シンガー・ソングライターのMichael Kanekoのコラボレーション・プロジェクトが始動し、その第一弾として藤原さくらをフィーチャーしたシングル“DRIVEAWAY”がリリースされた。これまで藤原の英詞をMichaelが添削したり、コロナ禍でリモートセッション動画を披露したり、これまで幾度となく共作を通じて交流を深めてきた2人。
今回の楽曲は、「アコースティックギターによる弾き語りを基軸としたシンガーソングライター」というパブリックイメージからは一転、ヘビーかつファンキーなビートの上で、鍵盤楽器が軽やかにリズムを刻むトラックと、情報社会に警鐘を鳴らすようなメッセージ性の強いリリックが印象に残る。お互いにとって「新境地」ともいえるこの楽曲を、2人はどのように作り上げていったのだろうか。制作にまつわるエピソードはもちろん、そもそもの交流のきっかけや、楽曲のテーマであるドライブに関するエピソードなどざっくばらんに語り合ってもらった。
対談:Michael Kaneko × 藤原さくら
ギターサウンドではなく、ビートへのアプローチという挑戦
──そもそもお二人の交流はどのように始まったのですか?
Michael Kaneko(以下、Michael) 初めて会ったのは、確か2016年くらいだったと思います。僕のレーベルメイトのOvallが(藤原)さくらちゃんのサポートをしていて、恵比寿ガーデンプレイスでのライブを観に遊びに行った時に初めて挨拶したのが最初でしたね。もちろん、会う前からさくらちゃんのことはよく知っていました。セッキー(関口シンゴ)さんも参加していた1stアルバム『good morning』を聴いたときに、「日本人女性シンガーソングライターで、こんな声の持ち主がいるんだ」と驚いたし、きっと音楽的にも自分とルーツがすごく似ているんだろうなと思ったんですよね。自分と同じくらいの世代で、1960年代〜1970年代の音楽を好んで聴いている人自体なかなかいないし、実際にお会いするようになってからは音楽の話が色々できるのも嬉しくて。
藤原さくら(以下、藤原) 私もお会いする前からマイキー(Michael Kaneko)さんの曲は聴いていたし、ずっと一緒にやりたいと思っていました。「マイキーさんみたいなシンガーソングライターになりたい」って、ライブを観たときに強く思ったんですよ。ギター1本持って、どこにでも行ってライブをするフットワークの軽さとか、すごくかっこいい。声も曲も大好きだし、一緒に歌ったらきっと気持ちいいだろうなって。実際、セッションなど何かを一緒にする機会があるたびに「いつか一緒に何か作りたいね」みたいな話はしていました。
Michael マバ(mabanua)さんがプロデュースした2枚のEP(『green』と『red』)が最初だったっけ? 去年のアルバム『SUPERMARKET』も、“Right and light”や“Super good”、“spell on me”、“Monster”の英語詞を手伝いました。
藤原 『green』と『red』以降は、私の英語詞は全てマイキーさんに添削してもらうようになりました。レコーディングの時は、スタジオまで来て発音チェックをしてくれるし、そのついでにコーラスを歌わされることもありましたよね?(笑)
Michael そうだね、ハンドクラップで参加したりね(笑)。
──昨年は二人でリモートセッションの動画を投稿していましたよね?
藤原 ちょうどコロナ禍のステイホーム期間が始まったくらいの頃、いろいろなアーティストが様々な挑戦をしてて。Twitterに短い動画を上げる人もいたり、インスタライブをしている人もいたり。私もマイキーさんもソロアーティストだし、ずっと家にこもっている中で「何か一緒にできたらいいね」みたいな連絡をもらって。それでカバーする曲を3曲くらい候補に挙げて、今にぴったりな曲ということでルイ・アームストロング(Louis Armstrong)の“What a Wonderful World”をやりました。すごくたくさんの反響をもらいましたよね。
Michael そうそう、ハナレグミの永積(タカシ)さんも絶賛してくれて。
藤原 ラジオに来てくださったときも、「音楽が全然聴けなくなったときに、あればっかり聴いてた」と言ってくださって本当に嬉しかった。私たちハナレグミさんを崇拝してますもんね(笑)。
Michael ギター1本で活動している僕らにとっては「神」のような存在だからね。
Michael Kaneko and 藤原さくら- What a Wonderful World (cover)
──「シンガーソングライター」として、お互いどんなところに共感しますか?
