音楽配信サービスSpotifyが選出する「RADAR:Early Noise 2021」にピックアップされ、多くのリスナーの心を掴んだ3人組音楽グループ・macico。彼らが2021年後半から現在にかけてリリースしたシングルと、書き下ろし楽曲をまとめた3rd EP『bloom』が、2022年2月23日(水)に発売される。
R&Bやダンスミュージック、ヒップホップなどのあらゆる要素をインプットし、透明感のあるJPOPに昇華させる技量については、彼らの音楽を一度聴いたことがある人なら十分理解しているだろう。しかし、彼らが“新世代のアーティスト”として注目される所以は、その“セルフ・マネジメント”のスキルにもある。
前作よりmacicoは、彼ら自身で楽曲のミックスやマスタリングを手がけるほか、ジャケットのデザインや宣伝活動も自分たちで手がけてきた。今回発売されるEP『bloom』についても、彼ら自身がイラストレーター・yasuo-range(ヤスオレンジ)にオファーし、ディレクションしている。
サブスクリプションでの音楽視聴がメジャーとなるなか、今後彼らのように世界観をパッケージングして考える音楽ユニットはさらに増えていくだろう。EP『bloom』の制作にまつわるエピソードを通し、彼らの「音楽を発信する」ことに対する考え方について話を聞いた。
INTERVIEW:macico
Spotify・Early Noiseの影響に後押しされた連続リリース
──まずは昨年8月からほぼ月1曲ペースでリリースをされていて、2021年下半期は文字通り“駆け抜けて”いた印象があります。
堀田コウキ(gt/以下、堀田) めちゃくちゃハードでした(笑)。デモを作ってからミックスやマスタリングに至るまでの作業を全部自分でやっているので。ただ、SpotifyのEarly Noiseにピックアップされた影響が大きかったので、とにかく「やらなきゃ」という想いが強かったです。
──ピックアップされたことで、具体的にどういった影響がありましたか?
堀田 まずは再生回数が爆発的に伸びましたね。「これだけ聴いてくれる人がいるなら」と背筋が伸びる気持ちになりました。
yukino(key) 一度Early Noiseに選ばれたことで、Spotify公式をはじめとするプレイリストに入れてもらえる回数も増えました。年が明けて以降もなだらかにリスナーは増えている状況なので、まだ影響が続いているなと実感します。
小林斗夢(vo/以下、小林) 2019年5月に初ライブを行ってからすぐロックダウンに入ったこともあって、僕らはまだライブ本数も少ないんです。それで楽曲制作に振り切ったという背景もあるのですが、実はバンドとして評価を得たのはEarly Noiseが初めてでした。“唯一の希望”って感じだったからこそ、これからちゃんとやろうと思えたんですよね。
──なるほど。そのうえで今回のEP『bloom』に繋がる一連の作品は、2nd EP『eye』ともカラーが異なるように感じました。どのように楽曲が作られたのでしょうか?
小林 各メンバーの基本的な役割は変わらず、サウンド面はギターの堀田が担い、俺は主に作詞、たまに作曲。yukinoがアートワークを手がけています。堀田が作ったデモを起点に、全体の構成を組み立てていくようなイメージです。
堀田 スタジオに入ってメンバーと直接やりとりしながらレコーディングに臨めるようになったのは『eye』との大きな違いでしたね。ボーカルやキーボードのレコーディングで、自分のイメージをより伝えやすくなったのはすごく楽でした。
yukino コロナ禍ではリモートでの宅録が中心で、堀田から受け取ったデモを聴きコードを演奏してデータを返す、というやり取りをしながら曲を作っていたんです。ただ、一緒の空間でレコーディングに臨むと「ここにこういう音を入れようよ」というアイディアが堀田からもどんどん出てきて(笑)。生感をもって良い音楽を作っている実感はありました。
堀田 宅録はすごく事務作業みたいになっちゃって、爆発的にテンションが上がることはなかったからね。あと、今回はいろんなジャンルに挑戦したいという目標がありました。自分の音楽の聴き方も“じっくり聴く”というよりは、ワンコーラスの中で何が印象に残ったかを考えるようになったので、それが大きく関係しているかもしれません。“panorama”はUKガレージを意識したし、“bloom”はポップロックでありつつもダブっぽさを要素に取り入れました。
コロナ禍で溜め込んだからこそ今作はポジティブな視野で挑んだ
──小林さんは歌詞のフレーズを考える時に影響を受けているコト・モノはありますか?
小林 楽曲のボーカルは聴いちゃいますが、歌詞はあまり影響を受けていません。むしろ映画の世界観やセリフから影響を受けることが多くて、良いセリフを見つけたらすぐメモを取っています。
──では、今回の堀田さんの楽曲にあわせ小林さんが歌詞を書く時は、どういったことを意識しましたか?
