ジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)やキュアー(The Cure)、エコーアンドザバニーメン(Echo & the Bunnymen)、といった80年代ポスト・パンクの美学を正しく受け継ぎながら、90年代グランジ~オルタナティヴ以降のセンスをちりばめた現在進行形のアンサンブルを奏でる、ここ最近のジャパニーズ・インディーシーンにはありそうでなかった5人組NEHANNが今、都内のライブハウスを中心に話題を集めている。

今年2月に結成されたばかりの新人ながら、ステージを重ねるごとに飛躍的な成長を遂げている彼ら。中でもボーカル、クワヤマの持つカリスマティックな存在感と、2本のギターが奏でるモダンなオーケストレーションは、まだまだ荒削りながらも高いポテンシャルを感じさせるものだ。

そこで今回Qeticでは、バンド・メンバー全員にインタビューを行い、結成の経緯や音楽的ルーツ、曲作りのプロセスなどたっぷり語ってもらった。これがメディア初登場という、フレッシュな姿をお届けする。

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INTERVIEW:NEHANN

──まずは、NEHANN結成の経緯から教えてください。

クワヤマ 僕とオダは同じ村の出身で、高校生の頃から「一緒にバンドやりたいね」って話をしていて。高校卒業後に僕がしばらくアメリカに留学していて、帰国後上京してから一緒にバンドを始めたんですけど、それはあまり上手くいかず、すぐに解散しました。その後、留学中にルームメイトだったイノくんが東京に来るというので、彼と一緒にバンドを組んでまた少し活動していたんですけど、それも方向性が自分の中で見えなくなって辞めてしまったんですよね(笑)。

──どちらもうまくいかなかったのは何故だったんでしょう?

クワヤマ もともと僕はミュージシャン志望だったんですけど、オリジナリティとかにこだわりすぎて、そこまで音楽に精通している訳でもなかったのに、「自分の中から出てくるものじゃなくちゃ」って信じ込んでいたんですよね。それでやっていても、自分で何がやりたいのか、そもそも何をやっているのか分からなくなるのは当然で(笑)。
例えばギターで曲を作っても、それをどうやってアレンジしていいか分からないわけですよ。それで、1年半くらい前から現行の音楽など、様々なジャンルを聴いたり勉強したりするようになって。それから段々と自分の中でやりたいことも見えてきたんです。

──なるほど。

クワヤマ ちょうどその頃、またオダくんともよく遊ぶようになって。彼とは一緒に組んでいたバンドを辞めてからも、互いに音楽や映画を教えあったりしたりと昔から趣味が合うので、もう一度一緒にバンドをやろうかという話になりました。そこから前のバンドで一緒だったイノくんも誘いました。リズム隊は友達のWaaterというバンドでベースを弾いているワタナベくんと、知り合いのナラくんを誘い、今年2月に今の5人で結成しました。

──ちなみに留学したのは、どんな理由からだったのですか?

クワヤマ ちょっと普通じゃない生き方をしたかったんですよね。高校までは割と普通だったんですけど、僕以外の生徒全員が大学へ行くか浪人するかみたいな感じの時に、僕はそのレールに乗りたくなかった。それで、自分が本当にやりたいことは何かと考えた時に、やっぱり「音楽」だなと。それもアメリカやイギリスの音楽を聴いて育ったし、ミュージシャンになりたいという夢もあったので、まずはその本場の地へ自分の足で行ってみたいってことだったのだと思います。そこでたまたまシェアハウスでルームメイトだったイノくんと仲良くなりましたね。

──留学先でも音楽活動をしていたのですか?

クワヤマ 留学先のロサンゼルスに、サンタモニカ・サード・ストリートというストリート・ミュージシャンもよく集まるショッピング街の通りがあって、そこでアコギと歌だけで、ストリートライブをやっていましたね。ニルヴァーナ(Nirvana)やボブ・ディラン(Bob Dylan)、ビートルズ(The Beatles)など、ほとんどがカヴァーでしたけど。その時に、オーディエンスにしっかり届く歌ということを意識するようになりました。メンタルや声量などの技術面等を鍛えられたし、色々と勉強になる良い期間になったなと思っています。

──確かに、クワヤマさんのボーカルにはカリスマティックな要素がありますよね。特に影響を受けたボーカリストは?

