福岡出身、現在は東京を拠点にインディペンデントに活動を続けるラッパー、maco maretsによる6作目のアルバム『When you swing the virtual ax』は、過去2作品と同様にコラボレーションがコンセプトに掲げられ、様々なコラボレーターと共に作り上げられた。
そんな同作の中で全10曲中ちょうど真ん中に当たる6曲目“Moondancer”では、同い年かつ同郷の藤原さくらをフューチャリング。人と人、自己と他者の間を、彷徨うように、でもたしかに地に足をつけたよう揺れ動く感情を描いたこの楽曲には、もしかするとmaco maretsがコラボレーションを通して表現したかった何かが最も顕著に現れているのかもしれない。
そんな想いを抱きながら、まだ数回しか直接顔を合わせたことがないという、付かず離れずな距離感の二人に話を訊いた。
対談:maco marets × 藤原さくら
交換ノートのように紡いだ作詞
──このコラボが実現したきっかけから伺ってもいいですか?
藤原さくら(以下、藤原) 私はずっとmaco maretsくんの曲を聴いていて。それに同い年で、地元も同じ福岡でね。
maco marets いえいえ、僕の方こそ(笑)。
藤原 それで私がアルバム『SUPERMARKET』(2020年)を制作しているときに「ご一緒しませんか?」って持ちかけたのが最初なんですけど、そのときは叶わなかったんです。
maco marets オファーの内容がアレンジワークメインで、僕はどちらかというと作詞やラップがメインなのでそのときは難しくって。
藤原 それから1年ちょっと経ってから逆に「いっしょに曲作りませんか?」と声を掛けてくださったんです。
──地元が同じ福岡とのことでしたが、地元にいた当時は面識があったわけではないんですよね。そこまで近くはなかったんですか?
藤原 いや、めっちゃ近いんです! 福岡って今は博多駅も綺麗になってみんな行くんですけど、当時は遊びに行くなら天神ってエリアで。電車はすごく少ないので、バスで移動するんですけど、そのバスで同じ区間を使ってた。
maco marets だからすれ違っているというか、同じ場にいた可能性が高いですね(笑)。
──藤原さんとのコラボレーションは制作の早い段階で決まっていたんですか?
maco marets そうですね。誰かしら女性シンガーの方とまた曲を作りたいなと思っていて「じゃあ誰と?」となったときに、一度叶わなかったのもあって最初に藤原さんに連絡させてもらいました。
──曲のイメージはオファーの段階である程度見えていたんですか?
maco marets いや、オファーをしたい気持ちはあったけれど、じゃあどういうサウンドでとか、具体的なイメージは正直あまり固まった状態ではなかったんです。
藤原 そう、それでまずmaco maretsくんが事務所に来てくれて、打ち合わせをしたんです。そのときがはじめましてで、「ありがとうございます」ってところから始まって。「最近どんな曲を聴いてる?」みたいな。
maco marets まずそういうところからすり合わせたいと思って。こちらの意見だけ通すんじゃなくて、お互いの一番いい落とし所を探っていきたかったんです。リファレンスをまとめたプレイリストもあって、Kyle DionとかClairoとRejjie Snowの曲(“Hello”)とかが入っていたりしますね。出来上がったものとは全然違うんですけど。
藤原 はじめから「このトラックでやりましょう」じゃなくて、話してトラックを作ってもらえたので、一つひとつ段階をいっしょに踏みながら作らせてもらいました。
──掛け合いのリリックもありますがどのような作り方だったんですか?
maco marets リリックは交互に書こうという話を僕からさせてもらいました。僕が自分のパートを全部作った上で渡すんじゃなくて「お互いの歌詞を受け取って打ち返すっていう書き方をやってみたいです」と伝えて。
藤原 あんまりこういう作り方をしたことがなかったのですごく新鮮でしたね。
──たしかにあまり無いかもしれないですね。
藤原 曲自体は私のパートから始まるんですけど、「あ、じゃあ私が主導権を握ることになるんだ」と思って「ちょっと悩みますねー」と話したら「じゃあここを空けて僕から書くので」と言ってくれて。そこからはなんだか交換ノートのような感覚で。しかもお互い「こういうことを歌っている歌詞です」っていう説明は一切なく、歌詞だけを送り合っての制作だったので、すごく言葉と向き合いましたね。
maco marets お互いが裏を読みながらでしたね(笑)。
──maco maretsさんのリリックの魅力は、わかりやすいことではないと思います。その分、テーマを汲み取るのは大変ではなかったですか?
