東映が製作した『スパイダーマン』のテレビシリーズがあるのをご存知でしょうか? 1978年、日本の東映とマーベルが提携。東映はスパイダーマンのキャラを借りて日本発のオリジナル・ドラマを作りました。しかも、日本の特撮ヒーロー・ドラマのフォーマットでスパイダーマンをアレンジするという大胆な作風を採用。それが俗に言う「東映版スパイダーマン」です。
この東映版はもちろんルックスやアクション、そして蜘蛛糸を発射するなど本家を踏襲している部分も多いのですが、なんとスーパーマシンに乗り、さらに巨大変形ロボット「レオパルドン」に搭乗する、という当時のアメコミでは考えられない手法で『スパイダーマン』を描いているのです。
『スパイダーマン』のコミックにおけるスパイダーバース設定において、この東映版スパイダーマンもレオパルドン「ちゃんと存在している」ということが公式に認められ、いま準備されているアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編ではこのレオパルドンも登場するのでは? とささやかれています。
そしてこの度、ディズニー・プラスではこの東映版スパイダーマンの魅力に迫ったドキュメンタリーが公開されることに! 11月27日から配信スタートしたドキュメンタリー『マーベル616』。本ドキュメンタリーは8人のドキュメンタリー作家がそれぞれテーマを決めて、マーベルの魅力の秘密に迫るというもの。マーベル・コミックにおいて女性がどう描かれてきたかをとりあげることもあれば、コスプレイヤーにスポットをあてたもの、またマーベルはなぜこれだけの物語・キャラを創り上げることが出来たのか、という秘密に迫る回も。その第6話のテーマにこの東映版スパイダーマンが選ばれたのです。一体なぜ(笑)? そこで今回はこの「マーベル616」のエグゼクティブ・プロデューサーの一人であり、第6話となる「日本版スパイダーマン」を手掛けたデヴィッド・ゲルブ監督にインタビューしてきました。
INTERVIEW:『マーベル616』デヴィッド・ゲルブ監督
━━今回マーベルのドキュメンタリーを手がけるに至ったきっかけというのは?
まずはじめにドキュメンタリーをやらないかと、マーベル側からアプローチがあり、話を続けているうちに、アメリカや世界中のマーベルファンが知らないマーベル・コミックのトピックを扱いたいと思うようになりました。そんな中、「日本版スパイダーマン」を扱おうという案が上がり、間違いなくこれは私自身が手がけるべきだと思ったんです(笑)。この日本のスパイダーマン、東映版スパイダーマンも存在は知っていたのですが、どんな内容なのかもわかっていなかったので、今回のドキュメンタリーを通じて私自身も発見していきたいと思ったんです。
━━監督は『二郎は鮨の夢を見る(Jiro Dreams of Sushi)』という日本の有名なすし職人さんを描いたドキュメンタリーも手掛けていますよね。今度は日本のスパイダーマンを題材にしたドキュメンタリー。日本文化がお好きなんですか?
日本文化は大好きです。子どもの頃、日本に来ました。実は父親が小澤 征爾さんのマネージャーだったんです。だから日本のフード、カルチャー、おもちゃ、ゴレンジャーみんな好きでした。
先ほどもお伝えした通り、東映版スパイダーマンについては実際に観たことがなかったので、改めて全エピソードを見てみたんです。アクションはクールだし、笑えるところもある。素晴らしいエンタテインメントだと思って。低予算にも関わらず、これだけのクリエイションを手がけたことに感銘を受けて、作品そのものよりもこの作品を作った製作陣に興味を持ったんです。なのでこの東映版スパイダーマンを作った人たちを取り上げようと。それで日本に飛んで当時のスタッフやキャストに会いました。寿司職人の次郎さんもそうですが、日本の職人技、クラフトマンシップには本当にいつも驚かされます。その道に人生をかけているんですね。
━━実際会ってみていかがでした?
すごくパッションを感じましたね。今回、スパイダーマンのアクションを担当した金田監督、商品化するためにレオパルドンを考案した村上さんの話を聞いても、アクションやおもちゃに人生をかけている。まさにクラフトマンシップを体現している方たちでした。だからあの素晴らしいスパイダーマンが生まれたんだと思いました。アクションに関してはいまなら危険すぎてできないようなこともあったり。『アベンジャーズ/エンドゲーム』のように素晴らしいCG技術もない時代です。命綱なしで東京タワー登ったなんて考えられません。
━━確かに、あの時の皆さんのコメントは面白く、すごく熱いですよね。このドキュメンタリーのハイライト部分です。実は僕はあの人たちの話を聞いて東映版スパイダーマンって改めてすごいと思ったんです。それに気づかさせてくれたこのドキュメンタリーに、つまりあなたに感謝しています。
ありがとう。僕は今回、クリエイターにスポットをあてたわけですが、この「マーベル616」というシリーズは、クリエイターだけでなくファンにもスポットをあてています。例えばマーベルのおもちゃにハマった人だったり、リアルにコミックのキャラクターたちをコスプレイヤーたちのパッションにも注目していて。あとマーベル・コミックの中でも誰も知らないような超マイナーキャラを紹介しつづけるコメディアンだったり、非常にバラエティ豊かな切り口になっています。マーベルの魅力を様々な角度から知ることが出来ると思います。
━━監督はそもそもマーベルの魅力ってどこにあると思いますか?
やはり登場するキャラクターたちに共感できる、という点でしょうね。スパイダーマンは普通の高校生であり、まさに等身大のヒーローで、彼の視点は僕らの視点と同じだし、まわりと違っているからと迫害されるX-MENの哀しい気持ちは皆さん共感できるでしょう。スタン・リーはマーベルの世界は自分の家の窓の外の世界だ、と言ったそうですが、現実や自分とヒーローたちがつながっているからでしょう。もちろんキャラクターデザインやアーティスティックな要素も大きいですが。
━━監督がアメコミと日本文化の両方がお好きだからあえて聞きますが、東映が日本版スパイダーマンを作った、ということについてはどうお考えでしょうか?
いい選択だったと思います。実はアクションやポーズといったスパイダーマンらしい部分は変えていない。そこは担保した上で、その国に受け入れられるスパイダーマンを作る、というのはとても良いローカライズだと思うんです。あのスパイダーマンのおかげでスパイダーマンというキャラを知ったという日本人の方も多いわけですから。今度作られるアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編にも東映版スパイダーマンが出ると聞いてますから楽しみです。
━━『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編を視る前に。この「マーベル616」であらためて東映版スパイダーマンを予習したいと思います。今日はありがとうございました!
とても楽しいインタビューになりました。東映版スパイダーマンのTシャツを着ていて、スパイダーマンのポーズをしてくれるサービスぶりです。とても話しやすく、あたたかい。監督の人柄でしょうか? この監督に取材されたら、心を開いてしまう。だから当時のキャストやスタッフも沢山語ってくれたんだなと思います。
正直言うと、当時、“アメコミとしてのスパイダーマンが好き”だった自分にとって、東映版スパイダーマンはちょっと邪道だと思っていました。アクションや歌は好きだったんですが。
けれど、このドキュメンタリーを見て、あの時、この作品に関わった人たちがいかにスパイダーマンを日本人の子どもたちから愛されるヒーローにしようと努力していたかを知り、頭が下がる思いにとらわれました。このドキュメンタリー「マーベル616」は東映版スパイダーマンがまさに “プロジェクトX”だったことを教えてくれます。その機会を与えてくれたデヴィッド・ゲルブ監督に感謝するとともに、ぜひ日本のマーベル・ファンの皆さんにもご覧いただきたいです!
Text by 杉山すぴ豊