Deerhunter(ディアハンター)、Gang Gang Dance(ギャング・ギャング・ダンス)、EX:RE(エクス:レイ)の3組が出演し、大盛況のうちに幕を閉じた〈4AD〉のショーケース・イベント<Revue>。実は同じとき、名門レーベルが誇る俊英がプライベートで東京滞在をしていた。彼の名はジェイク・ウェブ。オーストラリア出身で、Methyl Ethel(メチル・エチル)というバンドの中心人物である。

メチル・エチルはもともと、2013年にジェイクによるベッドルーム・プロジェクトとして始動。2017年のセカンド・アルバム『Everything Is Forgotten』は広く絶賛され、収録曲の「Drink Wine」は地元オーストラリアのインディー・シングル・チャートで首位を獲得。さらに、同地の音楽賞であるWAMアワードで、ベスト・アルバムとベスト・ポップ・アクトの2部門に選出されている。

そんな傑作を経て、2月15日にリリースされた待望の最新アルバム『Triage』では、30歳を迎えたジェイクの最新モードが提示されている。その音楽性を簡潔に表すなら、ダークで夢見心地のサイケデリック・ポップ。〈4AD〉のホープということで、内容はもちろん折り紙つきだ。ちなみに、タイトルに用いられたトリアージとは、「多数の患者の治療の順序を決定するため、傷に緊急度を割り当てること」を意味する医学用語。どうしてこの言葉が選ばれたのか、アルバムを聴きながら想像を膨らませるのも一興だろう。

今回はメチル・エチルの魅力をも掘り下げるために、「オーストラリアの音楽シーン」「新作『Triage』の制作背景」「ジェイク・ウェブの内面性」という3つのテーマを設けてインタヴューを実施。東京に滞在していたジェイクをキャッチし、じっくりと話を伺った。

Interview:メチル・エチル

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オーストラリアの音楽シーンについて

――まず、ジェイクさんの自己紹介をお願いします。

ジェイク・ウェブ(以下ジェイク) 僕は西オーストラリアのパースに住んでいる、フルタイムの作曲家です。メチル・エチルという名義で音楽をリリースしていて、3枚目のアルバムとなる『TRIAGE』を今回リリースしました。

――オーストラリアの音楽シーンでは、最近どんなものが流行っていますか?

ジェイク パースにはシンガー・ソングライターが多いですね。フォーク音楽も再び人気が出てきています。オルタナティヴな音楽で言うと、エレクトロニカのハウスやテクノも人気です。ガレージ・バンドも結構いますし、パンクな人もいます。パースにはクリエティヴな人たちが結構多くて、その人たちが良い音楽を作っているという健全な音楽シーンが育っているという感じです。

――そのなかで、ジェイクさんが今注目しているアーティストは?

ジェイク Kirkis(カーキス)という名義で活動している男性です。ハイエイタス・カイヨーテ(Hiatus Kaiyote)のメンバーが彼のライヴにサポートとして参加していて、僕のバンド・メンバーのトムがメルボルンでそのライヴを観たんです。すごくエキサイティングな音楽で、(原宿の)BIG LOVE RECORDSに行ったらカーキスのTシャツがあったので、レコードも売っていると思います。ぜひチェックしてみてください。

――ありがとうございます。例えば一緒に対バンしたりするような、同世代のアーティストはオーストラリアにいますか?

ジェイク 僕(30歳)と同世代でバンドをやっている人は結構少ないかもしれない。世代としては少し上になるんですが、Pond(ポンド)やTame Impala(テーム・インパラ)は同じパースの出身で、僕がバンドをやるきっかけにもなりました。

――オーストラリアという国やそこにあるカルチャーが、楽曲制作に影響を与えることってあるんでしょうか?

ジェイク ある意味で影響はあるとは思うんですが、それは「オーストラリア人だから」という事でしかなくて。説明しづらいですが、あるにはあると思います。

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新作『Triage』の制作背景

――新しいアルバムについても伺いたいです。『Triage』はさらにエレクトロニックな音が増えて、サイケやニューウェーヴの要素も感じました。どんなことをイメージして楽曲制作を行ったんですか?

ジェイク 「曲に動きがほしい」というイメージがすごくあって。例えば曲が「見える」としたら、図形とか模様とかがあって、それが絡み合って動いていたり、反復して動いていたり、中に入ったり出たり。そういった「動き」をとにかく大事にしました。

みんな歳を取り、人々は気持ちを切り替え、前に進んだ。 再び繋がろうと、昔の友達からテキストメッセージをもらう。俺は社会的コンプレックスがあるから、他の人たちと一緒にいるのは楽しい。だが、自らに課した孤独や追放は、俺にとってエキサイティングであり、役にも立つ。それはメソッド演技法に似ていて、よく人々が活用する情動的記憶とそんなにかけ離れていない。俺は、友情や信頼という概念に疑問を持つ。俺自身が信用できない奴だと思うから。少なくとも、俺はその点において正直だ。 ー ジェイク・ウェブ(プレスリリースよりコメント引用)

――ジェイクさんがアルバムに寄せたコメントを読んで、今回の楽曲は外部からの影響よりも、自分の中にあるものを反映しているように感じました。

ジェイク なるほど。

――今回のアルバムを「感情」で表すとしたら?