藤原 私はmaco maretsくんの魅力的なところは歌詞の世界観もすごく大きいと思っているんです。それこそ小説を読んでいるような、私が普段歌詞を書くときに使わないような言葉や世界観だったので、小説の断片をもらってその続きを書くような気持ちでした。私の方はラップではないので緩急をつけるイメージで応えることができたらいいなと。
maco marets 僕ももっとこういうことを歌ってますって言葉にした方がいいのかなと思ったりもしたんです。やっぱり言わないと伝わらないこともあると思うので。でも藤原さんのキャッチする感性の鋭さというか……。
──その信頼感もあったわけですね。ラリーはスムーズだったんですか?
maco marets そうですね。パンと打ち返してくれる感じで。めちゃくちゃ鋭い方なんだなって。
藤原 お互いに「これはこうした方がいいんじゃない?」とかも全く無くって。私が「あとで直すかもです」とか保険を掛けつつ(笑)。
maco marets 僕も保険を掛けてましたね、「一旦これで」とか(笑)。
──掛け合いの箇所も同じ作り方だったんですか?
藤原 いや、ボーカルの掛け合いのところはmaco maretsくん作です。「ここはいっしょに歌ってほしい」と言ってくれて。
maco marets コラボレーションなので掛け合いがあるとより臨場感も出ると思って。でもそこもあまり相談せずに僕の方から「掛け合いにしましょう」と投げました。相談しなかったのでレコーディングのときにその場でいろんなパターンを歌ってもらって、完成したものは2パターン左右が異なるニュアンスで鳴ってますね。
──お話を伺うと、とても難しい制作方法にチャレンジしていたことに驚きました。
藤原 作っていてすごく楽しかったですね。ラッパーの方たちのコラボってこうやって交互に作ったりすることはあるんですか?
maco marets 長い曲だとあるかもしれないですね。ただ、だいたい1ヴァースずつ作って終わりっていうのがラッパー同士だと多いので、打ち合う感じはもしかしたら少ないかもしれないです。
藤原 参加しているメンバーが多いものは、「ここからここは誰」っていうのが決まっていたりしそうですね。
maco marets 女性シンガーの方とのコラボはこれまでにも何回かあるんですけど、そのときは僕が全部用意していて、サビだけ「ここお願いします!」という感じでした。
──こういう作り方にしようと思ったタイミングはあったんですか?
maco marets いやー、どこで思いついたかわからないんですけど、そのやり方がいいなって思ったんです。藤原さんだからというか、ぶつかり合う感じというか、対等に、フラットな形がいいんじゃないかなと思ったんです。
揺れ動いている、自分と他者との関係性
──自分の曲というより、二人の曲というイメージですか?
maco marets そうですね、こっちが全部リードするやり方よりも、藤原さんの歌の力を最大限発揮してもらうためには、そういうお互いが対等な在り方が一番いいんじゃないかと。
藤原 やりとりの中で、maco maretsくんが私の“mother”って曲の詩のイメージとリンクしていくような・・・というようなことを言ってくれたりしていて。結果、全然違う歌詞になった(笑)。
maco marets 結局違うものにはなったんですけど、僕と藤原さんが上手く結びつくポイントが、打ち込みっぽいサウンドもそうなんですが、世界観的にも“mother”のイメージが最初にあったんです。
藤原 物語としてはっきり言葉にしながら進む歌詞というより、比喩的なものの比率が高いような。
maco marets 自然も感じたりするもので……。
──雰囲気がパッケージされていますよね。
maco marets まさにそうで、あの“mother”にあったムードがすごく素敵だなと思って。
──“Moondancer”のMVにはその感覚がわかりやすく出ているように感じました。
藤原 あれは全部フィルムですもんね、すごい!