Michael この間の“mother”を聴いたときにも思ったんですけど、さくらちゃんはすごい勢いで進化していますよね。今、「ギター1本で活動している」と言ったけど、さくらちゃんもギターを軸としているシンガーソングライターだからこそ、そこからちょっと離れたこともやってみたいという気持ちもあるんじゃないかなと思っていて。
実際に『SUPERMARKET』でも、最近のライブでも、新しい楽器や音楽スタイルにトライしながら、自分の可能性をどんどん広げていこうとしているなって。そういうところにすごく共感する。話が変わるんですけど、自分は「歌が上手くない」と思っていて……。
藤原 え、うそでしょ?
Michael ほんとに(笑)。みんなに「いい」と思ってもらえる声を持っているだけで、歌のテクニックとかスキルはないと思ってる。前も話したけどさ、歌がうまい人ってどんな歌でも歌いこなせちゃうでしょ。
藤原 ああ、確かにフェイクとか自在に入れたり、どんな歌でもハモったりとか、そういうスキルは私にはないかも。
Michael 俺もさくらちゃんも、いわゆる「シンガー」ではないと思うんだよね。自分で作った曲に、一番似合う声の持ち主というか。例えばレッチリ(Red Hot Chili Peppers)のアンソニー・キーディスとか、決して歌が上手いわけじゃないじゃないですか。でも、あの音楽にめちゃめちゃ合ってる。僕が好きになるアーティストは結構、そういう人が多いかもしれない。
──さて、今回リリースされるマイキーさんのコラボシリーズ第一弾が、さくらさんをフィーチャーした新曲“DRIVEAWAY”です。このシリーズはマイキーさんの活動の中で、どんな位置付けにあるのでしょうか。
Michael 昨年、アルバム『ESTERO』をリリースして、すぐにまた次のアルバムに取り掛かるのではなく、こうやってちょっと実験的なことをやってみたり、誰かとコラボしてみたりしたくなっているのは、そこで学んだことを次のアルバムにフィードバックさせたいという気持ちがあるからなんですよね。日本語の歌詞を歌っているのも、自分にとってはチャレンジングなことでしたし。
藤原 確かに、最初に曲を聴かせてもらったときに「今までのマイキーさんと違う、新しいサウンドだ!」と思いました。マイキーさんと私のコラボというと、きっと多くの人はアコースティックなサウンドを想像されると思うんですけど、今回ギターは1本も入っていないし、ビートも強めでデモの段階ではもっと打ち込みっぽい感じだったので、すごくびっくりしました。
Michael ちょうど曲作りの時期が、『SUPERMARKET』に関わっている時期と重なっていたんですよね。さくらちゃんがラップに挑戦している曲もあったり、“Monster”みたいな、今までと全く違う雰囲気の曲もあったりしたから、「きっとこういう曲を一緒にやったら面白いんじゃないかな」と思ったんです。さっき言ったように、自分自身もいろいろなことに挑戦したくて。それで、あえて僕らが弾かなそうな曲調をあえて選んでみました(笑)。
──リリックもかなりメッセージ性が強く打ち出されていて、これまでのさくらさんのイメージを一新するような内容でしたね。
藤原 マイキーさんとZoomで打ち合わせをしているときには、どういう歌詞にするか、いろいろと話していく中で「ラップっぽいところがあってもいいね」とか、「ちょっとフックになるような、ドキッとする言葉が入ってもいいかも」みたいなアイデアが出てきて。それを念頭に置きながら、とにかくテーマが浮かんでくるまでデモを何度も繰り返し聴きました。英語の箇所は、マイキーさんが書いているんですよね。
Michael そうそう。歌詞の“Drive away”というフレーズは、《伸びた蕎麦でも食ってのんびりいこうぜ》という、さくらちゃんが書いたリリックを読んだときに思い浮かんだ。
藤原 そんなふうに、今までやったことのない曲の作り方で生まれた曲です。マイキーさんからデモが送られてきて、そこについてたメロディを私が勝手にラップに変えて送り返したり(笑)、私が書いたリリックをマイキーさんに託したら、本当に2人で半分ずつ作った感じで面白かったなあ。
──結構、ドキッとするようなワードも散りばめられていますよね。
藤原 自分の今までの楽曲の中では、使ってこなかったような言葉がいろいろ出てきますね。自分だけの名義じゃないからこそ、ちょっと遊べる部分があってすごく楽しかったです。
Michael ああいう歌詞は、自分のソロ作品だったら書かない?
