドルも、色々なグループがありますけど、ライバルっぽい方がすごい好き。皆もそうなってほしいなって。世の中の人も。違う考えの人同士でも団結することはできるし、違うからもういいよ、ってことではなくて、違うけどちょっと話そうよみたいなのが良い。

──最近、私が面白いなと思っているのが、かたやそういった流動的なコラボレーションみたいなものが盛んになっている一方で、DJ RYOWさんの新作『Still Dreamin’』から熱い名古屋レペゼンを感じたりとか、BAD HOPさんはLEXさんやJP THE WAVYさんと神奈川勢で絆を強めて盛り上げていってたりとか、ここにきて最近また地域での連帯が強まっている気がするんです。でも、女性のラッパーってそんなに数が多くないから、地元で一緒にやろうよって言っても難しかったりする。だからこそネット上、SNS上での活発な動きが生まれるところもあるんじゃないかと。

valknee うんうん。なるほど。地域の絆みたいなのもまだ根強いですよね。

──それもそれで面白いですよね。どちらも、独自の進化をしている。ちなみに、それらの動きがミックスされていくみたいな展望ってあったりしますか?

valknee 私はいつでもウェルカムですけど(笑)。いや、でもなんか分かんないですね……。やっぱり昔ながらの固いヒップホップ像を愛している人たちはやっぱりそこのゾーンに入っている人じゃないとフィーチャリングしないみたいなのをちょっと感じることはありますね。で、そこに入っていない人同士で交流しているという図ができているのかなぁ。なんかいい感じに混ざっていきたいですけど。

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──音楽ジャンル的にも、今回の『Wonderland』もそうですし、chelmicoさんの最近の作風とかも、ヒップホップだけではなくすごく色々なジャンルに広がっていっているじゃないですか。人も、そうやってどんどん広がっていったら面白いですよね。

Rachel え、誰とフィーチャリングしたい?

一同 えー!

──(笑)はい、じゃあ今後フィーチャリングしたい方教えてください!

valknee Rachelは?

Rachel 私は……valkneeさん好きですけどね

一同 あはははは!(笑)

Rachel あとは、普通に好きなシンガーソングライターなんですけど、Le Makeupさんとか。

valknee あぁ~!好きー!

Rachel あとYo-Seaさん好きです。

valknee あぁ、いいよねぇ。

Rachel (どうなるか)見えないんですけどね、三組とも(笑)。見えないんですけど、ただの告白時間でした(笑)。あとminanちゃんとかも、ソロでやるとかだったらけっこう(イメージ)浮かぶかな。(リリスクは)みんな力がついてきてて、どこで活動しても面白い感じになるからね。minanちゃんの今後がどうなるのかなって楽しみだよね。……で、(二人の方を向いて)誰? 誰? 誰?

valknee 全然(ジャンル)違うんだけど、さとうもかちゃん。

一同 あぁ~! 合いそう!

valknee 違うように見えるんだけどね、実はちょっと合いそう。

Rachel 声が合いそう。

valknee すごい大好きなんですよね。あと、ありえないんですけど、マキシマム ザ ホルモンとか(笑)。

一同 合いそう!!(笑)

valknee 死ぬまでに一回フィーチャリングできたらもう嬉しいって感じ。

──minanさん誰かいらっしゃいます?

minan (sic)boyさんとか?

Rachel 面白いねこういうの聞くの。楽しい。……minanさんと(sic)boyさんは、やばいな。(笑)

──minanさんと(sic)boyってやばいですね!(笑)ぜひ夢のコラボを! そういう動きがどんどん起こっていくと面白いと思うので。

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自己肯定の原動力
「ビヨンセの一部分も自分だ!」

──最近の皆さんの作品を聴いていると、「自分が自分でいることを楽しもう。その過程で辛さもあるって認めていこう」というムードを感じます。あっこゴリラさんも最近は「自分の中の強さと弱さを素直に認めて楽しんでいきたい」っておっしゃったりしていますよね。そういった感覚って、やはり皆さんの中に自覚としてありますか? また、あるのであれば、どういうきっかけでそういったマインドになっているのでしょうか。

valknee 意識はめっちゃありますね。むしろ自分の中のメインテーマみたいな感じで自己肯定とか自己愛とかがあって。それを自分が思ってるよりもさらに強力に発信して、他の人に伝達するような意識を持ってやっています。もっとエクストリームにしないと伝わんないかなと思って。「もっと自分愛せよ」というのを言いたいから、こんなに「自分好き」みたいな曲を作ってる、みたいなのはありますね。自分より若い女の子とか──別に男女関係なく年齢も関係なく皆ですけど、特には、10代20代の子により良くより楽しくなってほしいから、生きやすくなってほしいから。