maco marets 活動初期からお世話になっているウエダマサキさんという方がディレクターとして参加してくれて。映像に登場するお化けのキャラクターも、ウエダさんのアイデアです。お化けは此岸と彼岸、生と死、どっちつかずの「さまよえる」存在。決して固定できない「わたし」と「あなた」との関係性や、「朝/夜」「遠い/近い」など曲中で示されるさまざまな二項を表すのにぴったりなモチーフで、「これだ!」と即決でした。フィルム撮影に挑戦したのも、ウエダさんのこだわりによるところが大きいです。
藤原 全部一発撮りのような感じで、少しリハをして、パッと撮影して「じゃあ次!」みたいな。それも普段のMV撮影とは違って面白かったです。
maco marets 怖くて詳しいことは聞いてないんですけど、本当にフィルムって高価みたいで、1秒いくらとかディレクターに言われて。後ろで「いまので〇〇円だね〜」とかぼそぼそ言ってるのが聞こえてきたりして(笑)。
藤原 それは怖いですね(笑)。
──出来上がったMVはいかがでしたか?
藤原 私は自分が出ているところしか撮影には行っていなくて、お化けのシーンやmaco maretsくんのシーンは別の日の撮影だったから観ていなかったんですけど、完成したものを観てすごく感動しました。しかも完成までがすごく早くて。「寝てないよね?」みたいな。
maco marets めっちゃ早かったですね。本当はフィルムって現像に2、3週間は掛かるところをちょっと無理を言って頑張ってもらったんです。
──お化けは不在と存在の両方を感じさせるモチーフですよね。
藤原 私も最初にお化けって聞いたときに、たしかにみんなにはっきり見える関係性というより不透明なニュアンスがリンクしていて良いなと思いました。
maco marets & 藤原さくら – Moondancer (Official Video)
──リリックでは他に一人称、二人称の違いがありますね。
maco marets 綺麗にスイッチしてますね。僕は「わたし」と「あなた」で、藤原さんは「僕」と「君」で、性別を逆転したような形にもなっていて。
藤原 あと私的にはラリーしている中でお互いの歌詞を読み取りながら書いていったので、自分の思想や感情を前に出すより、一つの作品に向かって物語を紡ぐ感覚が強かったですね。
maco marets たしかに、お互いにパーソナルなことを歌おうという感じはなかったですね。
藤原 最初の書き出しって大変だったと思うんです、《おはよう あるいは おやすみ》ってどうやってでてきたんですか?
maco marets 「おはよう」と「おやすみ」だから朝と夜だったり、そのあとも「遠くて近い」だったり……。
藤原 対比がはっきりしていますよね。
maco marets 対になる概念や事柄を並べつつ、どちらにも与しない在り方というか。それはニュートラルな、真ん中の地点にいるというわけじゃなくて、その二つの間をひたすら揺れ動いているということを歌ってみたかったんです。
今回のアルバム全体を通して「わたしとあなた」、自分と自分をとりまく他者との関係性というテーマを意識していて。この曲では自分と、具体的に藤原さんという他者の存在があったからこそ、そのイメージが最もはっきり浮かび上がっていると思います。今回のアルバムはコラボをコンセプトにした作品ではあるんですけど、ボーカルを担当しているのは基本的に自分ひとりで。
──フューチャリングは二曲だけですね。
maco marets そうです、ラッパーの18scottと藤原さんだけで。アルバムの基本は一人だったから、歌い手として初めて藤原さんが出てきたときに、対比の構造が今回のシリーズの中でも一番強く前に出る形になって、自然と自分にもそういうことを歌おうというスイッチが入ったんだと思います。
藤原 maco maretsくんの《留め置かれたままの問いはかすれる》ってリリックがあるんですけど、たしかに「答えを出さなきゃ」って思うことはあるけど、それってすごく力が必要なことというか、「このままでもいいんじゃないか」と思ったり。例えば「会社辞めようかな」とか「この人と別れようかな」とか決断するのってすごく力が必要だから。そのリリックを読んだことで私も言葉が出てきたような気がします。
──他者に委ねたくなることは多いですよね。でも一方で、ご自身で決断してきたお二人だからこそこういったことを歌えるのではないかと思いました。
maco marets 特に藤原さんはすごく強さのある人だと思うんです。流されないというか、基本的に己というものが中心にズシンとある方なのかなと。でも今回の曲では自分が抗えない大きな流れに抗うわけでもなくただ身を任せるわけでもないスタンスでやってくれて。
藤原 いつもは一人で歌詞を書きますが、一緒に歌詞を紡いだことで、“Moondancer”という曲の中には他者が居るというか、自分だけでは制御できない不思議な作品だなって思います。
──ラリーして歌詞を書いていく中で、着地点はどうやって決めたんですか?
