VaporwaveやFuture Funk、インターネット由来の音楽を中心に活動してきたアーティスト・Night Tempo。

竹内まりやの“Plastic Love”(のちにtofubeatsやFriday Night Plansがカバー)をはじめとしたシティー・ポップの世界的なムーブメントの中心人物であり、香港を拠点とするVaporwaveやFutureFunkシーンで紅色に輝くレーベル〈Neoncity Records〉に参加、配信やカセットテープ、レコード、CDを発表している。

Takeuchi Mariya – Plastic Love(Night Tempo 100% Pure Remastered)

4月24日(水)には、Winkの楽曲を公式にリエディットしたEP『Wink- Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』をリリースすることが発表された。ブートやリエディットが文化的な手法となっているVaporwaveでは、大きな事件とも言えるだろう。

さらに、4月26日(金)には渋谷・The Millennials Shibuyaで開催されている話題の和モノDJイベント<Japanese Things>への出演も決定。東京のシーンでも特異な雰囲気を放っている和モノシーンに、Night Tempoが「ザ・昭和グルーヴ」を逆輸入する。都会のど真ん中にあるにも関わらず、どこか隔離されているような変わったロケーションで、国際的でもありながら日本の土着的な雰囲気が醸し出されているフロアで彼の音を聴けるのは素晴らしい経験になるはずだ。

イベントの数週間前から来日していたNight Tempoは、用事が済んだら中野でアニメのビンテージポスターを集め、神保町で昭和アイドルのポスターやシングル盤をディグしに行くという。そんな彼に、話を訊いた。

Interview:Night Tempo

――日本には頻繁に遊びに来られてるんですか?

日本に初めて来たのは3年前です。たまたま日本のオーガナイザーからオファーをいただいて、渋谷のClub AsiaでDJをしました。それから結構よく来ています。〈Neoncity Records〉の主宰と、前のミックステープからイラストを務めてもらっているイラストレーターtree 13はクルーのように動いていて、昭和オタクの集まりみたいな感じです。レーベルの彼とは、一緒に日本に来てハードオフやリサイクルショップを回ったり、神戸の元町商店街とかを探検しに行ってます。

――すごいですね(笑)。昭和歌謡を好きになったきっかけはなんですか?

韓国の80年代初期では、日本で流行っていたものが4〜5年後に韓国で流行ったりすることが多かったんです。父親が海外からの仕入れなどの仕事をしていたので、偶然WALKMANや日本のCDを手に入れることができたんですね。その中に中山美穂さんのアルバムが入っていました。そこから、作品をプロデュースしてる角松敏生さんのことをディグしてネットワークを広げました。

でもその当時はネットに情報がとても少なかったのを覚えています。韓国ではネットの普及がかなり早かったのですが情報は探せなかった。ネットで実際色々聴き始めたのは2000年代後半ですね。

――角松敏生さんはNight Tempoさんにとって音楽を作ろうと思ったきっかけにもなったアーティストなんですよね。

彼の音楽を観て聴いて、いつか僕もそういう音楽をやりたいなと思ってます。今は形は違うんですけど、角松さんの音楽に近づけたくてそういう音楽を聴いたり、サウンドを作り始めました。今のところ、角松さんのライブは2年連続で観ていて、最初は中野サンプラザでツアー最後の公演に行きました。去年は大阪でツアー初日の公演を観ました。今年も確実に観に行きます。

サウンドが昔からすごく好みで、彼のメロディーラインなど、音楽では全体的に影響を受けてます。曲を編集している時も角松さんのカットを真似することが多かったりします。80年代からスクラッチやカッティングを取り入れて、時代の先駆者です。

海外だったらダフト・パンクですね。曲調もフレンチハウスと似ているので、影響は大きいと思います。

――ちなみにいつから音楽を作り始めましたか?

