アリアナ・グランデ(Ariana Grande)の一連の作品のコンポーザー、プロデューサーであるSOCIAL HOUSEの楽曲がオーディション課題曲であることも前例がなく、話題になった『ヨルヤン』第2弾「女性R&Bシンガー&ダンサー・オーディション」。ダーク&ハードでメランコリックなニュアンスとSOCIAL HOUSEらしいマッシヴなトラップビートを持つ課題曲“lighthouse”をオリジナルに昇華したウイナー、NAO AIHARAが同曲で3月23日にデビューした。

トラックの話題性もさることながら、難易度の高いトップライン(曲のメロディライン)をm-floの“loves”シリーズにゲストボーカルで参加するほか、安室奈美恵、THE RAMPAGE、RED VELVETらに楽曲&歌詞提供してきたEmyliが担当。さらにデビューにあたり、NAO自身の作詞部分も追加。また、振り付けはチームとして2010年、全米最大のダンスコンテスト<Body Rock>で日本人として初の優勝を獲得したs**t kingz(シットキングス)のkazukiが担当。彼個人は東方神起や三浦大知の振り付け、Nissy、EXOらの大規模ライブの演出も手掛けている。

ダンス&ボーカルシーンのトップクリエイターのバックアップに目が行くが、難易度の高いこの楽曲を引き寄せたのはNAO AIHARAの実力とバックボーンにある。デビューの経緯などを訊いた。

INTERVIEW:NAO AIHARA

NAO AIHARAを紐解く「ルーツ、ダンス、作詞」|オーディション番組『ヨルヤン』からのデビューまで interview220428_naoaihara-08

ジェニファー・ハドソンやアレサ・フランクリンが今に繋がるルーツ

──NAOさんは小さい頃はダンスを習っていたとか。

NAO AIHARA(以下、NAO) そうですね。友達に誘われたのがきっかけで、小学4年ぐらいにジャズダンスみたいなところから始めて。高校からダンスの専門学校に行って、そこでヒップホップ、バレエとか基礎からいろいろ練習していました。

──音楽的な興味はどうだったんですか?

NAO 歌を始めたいと思ったきっかけは映画『バーレスク』を観たことです。そして、そのあとに『ドリームガールズ』を観て、「歌ってこんなに伝えられるんだと」思ったんです。もともと文章で自分の気持ちを伝えるのが好きだったんですけど、歌で伝えられたらいいなというのはその時に思いましたね。

──『ドリームガールズ』の特に誰からの影響が大きかったんですか?

NAO どちらかというとビヨンセ(Beyonce)より、ジェニファー・ハドソン(Jennifer Hudson)に私は近しいものを感じました。今だったらビヨンセの“Listen”のを歌いたいって思うんですが、当時は、“Listen”よりジェニファー・ハドソンの“And I am Telling You I’m Not Going”を練習してた記憶があります。そこから掘り下げて、ジェニファー・ハドソンの曲を聴いたり、映画を観たりしましたね。またアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)を聴き始めて、そこから『ブルース・ブラザーズ』を観て衝撃を受けたりもしたので、そこは今も繋がっているルーツだと思ってます。

──そこから具体的にはどういう活動を?

NAO オーディション受けるまで、個人的に活動してたときはR&Bとかの洋楽をピアノやギターの方にサポートしてもらって歌ったりして、ライブに出たりしてました。でも、やっぱり『バーレスク』の印象が強すぎて、ダンスがやりたい気持ちがあり、ダンスもできるような曲もどんどん聴くようになっていました。それこそ『ヨルヤン』のオーディションの曲を聴いた時に、ソウルっぽさのある深い感じで歌えるような低音から始まり高音もあって、みたいな私の好きな要素が詰まってましたし、同時に行われていたダンサー・オーディションのダンスの振り付けもかっこよかったですし、自分がイメージできるところにハマってたんですね。密かに自信もありましたね(笑)。

──自信もあったので、って力強いです。話を戻しますが、ハイティーンの頃はどんなアーティストを聴いてたんですか?

