比類なき言語センスと温もりのあるバンドサウンドで、ジャンルに縛られることなく音楽を更新し続けるMONO NO AWARE。6月9日(水)にバンドとしては4枚目となるフルアルバム『行列のできる方舟』がリリースされた。

今作は、昨年9月に公開した劇場アニメ『海辺のエトランゼ』の主題歌“ゾッコン”、2021年第一弾配信シングル“そこにあったから”を含む全10曲が収録されている。今回、アルバムの制作背景やバンドとしての葛藤、さらに世の中に漂う“空気感”に対する考え方などについて、4人全員が揃って語ってくれた。

INTERVIEW:
MONO NO AWARE

「自然」とそこにあった音楽──MONO NO AWARE、New AL『行列のできる方舟』インタビュー interview210609_mono-no-aware-07

高次元での融合を魅せた、メンバーの個性

──本作『行列のできる方舟』は、MONO NO AWAREの「バンド」としての魅力がつまった作品だと思います。前作までは、玉置さんが持ち込んできた設計図に従って各メンバーが建築していく印象が強かったのですが、今回は各プレイヤーの「解釈」がアンサンブルのなかで融合した結果、奥行きのある「自然な」サウンドに仕上がっている。本人たちとしても、そういう手応えはありますか?

玉置周啓(Vo./Gt./以下、玉置) うん、わかりますよ。

──ではまず、本作において核になった楽曲から教えていただけますか?

玉置 昨年、『海辺のエトランゼ』の主題歌の話をいただいたとき、実は“そこにあったから”、“ゾッコン”、“LOVE LOVE”の3曲が候補に挙がっていました(*最終的に“ゾッコン”に決定)。だから、アルバムを作り始める時点でその3曲はほとんど完成していたので、先に録ることにしたんです。その段階で、すべて「」にアプローチしている曲だなと感じていたので、アルバム全体のテーマを導き出した楽曲ということでいえばその3曲かなと。

──ではその3曲に関して、サウンド的に新しくトライしたことはありました?

玉置 “ゾッコン”以外の2曲は、これまでの曲より楽器数が増えましたね。 “ゾッコン”の歌詞が遅れていて、その間にメンバーが“そこにあったから”のオケを僕抜きで詰めてくれたんですが、そこで音がかなり進化していたんです。とくに間奏部分にスチール・ギターが追加されていて、うわ〜これはいいな、と。自分が知らない間に完成するというのが、こんなに気持ち良いことなんだって。

──今までにはなかった体験?

玉置 そうですね、今までの楽曲は自分のコントロール下におかれている印象が強かったので。

──その部分、3人としては強く意識したところですか?

柳澤豊(Dr./以下、柳澤) 僕はこのバンドに最後に加入したんですけど、前任のドラマーは周啓のデモを忠実に再現していたので、僕はそこからさらにフィジカルとして気持ち良い方向にもっていきたかった。要は、手が自然に動くようなフレーズを叩きたかったんです。

──たしかに、柳澤さんのプレイスタイルは昔からキャラが立っていると思います。ただ、今作のアンサンブルはさらに有機的で、その変化が何によってもたらされたのかを訊いてみたくて。

柳澤 わかります。僕はドラマーとしてのエゴがあるし、自分がちゃんと調理したいなって。それはファーストの頃から実践しているつもりではあって、そのころから周啓と自分のやりたいことがミックスされてはいるから、今作でそのバランスがどう変わったのか、っていうところですよね。

竹田綾子(Ba./以下、竹田) 私も、渡されたデモをそのままやるだけじゃ駄目だなって思っていました。ただ、これまではデモの時点で曲が作りこまれていて、なかでも歌とベースラインが密接に結びついていたので……。

玉置 僕の場合、歌とベースラインが同時に浮かぶから(笑)。

竹田 だから今は、無理に変えなくていいのかもなって、考え方が変わってきました。デモをきいて再現する時点で、自分の手癖によって多少は変わっているはず。それで自分のキャラクターは十分出ていることになるかなって。

「自然」とそこにあった音楽──MONO NO AWARE、New AL『行列のできる方舟』インタビュー interview210609_mono-no-aware-08

──そういえば、竹田さんのベースの原体験はどこにあるんですか?

