アジア随一のサイケデリックバンド、幾何学模様にとって活動休止前のライブとなる<KIKAGAKU MOYO PRE-FINAL SHOW>が行なわれた2022年11月28日、アジア発の新しいサイケデリック音楽ユニットが日本に上陸した。
この日、サポートアクトとして出演した「Mong Tong」は、2017年結成、台湾のホンユー(洪御)、ジゥンチー(郡崎)の兄弟による音楽ユニット。
2020年にGURUGURU BRAINから『秘神 Mystery』をリリースした後も精力的に作品制作を続け、2022年には幾何学模様のSPRING TOURに帯同。1か月で海外15か所を巡演した。中華圏の電子琴音楽と欧米のサイケデリックミュージックに影響を受け、台湾の80年代オカルト文化、ビデオゲームの要素を取り入れた彼らのステージは、ヨーロッパ各地に爪痕を残した。
初の日本ライブでは、満員の恵比寿ガーデンホールで演奏を披露。集まった人々は、幾何学模様の活動休止を惜しむ雰囲気の中でも、新たなサイケバンドを歓迎した。11月30日には幡ヶ谷Forestlimitで開催された<K/A/T/O MASSACRE vol.401>にSpecial guestとして出演。平日にもかかわらず、会場キャパを超えたオーディエンスが集まったという。
ミステリアスな2人に、来日を記念して話を聞いた。
INTERVIEW:Mong Tong
元々別のバンドで10年間活動していた2人は、2017年に「これまでにない音楽を作りたい」というコンセプトでMong Tongを結成。台湾以外でも聴かれるようになったのは、GURUGURU BRAINでリリースして以降だという。
──GURUGURU BRAINからリリースすることになったきっかけを教えてください。
ホンユー 先にGURUGURU BRAINから音源をリリースした、台湾のドローン・アンビエントユニットScattered Purgatory(破地獄)のベーシスト、リーヤンがつなげてくれたのがきっかけです。このタイミングで、台湾からはMong TongとPrairie WWWWのリリースが決まりました。
ジゥンチー それ以前は台湾のインディーズ音楽の中でも限られた、ごく狭い範囲でしか聞かれていなかったんです。GURUGURU BRAINではプロモーション面でもかなりサポートをしてもらえて、音源の流通や現場を重視したやり方で、海外のリスナーに音楽が届いていることを実感できるようになりました。SNSでのコミュニティ作りやイメージ先行のプロモーションになりがちな台湾のインディーズシーンとの違いを感じました。
──2022年、幾何学模様の春ツアー帯同は、いつごろから準備していましたか。
ホンユー ヨーロッパのツアーは2020年に計画していましたが、コロナで延期になって、2021年末くらいから計画が始まりました。待ちに待った2年でした。1か月で15回ライブがあって、幾何学模様のサポートアクトで13ヵ所と、対バン・1マンが一か所ずつ。限られた時間の中で自分たちのアイデンティティを知ってもらいたくて、『Mystery 秘神』収録曲や『Tiang Shi』などキャッチーなセットリストを中心に演奏し、逆にアンビエントは意識的に排除しました。
ジゥンチー 日本発の幾何学模様がUK/EUでツアーをして、サポートアクトが僕たち台湾のバンドで、GURUGURU BRAINのスタッフさんは全世界の人で。恵比寿ガーデンホールでも感じましたが、言葉は全然違うけど音楽でつながっている感じがあり、良い場だったなと思いました。お客さんの反応を見ていても、ヨーロッパでは音を受け止めて体が動いてる人が多かったですね。幾何学模様のライブで、サークルが起きたり、バク転したりしていて、すごく意外でした。
2022年9月に<第一回台北サイケデリックロックフェスティバル(第一屆台北迷幻搖滾音樂節)>が開催され、Mong Tongも出演した。この前後で、台北インディーズシーン、特にアンダーグラウンド・ミュージックの界隈でサイケデリック・ミュージックの定義について議論が起き、現地メディアや音楽評論家もコメントをした。
──改めて2人の思う「サイケデリックミュージック」を教えてください。