ジェイク 「Pensive(=内省的)」、つまり「考え込む」とか「物思いに耽る」といったイメージです。ただ、今は僕が答えましたけど、アルバムのムードや感情というものは、あなたが感じることと僕が感じることは同じくらい正しいと思います。まだ自分でも仕上がったアルバムを解釈している途中なので、(正解は)ハッキリとはわかっていません。

――なるほど。

ジェイク だから、今まで自分の中にあっただけのものが、完成して外に出て今いろんな人が耳にして、それぞれの解釈を聞くと「あぁ、こういう風に聴く人もいるのか」ってすごく面白いんです。自分の作品は自分だけのものではなくて、もっとたくさんの人に聞いてもらいたいので。ということで、逆にあなたがどう思ったのかを聞かせてください。

――そうですね……。私も「感情」で表すとしたら、「喜怒哀楽」が全部混じっているように感じました。シーンとしては深夜、道を歩きながら一人で聴きたいですね。自分の中に閉じ込めて大事にしたくなるような、そんな楽曲だなと。

ジェイク なるほど、素敵な解釈ですね。ありがとう。

――“Scream Whole”のMVもすごく格好良いですね。コンセプトや制作背景を教えてください。

Methyl Ethel – Scream Whole

ジェイク 作ったのはTay Kaka(テイ・カカ)という僕の友人です。もともと、TVを使って人間の彫刻のようなものを作りたいというアイデアが僕の中にあって。ただ、古いTVを見つけるのって最近難しいんですよ。そんな時に、テイカカが3D、CGで作ることを提案してくれたので、こうしてコラボレーションする事になりました。結果的には実写で実際のTVを使って撮るよりも、それ以上のものが出来たので満足しています。

――あのTV、CGだったんですか!

ジェイク それが気づかれなかったのはいいことですね(笑)。

――あと、メチル・エチルはどの作品もアートワークに強いこだわりを感じます。

ジェイク 僕はアートやヴィジュアルが凄く好きなので、アートワークを選ぶプロセスも大好きで楽しんでやっています。自分が好きな絵やイメージを世界に共有できますしね。

――どんなイメージにするのか、いつもどうやって決めているのでしょう?

ジェイク 例えば自分の好きな絵があったとして。その絵が自分の作っている音楽と関連性があると感じたら、そのアーティストに連絡をとって、OKが出たらアートワークに使用する、という流れです。これまで3枚のアルバムを出してきましたが、3回ともOKを貰えました。他のアーティストのアートワークも好きなので、レコードもよく集めています。

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ジェイク・ウェブの内面性

――30歳を迎えられた今、意識の変化などはありますか?

ジェイク よく人から「30歳になったら変わるよ」と言われていたのですが、自分の中ではそういった感覚はあまりなくて。特に変わったところははないと思います。というよりはむしろ、常に「変化」というものを感じていたいですね。

――幼少期から今までを振り返って頂いて、人生で最も影響を受けたアーティストは誰でしょうか?

ジェイク たくさんのアーティストに色々な影響を受けています。今の自分がどのステージにいるかっていうのもありますし、僕は「蚊」のように飛んで、誰かの血を吸って、影響を受けて、また次の血を吸いに行く。そんな感じで、本当にいろんな人の影響を受けていますね。

――ご自身を「蚊」に例えるというのは斬新ですね(笑)。

ジェイク 自虐的とも言えますが(笑)。

――現在は〈4AD〉に所属されていますが、ジェイクさんにとって〈4AD〉はどんな存在でしょうか?

ジェイク 〈4AD〉に所属してるバンドで、好きな人たちは本当にたくさんいます。〈4AD〉は歴史が長いレーベルですが、彼らと同じレーベルに所属しているのは光栄だと思っています。その反面、少し現実味がないというか、自分はそこには属さないアウトサイダーなのかなという感覚もありますね。なので、自分と他のアーティスト達とは分けて考えるようにしています。

――今後の自分自身にどんな可能性を感じていますか?

ジェイク 他のアーティストの音楽を一緒に作ってみたいです。つまり、プロダクションという作業ですね。あとは新しいアルバム。僕は常に作曲をしているので、それはもう当たり前というか自然なことなのですが、今はほとんど1人でやっているので、他の人と一緒にやってみてできるかどうか試してみたいです。自分にとって他の人と一緒に制作することは課題、チャレンジなので。友人達とやり始めて、どうやったら効率的に作曲ができるかを学んでいるところなんですが、まだまだ学ぶべき事はたくさんあって。それが今年の抱負でもあります。

――誰かとコラボするとなったら、とても気になりますね。

ジェイク まだ、具体的に誰かと何かするっていう話はないんですけどね。今は僕と僕の機材だけです(笑)。

――最後に、メチル・エチルの世界観を構成するキーワードを教えてください。

ジェイク 「夢」ですね。夢というのは、目覚めた時に覚えている朦朧としたストーリーとか、断片的な自分の人生にあったこととか、誰かが言ったこと、何かを読んだことなど、いろんな破片が夢には詰まっていますよね。起きてから説明しようとしても上手く説明出来ない、感覚的なものとして微かに記憶にあるというか。それが僕の音楽に近いものかなと思っていますし、作曲しているときにもイメージしています。

――たしかにそれは感じます。

ジェイク ありがとう。もしかしたら自分はクレイジーなのかなとも思っていましたが、ちゃんと伝わって良かったです(笑)。

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Photo by Hideya Ishima

Triage|トリアージ

4ADのホープ、メチル・エチルが語るドリーム・ポップの裏側と内面性 methylethel

Release: 2019.02.15

Tracklist

01. Ruiner
02. Scream Whole
03. All The Elements
04. Trip The Mains
05. Post-Blue
06. Real Tight
07. Hip Horror
08. What About The 37º?
09. No Fighting
[Bonus Tracks for Japan from Teeth EP – 4AD0114CDJP]
10. Camber Baptist
11. Tilted
12. Lagotto Romagnolo
13. Chelyabinsk
14. H1 N1 A
15. Tutuguri

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