インディーズブランド立ち上げ、ファッションブランドからヘッドハンティング、アートデザイナーとして独立、さまざまなブランドとコラボレーション……。並河一則というアートデザイナーを、その“経歴”だけで見ると、どこか近寄りがたい存在のように思えてくる。
ただ一度でも会うことがあれば、その印象はいい意味で裏切られることになるだろう。並河氏はいま、熊本復興支援「むすぶ」に尽力している。2016年4月に熊本、大分で発生した大地震。その被害に遭った一軒のパン屋と、その店を愛する一人のサッカー選手、そして並河一則。
ある女性につながれた3つの異なる才能と意志が、小さいながらも動き始めている。9月末、多忙な並河氏のスケジュールの合間を縫ってインタビューを敢行するため、東京・四谷へ向かった。
Interview:並河一則
――並河さんの「むすぶ」に関する活動は、FacebookにUPされているものだけですがチェックしていました。
ありがとう。こうやって自分から動いてみて思ったのは、行動すればいろいろな人とつながっていくということ。本来は誰でもいろいろな人とつながってはいる、だけどそれってしっかり引っ張り合わないと共鳴しないんですよね。それがいまのデジタルの時代の付き合い方の特徴なのかもしれない。
これまでもFacebookを見てくれて、「いろんな活動してるよね」とか「いろいろ飛び回ってるよね」とか言ってくれることは多かった。FacebookとかInstagramとかSNSはたくさんあるけど、それだけでは人と人とはつながれない。Messengerでメッセージを送ったり、一番いいのは会って会話した時に初めて“温度”が生まれる。
実際、電話じゃないと連絡が付かない人とか、現地に行って打ち合わせをしないとダメな人はいて。いまの時代はアナログとデジタルがものすごく両極端に存在しているように感じます。
――そのあたりの時代の変化は、気づいている人は気づいているようにも思います。「たかがSNS、されどSNS」ではないですが、付き合い方、発信の仕方をわかっているかどうか、人によって顕著に現れているような気がします。
やっぱり……何をもって自分を表現しているのかが明確な人は、SNSで更新する内容とかも、心に響くようにつくられている。自分がやっていることを無作為にUPするのは僕も得意ではないので、できるだけ仕事とプライベートのちょうどいいバランスを取りたいとは思っています。
ただ、いま取り組んでいる「むすぶ」の活動に関してはFacebookを使って告知をしているんですが、それはそれで思った以上の反響はあって。いまの時代はこういう発信の仕方もできるんだなと実感しました。
――「むすぶ」はどういうキッカケで始まったんですか。
上田まりえさんっていう元アナウンサーで、いまはタレントとして活動している方がいるんですが、たまたま紹介で彼女と知り合って名刺とかグッズをつくるお話をいただき、打ち合わせをしたんです。そこで上田さんが熊本で復興支援の活動をしていることを知りました。
上田さんはある時、同じく復興支援をしているサッカー選手の巻誠一郎さん(熊本県出身、現J2ロアッソ熊本所属)に会って、巻さんから地元のパン屋の話を聞いたそうなんです。「古木家」さんっていうパン屋なんですが、そこは添加物を入れないでつくるパンが有名で、巻さんはお子さんがアレルギー持ちらしいのですが、そこのお店で初めてパンを食べられるようになったと。
そこから巻さんと古木家さんとの関わりが深くなって、アスリートの体調をケアするコラボパンを開発したんですが、その発売のタイミングで震災があったそうです。
――今年の4月ですね。お店の被害はどれほどだったのでしょうか。
古木家さんは阿蘇大橋の近くの西原村にあるパン屋なんですが、震源地に近かったので店もかなりのダメージを受けました。そんな時にも古木屋さんはなりふり構わず、つくれる材料でつくれるパンをつくって、被災者に配ったそうです。実際に店主の古木さんにお会いした時にそういう話を聞き、その後も会話を重ねていく中で、リニューアルオープンのタイミングでお店の壁に絵を描いて欲しいという依頼をいただきました。
そして復興のシンボルとして、巻さんを描いてほしいと――。僕ができることで何か貢献できるのであればと思い、即決して熊本へ向かいました。実際に巻さんに会って絵のモチーフを決めたんですが、巻さんの熱い想いや不器用でも突き進む姿勢、復興に向けて闘う姿を見て、「侍」の姿が浮かびました。あとあえて派手なダウンを着せることで、世の中の目をわざと自分に向けさせる、という意味も込めています。
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