竹田 ずっとミッシェル・ガン・エレファントが好きだったので、ウエノコウジさんがロールモデルにありました。バンドに入ったばかりのころは「死んでもエフェクターは使いたくない!」って言っていました。

加藤成順(Gt./以下、加藤) なんでそんなに嫌がるんだろうと思っていたら、そういう理由だったんだ(笑)。

竹田 根がめっちゃ頑固なんです。放っておくとルーツに固執しすぎてしまう。

──竹田さんはベースを弾く「姿」だけで成立するところがあって、これはむかし玉置さんが別のインタビューで話していましたけど、ルート弾きだけで十分格好良い。一方、柳澤さんはいろんなジャンルからリズムを引っ張ってきて、それをフィジカルベースで叩くドラマー。そんな各メンバーの個性が高次元で融合しているのが今作なのかなと。それでいうと、加藤さんの役割はどこにあるといえますか?

加藤 セカンドあたりから僕は熱量担当ですね(笑)。周啓もソロはぜんぶ自分に任せてくれるから、手癖が発揮されて……。

──それが心臓をグッと鷲掴みにするような、アツいギターサウンドにつながっているんですね。“そこにあったから”での、南国的なチルいムードで進行していって、アウトロにかけて一気に熱量を帯びていく流れは、まさしく加藤さんの本領発揮という感じがしました。

加藤 あの曲はデモが早く出来上がっていたぶん、自分も試行錯誤する時間があったので、追加要素としてスチールとかアコギを取り入れてみたんです。デモを聴いた時点で「暖かい空気」を感じたので、そこでスチールを足すと直球に南国のノリが出て良いかなと。僕は、周啓のデモから感じたことを素直に返すことをいつも意識しているので。

玉置 さっきも話したとおり、レコーディングの初っ端で、自分がいない間に“そこにあったから”がグレードアップしている瞬間を目の当たりにして、「うわー、メンバーのこと舐めてたわ」っていうのを思い知らされた。それも「音を足す」とかそういう制作のスキルに留まらない話で、バンド活動全般においてもっと任せるべきところがあるんじゃないかって。自分は独りよがりな性格なので、今回は逆に「とことん手を抜くこと」を意識して、できるだけ早くデモを聴いてもらうことを重視しました。

加藤 “そこにあったから”は弾き語りでデモを作ったから、その手法も周啓的には新しかったんじゃないかな。

MONO NO AWARE – そこにあったから

「自然」とそこにあった音楽──MONO NO AWARE、New AL『行列のできる方舟』インタビュー interview210609_mono-no-aware-05

「スケッチ」から描く、人文的な世界

──今まではすべてDTM(打ち込み)だったんですか? 弾き語りと打ち込みだとデモの時点で残されている余白にも差が出る、ということでもありますよね。

玉置 そうなんですよ。ポロンと部屋で鳴らしてみる、っていうのは今までやったことがなくて。

──改めて、“そこにあったから”は今作を象徴する一曲になっていると思います。いまお話されたアプローチの変化が音に表れていて、バンドの進化を証明している。一方で“ゾッコン”や“LOVE LOVE”には、言葉数や構成の多さも含めてこれまでのMONO NO AWAREらしさが残されているので、本作はキャリアのターニングポイントを刻むアルバムでもあるなと。

玉置 まさに、“ゾッコン”は自分が19歳のときにデモを作っていて。たしか、豊が入るか入らないかのタイミングだった気がします。

柳澤 “ゾッコン”、そういえば当時ちょっとだけ練習したよね?

竹田 うん、音も録った気がする。

玉置 サビは当時から変わっていません。ただ当時のデモを聴いたときに、「これをそのままやるのは時代錯誤だし、自分の気分としても良くない」って思ったので、アレンジで根本から改造した結果、今の形に行き着いたんです。まさにフランケンシュタインみたいな感じで(笑)。あと、“LOVE LOVE”もけっこう昔からある曲で、これもけっこう練り直しましたね。