クワヤマ カート・コバーン(Kurt Cobain)やエディ・ヴェダー(Eddie Vedder)などグランジのボーカリストですかね。中学生の時にニルヴァーナの『Nevermind』を聴いて、90年代のグランジシーンにドハマりして、アリス・イン・チェインズ(Alice in chains)やサウンドガーデン(Soundgarden)なんかもよく聞いていましたね。

──バンド名の「NEHANN」はもう、ニルヴァーナ愛をストレートに表しているんですね(笑)。

クワヤマ それもありますね。(笑)。あとはバンド名に日本語を入れたいというのもあったし、「NEO東京」みたいな感じというか。『AKIRA』とか『ブレード・ランナー』とかサイバーパンクの作品が大好きですし、せっかく東京に住んでいるならその世界観も出したいなと思って。それで何かハマる日本語はないかなと思っていろいろ言葉を並べた中に、涅槃があったんです。もちろん、最初の着想はバンドのニルヴァーナ(涅槃=NEHANN)から来ているんですが、僕は哲学とか精神世界とかにすごく興味があった時期があって、古本などを漁って読んだり、「涅槃寂静」の境地に想いをはせたり空想するのが好きだったりしたので、そういうところともリンクするかなと思ってこの名前に決めました。

──そもそも何故クワヤマさんは、ミュージシャンになろうと思ったんですか?

クワヤマ 元々は親が音楽好きというか、ビートルズオタクみたいな感じだったんです。それでギターを弾いてみたいという気持ちは小さい頃からあったんですけど、中学2年生の時に初めてギターを買って弾き始めた時から音楽へのめり込んでいきましたね。

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──他のメンバーの皆さんは?

ワタナベ 僕は日本のパンクにハマったのがキッカケでした。高校の学園祭で先輩がグリーンデイ(Green Day)などのコピーをしているのを観て「カッコいいな」と思って、それで大学に入ってからバンドサークルに入ったんです。最初はギターを買ったんですけど、あんまり上手くできなくて。そのタイミングで先輩に「うちのバンドでベース弾かない?」って誘われ1年半くらい前にベースに転向しました。それがWaaterというバンドです。

オダ 僕は高校の時に軽音楽部に入ってベースを弾いたりしていました。中学生くらいに日本のインディーロックばかり聞いてしましたが、いつの間にかガレージリバイバル系のバンドを漁ったり、レディオヘッド(RADIOHEAD)とかニルヴァーナなどオルタナ、グランジにどっぷりハマっていましたね。

──今日はポーティスヘッド(Portishead)のTシャツを着てますね!

オダ はい、ポーティスヘッド愛してます。日本のバンドだとTHE NOVEMBERSやGEZANが好きです。楽曲や演奏だけでなく、魅せ方とか姿勢がすごくクールだと思います。

ナラ 僕は2歳の時からずっとピアノを習っていました。ドラム教室へも行かせてもらうようになったんですけど、そこがなぜかジャズドラム教室だったのですぐ辞めちゃったんです。
中高はドラムを時々叩くくらいの感じだったのですが、大学に入ってからバンドを組んで、そこから本格的にドラムを叩き始めました。MIHARAYASUHIROというブランドでアパレルのバイトをしていたんですけど、デザイナーの三原さんがカート・コバーンが大好きだったというのもあって、その辺を掘り下げて聞いていくうちにどんどんバンドにハマっていきましたね。

イノ 僕は音楽好きな従兄弟の影響でギターを始めました。僕自身はなんでも好きで聴いていますね。

クワヤマ 彼がエフェクターを駆使して作り出す、ちょっと不気味なサウンドとか、そういうのがバンドのアクセントになっているかも知れないですね。このバンドのコンテンポラリーな装飾を担ってくれているというか。

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──先日のライブを拝見したところ、ポスト・パンクからの影響が強いのかなと思ったのですが、その辺はコンセプトとしてありましたか?

クワヤマ そうですね。さっきも話したように、自分でちゃんと音楽を勉強しようと色々聴くようになってから「ポスト・パンク」というジャンルが特に好きになって。そこからの影響はかなり大きいと思います。

オダ 夜な夜な高円寺の駅前とかで飲みながらザ・ホラーズ(The Horros)ばっかり聞いてたよね(笑)。

──曲作りの手順はどのようなものですか?

クワヤマ 僕が家で作ったデモを、まずオダくんに聴かせて意見をもらってから、スタジオへ持っていってみんなでアレンジを詰めていくパターンが多いですね。中でもイノくんは、ギターも上手いし音の重ね方の知識やノウハウを持っているので、その辺のアドバイスをもらいつつ仕上げていく感じです。ダンサブルな曲が好きなので、最近はドラムとベース、特にベースラインからデモを作ることが多いかも知れないです。

──歌詞のモチーフはどんな時に思いつくのですか?