NAO 洋楽で歌える曲が何曲かあったほうがいいなと思って、アリシア・キーズ(Alicia Keys)の“If I Ain’t Got You”とビヨンセの“Listen”、あとPiNKはめっちゃ練習しました。“Listen”は今も歌い上げられるまでになりたいなという目標があります、けど、やっぱり難しすぎて(笑)。

──今回の“lighthouse”はオーディションの楽曲で、誰かのカバーを歌うわけではないので、ある意味ハードルが高いと思うんですね。最初からオリジナルとして歌わないといけないので。

NAO たしかに。歌詞を書かれたEmyliさんが課題曲ではボーカルとしても歌ってらっしゃって、それがうますぎて感動して、まず真似しようと思って練習しました。それから自分らしさをプラスできるところが割とスッと入ってきて、それですぐ歌えたというか。「あ、これ得意かも」と。だからちょっと自信があったんじゃないかな。

──そこで残れたんだと思います。ヴァースが得意な人とサビが得意な人に分かれそうな曲ですし。オーディションの課題曲としては、Aパート、Bパートという送り方になってて、デュオで歌う複雑な作りになっていましたよね?

NAO そうなんです。「こんな曲、誰が歌えるんだ?」って、オーディションに来てた子がみんな言ってました。初めて聴いたとき「こんなん歌える人いないでしょ」「ガイドボーカル、越えられないでしょ」って(笑)。

──作家、プロデュサー、アーティストとしてのSOCIAL HOUSEに対するイメージはありましたか?

NAO アリアナ(・グランデ)のイメージがすごくあって、強いトラックのイメージがすごくありました。“lighthouse”はSOCIAL HOUSEらしく、トラックがすごく重たくて心臓にくるような感じがあって、歌詞も相まって響くものもあるんだろうなって思います。

──トラックの強さも意識してオーディションで歌ってましたか?

NAO そうですね。歌ってる時にトラックとか歌詞に引っ張られる部分は絶対ありますし、強い気持ちにさせてくれる曲だなというのは歌っていて感じていたことでした。

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苦しい経験を昇華して書いた歌詞

──歌詞についても訊かせてください。NAOさんが書き加えた部分はあるんですか?

NAO  2番の歌詞は私の書いたものがベースとなっています。オーディションの合格が決まって、改めて1番の歌詞を聴いた時に、自分なりの歌詞の解釈で、“悩みもがいている先にあるもの”みたいなイメージが浮かんできたんです。自分にもその状況によく似てる時期があったので。普段から思ったことを歌詞のようにして書き溜めていたんですが、当時書き溜めてた歌詞を読み返して、それを少しずつ書き直しながらEmyliさんと一緒に書かせていただいた感じですね。

──《耳を塞いでも聞こえてくるの 言葉と視線のナイフ》以降ですね。人からの意見や視線を気にしなくてもいいのに、気にしてしまう、そんな内容ですが、「その状況」というのはアーティストとしての活動の前ですか?

NAO そうですね、過去にグループで活動してたときに、自分がやりたいこともできず、意見も届かず、ずっとズレを感じている中で、もがいてるような時期があって…。そのときに苦しくて書いた歌詞なんですが、当時は、一番迷ってた時期なんですよね。だからその状況と合うなと思って、もう一回書き直してみようと。もがいているだけじゃなく、今、掴み取るものというか、目指すところがあるよっていうことを伝えたかったので。

──グループではどんな活動をしていたんですか?