趣味で10年くらい作っていて、何かをネットにアップしたのは5年くらい前です。本気になったのは去年からです。

フューチャーファンク中心で今の形でリリースを始めたのは香港の友達がやってる〈Neoncity Records〉からです。一昨年から、モノを作るに当たって美学を持って、デザインから何までちゃんとしたものを作ってみようという試みをしています。僕はプロデュースみたいなことをやって、彼はプロダクトデザインをしています。プロダクトを作るのも作品のプロデュースの一つで、彼と失敗を繰り返しながら作ったフォーマットはいろんなところで参考にされているみたいです。彼らもアナログが好きなので共有できることも多くて、ディスカッションしながら作品を作ってもらってます。

――Night Tempoさんは先日、カセットテープのコレクションをアップロードしてるアカウントを作られましたよね。( @citypopcassette

はい。15年前くらいからカセットを集めてます。持ってるレコードは本当に好きな方々の作品で、角松敏生さんとか、竹内まりやさん、山下達郎さん、杏里さん。その辺りはだいたい持ってます。でも基本的にはカセットテープがベースで、カセットであれば大体のディスコグラフィーを持っていると思います。

――なぜカセットテープを集めるようになったんですか?

もともとWALKMANが好きだったことが大きいです。一緒にコンパクトにコレクトして行きたい。あと、自分だけ集めていることを考えたら、やっぱりカセットテープがいいんじゃないかなと思って。今は量が多くなって、自分の作業兼倉庫部屋を借りていて、そこに保管してます。ネタを取るときはカセットテープから取ることが多いです。有名な方の作品はネットにありますけど、僕が好きなアイドルの作品はあまりないんですよ。だから自分が持っているもの、ディグしたものから録音とって、使ってます。例えば僕の個人プロジェクト「Showa Idol Groove」では、全てのネタをカセットテープから取っています。

カセットテープからサンプルする人は多くないので、仲間もいなくてずっと1人です。でも最近はカセットテープやシティーポップも流行りだして、市場も盛り上がって。でも、大体持ってるものが多いので、高くなった作品とかは譲ってあげたりしてます。

――生粋のカセットテープディガーですね。

お金はほとんどカセットとか、あとCASIOの腕時計が好きで、集めたりしてます。80年代のものを集めるのが趣味で、香港に行ったり、日本も地方に行ったり、雰囲気があるところに行ってます。

80年代は僕にとって一番気楽になれる時代で、小さい頃の大切な記憶が詰まってる。その空気感や雰囲気を大事にしたいので、コレクトしています。今はあまりにも騒がしくて、忙しくて、自分の時間もないことが多い。それはキツいなと思います。

――でもインターネットは音楽の伝達には非常に良い機能を持ってますよね。

僕の場合、お金を稼ぐために音楽を作り始めたわけではなくて、ただ自分の好きなことを始めてみたら、たまたま上手くいっただけです。すごく真剣な仕事になったら嫌になるかもしれないですけど、自分が好きな時代の音楽や文化を今の人たちが知ってくれることは嬉しいです。それで時代のストレスは和らぐと思います。

――アメリカではすごい人気を得ていると聞きました。

ファンはアメリカやメキシコ、イギリスが多いです。ライブでも、日本や韓国でやるよりも本場のファンがいて、彼らは本当に情熱的なんですよ。コレクションしてる数とかも格が違う。サンフランシスコだったらFuture Funkのイベントだけで1,500人来たり、ニューヨークもかなりの数が集まります。

あと、彼らは文化に対しての情熱がすごい。ファッションではなくて、文化自体に対するエナジーが違いますね。音楽やファッションだけではなくて、カルチャー全体。アメリカでは中森明菜さんの曲とかをかけてます。

――Night Tempoさんが好きなアニメや映画について教えてください。

日本の作品だと『AKIRA』が好きです。アメリカだと『マイアミ・バイス』とか。好きなシーンを選ぶのは難しいですが、ドライブのシーンが好きなんです。『AKIRA』はバイク、『マイアミバイス』はビーチサイドで車に乗るシーンが多いのですが、とても好きです。

実際に雰囲気を味わうだけでタクシーに乗ったりします。韓国はタクシーが安いので。東京は乗れないですね(笑)。

――曲のイメージとばっちり合いますね。作品のアートワークにはピンクや濃いめの青が使われていますが、なぜですか?