藤原 何も決めてない(笑)。人間と人間が関わり合う中で、どうしても他者は自分の思い通りにならないじゃないですか。その人にはその人の考えや人生があるから。着地点を探すより、その過程を描いた歌だと思います。
maco marets 最後は藤原さくらパートなのでクライマックスは任せたところがあります。「わたしとあなたが ここにあった」という部分が僕の歌った最後のフレーズで、他者の存在を認めるところで自分としては締めていて、「あとはお願いします」っていう(笑)。
藤原 「絶対にここにいなきゃいけない」とか、「こっちじゃないとダメ」って言うのは、いろんな関係性がある中で決め難いなと思って。
maco marets それで、最後のフレーズが《言葉にはしないで伝えてみて》で、(ガッツポーズしながら)「ひゃー!」っていう感じでした。結局「決して言い尽くせないものである」ということが自分の中にあったから、最後の最後で「言葉にしない」という選択を歌詞にしてくれたのがすごく良くて。
藤原 白黒つけないっていう(笑)。
──まさにそれがテーマですよね。
maco marets そうですね、だからくらいました。自分もまだ言語化できていなかった部分まで感じ取ってくれていたことの喜びと、「藤原さくら、すげー!」っていう。
──理想的ですね。
藤原 良かったです。でもお互いに全然言葉を交わしてないから「いいのかな?合ってるかな?」みたいな(笑)。
maco marets そうですね、終わった今だから話せるというか、やってるときは本当に何も伝えていなかったので。
藤原 LINEで「できました。でも変えるかもしれません」って送って、次の歌詞が返ってきて「なるほど……」って(笑)。やっぱりmaco maretsくんの歌詞が素晴らしくて。
──言葉の引き出しの多さが半端じゃないですよね。
藤原 本当にそうで、私のラジオに来てもらったときにもその話をずっとしていたんですけど、どこからそんな言葉が出てくるのか……。
maco marets 何をおっしゃいますか(笑)。
──所謂ラップのクリシェのような言葉はほとんど使わず、むしろ小説を読んでいる感覚に近いリリックはシグネチャーだと思います。
maco marets 全然そんなことはないんですけど、デビューしてから自分のスタイルをずっと探っていく中でこの落とし所になったところがあって。
藤原 それってすごいアイデンティティだと思います。
──お互いの印象はコラボする前と後で変わったりしましたか?
