ゆるふわギャングの登場は、2017年の邦音楽シーンにおける最大の衝撃だった。日本語ラップの慣習にとらわれない自由で未来的な音楽性と、男女カップルのラッパー2人が放つ強烈な存在感。彼らのデビュー・アルバム『Mars Ice House』は、世界中の音楽シーンを見渡したって、誰も見たことも聴いたこともないオリジナルな未来の景色へとリスナーを連れ出す、2017年を象徴する音楽作品だと断言していい。

彼らにとって激動と飛躍の一年となった2017年を締め括るように、ゆるふわギャングのフィメール・ラッパーNENEによるソロ・デビュー・アルバム『NENE』が届けられた。彼女はこれまでSOPHIEEという名前で活動していたが、このソロ作発表を機に、NENEへと名義を変更。「東京の中のオアシス」をイメージして、彼女のパーソナルな部分が全面的に刻まれた作品となっている。

制作の経緯や名義変更の意味、セルフ・タイトルとなったアルバムに込めた思いを本人に聞いた。

Interview:NENE(ゆるふわギャング)

【インタビュー】ゆるふわギャング SOPHIEEからNENEへ。「東京の中のオアシス」を描いたデビュー・アルバム interview_nene_1-700x1045

——今回のアルバムはゆるふわギャングでのSOPHIEEという名前から名義が変わり、「NENE」という名前でのリリースとなっています。まずは、この名義変更を決めた理由を教えてください。

NENEっていうのは本名ではないんですけど、自分の家族が私のことを呼んでいた名前で。小さい頃から、近所の人にもNENEって呼ばれていたし、地元の友達にもNENEって呼ばれているんです。今回のアルバムはソロなので、自分の内面に触れることも多くて、自分を表現したいと思っていたから、曲を書いている時に素のNENEに戻っている時も多くて。

——これからは、ゆるふわギャングとしてもSOPHIEEではなく、NENEとして活動していくということですか?

そうですね。そうしたいと思ってます。

——ゆるふわギャングがアルバムを出したタイミングでのインタビューで、次はNENEさんのソロ・アルバムを出すという話をされていました。その構想を考え始めたのはいつ頃でしたか?

自分はこれまでEPしか出したことなくて。ゆるふわギャングのアルバムを作り終わってからも、曲はずっと作り続けていたし、ソロ・アルバムを出すというのはずっと考えていました。

——具体的に作業を始めたのはいつ頃からですか?

ゆるふわギャングのアルバムが終わった直後から、です。Ryuくん(ゆるふわギャング・Ryugo Ishida)が参加してくれてる“High Way”とか“High Time”は、ゆるふわギャングと同じ時期に出来ていた曲なので、その辺りの曲から作っていきました。

——「東京の中のオアシス」をイメージして作られたアルバムだそうですが、品川出身のNENEさんにとって東京という街と、オアシスというイメージはどこから生まれたのですか?

私は本当にずっと東京で生まれ育ってきて、Ryuくんと出会ってから茨城に行ったりだとか、地方にライブで行ったりとかするようになったんです。そこからまた東京に戻ってくると、今まで見えてなかったものが見えた気がして。ずっと東京で暮らしていると、情報の多さに疲れちゃう自分もいるんですよね。茨城とか地方に行くと、やっぱりビルの数が少なかったりして、落ち着く自分がいるんです。でも、私はずっと東京にいるから、東京のことを嫌いにはなれなくて。だから、東京を嫌いにならないためにも、東京でこういう曲を作ることで、安らげる場所を作ったんです。聴いてくれる人にもそういう風に聴いてもらえたら良いなって思います。

——車の中にいる素に近いNENEさんが写ったアートワークもとても印象的ですね。

いつも助手席に座っているので。運転席に座っている人が書く歌詞と、助手席に乗っている自分が書く歌詞は違うなって最近気づいたんですよね。助手席に乗っている自分が感じているものを表現したかったんです。

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『NENE』ジャケット写真

——車の外の首都高速は森で覆われていて、恐竜がそこを歩いている。日常のすぐそばにもファンタジーは広がっているんだ、というメッセージなのかなとも思ったんですが。

それも間違いではないですね。私は恐竜が好きで、可愛いかなって思って(笑)。自分が住んでるところが品川で、お台場も近いんです。よく2人でお台場にも行くんですけど、ここに写っている道がすごい好きで。レインボーブリッジとかが近くて、すごく良い景色なんです。この辺りは埋め立て地なので、海も近いしビルも多いし、他にはない変な場所で、好きだから入れたいと思いました。

——ゆるふわギャングでは、映画などにインスパイアされて曲を書くことが多いとも仰ってましたが、このアルバムの制作過程で、音楽以外にインスピレーションを受けたものは何かありましたか?

ゲームボーイですかね(笑)。影響を受けたというより、単純にゲームボーイにハマってたんです。家でたまたま見つけて、『ポケモン』やり出したらハマっちゃったんです。スタジオに入る直前までずっとやってて、いいところで終わっちゃったら、スタジオの中でもずっと「ゲームボーイやりたい」って思ってたりして(笑)。それが“Game Boy Life”って曲になったって感じです。

——アルバムの前半5曲は自分の内面とか主張を伝える歌詞で、6曲目の“High Way”から情景描写が多くなっていくにつれ、見える景色が一気に広がっていくという構成のように感じました。この並びについてはどういう風に決められたんですか?

並びは最後の最後に決めました。自分で曲を作っていると、並びを考えるのが本当に難しくて。だから、第三者の意見は本当に助かりましたね。ファースト・アルバムだから、自分を全部出そうと思って作った曲が多くて。主張は常に強い方なので、そういう部分も含めた自分を表現したいという思いはありました。

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——“稼ぐ女”に出てくる、「現実はファンタジー」という歌詞が印象的でした。今回のアートワークもそうですし、NENEさんが音楽を作る上でのアティチュードみたいなものにも繋がっているような気がするのですが、このラインにはどういう思いが込められているのですか?

「現実はファンタジー」だって思っていた方がいいというか、その言葉ですごい楽になれるような気がするんです。嫌なことも良いこともあるけど、全部ファンタジーなんだって考えたら楽しいじゃないですか。自分に起こったりすることとか、全部曲と音楽に繋げちゃうんですよね。そうすると、「現実はファンタジー」だと思っていた方が、バッド・マインドになることもないし想像が広がると思うんです。

——“High Way”の《風を浴びて 見過ごす景色に自信を残して》や“風”の《開けるwindow風が流れて》など、車に乗って窓の外を流れていく景色を描写したラインからは、これまで以上にリリカルな印象を受けました。

景色を書くのは、助手席に座っているからじゃないかなって思うんですよね。助手席にいると、やっぱり景色が目に入ってくる。だから、景色についての歌詞っていうのは、Ryuくんと車に乗っている時に見えているものなんです。

——情景描写が多い曲の方が、よりポジティブな印象の曲になっているという印象も受けたのですが、それについてはどう思われますか?

でも、ネガティブな曲というのは書いてないですね。アルバムに入っている曲は全部ポジティブに書いたものです。ネガティブなことは書きたくないという決まりみたいなものは自分の中であって。だから、そこを分けて書いているわけではないです。