ニルファー・ヤンヤ(Nilüfer Yanya)は、EPのリリース段階でBBCの「Sound Of 2018」にノミネートされるなどして高評価を得ていたロンドン出身のトルコ系英国人シンガー・ソングライター。そんな彼女の待望のデビュー・アルバムが(5月29日に日本盤も発売された)『ミス・ユニヴァース』だ。

“UKソウルの新星”というキャッチが躍っていたりもして、まあ確かにシャーデーあたりに通じるUKソウルマナーと憂いと官能性が歌声にあったりもするが、しかしソウルと言うには彼女の弾くフィードバック・ギターがインディー・ロック~オルタナ・ロック的。曲展開と音の入れ方は奔放にして意外性に富み、例えばキング・クルールなんかと響き合う感覚もある。

昨年末から年始にかけて日本に遊びに来ていた彼女に会い、話を聞いた。

Interview:Nilüfer Yanya

Nilüfer Yanya – In Your Head(Official Video)

――(2018年の)クリスマスは京都で過ごしたそうですね。

ニルファー・ヤンヤ そうなの。兄が京都に留学していて、ふたりで料理をしながらクリスマスらしく過ごしたわ。

――まずはバックグラウンド的な話を聞かせてください。生まれはロンドンですよね。

ニルファー そう。サウスウエストに生まれて、今はウエストロンドンに住んでいる。

――ご両親の生まれは?

ニルファー ママの生まれはロンドンだけど、彼女の父親はカリブ海のバルバドス。パパはトルコのイスタンブール生まれ。ニルファーという名前は、昔トルコで流行ったらしいの。ニルファーというポップシンガーがいたからで、ママは妊娠しているときにその人の曲をよく聴いていて、女の子が生まれたらニルファーって付けようと決めてたそうよ。

――幼少時代はどんなふうに過ごしていたんですか?

ニルファー 両親がアーティストだったからクリエイティブな環境で、絵を描いたり何かを作ることをすごく奨励された。5歳の頃にピアノを買ってもらい、上手くなりたかったので一生懸命勉強したわ。家族みんながクリエイティブなことに関心があって、姉は私のMVを撮ってくれている。写真も姉が撮ってくれているの。

――ギターサウンドに拘りを持っていると思しき曲が多いですけど、初めに学んだのはピアノだったんですね。ピアノで曲を作ることもあるんですか?

ニルファー ずっとクラシックピアノを習っていたんだけど、18歳でやめちゃって、今はめったに弾かないわ。なぜならギターに興味が移ったから。ただ今回のアルバムにはシンセで作った曲もあったりするの。

――曲作りはいくつぐらいから?

ニルファー 11~12歳だったかな。初めは歌詞だけ書いていて、それからギターを弾きながら作るようになった。歌詞は自分自身のことというより、想像で書くことが多かったわ。実は今でもそうなんだけど、私は人とのコミュニケーションがあまり得意じゃなくて。内向型なのね。だからひとりで絵を描いたり曲を作ったりしていたわけだけど、それを誰かに見せたり聴かせたりするにはやむを得ず自分の心を開かなくてはならないわけで。それは私にとって、そんなに容易いことではなかったりするの。

Nilüfer Yanya – Thanks 4 Nothing | A COLORS SHOW

――となると、ライブは難しくないですか?

ニルファー うん。正直に言うと、私にとってライブパフォーマンスはあまり自然な行為じゃない。やっぱり私って内向きなんだなって思い知らされるわね。パフォーマンスは私にとってエクストリームなこと。それでも以前に比べたら少しだけ自信もついてきたけど。観ている人と繋がった感覚を持てることが、以前よりは増えた。だからなんというか、苦手意識と自信の両方が一緒に育ってる感じね(笑)

――学生時代には、オルタナ系バンド、The Invisibleのデイブ・オクームからギターを習っていたそうですね。

ニルファー 同じハイスクールの卒業生で、私が学生だった頃に彼はもうジャズ・ミュージシャンとして生計を立てていて、学校の音楽学科に教えに来てたの。当時はThe Invisibleがそこまでちゃんとしたバンドだって知らなかったんだけど(笑)。彼は今回のアルバムでも1曲プロデュースしてくれてるのよ。

――あなたは誰かと一緒にバンドをやりたいとは思わなかったんですか?

ニルファー 自分が書いた曲を自分で歌いたいというほうだから。ほかの誰かが作った曲を歌いたいわけではないので、やっぱりひとりでやるほうが向いていると思う。

――初めてバンドキャンプにアップした自作曲は「Waves」と「Cheep Flight」で、そこから活動がスタートしたそうですね。

ニルファー そう。部屋で作ったものを自分で公開しただけで、レーベルは通してないけどね。声がかかるのをジッと待っていても何も始まらないから、とにかく試しにネットにあげたわけだけど、これが意外に反響があったのよ。それからライブもやるようになって。

――そして2016年にデビューEP「Small Crimes/Keep on Calling」を発表しました。

ニルファー 「Waves」と「Cheep Flight」はあくまでもお試しで、自分ではちゃんとしたリリースと認めたくないけど、「Small Crimes/Keep on Calling」を発表したときはワクワクしたわ。あそこから自分の音楽が変わっていった気がする。

――同じ年にピクシーズの「Hey」のカヴァーも発表してますね。

ニルファー ピクシーズは14歳のときに勧められて大好きになって、かなり影響を受けているの。

Nilufer Yanya – Hey(live)

――ほかに影響を受けたアーティストは?

ニルファー キュアー、ジェフ・バックリー、ニーナ・シモン。比較的最近だと、フランク・オーシャン、ブラッド・オレンジ、エンジェル・オルセン。ほかにもたくさんいるけど。

――好きになるにあたっての共通項ってありますか?