NAO 演技やダンスの舞台をやっていました。そこでいろんな方々と関わったり、話を聞いたりして、それが自分の考え方の広がりにもなったと思います。人との関係性の持ち方とか、コミュニケーションという点では学んだ部分はとても大きかったし、そこがきっかけで全てが始まってはいるんですね。

R&B、ソウルといった音楽や、好きになったミュージカルや映画も、その活動の中で巡り合ったものですし、歌もそこがあったから始めているのは絶対的にあるので、そのルーツには感謝しつつ、今の自分に繋げていけたらいいなって一番思ってますね。

──そのエネルギーを溜めて、今こういった形に。曲にマッチするわけですね。

NAO だからこそ、ダークな部分も書きたいなと思って、曲もそういうイメージを汲み取ったので、自分の中で。だから繋げていきたいなと思います。

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kazuki(s**t kingz)からの刺激
ダンスへの想い

──そして、今回、s**t kingzのkazukiさんによるのコレオグラフですが、グループなのでストーリーがある感じですね。

NAO kazukiさんは歌詞を汲み取って、振りを考えてくださった部分が多かったので、ダンスプラクティスの時には鳥肌と涙が止まらなくて。全部がフラッシュバックしたというか、ほんとに特別なものだったんだなと思いました。私が歌詞を書かなかったら今の振り付けになってなかったし、全てが重なってこの作品ができたというのはすごく嬉しく感じてますね。

──s**t kingzのダンスも観ていたんですか?

NAO 過去にkazukiさんのレッスンも受けたこともありました。もともとダンスから入った身なので、今回のことに関して言うとkazukiさんが振り付けすることが一番「ヤバい!」みたいな(笑)。

──高校生の私からしたら?

NAO 向こう側でしか見たこがとないkazukiさんがこっち側にいるっていうのが、もう感動したというか、それが一番「ヤバい!」って一番思ったところですね。

──オーディションで勝ち抜いて、この楽曲でデビューすることになってからの意識は変わりましたか?

NAO はい。私自身、ダンスをしているということもあり、周りのダンサー子たちとも仲がいいんですが、今まで一緒にダンスをやっていて出会った子たちと、今の自分として出会うダンサーの子って全然解釈が違うなと感じています。当たり前なんですけど、ダンサーのみんなを引っ張っていかないといけないし、全体の中で突き抜けてないといけないというか、そうありたいと自分も思いましたし、いい意味で背筋が伸びた感じはしてましたね。

でも距離感として自分が「アーティスト!」みたいになりたくなかったんです。作品にも絶対、気持ちが入ると思ったので、ダンサーのみんなとは、一人ひとりとちゃんと話して。「こういう思いがある」という話は意識してやってたところはあると思います。

──ダンスにも重きを置いてるんですね。歌と同じぐらいやっていきたい?

NAO やっていきたいですね。ずっとそうなんですけど、今またダンスに結構メラメラしてるので。ずっとダンスをやってた身として、「ダンス」でしか表現できないものっていうのも絶対あると思っています。私もそれで感動することが多かったし、今までいろんな人が作る「ダンス」で表現された作品を観て心動かされることが多かったので、そこの要素も自分の中に取り入れてやっていけたらいいなっていうのはすごく思います。

──NAOさんがここまで話してくれたことががほぼそうだと思うんですが、改めて目指したいアーティスト像はどんなものでしょう。

NAO 自分が表現したいことを自分らしい表現の仕方と言葉で、寄り添えるような、近すぎず遠すぎずのアーティストになっていきたいなと思います。あと、エンターテイメントが好きなので、単純に観て楽しいってだけじゃなく、「感動したなー」って思ってもらえるような、そんな存在になりたいですし、歌う歌にも説得力を持ちたいので、言動もそうだし、人間としての厚みを持って、自分の人生を歌っていけたらいいなと思います。

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Text:石角友香
Photo:小林真梨子

PROFILE

NAO AIHARA

シンガー/ダンサー、23歳
幼少期よりダンスを学び、その後、歌手を目指し活動。
エイベックスとテレビ東京がタッグを組んだオーディション番組『ヨルヤン』の第2弾企画
「女性R&Bシンガー&ダンサー・オーディション」にて選ばれた。

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NAO AIHARA「lighthouse」MUSIC VIDEO