来年にはメジャーデビュー10周年を迎えようとしているももいろクローバーZ(以下、ももクロ)。デビュー以来、その斬新な作風とエネルギッシュなライブパフォーマンスで日本中を魅了し続けてきた。
そんな彼女たちがリリースする記念すべき20枚目のシングル『stay gold』は、ドラマ『チート〜詐欺師の皆さん、ご注意ください〜』(読売テレビ・日本テレビ系)の主題歌。これまで多種多様な楽曲にトライしてきた彼女たちが、打って変わって今作では疾走感溢れるサウンドの中でストレートなメッセージを歌い上げている。
【Momoclo MV】ももいろクローバーZ「stay gold」Music Video
作詞したのは“青春アミーゴ”など多くのヒットソングを手掛けた作詞家・zopp。作曲は近年、乃木坂46や寺嶋由芙をはじめとした多くのアーティストに楽曲提供する気鋭の作曲家・藤田卓也。2人が彼女たちに込めた思いとは何か。現在のももクロの魅力、そして今後への期待を語ってもらった。
Interview:zopp × 藤田卓也
──藤田さんが今回のシングルのコンペ(コンペティション)に応募した理由は何でしょうか?
藤田卓也(以下、藤田) あけすけに言ってしまうとそれが仕事だからで、現代のポップスの作曲者はまず採用されないと何も始まらない仕事だというのが本音ではあります。ただ、たくさんのコンペがある中で応募するものもあれば応募しないものもあるわけで、その基準は何かと言えば、歌詞が思い浮かぶ案件なのかどうかです。僕は曲を作るときに仮の歌詞を作ってから書くのですが、それが浮かんだら書く、浮かばなければ書かないと決めてるんです。今回はすぐに頭に浮かんだので、それを曲として形にしました。
──というと、今回はドラマの内容を踏まえて書き始めたのでしょうか。
藤田 いえ、実は今回はドラマの概要やシナリオもあまり見ずに、”いかに力強い曲を作れるか”を重視して作りました。コンペで頂いた大枠の方向性は守りつつ、その中で”ただ強い曲を作る”ということだけを考えたんです。普通だったらアーティストの研究から始めるのが正しい方法だとは思うのですが、今回はとりあえず殴りかかろうと。その方がテーマ的にも合ってると思ったんです。
──藤田さんの今までの作品にはあまりない曲調ですよね。
藤田 自分はもともと大江千里さんやKANさん、槇原敬之さんみたいなポップスが好きだったり、学生時代は日本語ロックを聴いて育ってきたので、今回のような曲は今までの自分とは関係ない世界ではあります。
zopp あ、そうなんだ。
藤田 今まで僕が書いてきた曲に、こんなにリズムがドッタンドッタンしてるロックってなかったんですよ。
zopp 確かに、そこまではね。でも藤田くんって、意外とジャンルレスな感じはするよね。R&Bとかブラックミュージック系以外だったらどんなものでも作れそうな。
藤田 自分の根底にあるのは、メロディが良くて日本語詞を大事にしてるタイプの音楽で、それを軸に踏み出していけるものであれば、大体のジャンルは作るのにそこまで苦にはならないかもしれないです。
zopp 藤田くんってよく言えば”真っ直ぐ”で、悪く言えば”融通が利かない”っていうのかな。いろんな引き出しの中から書いてるとは思うんだけど、僕の中ではどれも「藤田くんだよなあ」という感じなんですよ。特にメロディ。(山下)達郎さんとかマッキー(槇原敬之)もそうですけど、その人にしかない旋律ってあるじゃないですか。メロディについては本当に彼のメロディだなって思いますね。それに結構、一小節に対して細かいメロディがいつも多めなんだけど、今回はあまり詰め込んでなかったですよね。なので作詞しやすいと思って。
藤田 いつも作詞しにくいって思ってたんですね……。
zopp たまに思ってた(笑)。
藤田 すいません、精進します……。
──zoppさんはこれまで、ももクロには“上球物語 -Carpe diem-”(2013年発売『5TH DIMENSION』収録)や“Guns N’Diamond”(2016年発売『AMARANTHUS』収録)、最近だと“華麗なる復讐”(今年発売『MOMOIRO CLOVER Z』収録)といった作品の作詞をされてきましたが、今回の“stay gold”は今までと何か違う点はありますか?