──その原動力ってどこから沸いてくるんですか?

valknee それは、やっぱり過去に自分が言われたことが嫌だったから。自分みたいになってほしくない、不自由してほしくないって気持ちがありますね。

──愛だなぁ。

valknee 自分が悩んでいたこととか、なんで皆と同じようにできないんだろうとか、そういうので悲しくなったこととかってめちゃくちゃあったので。そんな時間を過ごしてほしくないなって思ってます。

Rachel 自己愛みたいなのはあまり考えてやったことはないんですけど、でも今回提供した“Fantasy”については、音楽聴く時に「その人になってる妄想」みたいなのをするんですよ。valkneeさんとかリリスクを聴いてるときもそうなんですけど、妄想した時に(歌ってる人が)気持ちいい曲を作りたいなって思っていて。なんかminanさんとかが歌ってくれた時に本当に自分のこととして歌ってくれないとその気持ちに入れないんじゃないかって。だからvalkneeさんの曲もそういうところが好き。そういう曲にしたいなって思ってがんばって書いたところもある。「こうなりたい」と思う時って、本人が本人のこととして歌ってる時だから、(今回は)一人称が多くなりました。だから……ライブとか楽しくやってくれたらいいなぁって。

minan なんかもう泣きそうになっちゃった……(笑)

Rachel だから、「私」っていう歌詞を歌うときはちゃんと自分のことを思って歌ってくれたらいいな。「歌ってくれてる」じゃなくて「自分のこと歌ってる」を聴きに行きたいなっていうのがあるから、ライブとかで歌ってくれたら楽しみだな。

miinan やばい……。

一同 (笑)

Rachel そこに皆憧れる。(そうやって歌うminanちゃんを観て)「こうなりたい」って思うから観に行く。だから、valkneeさんの曲も好きだし、リリスクの歌う曲も好き。

valknee 私、その視点なかったかも……今すごいびっくりしてる……!

Rachel 頭の中でこんな踊れたらいいな、ビヨンセみたいに踊れたらいい、っていう延長線上にある。

valknee 私は逆に、ビヨンセに自分の欠片を見つけて、それを喜ぶタイプ。ビヨンセのこれ、私なんだけど! みたいな。(笑)

Rachel でも私はほんとに頭の中で「valkneeさんになりたいなぁ」と思いながら聴くよ。「valkneeだったら」みたいな感じで聴く時と、あとは最前列で騒いでる姿を想像したりとか。どっちの目線もある。でも今回の曲に関しては、メンバーの子が自分のこととして歌ってほしい。だから、「私のためだけに歌うの」って歌詞を書いた。

──二人とも違うスタイルですが、valkneeさんも「誰かにされた嫌なことを自分はさせたくない」っていう誰かへの愛がある。自分以外の誰かに、っていうところはやっぱり共通しているんですね。やっぱり……世界平和なのかな……。

Rachel そうなのかも(笑)。やっぱりこれを歌って、リリスクとして一番楽しくしているところを見たいから。

minan 私は曲を提供してもらって歌う立場で、自分で曲を作ってるわけではないから二人とは全然ポジションが違うんですけど、今までリリスクではハイテンションな曲を歌うことが多くって。夏めっちゃ楽しい! みたいな。それは確かにアイドルとして楽しく歌ってるんだけど、現実の私とはもちろん全然違うテンションで、そういうところの乖離を感じつつやっていたんですよ。当然、それは悪いことじゃないんですけど。

でも、今回のアルバムは、自分が等身大で歌える曲が多いなって感じていて、だから今までで一番お気に入りのアルバムだなって思えます。そう思うのって、そう考えて作ってくれてたからなんだぁって、今改めて思いました。特に“Fantasy”も、ただ楽しいだけの曲ではなくて。曲調はもちろんポップで明るくてすごいウキウキした曲だけど、歌詞の中にはアイドルとしてやっていく上での葛藤とか生きていく上での胸がざわつく気持ちとかを入れてくれていて、それがすごく好きです。だからこそ、自分で歌えるなぁって思っていたので、ほんとに感動してしまいました。本当にありがとう……。

一方でvalkneeさんの歌詞は、それこそ全く自分とは違うんだけど、別の世界を描いてくれてるから、そこの主人公になって歌えるんですよ。“FIVE SHOOTERS”も“SHARK FIN SOUP”も。そこに自分を持っていきたいなぁって。映画の主人公みたいに歌えるなぁって思っていたので、「ビヨンセの一部分も自分だ!」ってそういう気持ちだなぁって今すごく思いました(笑)。すごく愛を感じて、でも……もう一言聞いたら泣いちゃいそうだから……(笑)