MONO NO AWARE – ゾッコン

MONO NO AWARE – LOVE LOVE

──なるほど。楽曲ごとに作り方もだいぶ多様だったんですね。

玉置 “そこにあったから”に関して、「がんばって何かをしよう」とは考えていなかったけれど、最終的にすごく良い形になった。前作ではいつまでもリード曲ができない悩みがあって、あとから振り返るともっとシンプルにやれた部分もあったから……。今回は、みんなでがんばって作り上げていった“ゾッコン”と、そうじゃない“そこにあったから”の両方の体験をしたことで、全体的にうまく手を抜くことができました。変化のわかりやすい例として、今まではデモのタイトルがそのまま曲名になっていたんですが、今回から“海”とか“孤独”とか“鳥”になって。

──うわー、それは象徴的ですね。

玉置 僕はそれを「スケッチ」を呼んでいて、それを最初に送ってみんなの感想を訊いてみたかった。たとえば、これまで話した3曲の次に作った“まほろば”は不思議なコード進行の曲だったんで、そのまま“謎”っていう仮タイトルをつけてみたら、メンバーもすんなり腑に落ちたのが伝わってきた。これは良い曲だよ、と。じゃあこれで4割は良い曲っていうことだから、あとは好きにやればいいかって。

柳澤 今回、レコーディングを4回に分けていて、“まほろば”は良い曲だからすぐにでも録音できる状態だったんですが、周啓から「もっと良い曲にできそうだから、いったん寝かせたい」っていう話になったんだよね。

玉置 そうね、ABABっていうシンプルすぎる構成になっちゃいそうで。

柳澤 そのとき自分は、スフィアン・スティーヴンス(Sufjan Stevens)みたいな、アコースティックっぽい響きとシンプルな構成の音楽にハマっていたから、それでもいいかなと思っていたんだけど。

玉置 自分もスフィアンをよく聴いていたんだけど、自分はこれをそのままやったら危ないと思ったんです。豊はドラマーとしてリファレンスからアイデアを膨らませることができるタイプだけど、僕は基本モノマネタイプで、好きなものをバレないように入れるのが好きだから(笑)。こういう静かで雰囲気が良いものを取り入れると、シンプルなだけのやっつけ曲になっちゃうリスクがあるなって。

柳澤 ああ、なるほどね。

玉置 で、自分のなかではレディオヘッド(Radiohead)の“Paranoid Android”みたいな構成の曲にしようと思っていたら、結局ぜんぜん違うものになりましたね(笑)。歌詞も、最初の数行で言いたいことはぜんぶ言えたので、そこからは歌詞がなくてもいいやって。

──柳澤さんはその時々のモードを積極的に取れ入れたいタイプなんですね。

柳澤 僕、けっこうミーハーなんですよね。知識欲があって、まわりが良いと思っているものをちゃんと追いたいし、その理由を知りたいっていう。逆に、坂本龍一さんみたいに「いま聴いているものに影響されるから、制作中は音楽を聴かない」っていうタイプの方もいると思うんですけど。

──バンドサウンドというフォーマットに囚われず、楽曲のムードが多様になっているのは、柳澤さんのミーハー精神によるところが大きいと思います。

加藤 豊のそういう話はすごくいいよ。うん、いいね(笑)。

──ちなみに、本作のレコーディングのタイミングで他に聴いていたものは?

柳澤 ネタバレになっちゃうんですけど(笑)。たとえば“幽霊船”は、デモのリズムがレゲトン(※1)っぽいワンループだったんで、そこに違うパーカッションの音を足したり、ただシンプルなドラムサウンド以上のものにする狙いがありました。打ち込みの音を生ドラムで再現するのは一時期はやりだったんですけど、ポイントはそこじゃなく、打ち込みっぽいフレーズを生音の鳴りの良さを生かしつつ録音したい、っていう。つまり、楽器としての魅力がわかるサウンドにしたかった。えーっと、専門誌で話すようなことかもしれないんですけど(笑)。

※1:80年代から90年代にアメリカ合衆国のヒップホップの影響を受けたプエルトリコの音楽

──いや、ぜんぜん。本作の曲を理解する上ですごく重要な要素だと思います。

柳澤 あの曲では、ドラムのメイン要素であるスネアの音をオーバーダビング(多重録音)しています。それは、周啓が想像する世界に、より音楽的に面白い要素を持たせるためにトライしたことですね。もうひとつ、サビでいわゆる楽曲のピークを示すためにライドシンバルを使いたくなくて、かわりにサビの頭はハットの「ジャン」で入って、サビのなかでキックのパターンを変えたり、スネアのパターンを重ねて盛り上がりの違いを表現したりとか。

