2013年にリリースした『Animals』で、世界のEDM/ハウス界にその名を轟かせたマーティン・ギャリックス(Martin Garrix)。以降も活発に良曲を生み続け、2016年~2018年には「DJ MAG TOP 100 DJs」で3年連続1位を獲得するなど、押しも押されもせぬ世界のトップDJ/ビートメイカー/プロデューサーとなった。そんな彼が<FUJI ROCK FESTIVAL’19(以下、フジロック)>に出演するために来日。豪雨のなかでのパフォーマンスに感じたこと、新曲を含む2016年から現在の活動をまとめたコンピレーションアルバム『The Martin Garrix Experience』を軸に、EDMの熱狂を振り返って思うことや、現在のスタンスについて語ってくれた。
当日の彼はかなりタイトなスケジュールで、筆者の質問に、端的で内容のある答えを返さなくてはならないことは理解しながらも、こと音楽の話となると、スタジオの動画を見せてくれたり、Spotifyのプレイリストを見せてくれたり、踊り出したりと、無邪気に楽しむ姿が印象的だった。
INTERVIEW:マーティン・ギャリックス
──<フジロック>のステージに立ってみて、どうでしたか?
日本の山は独特の雰囲気があるし、短い時間での天候の移り変わりもすごく興味深かったね。過去に出演経験があるアーティストからもいろいろ話は聞いていたけど、実際に自分の肌で感じてみると、想像以上に素晴らしい経験だった。僕の時間はものすごい大雨で、オーディエンスはしんどかっただろうから、あまり適当なことは言えないけど、そういった激しい自然現象と、映像やレーザーといったテクノロジーがいい感じで混ざり合って、その瞬間にしかないパフォーマンスになったように思う。
──確かに、あの大雨のなかでレーザーが飛び交うことってなかなかないと思います。
まるで魔法のような空間だったね。そしてそれは日本のオーディエンスだからこそ、<フジロック>だからこそ完成した。そこがもっとも重要なんだ。
Photo by Louis van Baar
Photo by Louis van Baar
──どういうことですか?
単純に、ヨーロッパじゃあんなに雨が降ったらみんなどっか行っちゃうよ。それに対して<フジロック>のオーディエンスは、雨が降ってぐちゃぐちゃになることも含めて、音楽を楽しみに来ているだろ? あとはみんな新しい音楽にすごくオープンだったことも大きいと思う。今回はまだ発売していない曲も多くプレイしたけど、そのせいで熱量が落ちることがなかったんだ。僕は僕で、出るショーのカラーによって、そこで繰り広げられる景色を思い浮かべてセットリストを変えるとか、とにかく同じような気持ちでステージを消化しないようにはしてる。当たり前のことだけどね。そこで、ヒットした曲だけに反応するんじゃなくて、僕がセットを通してどんなことをするのか、どんな曲をプレイするのか、そういったことにオープンでいてもらえたことは、ほんとうに嬉しかったよ。
Photo by Louis van Baar
Photo by Louis van Baar
Photo by Louis van Baar
Photo by Louis van Baar
──今回の来日前には、2016年から現在までの新曲を含むベスト・アルバムもリリースしました。作品にある意図は、EDM以降の、さまざまな音楽性にトライしたここ数年の集大成と受け止めていいのでしょうか?
そうだね。もともとEDMだけに捉われていたわけではないけど、特にここ何年かは、いろんなことをやってきたように思う。
──ブレイクダウン→ビルドアップ→ドロップという明快な展開や、大味の歪んだシンセの音などに世界中が乱舞した、かつてないほど巨大で長きに渡ったEDMというダンス・ミュージックのムーブメントを、あなたはどう思いますか?
あのムーブメントにいられたことは、とても光栄なことだったし、あれがあったからこそ今、僕はここにいる。すごくクレイジーな体験だったね。でも、EDMは完全に壁にぶち当たった。同じような曲が量産されて、もはや行くところまで行ったからね。
──そして現在、何を思って曲を作っていますか?
あまり変わってないよ。曲を作るときに、今話したようなEDMが頭の中で鳴っていることもあれば、もっとフレンドリーなポップスが鳴っていることもあるし、それでいいんだ。僕は、音楽でみんながいい気分になってくれればいいなと思ってる。それが音楽をやっている理由であり目指すゴール。誰かはエモーショナルになるかもしれないし、別の誰かはハッピーになるかもしれない。そして、そんな人々がパーティやライブに集まってくれたら最高なんだ。
──ハウスの歴史的な文脈とあなたの現在地については、どう思いますか?
