1997年にドイツのミュンヘンで結成された元祖エレクトロ・クラッシュ・ポップバンド、Chicks on Speed(チックス・オン・スピード)の創設メンバーとして知られるMelissa E. Logan(メリッサ・E・ローガン)。

エレクトロニックやポップミュージックにコンテンポラリー・アートの融合からなる表現の可能性を追求し、音楽やアートシーンのみならずファッションシーンでも活躍している。同時に、社会問題への関心も高いその活動から世界中にコアなファンを増殖させ続けている。今回は新たなミュージックプロジェクト「VooCha」を発足したようなので早速、話を伺ってみた。

INTERVIEW:Melissa E. Logan

Chicks on Speedの創設メンバーMelissa E. Loganが尽力を注ぐ、新しい音楽プロジェクト「VooCha」 life_220303_melissa_e_logan_08

ニュープロジェクト「VooCha」とコロナ禍でのアルバム制作

──ニュープロジェクト「VooCha」のデビューアルバムリリースおめでとうございます。まず、「VooCha」について教えてください。

私たちの活動に興味を持ってくれてありがとう。「VooCha」の名前には、ブードゥー教の魔術的な魅力とシャネルのグラマラスな魅力を掛け合わせる、という由来がある。

このニュープロジェクトは、コートジボワールのアビジャンでスタートしたの。「VooCha」では、Champy Kilo、Shaggy Sharoof、Bebi Philipなどのプロデューサーとコラボレーションして、チックス・オン・スピードのエレクトロ・ポップ・スタイルを、プロデューサーたちのビートに乗せて演奏してる。いまは、トルコ・イスタンブールのアルマゲドン・ターク(Armageddon Turk)とも一緒に仕事をしていて、定期的に作品に参加してくれるわ。

──プレスリリースには「Everything Changes, so we are not stuck, nothing changes unless we change it.(全ては変化する、だから私たちは止まらない。私たち自身が変わらない限り何も変わらない)」とありますが、どこからこのインスピレーションを得たのですか?

これはアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の言葉。私の息子Sidneyが本を読んでるとき、私はレコーディングしていて、毎日が同じように過ぎていくように感じていたの。すべてが変わるときは変わる。私は何かが起こるのを待ちながら、8ヶ月かけて曲を制作したわ。

あと、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)の名曲“Changes”の「いつも時間が物事を変えると言うが、実際には自分で変えなければならないんだ」という言葉にも影響を受けたの。

David Bowie – Changes

──アルバム制作期間や制作した場所について教えてください。

何年も前からアルバム制作はスタートしていて、2015年頃からはブレイクビーツのサンプルを切り刻んだり、アタ・カク(Ata Kak)やパワーを感じられるエレクトロニック・ミュージックを聴いたりしていたわ。ビートがあり、空気の動きやベースが体に響くのを感じるのが好きなの。

制作場所に関しては、ケルンにある自分のアパートの部屋の上にもう一つ部屋を借りていた時期もあって、人を呼んでよくレコーディングをしていたわ。それができなくなってからは、携帯電話に接続するマイクを持って、レバノンのベイルート、ニューヨーク、オレゴン、カナダ国境近くのワシントン州などを旅しながら制作に没頭していたの。まさにモバイルスタジオって感じだった。私はドイツに拠点を置いてるから、いまはベルリンかハンブルクに戻って、次の作品に備えて準備をしているわ。

Chicks on Speedの創設メンバーMelissa E. Loganが尽力を注ぐ、新しい音楽プロジェクト「VooCha」 life_220303_melissa_e_logan_03

──“Bottom Bot”はムーディーで、ディスコフィーリングなトラック、“Wolfsong”はヴォーカルを多用されていますが、各トラックでジャンルの違いや特徴を意識して制作されましたのでしょうか?

今作の方向性は、各トラックでコラボレーションしているアーティストによって決まったわ。“Wolfsong”は、妹のYohanna Loganと一緒に制作したもので、彼女がこの詩を書いてくれた時はスタイリストとしても働いていたから、その影響もあるかもしれない。近いうちに彼女の音楽も発表されるので期待してほしいわ。

また、DJ兼サウンドアーティストとして知られるエリック・D・クラーク(Eric D. Clark)は“Bottom Bot”のリミックスで参加してくれた。このトラックは港を見下ろせる最上階の素晴らしいスタジオでレコーディングしたの。

──自身のレーベル〈UniCAT gUG〉について教えてください。

UniCAT gUG〉は、University of Craft Action Thoughtの略。スマート・コントラクトやDAOを活用して、Web3で機能する新しいタイプのレーベルを作りたかったの。また、パフォーマンスやワークショップのプロデュースなど、レーベルとして文化的な活動も行っているの。