“上球物語 -Carpe diem-”
“Guns N’Diamond”
“華麗なる復讐”
zopp 世間から見たももクロらしさってあまりないと思うんですけど、僕から見たももクロらしさって如実にあるんです。それで、例えば仮にももクロの持つイメージが赤色だとするならば、僕はそこに青色を足して紫色にしようという考え方で作詞してたのが今までの作品です。今までは「太陽に住んでる子が地球に行く」とか、「夢の世界に落ちて自分と戦う」とか、まったく非現実的な世界観が多かったので、そういう特殊な設定に対して自分の色を加えるようなやり方でした。でも今回の“stay gold”に関しては、「大人な彼女たちにしたい」というリクエストが打ち合わせであったので、今までと全く違うアプローチで作詞する必要があったんです。
藤田 僕は作詞については素人なので薄い感想になってしまうのですが、頂いた歌詞を見てやっぱりzoppさんだなあと思いましたよね。滲み出てるというか。
zopp 曲も真っ直ぐ、メロディも真っ直ぐ、それで求められているものが「大人」だったので、自分も奇を衒わずにあえて真っ直ぐ投げようっていうのが最初から考えてたことで。
藤田 言いたいこと言ってお疲れ! みたいな曲調ではあるので、そういうサウンドに乗せてもオーバーにならず、かつ物足りなさも感じさせないちょうど良い味の濃さ。《まだ見ぬ楽園を探せ探せ》あたりの歌詞はまさにzoppさんの色が出てますよね。
zopp でも、どんなジャンルの曲を歌おうと最終的には彼女たちの色になるんですよね。こういうシンプルな曲にトライしても絶対に彼女たちのカラーに染まる。それが本当にすごいなと。
藤田 結局、どんな曲を作っても最後は歌う人が世界を作るんですよね。音楽用語で「音価」と言いますけど、音を伸ばす長さだったり、作曲家の手から離れて歌手が歌を吹き込むことで、所々に変化が起きます。SNSで感想を見ると「ここの歌い方がすごく良いんだよなあ」ってファンの方が言ってくださってて、作曲した僕でも意図しなかった魅力を彼女たちが生み出してくれてるんですよね。それは本当に嬉しいことです。
──お2人がももクロを知ったきっかけは?
zopp 最初は事務所に送られてきた資料で知りました。「桃色のクローバーか……変わった名前だな」と。その後、南海キャンディーズの山里亮太さんがももクロ好きだってテレビで見たのが第二認識。僕が仕事したいなと思うようになった頃はすでに”アイドルにももクロあり”みたな状況になってて。
藤田 僕はその勢いを肌身で感じてきた世代。知ったのは大学生の頃で、アイドル好きの知り合いがCDを貸してくれて、へーこういう人たちが出てきたんだと思って。やっぱり2010〜11年くらいのイメージが強いですよね。ヒャダインさんの曲の印象が強烈で、ヒャダインさんの曲とともに彼女たちを知ったような。
zopp 「ももクロ=ヒャダインさん」っていうイメージは当時あったよね。
藤田 ヒャダインさんの曲って、作曲家の自分からしてもそれまで聴いたことがない曲だったんです。曲を面白くする方向にパラメーターを全振りしてるような。当時の基準だと音圧も凄かった。
zopp 出し惜しまない人だよね。決まり切った型の中で作るタイプの人ではない。「Aメロ→Bメロ→Cメロで」はなく、「サビ→サビ→サビ」が延々と続いていくような。フレンチのコース料理頼んだのにずっとステーキが出てくるみたいな(笑)。
藤田 そういう2010年代型の新しいポップソングが、ももクロを通して広まっていった印象を持ってます。
ももクロの令和ニッポン万歳!/ももいろクローバーZ
──ヒャダインさんのイメージが強かった一方で、布袋寅泰さんや中島みゆきさんといった多くの大物アーティストたちとのコラボも彼女たちの魅力ですよね。
zopp すべての人の作品の良さを吸収して自分の物にする力があるんでしょうね。誰が作った物の良さも活かせる。どうしたって仮歌があるから、普通は作った人に寄って行っちゃいますよ。でもやっぱり彼女たちは彼女たちなんですよね。
藤田 ももクロの前にはAKB48やハロー!プロジェクトがいて、それぞれ名プロデューサーがついているので、良かれ悪かれその人の色に染まってしまう傾向がある中で、アイドルって何やってもいいじゃん! っていう「自由な空気」を生み出したのがももクロなんじゃないかな。
zopp そもそも曲を書いてくれること自体もすごいよね。この業界にいると色々と裏話を聞くんだけど、断られる話もよく聞くので。よっぽどアーティストやクリエイターたちからの彼女たちの印象が良いんだと思う。