EDMだけをずっと作り続けることは難しくないけど、そうなると僕自身がおもしろくない。一言でハウスと言っても、いろんな歴史や場面、スタイルによって分けられたジャンルがあるなかで、僕がやっているハウスは何なのかとなると、「曲それぞれ」なんだよね。そこには感覚的なものも自然発生的なもの、ある程度意図したものもある。だから、デュア・リパ(Dua Lipa)と作った”Scared To Be Lonely”みたいな曲も生まれるんだ。そんな感じで、いろんなタイプの曲があるんだけど、それらに共通した僕らしさとなると、コード進行やメロディだと思う。
Martin Garrix & Dua Lipa – Scared To Be Lonely
──そこで興味深いのが”Game Over”です。EDM然とした強さとの距離感、独特のオリエンタルでサイケデリックな雰囲気をもったメロディやコード感、ブレイクビーツの要素なども採り入れたビートのセンスなど、あらゆる面で独特のテンションと温度感を持った曲だと思います。
それはそうだと思う。この曲は、まず特徴的なベース・ラインが先にあって、そこに、実はほかの曲のために考えていたコード進行を乗せたんだ。ちょっとクラシックっぽいんだよね。僕の作品にも他のポップ・ミュージックにもあまりない感じ。そうやってできた大筋に、ルーパーズ(Loopers)が試行錯誤してパーカッションを加えたり、ブレイクビーツがすごく合うんじゃないかって、提案してくれたりして、すごくアグレッシヴな作りになった。すごく満足してるし好きな曲だよ。
Martin Garrix & Loopers – Game Over
──新曲の”Summer Days feat. Macklemore & Patrick Stump of Fall Out Boy”は、完全にあなたの新しいモードを示すファンクになっています。
この曲ができあがったときに、今までとはまったく違う曲できたと思ったね。すごくエキサイティングな瞬間だったし、周りの反応もすごくいいから嬉しい。(スマートフォンに入っている動画を見せながら)ほら見て。これが僕のスタジオ。いつもここにいるよ。一人で作業するか、友達と一緒に曲を作ってる。聴こえる? この曲は、こうやって適当に歌ってみたら、すごくよかったから、メロディをちゃんと作るところから始めたんだ。
Martin Garrix feat. Macklemore & Patrick Stump of Fall Out Boy – Summer Days
──共に曲を作る仲間となると、マティッス&サドコ(Matisse & Sadko)のことがまず浮かびます。<フジロック>では、彼らの”Saga”と、あなたと彼らによる”Together”を流れでプレイされていたことも印象的でした。
マティッス&サドコのことはすごく尊敬しているし、いい友達だと思ってるよ。彼らとの曲は5曲リリースしたけど、一緒に作った曲は軽く30曲以上はある。僕が得意とするのはメロディを作ること。2人はほんとうに美しいコード進行を作ることができる。”Together”は、その二つの力が合わさって、すごく広大な曲になったんだ。
Matisse & Sadko – Saga
Martin Garrix & Matisse & Sadko – Together
──そういった仲間との繋がりや個人の行動において、音楽性だけでなく「人間性」を、とても重視されてますよね?
うん、そうだね。
──最後にご自身のあるべき姿と今後のヴィジョンを教えてください。
そこはすごくシンプルで、今までやってきたことを続けていくだけ。音楽に対して真摯であること。そしてギターを弾いたり歌ったり、パソコンと向き合って曲を作ってショーをやる。そう、新しくやってみたいこともあるんだ。映画のスコアを手掛けてみたい。サウンドトラックを作ることは、今後の目標だね。
Martin Garrix feat. JRM – These Are The Times
Martin Garrix feat. Bonn – Home
Photo by 大石 隼人
Text by TAISHI IWAMI
マーティン・ギャリックス(Martin Garrix)
オランダ出身のDJ/トラックメーカー/プロデューサー。1996年5月生まれ、現在23歳。8歳の頃からギターを習得し作詞作曲をスタート、2004年に開催されたアテネオリンピックで演奏する人気DJティエストのパフォーマンスを見て衝撃を受け、以降自身でDJやトラックメイキング、楽曲のプロデュースを行う。16歳で大手ダンス・レーベル<スピニン・レコーズ>と契約。2014年3月に米マイアミで開催された世界最大級のダンス・ミュージック・フェスティバル<Ultra Music Festival>では史上最年少の19歳でヘッドライナーを務め、同年9月に日本で初開催された
2018年2月、韓国の平昌五輪スタジアムで開催された第23回冬季五輪平昌大会閉会式でパフォーマンスを行い、DJとしてはティエスト、カイゴに続きオリンピックでパフォーマンスした3人目のアーティストとなった。
2019年7月、<FUJI ROCK FESTIVAL ‘19>に初出演
RELEASE INFORMATION
The Martin Garrix Experience
発売中
Martin Garrix
SICP−6128
Sony Music Japan International(SMJI)
¥2,200(+tax)
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