藤原 私は曲の印象が強くて、すごくかっこいいラップをする方だなと思って自分のプレイリストに入れたりもしたし。会ったときに何か印象が変わったということはなかったですね。ただ初めてお会いしたときはすごく優しそうな方だなって思いました。同い年で、しかもラッパーなのにすごく腰が低い(笑)。
maco marets 僕もずっと一人のリスナーとしてCDを買ったりしていたから、所謂アーティストとしての藤原さくらをある程度知っていたんですけど、実際にお会いしてもあまりギャップはなくて思っていた感じの方だなって。
藤原 良かった、ときどきすごいテキトーなんだねって言われるから(笑)。
maco marets テキトーと自分では言いつつもやっぱりしっかりしていらっしゃるなと思いますね。レコーディングのときもピシッとされてて、ニュアンスとかがわからないときはすぐに聞いてくれるし、僕がふわっと「やわらかい感じで」とか言っていると「具体的にどういう意味ですか?」って確認してくれて、プロフェッショナルな姿勢を感じましたね。
──そういった部分は一緒にやってみないと見えないですよね。
藤原 掛け合いのところで「私の声はどういう質感がいいのか」とか「声を重ねて録るのか」「マイクはどっちがいいのか」って、みんなで試しながらやったのは楽しかったですね。
maco marets 共作とは言っても自分の曲で、トラックもこちらで用意したものだから藤原さんの声をどう聴かせるかっていうのはすごく大事なポイントだったんです。
──今回の藤原さんの歌はソウルやR&Bの雰囲気が強いように感じました。
maco marets いろんな歌い方ができてすごくポップにもできる方ですし、Michael KanekoさんやReiさんとのコラボともまた違った感じにもなっているので、だいぶ自分に空気感を寄せてくれていたんだと思います。自然に相手の温度を感じ取って自分なりに昇華して歌にしてくれている。
──トラックはどのように選んだんですか?
maco marets 今回は藤原さんといっしょにやる前提で自分とTiMT(プロデューサー)さんで話し合って固めていきましたね。
──藤原さんにアルバムの感想を伺いたいです。
藤原 すごく良かったです、本当に一人のリスナーとして。“Nagi”もいいですよね。さっきmaco maretsくんの歌詞がすごく素敵と言ったんですけど、メロディも本当にポップで、ラジオでも流してくれた“Yesterday”も、あのメロディとか、あんなの出てきたら当分曲を書かなくなっちゃうかもってレベルで。メロディメイカーだなと思いました。私はよほどのことがない限りは、曲を聴くときにメロディをまず聴くタイプなので、そこで最初に驚きましたね。
maco marets 今回は特にメロディの聴きやすさを意識していて。これまで自分の音楽を聴いてくれていた人たち以外にも聴いてもらえるものにしたいという気持ちも強かったんです。勇気を出して藤原さんといっしょにやろうと思ったのもそういう意図があったからで。これまでもっとドープな方とコラボする機会が多くて、それはそれで自分のスタイルではあったんですけど、今回はもっと拓けたものにしたくて、トラックの雰囲気もそうだし歌詞というよりもメロディを先行で考えたりとかっていう作り方でしたね。
藤原 歌詞とメロディが同時に出てくるタイプですか?
maco marets サビだけはメロディから作りますね。宇宙語というかテキトーな英語みたいな感じで。
藤原 やっぱりそうなんですね。ポップさにこだわりを感じました。
maco marets そう言ってもらえると嬉しいです。
──自分と他者の間というテーマと、いろんな人の間にあるものとしてポップであることはとても重要な気がします。
藤原 だから自分もこの作品に参加しているのがすごく光栄でした。
maco marets “Moondancer”が一つのクライマックスですね。ちょうどアルバムの真ん中あたりに置いているので、マウンテントップです!
藤原 ありがとうございます!
同世代のふたりが見据える
今後の表現方法
──お二人の今後目指すアーティスト像について教えてください。
藤原 私は去年から今年にかけていろんな方とコラボさせてもらって、いっしょに何かを作るってことをずっとやってきて、それがすごく楽しかったんです。トラックからメロディや歌詞を作るってことも2020年くらいに初めてやって、ヒップホップも好きになった。
だからいろんな人とやった上で、30歳とかになったとき全部自分一人でやってみたいです。そこが一つの大きな目標ですね。あと楽しく活動したいというのが一番なので、その上でアルバムを作ることがすごく好きだから、自分の想い描く「こういうアルバムが作りたい」というのを一個ずつ達成していきたいです。
──次のアルバムのイメージはすでにあるんですか?