藤田 逆に、そういう色々な楽曲にトライする自由な流れの反動として、今のBiSHのように作品の方向性を絞ったアイドルが人気を獲得する流れを作ったような気もするんです。だからももクロって正味、二世代分くらいの空気を作ったんじゃないかっていう。
zopp 僕が一番彼女たちがすごいと思うのは、大手芸能プロダクションに所属しながらも、インディーズの頃の地べたを這いずり廻っていた時代の思いや記憶が消えてないところ。だから、誰が作ったどんな曲を歌おうとも、その頃の精神を変わらずに持ってられる。
──そんな彼女たちも来年でメジャーデビュー10周年となりますが、2019年の”今”のももクロの魅力とは何だと思いますか?
zopp 大人になりきらないところじゃないですか。ちゃんと真面目もやるけど、ちゃんとおちゃらけもやる。10年間変わらずにいてくれてることの凄さですよね。まさに「stay gold」(=若さや輝きを失うな)なんですけど、この先もずっと彼女たちらしくいることが、彼女たちの一番の良さに繋がっていくんだと思います。
藤田 一年前にライブを見たのですが、彼女たちはもう続けてることそれ自体がエモいという境地に入ってますよね。現存してることがエモい。アイドル業界でそこまでのポジションにいる人ってひと握りですよ。ステージに立つだけで、そこにいるだけでファンが納得するような存在。
zopp アイドルって儚いものみたいなイメージもあるからね。
藤田 これからアラサーに向かってどうなってくのか楽しみですよね。
zopp オフの時に会ったことあるけど、今でも基本的にあのままなんだよね。少し大人になったなって思うことはあるけど、昔とほぼ変わらない。誰か結婚したら変わるのかな。
藤田 僕がももクロから感じるのは、持ってるエネルギーの大きさです。最前列のお客さんにすら届いてないライブも世の中にはある中で、ももクロのライブは日産スタジアムの一番奥の奥のお客さんまで、なんなら会場の外の人まで届いてるように思える。
zopp 彼女たちの魅力っていう意味で言うと、生涯挑戦者でいるその姿勢かな。生涯って言ってもまだ全然若いですけど、これまでに挑戦しない彼女たちを見たことがないですから。結構こちらは無茶な曲を作ってるんですよ。でも、彼女たちは嫌な顔せずにちゃんと歌ってる。
──今後ももクロに曲を書くとしたら、どんな曲を書きたいですか?
zopp “ココ☆ナツ”(2ndシングル『ピンキージョーンズ』収録)に代わる曲を書きたいですね。作詞家なので作詞面での話になってしまいますが、あの曲に勝てるくらいインパクトのある歌詞を書きたい。SMAPの“夜空ノムコウ”や“世界に一つだけの花”、KinKi Kidsの“硝子の少年”のような、グループの代名詞になる作品を作りたいですね。やっぱり、圧倒的なヒット曲を作りたいという思いが自分は昔からずっとあるので、今はCDで記録を作るのは難しいからYouTubeの再生回数が十何億行くような曲を彼女たちに作ってみたい。
ココ☆ナツ/ももいろクローバー
藤田 “ココ☆ナツ”のサビって「コ」をひたすら連呼しているんですけど、そういう意味ではピコ太郎の“PPAP”みたいな。
zopp そうね。だから、エバーグリーンなものより一風変わったもの、日本人的で面白い系の曲を歌ってる彼女たちが見てみたいかも。
藤田 今回の“stay gold”は、「君は間違ってなんかない」っていうメッセージを持った強い楽曲ですけど、こういう曲を出した後に、ちょっと弱気な曲を歌うと人生に深みが出ると思うんです。KANさんが大ヒットシングル“愛は勝つ”のカップリング曲に“それでもふられてしまう男(やつ)”を入れたみたいな。
zopp 全部英詞の曲とかも面白いんじゃないかな。フルイングリッシュって今までなかったでしょ。
藤田 スワヒリ語とか、何処の言語か分からないくらいでも面白そう(笑)。
zopp 思いっきり演歌とかね。海外でカントリーミュージックとヒップホップを掛け合わせたものがヒットしたように、演歌と何かを組み合わせてみるとか。アメリカにいた時に、現地で日本っぽい曲を聴いても感動しないんですよ。そういう意味では来年は東京オリンピックなので、洋楽の真似ではなく、これ日本にしかないよねっていうものを発信していければ。
藤田 印象的なフレーズを連呼する演歌なら、円広志さんの“夢想花”と森昌子さんの“越冬つばめ”(作曲:円 広志)を混ぜた感じで、円広志さんに曲を書いてもらうとか?