──こんなこと言うのもなんですが……minanさんって、リリスクのメンバーの中でも、ちょっとネガティブな方じゃないですか……。

minan (笑)

──でもリスナーもそれを知っている方が多くて、だから「がんばって!」って応援しながら聴いている方も多いと思うんですが、自信をなくしちゃって、でも立て直さないといけない時の気持ちのもっていき方ってどうやってるんですか?

minan なんか、グループに加入してから3~4年くらいはそういったネガティブな部分を隠してて。ずっと笑ってよう、アイドルだしずっと笑ってなきゃ、ずっと楽しくいなきゃってやってたんですけど。なんか途中で吹っ切れて、もういいやって思った時があったんです。素の自分をさらけ出すようになったらけっこう女の子のファンも増えてきて。「私もminanちゃんと同世代だけど、マイナスな面とか隠さずにさらけ出してくれる、等身大でやってくれるところがすごく好感持てる」って言ってくれる人も出てきたから、そういう声を聞きながら、自分のやり方にフィットしてるのかなって思い直した時期があります。今は、ネガティブな自分をどうにか前向きにして活動しよう! って感じではないですね。無理に明るくしようとかってないし。

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──valkneeさんのリリックとかでも、例えば「生きてるだけで状態異常」で「あたしのカムバ待ってるギャルのため横になって整えるメンタル」っていうパンチラインがあるじゃないですか。私すごく好きで。ヒップホップってボースティングというか、「俺は私はすごいんだぜ」ってことを言う人が多いじゃないですか。もちろんそれも良いんですけど、その中で「弱さをさらけ出す強さ」みたいなのをさらけだす方も最近多いですよね。今の皆さんの話を聴いて、共通してるなぁって思いました。

valknee 確かにそうですね。Zoomgalsも皆そのスタンス。「うちらすぐ疲れちゃうけどそれが何か?」みたいな(笑)。

一同 あははは!(笑)

valknee その中で私わりと健康で元気な方なんで(笑)。 皆に「やろう!」とか言っても、ただ健康な奴が何か言ってる状態にしかならないから。それが今悩みかもしんない(笑)。

Rachel 「また健康な奴が……!」って?(笑)

──健康批判。(笑)

valknee 健康なことがね、仇となってしまって(笑)。むしろ悩みに入る。

一同 あはははは(笑)。

──では! 最後に、今後の動きについて教えてください!

Rachel 4月16日(金)にchelmicoの新譜(ミニアルバム「COZY」)が出て、少しお休みしてまた戻りたいなぁと思います(※)。ゆっくり動いていくんですけど引き続きよろしくお願いします。

(※先日、Rachelは結婚&妊娠を発表)

valknee Zoomgalsで女の子たちと連帯したので、もうちょっと境界線なくぼんやりと広げていきたいなぁっていう計画があるのと、それとは別で、valkneeのソロ活動を頑張りたいなぁって思ってます。この前、Zoomgalsのライブをやったんですけど、私のファンの人ってパッと見て分かったりするんですよね。ファッションとか。女の子が多かったですけど。

Rachel え、私も行ったら分かるかなぁ?

valknee (笑)どうかなぁ!? 雰囲気があって。「私ポケモンにvalkneeって名前つけたんです」とか言われたり。ちょっと独特な雰囲気があるんですよ。推し方が可愛い。家にvalkneeの神棚をハンドメイドで作ってくれている人とか。そういう人がいるんだなぁってことが確認できたので、ソロのイベントとか集会? とかもやっていきたいなぁって思います。そういう、たまに開催するゆるいコミュニティみたいなのもあったら面白いのかなって。

minan とにかく『Wonderland』がたくさんの方に聴いていただけたら嬉しいなと思っています! 今は5月末に全国ツアーのファイナルが行われるので、それに向けて頑張るのみ、といった感じです。配信もあるのでぜひ!

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Text by つやちゃん
Photo by MIYU TERASAWA
衣装協力(minan):Lean-K

PROFILE

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lyrical school

lyrical school 略称は “リリスク”。5MCによるガールズ・ラップ・ユニット。メンバーは、yuu、minan、hime、hinako、risanoの5人。新体制になり、2018年6月にアルバム「WORLD’S END」をリリース、翌7月からは全国14箇所のリリースツアーを敢行。ツアー・ファイナルの新木場STUDIO COASTを成功させて勢いを増す中、同年12月/1月の2ヶ月連続ダブルA面シングルのリリースを経て2019年5月にビクターのコネクトーンへの移籍を電撃発表、6月には移籍後初の配信シングル「LAST DANCE」を発売。9月には移籍第一弾アルバム『BE KIND REWIND』が誕生。その後全国ツアーを経て、2020年4月にキャリア初のEO『OK!!!!!』をリリースし、ニュー・アルバム『Wonderland』の発売決定のニュースと共にデジタルで先行シングル「Bright Ride」を10/28に発売、それに続けて11/25には第2弾先行配信シングル「FIVE SHOOTERS」をリリースし、一気呵成に新たなステージにに向けて走り始めた。

