ハリウッドSF超大作『インデペンデンス・デイ』の監督が大スペクタクル映像で作り上げた戦争映画『ミッドウェイ』。製作まで20年に及ぶリサーチを経ただけあり、膨大な資料に基づいた丁寧な背景描写とともに真珠湾攻撃から、1942年のミッドウェイ海戦までを描いた。

卓越したCG技術はもちろん、実際に米政府協力のもと、潜水艦のボーフィンの中や、フォード島やパールハーバーにある施設やハワイのヒッカム空軍基地で撮影されている。満を持して国内公開となった今、山口多聞役で出演した浅野忠信が戦争映画を見ること。実在した人物、山口多聞氏についてQetic単独インタビューで語ってくれた。

Interview:浅野 忠信

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未曾有の戦いとなった第二次世界大戦の中でも、のちの歴史を左右するターニングポイントとなった激戦として知られるミッドウェイ海戦。激突したのは、日本とアメリカ。1942年、北太平洋のハワイ諸島北西のミッドウェイ島に、巨大な航空母艦、世界最大の大和を含む超弩級の戦艦、戦闘機、急降下爆撃機、潜水艦が出動し、空中、海上、海中、そのすべてが戦場となった。

真珠湾攻撃後、一時は“無敵”と恐れられた日本海軍のなかで、今回浅野忠信は、有能で情熱的な大日本帝国軍希望の星・山口多聞を演じた。準備期間が短いこと、南雲忠一中将と戦略的立場が異なったことから作戦には反対の立場だったが勇戦し、背水の陣を甘受せざるをえなかった。そして敗北の責任を取って死を選ぶという難しい役どころを見事に演じきった。まずは、役どころについてうかがった。

戦争に本当の勝者はいないのかもしれない

━━最初に台本をいただいた時の率直な感想について教えてください。

言い方は失礼ですが、「戦争はなんて馬鹿げた行為なんだろう」と感じました。今回メインで描かれているのは、真珠湾攻撃後のミッドウェイ海戦のシーンですが、「思惑」「政治」「軍内での人間関係」含め、複雑な背景が垣間見える戦いだなと思いました。

━━今回、監督は「多くの命が失われる戦争には勝者は無く、敗者しかいない」というテーマを据えて、勝者であるアメリカ海軍をヒロイックに描きすぎず、日本軍も同じ人間として描くことも心がけていたというお話でした。台本上でもそのような部分を感じられましたか?

そうですね。やっぱり西部劇みたいな銃撃戦で勝った、負けたではなく、史実に基づいているだけあって、戦争の背景にある家族のことも描かれていました。私が演じた(山口)多聞さんの死においても、客観的に観て複雑な気持ちにはなるじゃないですか。単純に負けたのではなくて、彼の死の迎え方、選び方はアメリカ人が見ても複雑な気持ちになると思う。そういう意味では、単純に勝ち負けだけの映画ではないと思います。

━━実在したキャラクターを演じることとフィクションのキャラクターを演じる時の違いはどのように感じられていますか?

多聞さんに関しては、探れば探るほどその人の背景や心情が浮かびあがったんですよ。今回、お墓参りにも行かせていただきました。普段、演じる役でその人のお墓なんかないわけです。実在された人物なので、当然のように実際のお墓があるというのが……。思い入れが勝手にどんどん湧いてきて、気づかないうちに、より演技に力は入っていったような気がします。

━━敬意も湧いてくるし、ということでしょうか?

演じているうちに確実にその人のことが好きになります。今回は特に、自分の中で(多聞さんが)大きな存在になっていきました。やはり、多聞さんの立場上、自分を抑えていた部分がいっぱいあったと思うんです。もし彼が冷静じゃなかったらああいった立場にいなかったと思いますし、ああいう立場にいたとしても冷静じゃなかったとしたら、だらしない人生の結末を迎えていたかもわからないし。……うん。「共感」ではなくて、人としての「憧れ」が強くなっていきましたね。多聞さんの強さ、潔さ、たくましさ、男らしい部分。いろいろな意味で、到底かなわない人だなと。

━━ 一方で、上長である國村隼さん演じる南雲忠一中将と対立するような役柄でしたが、そのあたりに関してはどのように演技に臨みましたか?

多聞さんの立場から考えた時に、本来ならきっと違う作戦を考えていたと思うんです。ただ立場上、上の人間から「こうだ」って言われたことは守らないといけない。その中で、負けに行くような戦い方をしているのは、どんな思いがあってのことだろうか。演じていく中でも自分の中に、様々な思いが湧いてきました。

━━改めて、多聞さんの死をどのように解釈しましたか?

彼はすごく「自分」というものを、別のどこかにきちんと置いて生きてきたと思いました。そういう意味で、彼自身のわがままを通した訳ではなく。国だったりいろんなものを背負った上で、彼にとっては重要な最期を迎えたのかなと。「私の死に際から、何か一つの答えってありませんかね?」という問いかけとともに亡くなった部分もあると思います。

━━戦争の勝者側にも後味の悪さを感じられると。

そうですね。それって今の世界で生きる上でも重要だと思いますよ。戦争における勝敗は史実の通りですが、個人に置きかえると本当の意味でどっちが勝者でもないわけです。だって、次には自分が弱者になるんじゃないか、死ぬのではないかという恐怖を常に背負って彼らは生きていたじゃないですか。その部分も丁寧に描かれているなと思いました。

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今の時代、戦争映画を観て若者たちがどう思うか逆に聞いてみたい

今回、映画を観る上でキーになっているのが、その海戦シーンのCG技術と人間描写だ。映画の中では、史実の正確さに主眼を置いている反面、戦争をもたらした日米のイデオロギー対立という政治的背景を克明に記すというよりも、むしろ主軸に描かれているのは海での男たちの悲喜交々だ。そして、言わずもがな、日米問わず戦争で散っていった両者の人間たちの背景が敬意を持って描かれていた。

━━製作のプロセスはどのようなものだったのでしょうか?