小林 書き方は曲によって違ったのですが、例えば今回の収録曲である“essay”は、曲のイメージから「深夜」「孤独」「高速道路」と3つのワードを決めて書き始めました。あとは堀田が音や発音を大事にする時は、相談しながら書くこともあります。表題曲である“bloom”は本当にハードでしたね……初めて堀田と歌詞のことでぶつかりました。
bloom / macico(Official Music Video)
──どういった点でぶつかったんですか?
小林 基本的に堀田はデモ曲に宇宙語みたいな仮歌を入れた状態で僕らにパスするんですよね。彼の中にイメージがあって、それに当てはまる言葉を僕が探すんです。
書いていくうちにパズルのようにテーマが決まっていくことの方が多いのですが、“bloom”に関しては俺がしっかり意味やストーリーを決め込みたかった。ただ、堀田的には「ここのフレーズはアの母音が欲しい」「ここはカ行だろ」みたいな音のこだわりがあったんですよね。
堀田 自分のなかで仮歌の響きがはまっていたので、歌詞を入れた時にしっくりこなくなっちゃって。そこに苦労していました。
そもそもサビのメロも、デモ段階だと違っていたんです。多分2〜3回くらい変わって今の感じにたどり着いて。喧嘩とかではないから関係性も悪くなるわけじゃないけど、ちょっともめたよね(笑)。
小林 お互い良い曲にしたいからこそ、意味がある議論だったよね。
──そこでメンバーと意見交換したうえでも、小林さんが描きたかったのはどんな世界だったのでしょうか?
小林 今まとめて振り返ると、今の自分、そして希望や未来を見つめた作品を求めていたのかなと思います。
前作はコロナに直面した時期に作っていたこともあって、過去を振り返った曲が多かったんです。基本的にリモートで作っていたからこそ、狭い視野の中でネガティブな歌詞やテーマを探していました。
その一方で2021年、後半以降は過去を振り返る反動で「未来をどうしたいか」もたくさん考えるようになりました。それが今作に反映されていると思います。実際、“blue”以降は前作の時期には出てこなかった表現で歌詞を作っていて。結果的に暗い要素もありながら、より前向きな姿勢の作品が集まりました。あと、macicoのテーマの一つである「日々に寄り添う」は意識しましたね。
──「寄り添う」というのはmacico結成当初からあったテーマだったんですか?
小林 『bloom』ではじめて確固たるものになったと思います。少なくとも現メンバーになった2019年時点ではそういう意識がなかったかもしれないです。実はまだmacicoが男女デュオユニットだった時は「寄り添う」がテーマだったのですが、現メンバーとコンセプトやテーマを改めて話し合った時に、堀田がボソッと「“寄り添い”じゃない?」って。
堀田 なんとなく「俺たちが世界を変える」だったり「頑張れ!応援する!」みたいなテンションは違うと思っていたんです。それよりも優しく包み込んで共感しあうような思想の持ち主がmacicoには揃っていると感じたんですよね。だからこそ、これからも“寄り添える音楽”を大事にしていきたいです。
ジャケットで表現するmacicoの象徴、そして“寄り添う”というテーマ
──“blue”以降の作品は、デザインもすごくミニマルな仕上がりですよね。しかし、なぜシングルで配信されたシリーズの中で最初の“blue”だけアートワークが違うんですか?
yukino “blue”の時はまだ次のEPへの道筋がはっきりしていなかったんですよね。“blue”のあとにEPを出すことを決めたんです。最初は“eye”のように写真を大きく使うことも考えていたのですが、無駄なものはいらないなと思って(笑)。
以前リリースした“hanataba”のデザインは小林なのですが、あの感じで一度やってみたいなと思ったのもあります。リリースした時期が花で分かるようにもしたかったので、毎回花言葉を調べながら小林と話し合って決めました。歌詞やテーマとの互換性は持たせています。結果、いずれもmacicoの音楽性に合うシンプルなデザインになったなと思いました。
小林 「一輪だけ」という寂しさがありながらも、希望があっていいなと思いました。特にmacicoというユニットの象徴は花、ということを気づいてもらえるようになったのは嬉しかったです。
堀田 ジャケが好きって言ってくれる人も増えたからね。
──確かに“macicoらしさ”はデザインからもあふれていますし、前作以上にキャラクター性がブラッシュアップされているように感じました。yukinoさんがジャケットを作るうえで参考にしたソースは何だったんですか?
yukino 意識しているわけではないんですけど、Spotifyでジャケットを見てから曲を聴いたりするようになったんです。ただ曲を聴くだけじゃなくて、デザインとの結びつきを考えるようになったことは影響しているかもしれません。
特に写真を切り取った作品を作るので、同じようなジャケットのニュアンスにどういった音楽があるのかを調べたりして。
──調べるなかでどういった発見がありましたか?