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Rachel(chelmico)

RachelとMamikoの友達2人組で結成されたラップユニット。
それより前から活動してるけど、なんやかんやで2018年にワーナーミュージック・ジャパンのunBORDEよりメジャーデビューし、良い感じのラップをしている。オフの日は2人で映画を観たり、飲みに行ったりしているが、現在は自粛中。やっぱり、夏フェスに出たい♡
コマーシャルソングやドラマのテーマソング、アーティストへの楽曲提供、客演など、様々な方面で活動中。インディーズ活動を経て、2018年にchelmicoの憧れの先輩たちが所属するワーナーミュージック内のレーベルunBORDEから待望のメジャーデビューし、はや3年。これまで『POWER』『Fishing』『maze』と3枚のアルバムをリリースし、ラッパーとして成長し続けるRachelとMamikoのラップユニット。最近では、YouTubeにてラジオ番組「chelmicoのでも、まだまだ土曜日」を不定期でアップ、「人気ラジオ番組完全ガイド2020-2021」のラジオ番組大総選挙・YouTubeラジオ部門・第1位に輝くなど、ラップ以外でも幅を利かせ始めている。

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valknee

ラッパー。東京を拠点に活動中。韓国在住経験を生かし韓国語と日本語を混ぜながら、強い自己愛や不満、ときに恋バナをラップする。2020年5月にリリースしたシングル「Zoom」でヒップホップファンのみならず幅広い人々から注目を浴び、同曲に参加したメンバーと共にギャルサー「Zoomgals」を結成。同年9月に3rd EP「Diary」をリリースした。ヒップホップアイドルユニット・lyrical schoolへの歌詞提供など、活動の幅を広げる。

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INFORMATION

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Wonderland

2021年4月7日(水)
lyrical school
VICL-65466
Victor Entertainment

―収録曲―
1 -wonderland- (skit)   
作詞:木村好郎(Byebee) 作曲/編曲:坪光成樹,高橋コースケ
2 MONEY CASH CASH CASH 
作詞/作曲/編曲:ALI-KICK
3 OK!
作詞:大久保潤也(アナ)、ALI-KICK 作曲:大久保潤也、上田修平 編曲:上田修平
4 Danger Treasure 
作詞:Kick a Show, Sam is Ohm 作曲/編曲:Sam is Ohm, Kick a Show
5 YABAINATSU
作詞:大久保潤也(アナ)作曲:上田修平、大久保潤也(アナ)、編曲:上田修平、大久保潤也(アナ)
6 SHARK FIN SOUP 
作詞:valknee 作曲/編曲:okaerio
7 -earthbound- (skit) 
作詞/作曲:木村好郎(Byebee) 
8 Fantasy 
作詞:Rachel(chelmico)  作曲/編曲:ryo takahashi, Rachel(chelmico)
9 TIME MACHINE (2021年2月24日先行3rd配信シングル)
作詞:Lil’ Leise But Gold 作曲/編曲:KM, Lil’ Leise But Gold
10 Bright Ride (2020年10月28日先行1st配信シングル)
作詞/作曲/編曲:PES
11 FIVE SHOOTERS (2020年11月25日先行2nd配信シングル)
作詞:valknee 作曲/編曲:高橋コースケ
12 Bring the noise
作詞:MCモニカ(Byebee) 作曲:泉水マサチェリー(Byebee) 編曲:泉水マサチェリー(Byebee)
13 Curtain Fall 
作詞 泉水マサチェリー(Byebee), 木村好郎(Byebee) 作曲 坪光成樹 編曲 坪光成樹,高橋コースケ
14 SEE THE LIGHT 
作詞:大久保潤也(アナ), 泉水マサチェリー(Byebee) 作曲:泉水マサチェリー(Byebee) 編曲:上田修平

「lyrical school oneman live tour 2021」

5/30(日)豊洲PIT(東京)
詳細はこちら

鼎談:minan × Rachel × valknee|フィメールラップの流動性と自己肯定の原動力 interview210419_lyricalschool-012-1440x1440

COZY

デジタルミニアルバム:2021年4月16日(金)
先行配信シングル:2021年4月2日(金)
chelmico
詳細はこちら

鼎談:minan × Rachel × valknee|フィメールラップの流動性と自己肯定の原動力 interview210419_lyricalschool-015-1440x1437

Sweetie30

2021年3月21日(日)
valknee
詳細はこちら