──コロナ禍でのアルバム制作となりましたが、新たな発見やスタジオセッションの規制など、難しさはありましたか。

私はいくつかのスタジオでヴォーカルを録音したけど、コロナ禍で移動することが非常に難しかった。でも、社会的な活動ができずに孤立している状況だからこそ、作曲や新しいテクニックを学ぶのに適しているなと思ったの。私自身、クリエイティブな仕事に集中することが、このコロナ禍での不安な気持ちに対する最善の治療法であることを再確認したわ。

──ベルリンのコロナ禍での音楽シーンでは、どのようなことが起こっていますか。

今は、DJや音楽シーンで活躍していた人たちが、予防接種センターで働いていることが多いと聞いてる。時々、電車の中から屋外スペースで行われているパーティーを見ることはあるけど、夏になればまたパーティーが始まると思うわ。

Chicks on Speedの創設メンバーMelissa E. Loganが尽力を注ぐ、新しい音楽プロジェクト「VooCha」 life_220303_melissa_e_logan_02

自身の世界観を構築していく中で生まれた音楽

──個人的な活動の中にBonn (ドイツ)で展覧会の開催とありますが、どのような事をしているのでしょう。また、その活動は音楽にも影響を与えていますか。

エキシビジョンに向けた作業と音楽の制作を同時に行っているの。パフォーマンスでは、心拍を汲み取って連動させるモジュラーシンセを使用し、そこで作った音をフィルターに通して、不協和音のような揺らぎのある音楽を作り出すの。普通に考えれば、こんな音を聞きたいとは思わないでしょ?

でも、私の音楽活動はファインアートの観点から行われていて、音楽マーケットに適合しないの。むしろ、自身の世界観を構築することに力を注いでいて、その過程の中で、映像、音、言葉を通して表現し、機械やインスタレーションを構築することが自然の流れと考えているの。

──ニューヨーク出身ということですが、ニューヨークでの活動はされていますか。

1年前はニューヨークにもいたの。友人のポール・ディー・ミラーことDJスプーキー(Paul D. MILLER aka DJ Spooky)にローリー・シュピーゲル(Laurie Spiegel)を紹介してもらい、今は彼女とコラボレーションしてる。彼女の作品には深く感銘を受けていて、電子音楽の初期の発明者を描いた2021年の映画『Sisters with Transistors』で彼女を見ることができるわ。

Chicks on Speedの創設メンバーMelissa E. Loganが尽力を注ぐ、新しい音楽プロジェクト「VooCha」 life_220303_melissa_e_logan_05

社会貢献も意識した音楽のリリース

──複数の名義で活躍されていますが、各プロジェクトに共通したコンセプトはあるのですか。それとも全く別の意識で取り組んでいますか。

コラボレーションする相手が違うことがほとんどだから、もちろんコンセプトは異なるわ。いま私はハンブルグでInfinite Jestというグループとして活動もしていて、グループ名は私の大好きなデヴィッド・フォスター・ウォレス(David Wallace Foster)の本のタイトルから取った。この本からは憂鬱な気分が滲み出ていて、SNSによって引き起こされたうつ病が第二の流行病となっている現代では、彼の作品『Infinite Jest』が再び脚光を浴びるんじゃないかしら。

──自身の活動の中で、社会貢献を意識している活動があれば教えてください。

内部告発サイト「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジをはじめとするジャーナリストが不当に扱われていることにショックを受けているわ。私は彼を支援するために、他のアーティストと音楽をリリースしようとしてる。ジュリアンをロンドンの刑務所から釈放させようと活動している反体制的な中国人アーティスト、艾未未(アイ・ウェイウェイ|Ai Weiwei)の活動に好感を持っていて、彼の活動が成功することを祈ってる。ぜひチェックしてみて!

──今後の予定を教えてください。

Captain Moustacheとのエレクトロポップ系の作品が、ミュンヘンのレーベル〈Permant Vacation〉から2月4日(金)にリリースされる。

4月23日(土)には、にブリュッセルでジュリアン・アサンジを支援するためのライブをチックス・オン・スピードで行うわ。チックス・オン・スピードの最新ビデオもチェックしてみて。

Chicks on Speed – Vaccinate Me Baby

また、ケルン現代美術センターのテンポラリー・ギャラリーがプロデュースした私の音楽と映像のコラボレーション作品『Dance Party』が、カリフォルニアのRaleigh Studios Hollywoodで開催される<Indie Short Fest>で上映されることになったわ。大阪のEXCUBEギャラリースペースで展示も行うのでチェックしてね。

Melissa E. Logan:DANCE PARTY

Interview、Text and Translation:Norihiko Kawai

INFORMATION

Chicks on Speedの創設メンバーMelissa E. Loganが尽力を注ぐ、新しい音楽プロジェクト「VooCha」 life_220303_melissa_e_logan_01

Everything Changes

2021年12月14日(火)
VooCha
Label: UniCAT

詳細はこちら