──これぞバンドマジックですね。玉置さんは最初から音楽的な世界を構築していく、というよりも、人文的な世界を音楽に置き換えていくような印象が強い。だから、余計に他のメンバーが「どの音で表現するか」をピックしていく過程が重要で、今のお話はその一端という気がします。

柳澤 だからこそ、なのか、「どういう意図で作ったのか」っていうマインドのところまでは共有してないんですよね。そこはけっこうドライ(笑)

加藤 色々とありすぎて。何かね、話す感じじゃない。

玉置 自分がどういうイメージで作ったのかを話し出すと、作業が間に合わないんです(笑)。

「自然」とそこにあった音楽──MONO NO AWARE、New AL『行列のできる方舟』インタビュー interview210609_mono-no-aware-06

フラットな態度で表現するディストピア

──せっかくなので、“幽霊船”の話をもうすこし。この曲は自分的にベストトラックなんですけど、《幽霊船から飛び降りて 泳ぐ気力もなくなった世界じゃ 夢みてるみたいだ》というラインからして、不穏な空気が漂っているじゃないですか。これは、そのあとに収録されている“水が湧いた”の《お祭り状態、お祭り状態》ともつながる気がするんですが、ずばりこれは現在のディストピアを意識したものですか?

玉置 そうです、そうです。ただ、世の中がコロナ禍を経て、昨年はまだニューノーマルとかって浮かれている部分もあったんですけど、今年に入ってからは本当に暗くなっちゃった。このタイミングで「従来の」ディストピアをやるのはダサいんじゃないかって。それは、宮崎駿が『風の谷のナウシカ』のような作品を作らなくなった理由とも共鳴するところで。ぜんぶが荒廃している、とかではなく、「実はちょっと不安」をモチーフでどう引き出すか。かつ、それを悲観的ではなく、「それがふつうなんだ」とフラットな態度で表現したかった。サウンド的には、アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)の6枚目(『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』)みたいなSFちっくなものをやりたかったんです。あのアルバム、本当にかっこよかったから。

アークティック・モンキーズ – トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ

──玉置さんには、絶望のなかに浸ってしまうことを決してよしとしないスタンスがありますよね?

玉置 「六畳一間に缶ビール」みたいな世界観の曲を作ってしまうと、自分の場合はそこに浸って一生出られなくなりそうなので(笑)。

──そういう意味で、本作に収録されている“孤独になってみたい”も絶妙なニュアンスです。この曲は、愉快なサウンドと意外にシリアスな歌詞の対比がよくて、単なる言葉遊びではないアプローチでユーモアを表現している。自分がシリアスなときって傍からみるとなかなか笑えるものだよね、っていう。これは新しいMONO NO AWAREの魅力になっていると思いました。

玉置 この曲をつくるとき、ゆらゆら帝国の“空洞です”ってやっぱり良いよなあ、って考えていて。あの曲は今でもハマっている人が多いじゃないですか。今の政治が変わらないかぎり、多くの人が空洞みたいな生活を送らざるをえない中で、一種のスタンダードになっている。一方で、「空っぽだから」はエスケーピズムとかノスタルジーにも使える言葉。たとえば自分が疲れたときに「空っぽだわ」って言う以外に、もっとフィットするフレーズもあるんじゃないかって。実際はもっと複雑な状態だと思うんですよ。

──実際にそういう気持ちにならざるをえない出来事があったんですか?