藤原 今も絶賛制作中です。すでにレコーディングした曲もあるし、頑張っています!
maco marets 僕もコンセプトを持ってアルバムを作るのが好きで、それを活動の核にしていて。あんまりライブ型でもないので、どちらかというと自分は作品で出ていくタイプかなと思っているので、年に一枚リリースするというのはこの5年やっていたんです。
──すごいペースですよね。
maco marets 周りの力を借りながらやってますね、曲数も少なめだったりもしますし。コロナ禍で2020年から三部作としてやってきたコラボ・シリーズが今作で一旦終わったので、次どうしようかなってところで割とまっさらな状態ですね。でも最初の3枚はCDで出して、次の3枚はカセットテープで出していて、メディアの形も変えていくのを意識してやっているので、次は本の形で出そうかなとか考えてます。
藤原 それすごく良いですね。
maco marets 容れ物の部分も合わせて新しい表現をできたらいいなと。小説のような形で本を出した上で音楽の方に繋げていく動きだったりをやってみたいと思っていますね。
──フィジカルへのこだわりは強いですか?
maco marets CD、MDの世代なので、モノとして作品があるのは当たり前というか、実際に今でも自分が好きなアーティストの作品は買っちゃう方なんです。中高生のときにTSUTAYAにたくさん通ってレンタルして聴いていた時期があって、そのデータが入っていたパソコンが壊れちゃって数万曲が消えてしまって「データって脆いな」と感じてしまったんです。
CDも不滅ではないですし、レコードやカセットテープもいつかは劣化していくメディアではあるんですけど、ある程度の期間は再生可能だし、あとファングッズとしてアーティストに愛着を持てる。単純にCDを作るんじゃなくて、アルバム自体のコンセプトや作り方に即したメディアを選べたらさらに面白いんじゃないかなと思ってやっていますね。
──ぜひ小説も出してほしいです。
藤原 本当にそう思います。読みたい!
maco marets そんなこと言っておいて本当に書けるかはわからないんですけど(笑)。
藤原 書いたことはあるんですか?
maco marets 短いものはあるんですけど長いものはないですね。
──リリックを見ていて読書家なのではないかと思ったんですがいかがですか?
maco marets いやいや、人並みですよ。
藤原 いや、でもインプットがたくさんないとあの歌詞は出てこないと思います。辞書とかを読むのは好きですか?
maco marets 昔は好きでした。国語辞典とか朝ごはん食べながら読んだりしていました。
藤原 日本語の綺麗な言葉を大切にしているのがわかる歌詞です。私は洋楽を聴いてメロディが楽しいと思ってずっと曲を書いていたタイプだったので、maco maretsくんの歌詞を見るのは刺激的です。
maco marets 英語詞も自然に歌っているのがすごいです。逆に自分は英語詞やメロディックな歌が不得意なことに気がついてしまったので、だから言葉を詰める方向に振っている部分もあるんです。
──藤原さんの英語詞の曲もすごく良いですよね。
maco marets 初期の『à la carte』(2015年)も結構英語詞の曲が多くて、それを聴いたときはベテランの方だと思ったくらいで。
藤原 ありがとうございます。
maco marets その衝撃もあって、藤原さくらっていうすごい人がいるんだと。同い年で同郷で勝手に親近感も湧いて。
藤原 私もお話聞いていたらすごく親近感が湧きました。
──藤原さんは現在、絶賛ツアー中ですね。
藤原 ずっと歌っていますね。
──弾き語りのツアーということで観客との距離感は近いですか?