イメージはセル画みたいな感じです。セル画というよりは、もっと古っぽいデザインにするんですけど、僕は色を強く使って、昭和の中でもネオン東京の感覚にしたい。色使いは派手なほど近未来的になるので。

イラストの絵で参考にするのは、基本的に『セーラームーン』ですね。あと『きまぐれオレンジ☆ロード』。

――今回リリースするEPについて教えてください。

元々はいろんな昭和歌謡のリミックスをやっていて、ご縁があり今回の企画が始まりました。Winkさんを選んだのは、単純に一番良いものができると思ったからです。ポスターとかカセット、レコードなど、自分は昔からWinkグッズのコレクションをしていたので、すごく良いきっかけだと思いました。

――それをFuture Funkにすると。とても楽しみです。なぜVaporwaveを始めたんですか?

5~6年前にこのジャンルを見つけたんですけど、その時はシーンがまだ小さかったので、みんなで色々情報を共有ながら、ジャンルのスタイルが出来上がっていきました。最初はVaporwaveからはじまって、スタイル的にはフレンチ・ハウスに近いサウンドに寄っていったんですね。その流れで試行錯誤していった結果、サンプリングネタにイタリアン・ディスコではなくて、日本の80年代の歌謡を使うことでダフト・パンク(フレンチ・ハウスを代表するアーティスト)とはまた違う音楽を作れることに気づきました。それからスタートして、かすかな手応えを感じてました。

2年くらい前からネットでシティー・ポップとか、Vaporwave、Future Funkが流行り始めたと思います。Future Funkのことを知らない人は、だいたいVaporwaveとして捉えていると思います。でも実際は違う音楽なんですよ。

最近、Future Funk以外で作っているのは、Lo-fi Hip Hopです。あと、ニュージャックスイングとか90年代初期の音楽で、他はジャズです。

――普段はどういう音楽を聴いてるんですか?

携帯に入ってる音源も昭和歌謡ばかりです。ネタを探したり、参考にできるような音楽をずっと聴いてます。今年は「昭和グルーブ」を中心にライブをするので、70、80年代の昭和音楽のミックスだけをかけるようにしています。

Vaporwaveは既存の作品をコピーしたりエディットしているんですけど、それをどう使うかによってただのコピーか全く新しい文化になるかが分けられます。その文化に対していかに真剣に向き合っているかによって、Vaporwaveの世界観が変わると思います。僕は古いものを今の時代に生きている人たちが聴けるようにしたい。英語の本を翻訳するのと同じだと思います。素晴らしい文化が20~30年前にあったんですよと。変わるのはいいけど、大切なオリジンを忘れずに何かが新しく始まったら良いですよね。

Night Tempo インタビュー|Vaporwaveで80年代の最高な思い出をコレクトし続ける interview190419-night-tempo-1

Wink- Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ

Night Tempo インタビュー|Vaporwaveで80年代の最高な思い出をコレクトし続ける music190408-nighttempo-2

Release

2019.04.24(水)

Tracklist

1. 淋しい熱帯魚(Night Tempo Showa Groove Mix)
2. 愛が止まらない ~Turn It Into Love~(Night Tempo Showa Groove Mix)
3. Get My Love(Night Tempo Showa Groove Mix)
4. Special To Me(Night Tempo Showa Groove Mix)

Japanese Things

Night Tempo インタビュー|Vaporwaveで80年代の最高な思い出をコレクトし続ける music190408-nighttempo-1

2019.04.26(金)
OPEN・START 19:00/CLOSE 23:00
The Millennials Shibuya

LINEUP

Night Tempo
DJ NOTOYA
にっちょめ
DJ 薬師丸

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