玉置 ふつうに制作がきつかったんです。そこで周りは助けてくれようとするんだけど、それすらもしんどくなって。その思いに応える気力すら失っている状態。「うわー、もう解散?」ってテンションが下がってしまって。そのときスタジオで“言葉がなかったら”を歌いながら号泣して、メンバーはドン引き、みたいな(笑)。

加藤 ああ、あったね、そんなこと。

玉置 一方で、孤独を望むってどれだけ贅沢な悩みなんだ、っていう別の見方もあって。そこでせめぎあった結果、「孤独になってみたい」なら謙虚さがあって良いのかなと。かつて孤独を求めた人も、ジャック・ロンドン(Jack London /※2)みたいに自殺しちゃうか、あるいは元の場所に戻っていくかで、最後まで孤独に耐えられる人はそういない。孤独を経てはじめて、そばにいてくれる人の有り難さが身に染みるかなと思っています。

※2:アメリカ人作家。1876-1916年。海洋小説、SF、ルポルタージュなど、多彩な作品を発表。

「自然」とそこにあった音楽──MONO NO AWARE、New AL『行列のできる方舟』インタビュー interview210609_mono-no-aware-11

「連帯」ではない、バラバラだけど無視しあわない関係

──自粛期間中、いろんなところで「連帯」が強く打ち出された印象がありつつ、他方で一部の人からは「一人になれる時間が増えたのはよかった」っていう本音が出たりして、このアンビバレントな状況はなんなんだ、と思っていました。で、玉置さんはその後者の気持ちにフォーカスしたわけですよね。

玉置 SNSで「#うたつなぎ」っていうハッシュタグが流行ったじゃないですか。僕も知り合いから受けて次にまわそうとしたら、数少ない友達のりょうと(Tempalay小原綾斗)とひかる(ドミコ)くんの両方に「え、そんなのやってんの? いや〜、悪いけどやめとくわ」みたいなテンションで断られて。「おれは何をやっているんだろう」って落ち込んだと同時に、むしろそこで「音楽は人を救うためにあるわけじゃない」っていう自分の正直な思いが引き出されたんです。そこから、自意識を世界にみせて訴えかけようっていう気が消え失せた。そうじゃなく、自分も今の空気的に言えない感情を引っ張り出せるような曲を書きたいなって思いました。

──さっき、バンド内のコミュニケーションは意外とドライっていう話が出ましたが、玉置さんのそういった温度感は他の方も共有しているものだったりします? なんとなくそんな気がしたんですが。

竹田 うーん、あります、ね。

柳澤 僕もそういう「連帯」みたいなワードは信じてなくて。どちらかというと、そこで「連帯できない人たち」のことがみえてしまうタイプ。歌以外に、本紹介をつなぐ企画もあったじゃないですか。僕は誰かが指名しないと紹介できない仕組みに疑問があって、それなら自分から発信してやろうと思って、自分で発信するタグを勝手に始めたら誰ものってくれなかった(笑)。どうしても選民思想に拒否感が出ちゃう。

加藤 僕は、そういう「連帯」とかってコンセプト自体が好きじゃないから、ぜんぶ無視しちゃいますね。コンプレックスだって同じことで、「それがキャッチーだったら広告になるの?」って。全員が救われることはありえないから僕はすぐ諦めちゃうけれど、周啓は表現者として抱え込んでいく。すごいなって思いますよ。

玉置 なんだろう、確実に人間不信気味ではあるけれど、諦めたくないのかな。

──本作は、感情の「自然状態」を志しているともいえますか? その方向性だとしたら、サウンドのナチュラルさもすごくしっくりくるなと思いまして。

玉置 うん、成順もよく「自然」っていう言葉を使うしね。

加藤 ギターに関していえば、何かのサウンドにしたいって思って作っていることは本当になくて。だから、仮に楽曲がノスタルジックに響くとしても、それはあくまで結果的にそうあるべきというか。

玉置 あと、今回はスケッチ、オケ、歌詞の順番で仕上げていったので、メンバーが構築してくれた楽曲の世界観にあわせて自然な言葉が出てきた、っていうのはあるかもしれません。だからこそ、日本語の言葉遊びに頼らなくなった。

──そういえば、今回は歌もリラックスしていて、響き方が変わりましたよね。よりサウンドの一部として溶け込んでいるなと。今回は家でヴォーカル録音を行ったと聞きましたが、やはりその影響が大きいですか?