ニルファー ギターかしらね。初めは所謂ロックが好きで、そこからインディー・ロックにズブズブはまって、ジャズやソウルも聴くようになったけど、ギターが印象的な音楽がやっぱり好きみたい。あとは歌詞もすごく重要。歌詞がよくないと好きにはならないかな。

――話を戻して、2017年にはEP「Planet Feed」を、そして2018年にはEP「Do You Like Pain?」をリリースしました。一通り聴いてみて、2017年の「Planet Feed」ぐらいから現在の音楽性が形成されていった印象を持ったのですが。

ニルファー 確かにそうね。とはいえ、あのEPからもう2~3年経つわけで、やっぱり“以前の私”って感じもするけど。

――曲作りは歌詞から始めるのですか?

ニルファー ギターを弾いてコードやリフなりが浮かぶと、同時に言葉も出てきて、そこからちゃんと仕上げるやり方が多いわね。メロディと言葉は昔から同時に出てくるものだった。

――自分の書く歌詞の特徴を言葉にすることはできますか?

ニルファー 限定的じゃない。いろんな解釈が成り立つ。「これはハッピーな曲です!」「これは悲しい曲です!」「これはラブソングです!」といったふうに一面的ではなく、多面性があるというのが私の歌詞の個性じゃないかな。聴く人によってどうとでも受け取れるものでありたいの。

――なるほど。ではデビュー・アルバム『MISS UNIVERSE』の話をしましょう。作り終えてどんな気持ちですか?

ニルファー 「できたーっ!!」っていう快感は確かにあるわね。1曲だけ2017年に書いた曲が入っているけど、ほかは全部2018年に作った曲なので、まだカラダに馴染んでなかったりもするけど、それらがこれからどう馴染んでいくかというのが楽しみ。

――アルバム全体のイメージなりコンセプトなりが先にあり、そこに向けて曲を作るやり方をしているんですか?

ニルファー 予めトータルのイメージがあったわけではなく、1曲1曲作りながら徐々に見えてきた感じかな。ただ、ストーリーらしきものはいちおうあって。主人公はある組織と常に電話で連絡をとりあっていて、その組織に導かれるがままに世界を旅していく……といったようなもの。描きたかったのは現代社会における競争の激しさみたいなことで、誰もが常に新しいものを求めて忙しく前に進んでいくなか、それに馴染めず置き去りにされている感覚を味わっている人の姿が浮かび上がる作りになっている。

――『Miss Universe』というタイトルをつけた理由は?

ニルファー なんでだったかしら?(笑)。ええっと、まず「Heavyweight Champion of the Year」ってタイトルの曲が先に出たわけだけど、みんなきっと、それって誰のこと? って思うでしょ。「Miss Universe」もそれと一緒で、誰のことだろ? ってなると思うの。そして、その人にはどんな物語があるのかなって想像したくなるんじゃないかと思って。というか、そもそもミス・ユニヴァースって言葉自体がおかしなものじゃない? ミス・宇宙、ミス・全人類。は? なにそれ? って感じで(笑)。そんなの存在するわけないのに、それをみんなが崇めるということのおかしさ。そんな感じが醸し出せればいいなと思ってね。

Nilüfer Yanya – Heavyweight Champion Of The Year(Official Video)

――なるほど。サウンドに関してはどんな拘りを持ってました? それほどいろんな楽器は入れてないけど、例えばサックスが主張する場面があったりするなど、ユニークな楽器の取り入れ方をしているなというのが僕の印象だったんですか。

ニルファー うん。確かにシンプルでミニマリスティックというところを基調にして、そこにノイズを加える、という考え方があった。その曲のなかで最も大事にしたいのはなんなのか、そしてその大事な部分を支えるのはなんなのか。それをちゃんと捉えることが重要だったわね。この曲のメロディは、歌詞は、どう進みたがっているのか。こう進ませるには、どういう楽器でどういうノイズを入れたら効果的か。そのあたりを考えて作ったの。

――ヴォーカルの生々しさがまた、すごくいいですね。ほとんど一発録りだったりするんですかね?

ニルファー そう感じてもらえるのはめちゃめちゃ嬉しい。そう聴かせたかったから。でも実際は必ずしも一発録りというわけではなくて。一回で生々しい感情をバーンと込められればいいんだけど、まだ私の技量がそこに追いついてないので、イメージするものに近づけるよう何度か録ったりもした。そのあたりは今後の課題でもあって、自分のイメージする生々しさを出せるようにするにはやっぱりもっとライブも頑張らなきゃダメね。

新世代のSSW・ニルファー・ヤンヤ インタビュー|誰もが常に新しいものを求めて忙しく前に進んでいく music190529-nilufer-yanya

取材・文/内本順一

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『Miss Universe』

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トラックリスト

01. WWAY HEALTH™
02. In Your Head
03. Paralysed
04. Angels
05. Experience?
06. Paradise
07. Baby Blu
08. Warning
09. Heat Rises
10. Melt
11. “Sparkle” GOD HELP ME
12. Safety Net
13. Tears
14. Monsters Under The Bed
15. The Unordained
16. Give Up Function
17. Heavyweight Champion Of The Year

ニルファー・ヤンヤ(Nilüfer Yanya)

ロンドン在住のトルコ系イギリス人ギタリスト/シンガーソングライター。ブラック・ミュージックに大きくインスパイアされながらもキング・クルエルにも通じるオルタナ・サウンドは、ピッチフォーク他主要音楽メディアでも高い評価を受けている。BBCが発表した「2018年期待の新人アーティスト」に選出され、さらに注目度をあげる。今年2月、EP『Do You Like Pain?』を発表。同年11月、最新シングル「Heavyweight Champion of the Year」をリリース。2019年3月にはデビュー・アルバム『ミス・ユニバース』をリリース。

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