藤原 きっと、「蕎麦」なんてワードを歌詞に入れないかも。ちょっと違和感のあるような言葉にしたかったんですよね。あのカッコいいビートに「蕎麦」ってなんだ? みたいな。
Michael あははは。でも、そういう違和感のある言葉が一番残るんだよね。「ちょっとこれ、合わないんじゃないかな」って思うくらいの方がインパクトもあるし、「そこがいい」と言ってくれる人も多い気がする。だから、すごくいいワードだと思ったよ。
藤原 嬉しい。ちなみにこの曲、お父さんに聴かせたら『「蕎麦」なんて歌詞に入れて、許してくれるのはマイキーさんだけだと思う』って言ってました(笑)。あと、私が歌うところが「のんびりいこうぜ」みたいに男性っぽい言い回しになっていて、マイキーさんが歌うところが「嫌だわ」みたいに、女性っぽい言い回しになっているけど、歌割りはマイキーさんが考えてくれました。
リリックに込められた情報社会への想い
──では、ボーカルレコーディングでこだわった部分というと?
藤原 マイキーさん、コーラスめっちゃ重ねてましたよね。12,3本くらい?
Michael 場所によってはそのくらい重ねていたかも。サビの部分に薄く裏声を混ぜたりするのが好きなんですよ。
藤原 ちなみに私のラップ部分、例えば《人間ってゲームのモンスターじゃない》のところは、家で録ったデモテイクがそのまま本番で使われています。しかもデモよりキーを半音上げているので、ちょっとロボットみたいな声になっていて。それがまた歌詞の内容にも合って「いい味」を出している気がします。
Michael ちなみにドラムやボーカルを気づかない程度に歪ませて、打ち込みトラックとの馴染みをよくしたりもしています。
──ワードチョイスだけでなく歌詞そのものも、今の情報社会に対して警鐘を鳴らすような内容ですよね。
藤原 最近、スマホをめぐるあれこれに疲れてきてしまって。例えばSNSでも、誰かが誰かを貶していたり、面識もない人に対して軽い気持ちでひどい暴言を投げつけたり。今時の中高生の話を聞くと、SNSを使って私たちの頃になかったようなことをしていて。グループLINEで誰かを仲間外れにするとか、そういったことは私たちが中高生の頃はなかったじゃないですか。
Michael そうだね。
藤原 そういう話を聞くと、もっと下の世代はさらにしんどくなるのかなと思うし、私たち上の世代が用意したもので下の世代が傷つけ合っていると思うと、すごくやりきれないんですよね。軽い気持ちで使っているツールが、この曲の歌詞のようにマシンガンとなって人を殺してしまうこともある。軽く言った一言が、誰かにとってはすごく辛い言葉になる可能性もあると思うので、自分も一つひとつの発信に対して責任を持たなければと。
Michael 気軽になんでも発信することができる世の中じゃないですか。だからこそ、僕自身はあまり思っていることをSNSには書かないようにしていますね。それよりも、今回のように曲を通して、音楽を通して思いを伝えられたらと思っていますね。
藤原 トラックやラップとの相性もすごく良かったんですよね。メッセージ性はあるんだけど、ちゃんと日常から出てくる言葉で書きたくなるようなトラックだと思いました。
それぞれの手ぐせがあるから、自分ひとりでは絶対に思いつかないですね。こうやって人が作ったトラックの上でメロディや歌詞を考えたりすると、全然予想もしなかったアイデアが浮かんでくるのが、最近はめっちゃ楽しいです。
Michael でもさくらちゃんも、最近Logic Proを導入してデモ作りとか頑張っているんだよね。
藤原 Logic Proもそうだし、『SUPERMARKET』のレコーディングでは参加ミュージシャンの方たちに「こういうふうに演奏してください」って自分からお願いした曲とかもあって。今までは、自分の曲のアレンジはアレンジャーさんに全部お任せしていたんですけど、そうやって一から自分で考えるようになると、曲に対しての責任みたいなものも感じるようになりました。マイキーさんは、他のアーティストのプロデュースもしているじゃないですか、より責任重大ですよね。
Michael 責任もあるけど、それ以上に楽しいかな。自分の曲ではやらないことを試したり、自分のカラーを出しつつそれを違う人に歌ってもらったり。シンガーソングライターとして表に出て活動していながら、裏方仕事もすごく好きなんです(笑)。
藤原 いいなあ。私も誰かをプロデュースしてみたい。マイキーさんをプロデュースさせてください(笑)。
──ちなみに、お二人はドライブにまつわる思い出などありますか?