アメリカ軍のシーンは撮影期間の前半にすべて終わらせて、後半に日本のシーンを全部撮ったという流れです。アメリカ軍側はハワイなどで撮影していて、我々日本軍チームはカナダで撮影に臨みました。

━━監督から具体的な演技指導や役どころについて説明はありましたか?

その役においての具体的なディスカッションはほとんどなかったと思います。それは監督が日本人の感覚ではないので、自分にはわからない部分が多いことを自覚して、我々日本の演出スタッフに任せてくれてのことなんじゃないかな。軍事的な細かい部分における演出では、演技指導の方に、表情だったり声のテンションだったりを指導していただきました。その上で監督に現場をコントロールしてもらった感じがありますね。役者同士でも、それぞれお互いの役に集中していましたし、リハーサルや本番の演技を通じて、時代背景を理解して、コミュニケートしていく感じでした。

━━映像では、アメリカ軍側のシーンと日本軍側のシーンの両方があるわけで。実際に出来上がった作品を観ていかがでしたか?

台本で先に読んでいましたが、それが形になることに対するシンプルな喜びがありますね。「やはり映像になるとすごいなぁ」って何度も思いました。あと今作に関しては、日本軍とアメリカ軍のコントラストがよく出ていたのも印象的でした。

━━これだけキャリアを重ねられて、ハリウッド映画に幾度となく出演される浅野さんでも、できあがった作品を観られると驚きがあるのですね。

そうですね。僕らはずっと現場にいますけど、CGや細かいことに関しては、全然素人なわけです。ただ、ずっとこの世界で仕事をしていると映像のクオリティーをどうしても先に理解できたり、見えてくるわけです。それでもアメリカの、ましてや今回のような超大作は、「やっぱり馬鹿にならないな」といつも思いますね。

━━そういう意味で、演じていく上で新鮮な気持ちでいられると。

実際の現場を見ていると、ハリウッド映画はより本気な人たちが集まっていると思いますし、本当に勉強になりますね。

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━━これから映画を観る方々に、観る上で意識していただきたい点はありますか?

複雑な時代背景の中で、いろんな決断をして生きていた男達がいたんだということですね。僕は台本の段階から力強い何かを映画から受け取ったので、そこをぜひ見てほしいです。

それと同時に米軍にも、戦う必要はないのに戦っていた相手がいること。そっちにもやっぱり魅力的な家族がいて。複雑な状況の中で、戦いが繰り広げられていく様子は見るに値するかなと。

━━そして今コロナによって世界の政治経済が難しい局面に来ている時代に、こうした戦争映画を観るのも不思議と感慨にひたりました。

本当にそうですね。人と人が戦うことってこういう怖い状況を生むことがあるんです。そして、時代が変わっても想像もつかないようなことがまた人類に危機をもたらしているのはすごいなと思います。

━━現代の若者と、映画の中で描かれた1940年代の第二次世界大戦当時の戦禍に巻き込まれていった若者たちに共通する部分・共通しない部分について、どのように考えますか?

この記事を読んでいるような若い人たちなら、「戦争というものがあまりにも馬鹿げてる」ってより思うんじゃないかな、と。当時はインターネットもなければ、海外でどういう生活が営まれているのか知る由もない世界だった。今なら一度も会ったことはないけど、インターネットを通じて友達になっているような人もいる時代なわけで。だからこそ、こういう船上でのドンパチ戦争って、もう二度とありえないとは思うんです。コロナ禍でこの作品を見たら若い人たちがどう思うのか、逆に感想を聞いてみたいです。

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Text by Hiroyoshi Tomite

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浅野忠信
1973年11月27日生まれ、神奈川県出身。1990年に『バタアシ金魚』でスクリーンデビュー。2008年には主演作の『モンゴル』が米国アカデミー賞®️外国語映画賞にノミネートされ話題となる。2011年に『マイティ・ソー』でハリウッドデビュー、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(13)、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(17)にも出演。2014年に『私の男』でモスクワ国際映画祭最優秀男優賞を受賞。以降の出演作に『岸辺の旅』(15)、『母と暮らせば』(15)、『淵に立つ』(16)、『沈黙-サイレンス-』(16)、『幼な子われらに生まれ』(17)、『アウトサイダー』(18)、『パンク侍、斬られて候』(18)、『狼煙が呼ぶ』(19)、『海辺の映画館─キネマの玉手箱』(20)など。待機作に「Kate(原題)」、『MINAMATA(原題)』などがある。

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ミッドウェイ

全国公開中
監督・製作:ローランド・エメリッヒ
脚本:ウェス・トゥーク
製作:ハラルド・クローサー
キャスト:エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンス、豊川悦司、浅野忠信、國村隼、マンディ・ムーア、デニス・クエイド、ウディ・ハレルソン
2019年/アメリカ/カラー/上映時間:2時間18分/配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
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