クワヤマ やっぱり、フラストレーションが溜まった時が多いですかね(笑)。僕は常に「ピースフルでありたい」と考えている人間なんですけど、その領域を守りたいからこそ、干渉されたり侵害されたり、あるいは自分の中にある執着心のようなものがもたげてきたりした時に、フラストレーションが溜まるというか。そういうことって、多かれ少なかれ誰しも感じることだと思うんですよね。そういう時の心の動きから歌詞を書くことが多いかもしれないです。

──今回3曲のデモ音源(“Labyrinth”、“Under the Sun”、“HAZARD”)をもらったんですが、それぞれどんなことを歌っていますか?

クワヤマ まず“Labyrinth”は、歌詞がストーリー仕立てになっているのですが、社会の中で悩みを抱えているある男が、あるとき犯罪を犯してしまう。そうやって社会のレールから外れたことにより、「自分とは一体なんなのか?」「生きているってどういうことなのか?」という、形而上学的な視点から自分を俯瞰し始める内容です。何かしらの悩みを抱えた時に広く大きな視点から自分を眺めることで救いになることって多いんじゃないかなと思います。

“Under the Sun”は、理想や空想と現実のギャップについて書いた曲です。現代人は自己愛が強いというか、個人主義的なところがあり過ぎると思う時があるんです。「ポジティブ・イリュージョン」という言葉を知っていますか?

自己を過大に肯定的に知覚したり、自己の将来について、非現実的なほど楽観的に想像したりする状態のことなのですが、それって自分にも当てはまるなあと思ったんですよね。

NEHANN – Labyrinth

NEHANN – Under the sun

──なるほど。

クワヤマ そうやって自分自身と向き合い、見つめ直したのが去年や一昨年なんですけど、その時の体験を基にして書いたのが“Under the Sun”です。今の世の中、将来についてあまりにも現実的に考え過ぎると絶望してしまうし、逆に自己肯定感が強過ぎるのも非現実的だし……。自分の中のイリュージョンと現実とのバランス感覚が大切なのかなって思いますね。

“HAZARD”は、オダくんが作った曲に僕が歌詞をのせました。自殺についての曲です。年間80万人以上の人が、世界中で自殺しているという話を聞いたのと、バイトで電車に乗ると、毎日のように人身事故が起きていることについて、色々と思うことがあったのでこの曲はそんなテーマで書きました。

──ところで、ライブではアイスエイジ(Iceage)の曲をカヴァーしているとか。

クワヤマ もともと僕は、ギターから音楽に入ったので、ああゆうノイジーなギターが入るバンドに弱いんですよね。もちろん、電子楽器が入っているポスト・パンクも好きなんだけど、彼らのように敢えてシンプルな編成で、当時のポスト・パンクを体現しているのがものすごくストイックだなと思ったんです。

──他にもカヴァーしている曲はありますか?

クワヤマ ダイヴ(DIIV)の“Doused”もカバーしました。今はジョイ・ディヴィジョンの“Ceremony”もカバーしていますね。まだバンドを結成して間もないですし、ルーツをみんなで認識するためというか、あとはアレンジの練習も兼ねてやっています。

“Doused” // DIIV(OFFICIAL VIDEO)

──最近聞いている音楽は?

クワヤマ ソフト・ムーン(The Soft Moon)、ソフト・キル(Soft kill)、Cold Showers(コールド・シャワー)などの現行ポストパンク、ダークウェイブや〈Cult Record〉周辺ですね。あとはエレクトロニックも好きで、ライバル・コンソール(Rival Consoles)やベン・フロスト(Ben Frost)なんかを聞いてます。最近はNo waveという80年代ニューヨークのパンクロックサブカルチャーシーンを掘り下げて聞いていますね。

ワタナベ 僕はドリームポップやシューゲイザーが好きで、ライド(RIDE)やスロウダイブ(Slowdive)やコクトー・ツインズ(Cocteau Twins)とかずっと聴いていますね。去年のビーチハウス(Beach House)の新譜は最高でしたね……。

オダ あれは最高だった……! 他にも、シェイム(Shame)とかノヴェル(N0V3L)とかめちゃめちゃかっこいいなと思いますし、DYGLやthe fin.、KikagakumoyoとかBO NINGENとか、海外でも活動している日本のバンドには刺激を貰います。

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──今後、NEHANNはどんなバンドになりたいですか?

クワヤマ まだまだ模倣の域を出ないと思っているので、今後もっとオリジナリティを探求していきたいです。よく正統派ポスト・パンクって言われるんですけど、あまりそこに固執しているわけではなくて。今後も様々な物事にインスピレーションを受けながら、NEHANNにしかない世界観を作り上げていきたいです。

Photo by Kodai Kobayashi
Text by Takanori Kuroda

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RELEASE INFORMATION

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Under The Sun

2019.09.20
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