玉置 一軒家の6畳間で、障子を目の前にしながら録音したので、スタジオの環境とは180度異なりますよね。機材はマイクとプリアンプは値の張るものを借りたけど、オーディオインターフェースはボロボロのZOOM R8を使っていて、エンジニアの方には「銀食器にアンパンマンの皿でごはん食べているみたいだね」って言われたんですけど(笑)。自分はかなり他人に気を遣う人なので、スタジオだとパフォーマンスのために上半身ハダカになったりしちゃうんです。

──メンバーに対してもパフォーマンスするんですか?(笑)

玉置 録音ブースに小窓がついていて、そこからメンバーが覗けるので(笑)。今回はそういうのがなくなったのも大きい。だって、家ではほとんど座って録っていましたから。ボイストレーニングのこともぜんぶ忘れて、歌っている最中にスタンドが下がってくると口でそれを追いかけていって、でも出来が良かったから採用する、とか。

──先ほど玉置さんもお話されたとおり、本作は自分の奥底にある本当の感情が引っ張り出されるような作品でもあるなと、改めて認識しました。単なる言葉遊びに終始していない。

玉置 言葉でこねくりまわして、「こんな見方があったんだ」だけではいけなくて、なぜものの見方を変える必要があるのか、それを作り手自身が深く理解している必要がある。その上で、僕は相対化されないものを探しています。ある古い価値観に対して「これが新しい価値観だ!」ってカウンターカルチャー的にやっていくと、もちろん良い側面もあるんだけど、いずれはどこかのトライブに回収されてしまうので。

──さっき加藤さんがおっしゃった「(コンプレックスも)キャッチーだったら広告になるの?」の話に通じますよね。

玉置 そう、まさに。だから、ただ自意識をぶつけていくのではなく、もっと俯瞰でもものごとを見ることはできないものかと。今の社会はつながりすぎていて、連帯意識を持ち出すたびに誰かがはじかれて苦しい思いをする。自分は、バラバラだけど無視しあわない関係……ずっと、そういうものを追求していました。

「自然」とそこにあった音楽──MONO NO AWARE、New AL『行列のできる方舟』インタビュー interview210609_mono-no-aware-10

Text by 長畑宏明
Photo by マスダレンゾ

PROFILE

「自然」とそこにあった音楽──MONO NO AWARE、New AL『行列のできる方舟』インタビュー interview210609_mono-no-aware-04

MONO NO AWARE

東京都八丈島出身の玉置周啓、加藤成順は、大学で竹田綾子、柳澤豊に出会った。

その結果、ポップの土俵にいながらも、多彩なバックグラウンド匂わすサウンド、言葉遊びに長けた歌詞で、ジャンルや国内外の枠に囚われない自由な音を奏でるのだった。

FUJI ROCK FESTIVAL’16 “ROOKIE A GO-GO”から、翌年のメインステージに出演。
2017年3月、1stアルバム『人生、山おり谷おり』を全国リリース。2018年8月に2ndアルバム『AHA』発売、数々のフェスに出演するなど次世代バンドとして注目を集める。2019年10月16日、NHKみんなのうたへの書き下ろし曲「かむかもしかもにどもかも!」、『沈没家族 劇場版』主題歌「A・I・A・O・U」を収録した3rd Album『かけがえのないもの』をリリース。幼少期から大人への成長をテーマに描いた作品が各所から高い評価を集める。

HPTwitterInstagramYouTube

INFORMATION

「自然」とそこにあった音楽──MONO NO AWARE、New AL『行列のできる方舟』インタビュー interview210609_mono-no-aware-03

行列のできる方舟

2021年6月9日(水)
定価:¥2,860(tax incl.)
形態:CD
品番:PECF-3261

収録曲:
01. 異邦人
02. 幽霊船
03. 水が湧いた
04. そこにあったから
05. LOVE LOVE
06. ゾッコン
07. ダダ
08. 孤独になってみたい
09. 5G
10. まほろば

■先着購入者特典
※下記の各ショップにて予約・購入いただいた方にはそれぞれ特典がございます。
・タワーレコード特典:ステッカー(タワーレコードver.)
・disk union特典:オリジナルキーホルダー
・楽天BOOKS特典:栞
・応援店特典:ステッカー(応援店ver.)
※一部取扱いのない店舗もございます。
※特典はなくなり次第終了とさせていただきます。
※特典の有無に関するお問い合わせは直接各店舗へご確認下さい。

アルバムの購入はこちら