ホンユー サイケデリックミュージックは外国から来た言葉と文化で、現在はシューゲイザーも「サイケ」と呼ぶ人がいますよね。中華民族のあいまいさを好む文化が今回の議論を引き起こしたのかもしれないですよね(笑)。
ジゥンチー サイケには、基になった西洋発の文化が産んだルーツミュージック、そして聴いた時の手触りがあります。その手触りを僕らの言葉で言うと「聞いているとだんだん心が解放されていく感じ」があると思います。心が解放される、と感じる音楽は当然、アジアと西洋、人によって違います。ルーツミュージックは不変のものですが、国境を超えて時代が変わっている以上、定義を論じること自体に意味はなくなってきているのかなと。
──2人にとって「心が解放される感じ」を象徴する事象はありますか。
ホンユー 子供の頃、田舎の祖父母の家に帰ることがあって、父親が運転する車では70〜80年代の「電子琴音楽」と呼ばれるジャンルの音楽が流れていました。そして祖父母の家に着くと、台湾の伝統的な文化があって…僕らにとってはその一連の流れが、サイケデリックな空間ですよね。
ジゥンチー 一方で、Sun Arawのライブスタイルにも大いに影響を受けていたり、僕はTHE DARKSIDEが好きですし。だから「サイケ」と言われるのは否定しない。けど、西洋と東洋の定義は違っていていいのかなって。それこそ日本の「シティポップ」みたいに、僕たちのような東洋発の音楽が新しいジャンルとして名付けられたらいいのにな、とは思います。
彼らにとってのサイケデリックは、西洋から来たルーツミュージックと、子供の頃に体験した個人的な体験から成ることがわかった。且つ彼らの音源やライブでは積極的に、台湾の伝統音楽「南管」に使われる楽器や、オカルト番組の音声を模したものを使用し、アルバムアートワークには伝統的な人形劇の背景を取り入れている。より、台湾の音楽にドライブし、現代的なアプローチを試みたのは何故なのだろうか?
──改めて、Mong Tongを結成したときのことを教えてください。
ホンユー それぞれ別のバンドを10年やってきたのですが、ふと「新しい音楽を作ろう」と思ったんです。それで台湾の文化や、伝統的な音楽性を取り入れたいと思っていたんだけど、より多くの人に聞いてもらえる可能性を秘めた、キャッチーで、Popな形に進化させたくて。
ジゥンチー ちょうど2017年、2018年にかけて起きた世界中で独立運動に注目していて、その周辺で音楽をやっている人たちが、伝統、民族性をアピールするだけではなく現代的なサウンドにブラッシュアップしていると感じました。台湾の文化やアイデンティティを皆に知ってほしいのであれば、「現代の耳」に受けられる音楽としてアップデートしていくべきだと確信したんです。
──ライブでのトレードマークとなる、赤い目隠し布。物販でも売っていましたが、どんな意味がありますか。
ホンユー 中国語で「觀落陰」と呼ばれる道教の秘術で、簡単に言うと「目を赤い布で結んで儀式を始めると自分の魂が霊界に赴いて、亡くなった方を訪ねるなどの体験ができる」というものがあって、それをモチーフにしています。台湾発で世界でもヒットした映画『返校』でも道教の世界がたくさん描かれるので、ヨーロッパのごく一部では「返校とMong Tongが関係あるのでは!?」という説も出ました(笑)。
ジゥンチー 一緒につけたのは台湾でよく見るお守りを模したもので、ネックレスのように身につけている人もいます。1台湾ドルと『Tiang Shi』のダウンロードコードが入ってます。
──素朴な疑問なんですが、目隠しをするとライブ中、楽器もお客さんも見えないのでは?
ホンユー 僕たちは普段は一般人なのですが、この布を身に着けると別人格になって、第三の目が額に表れるんですよ。
──なるほど(笑)最後に、今後のリリース予定を教えてください。
ジゥンチー これまでは台湾の文化を現代的なアプローチで発信していましたが、次回は更に視点を広げて、東南アジアの音楽や楽器も取り入れる予定です。
ホンユー 今年中にリリースするつもりで準備を進めていたんですがツアーが忙しくて、殆ど出来上がってはいるんですが、来年のリリースを目指しています。
──楽しみにしてます。ありがとうございました。
Mong Tong – Taiwan Mystery II
通訳:Tomo(Caravanity)
Text:中村めぐみ