藤原 相当近くに感じますね。やっぱりバンドでライブするときはステージの高さもあって観る側と演る側に別れている感覚があるけど、例えば直近だと畳でみんなに座布団に座ってもらったりして(群馬公演、臨江閣)、今までと違ってお客さんの顔ががっつり見えるんです。ずっと素明かりなので、「ちょっとみんな集合!」とか言って「ちょっと歌うわ」くらいのテンションで出来たりして。皆をとても近くに感じられて、ライブってすごく楽しいなって改めて思っていますね。
──緊張はしませんか? 照明でお客さんの顔が見えない方が安心すると言うアーティストの方もいらっしゃいますよね。
maco marets 僕はそのタイプです(笑)。
藤原 初日はめっちゃ緊張したんですけど、ツアーを周っていくとどんどん「お客さんは味方」ってことに気づいて(笑)。(初日は)すごく久々にライブするから「いいところを見せなきゃ」と気張ってしまっていたんですけど、もっとお客さんと近いところで緊張せずに歌った方が伝わるツアーだなと思って、今はもう緊張しないですね。
──今後は“Moondancer”をライブでやるイメージはありますか?
藤原 やりたいです!
maco marets やれるかしら?
藤原 maco maretsくんがあんまりライブしないから……。「観に行きたい」って言ったら「いや……」みたいな(笑)。
maco marets いや、コロナ前までは毎週のようにやっていたんですけど(笑)。コロナ禍が明けはじめてまだ数回しかやれていないんです。2年以上経って自分が今ライブで何ができるのかとか、どういうスタンスで歌えば良いのかとか勝手に煮詰まってしまって。まだ自分の中で自信を持ってステージに立てる感じに持っていけていない部分があるんですよね。でもリリースパーティーはやろうとはしています。
藤原 せっかくなら呼んでください(笑)。
maco marets ぜひ!
Text:Daiki Takaku
Photo:Naoki Usuda
衣装(藤原さくら着用)
トップス:Ray BEAMS(¥7,700)
ボトムス:Ray BEAMS(¥10,780)
サンダル:NEBULONI E(ネブローニ|¥57,200)
詳細:Ray BEAMS SHINJUKU/レイ ビームス 新宿(03-5368-2191)
BEAMS OFFICIAL WEB SITE / ビームス公式オンラインショップ
PROFILE
maco marets
1995年福岡生まれ、現在は東京を中心に活動するラッパー/MC。2016年に東里起(Small Circle of Friends / Studio75)のトラックメイク&プロデュースによるアルバム『Orang.Pendek』で「Rallye Label」よりデビュー。
その後セルフレーベル「Woodlands Circle」を立ち上げ、『KINŌ』(’18)『Circles』(’19)『Waterslide III』(’20)『WSIV: Lost in November』(’21)、そして最新作の『When you swing the virtual ax』(’22)とコンスタントにアルバムリリースを続けている。近年はEテレ『Zの選択』番組テーマソングや、藤原さくら、さとうもか、Maika Loubte、Shin Sakiura、LITE、maeshima soshi、Mimeなどさまざまなアーティストとのコラボレーションワークでも注目を集める。
藤原さくら
藤原さくら/シンガーソングライター
福岡県出身。1995年生まれ。父の影響ではじめてギターを手にしたのが10歳。
洋邦問わず多様な音楽に自然と親しむ幼少期を過ごす。 高校進学後、オリジナル曲の制作をはじめ、少しずつ音楽活動を開始。
シンガーソングライターとしてのみならず、役者としても活動。
3月に音楽プロデューサーに Yaffle を迎えた新曲「わたしの Life」を配信リリース。現在、自身初の全国弾き語りツアー”heartbeat”を開催中。
8月にはブロードウェイミュージカル「ジャニス」への出演が控えている。
天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。
INFORMATION
When you swing the virtual ax
2022年6月15日(水)
maco marets
収録曲:
1. Hidden (feat. Taisuke Miyata)
2. Nagi (feat. ggoyle)
3. Jets (feat. 18scott & TOSHIKI HAYASHI(%C))
4. I wanna (feat. A.G.O)
5. Separated (feat. ggoyle)
6. Moondancer (maco marets & 藤原さくら)
7. Spring Journal (feat. Taisuke Miyata)
8. Surf (feat. TOSHIKI HAYASHI(%C))
9. Yesterday (feat. TOSHIKI HAYASHI(%C))
10. Warp (feat. TiMT)