yukino 実は写真をコラージュしたジャケットはヒップホップが多くて、macicoの音楽性に近い曲は少ないことに気づきました(笑)。“eye”や“if”のような写真系のジャケットも、静かな曲に多いんだなあって。逆にデザインから好きなタイプの音楽にたどり着くこともありました。
小林 サブスクでその発想になるんだ(笑)。レコードだったらよくありますよね。
yukino 多分昔からそうなんですよね。当たり外れは多いものの、本やCDもジャケ買いで。その感覚がサブスクで蘇りました。実は今回の『bloom』のデザインが一番macicoの音楽性に近いという発見もありましたし。
──EPは、シングルで連続した花を抽象化していて面白いなと思いました。
yukino シリーズの締めくくりは好きな人にお願いしたいという想いがあって、yasuo-rangeさんに至りました。
小林 macicoのテーマである「寄り添う」のニュアンスとミニマル感をデザインで落とし込んでいる人がいいよね、とはメンバー同士で話していました。yasuo-rangeさんの作品はmacicoのイメージに近くて、すごくお願いしてよかったです。
アーティストとしての一貫性をもって多くの人へ届けたい
──昨年8月にリリースした“blue”からEP『bloom』のリリースに至るまでの約7ヶ月間を改めて振り返った時、ユニットとしてどのような変化がありましたか?
堀田 制作する上でのスキルが上がってきたなと感じました。デモ音源ありきで作ってきたぶん、これからはもっとコンセプトをしっかり固めながら音源や歌詞、デザインの幅を広げていきたいです。その方がアーティストとしての一貫性も出てくると思います。
──EPにも収録されているシングル“touch”ではおかもとえみさんとコラボレーションを行いましたが、今後もそういったコラボのプランは?
堀田 やっていきたい気持ちはあります。女性シンガーとのフューチャリングがmacicoに合うことは、おかもとさんとのコラボでもはっきりわかったので。世代関係なくリスペクトしている方とやりたいですね。
小林 想像がつかない人とやってみたいよね。
yukino ラッパーとやったらどうなるんだろう、バンドとやったらどうなるんだろう、とかアイディアは膨らんでるよね。
──これからさらに表現の幅を広げて活躍されることを、本当に楽しみにしています! 最後に、昨年メディアで「5年後はどんな存在になっていたい?」という質問に対し回答されていましたが、目標のアップデートがあれば教えてください。
小林 おそらくその時は「来年こそライブができるようになる」という考えから「<FUJI ROCK FESTIVAL>出演」と回答したんですよね。<FUJI ROCK FESTIVAL>はやっぱり憧れです。なぜここまで囚われているかわからないのですが、絶対出るまではバンドを辞めたくないです。
yukino 私もその時と目標は変わっていないですね。誰もが知っているような存在になりたいです。
堀田 僕もやっぱり「イベントに出たい」です(笑)。まだあまりイベントに出演できていないからこそ、これからは作った楽曲を多くの人の前で演奏したい。加えて、自分のトラックを作る能力をもっと高めていき、多くの人に届かせたいと思います。
Text:Nozomi Takagi
Photo:Kana Tarumi
PROFILE
macico(マチコ)
日本・東京都内を中心に活動する 3 人組音楽グループ。J-POPを主軸にクラブ、ラウンジ、R&Bをはじめとする様々なジャンルを要素を取り入れたキャッチーなサウンドが特徴の、“寄り添う音楽”をテーマに楽曲を発信。
2020 年9月に配信シングル「aloe」をリリースし、Spotify の「日本バイラル トップ50」、最高順位12位にランクイン。また、Spotify 公式プレイリスト、「Spotify Japan 急上昇チャート」「Tokyo Rising」「Early Noise Japan」 「Next Up」など、数万人のリスナー登録者がいる様々なプレイリストにセレクトされる。コロナ禍の状況下で、楽曲制作についてはメンバー各自が自宅で録音、ミックス、マスタリングまでを手がけており、アートワークデザイン制作、広告・ 宣伝活動についても全て自分たちで実施。そのクリエイティブ力が評価され、過去には、あいみょん、Official 髭男dism、King Gnuをフックアップしてきた、“Spotifyが躍進を期待する次世代アーティスト ”「Early Noise 2021」に選出された。
RELEASE INFORMATION
bloom
2022年2月23日(水)
Track list
1. bloom
2. wonder
3. blue
4. touch(feat.おかもとえみ)
EVENT INFORMATION
bloom
2022年3月26日(土)
OPEN 17:00/START 18:00
ADV ¥4000/DOOR ¥4500(+1D ¥400)
act:macico/THREE 1989