zopp アリだよね。吉幾三さんとKダブシャインに作ってもらうとか。
藤田 ありそう。ライブで出てくる姿が想像できる(笑)。
──そういうものでも全然成立しそうなのが彼女たちのすごいところですよね。
zopp 本当にそう思います。
藤田 何をやってもいいっていうのが、彼女たちの素晴らしいところですね。
Text by Azusa Ogiwara
Photo by Kohichi Ogasahara
ももいろクローバーZ
百田夏菜子、佐々木彩夏、玉井詩織、高城れにの4人からなるアイドルグループ。2008年にももいろクローバー名義で結成され、2010年5月にシングル「行くぜっ!怪盗少女」でメジャーデビューを果たした。2011年4月に早見あかりがグループを脱退したあと、グループ名をももいろクローバーZへ改名。2012年にグループ結成当初から目標としていた「NHK紅白歌合戦」に初出場し、2014年3月には女性グループとして初となる東京・国立競技場での単独ライブを成功させた。2016年2月に3rdアルバム「AMARANTHUS」、4thアルバム「白金の夜明け」を同時リリースし、同月より初のドームツアーを開催。2018年1月21日新体制での活動をスタートさせ、同年5月には結成10周年を記念した初の東京・東京ドーム公演を行ったほか、ベストアルバム「桃も十、番茶も出花」を発表。8月からは5カ月連続新曲リリース企画を展開し、2019年5月に5thアルバム「MOMOIRO CLOVER Z」をリリースした。11月にドラマ「チート~詐欺師の皆さん、ご注意ください~」の主題歌であるシングル「stay gold」を発売する。
INFORMATION
「stay gold」
初回限定盤
KICM-92017
CD+Blu-ray
1,682円+税
<収録内容>
・CD:
M1. stay gold(作詞:zopp 作曲・編曲:藤田卓也)
読売テレビ・日本テレビ系 木曜ドラマF『チート~詐欺師の皆さん、ご注意ください~』主題歌
M2. HOLIDAY(作詞・作曲:CHI-MEY 編曲:CHI-MEY/大久保友裕)
『ももいろクリスマス2019〜冬空のミラーボール〜』テーマソング
M3. stay gold off vocal ver.
M4. HOLIDAY off vocal ver.
Blu-ray:「stay gold」Music Video、Music Videoメイキング映像収録
※スリーブケース付き
通常盤
KICM-2018
CD
1,227円+税
CD:
M1「stay gold」(作詞:zopp 作曲・編曲:藤田卓也)
読売テレビ・日本テレビ系 木曜ドラマF『チート~詐欺師の皆さん、ご注意ください~主題歌
M2.「HOLIDAY」(作詞・作曲:CHI-MEY 編曲:CHI-MEY/大久保友裕)
『ももいろクリスマス2019〜冬空のミラーボール〜』テーマソング
M3.「ココ☆ナツ -ZZ ver.-」(作詞・作曲:前山田健一 編曲:宗本康兵)
M4.「サンタさん -ZZ ver.-」(作詞・作曲:前山田健一 編曲:徳田光希)
M5. stay gold off vocal ver.
M6. HOLIDAY off vocal ver.