藤原 私は実家が福岡なので、家族みんなで熊本や別府の温泉までドライブすることが多いですね。そのときに好きな音楽をかけてもいいのは助手席に乗った人、というルールになっています(笑)。こないだドライブした時は、お父さんがマイキーさんの曲をかけてましたよ。「ドライブにぴったりだなあ」って。
Michael 本当に? 嬉しいな。そういえば俺、さくらちゃんのお母さんには会ったことがあるんだよね。3年くらい前、福岡でライブをやったときに遊びにきてくださって。靴下をプレゼントしてもらいました。
藤原 あははは。うちのお母さん、私と関わりのある人全員に靴下を配ってるんですけど、マイキーさんもついにもらいましたか。
Michael うん、すごくいい靴下だった。全然穴が空かないから今でも履いてるもん。
藤原 お母さん喜びます(笑)。マイキーさんはドライブしてますか?
Michael 今年に入って車を購入して、時間を見つけては運転しているね。結構、デカめの車なのでドラムセットとかも積み込めるし、バンドメンバーとワイワイしながらライブに行くのも楽しくて。
あと、最近DIYにハマっているんですけど、車があるとホームセンターにもパッと行けるじゃないですか。それで木材とか買い込んできて、自宅スタジオの吸音パネルを自作したりしています(笑)。僕、今まで音楽と酒くらいしか趣味がなかったんですけど、ようやく趣味ができたのも嬉しくて。DIYも料理も、音楽とちょっと似ているところがあるんですよ。
──今回のコラボシリーズ、今後はどんな展開を考えていますか?
Michael 今のところEPでまとめてリリースすることを考えていて、コラボ相手も、すでに決まっている人もいるし、今からオファーする人もいて。“DRIVEAWAY”とはまた全然違う雰囲気の曲もあるので楽しみにしていてほしいです。
藤原 楽しみです!
Michael Kaneko – DRIVEAWAY feat. 藤原さくら (Official Music Video)
Michael Kaneko – DRIVEAWAY feat. 藤原さくら: BEHIND THE SCENES | VLOG
Text by 黒田隆憲
PROFILE
Michael Kaneko(マイケル カネコ)
湘南生まれ、南カリフォルニア育ちの日本人シンガーソングライター。
デビュー前にボーカリストとして起用されたTOYOTA、PanasonicのTVCMが話題となり問い合わせが殺到。ウィスパーながらも芯のあるシルキーヴォイスが早耳音楽ファンの間で評判となる。その後、デビュー前にもかかわずFUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、GREENROOM FESTIVALなどに出演。タワーレコード“NO MUSIC, NO LIFE?”のポスターに登場。また AmPm feat. Michael Kanekoが各国Spotifyのバイラル・チャートにランクイン。インドネシアのフェスでは1万人規模のオーディエンスが大合唱、その声は5,000万人に届くことに。
そして2017年、満を持して『Westbound EP』でデビュー。卓越したソングライティングとパフォーマンスは話題を呼び、プロデューサーとして森山直太朗、あいみょん、瑛人、Rude-α、majiko、s**t kingz、足立佳奈、Miyuuなどを手がける。さらに大橋トリオ、ハナレグミ、藤原さくら、さかいゆう、SKY-HI & THE SUPER FLYERS、DJ HASEBE、Kan Sanoなどのライブやレコーディングにも参加。また、CITROËN、NISSAN、ダイハツ、BACARDÍ、SHARP、IKEA、FREAK’S STORE、Amazon、J-WAVE、資生堂、ヤクルトなどのCM楽曲やジングル、映画「とんかつDJアゲ太郎」「サヨナラまでの30分」「ママレード・ボーイ」、ドラマ「僕たちがやりました」、アニメ「メガロボクス」の音楽も手がける。
2020年、1stアルバム『ESTERO』をリリース。ラッパー Daichi Yamamotoをフィーチャリングするなど音楽性も幅を広げヒットを記録。さらに、BAYFLOW、Ray-Ban、OFFSHOREとのコラボや広告モデル、MUSIC ON! TVのMCなど、音楽活動にとどまらず活躍の場を広げている。
藤原さくら
福岡県出身。25歳。父の影響ではじめてギターを手にしたのが10歳。洋邦問わず多様な音楽に自然と親しむ幼少期を過ごす。
高校進学後、オリジナル曲の制作をはじめ、少しずつ音楽活動を開始。地元・福岡のカフェ・レストランを中心としたライブ活動で、徐々に注目を集める。
現在、シンガーソングライターとしてのみならず、役者としても活動。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。毎週日曜24:00〜InterFMにてレギュラープログラム「HERE COMES THE MOON」がオンエア中。
9月に配信シングル「mother」をリリースしたばかり。
RELEASE INFORMATION
DRIVEAWAY feat. 藤原さくら
2021年8月25日(水)
Michael Kaneko
label:origami PRODUCTIONS