──<テンション2013>に対する今回のツアーの位置づけは、<ライツ・イン・ザ・スカイ・ツアー>に対する<ウェイヴ・グッドバイ・ツアー>と相似形にあるようにも感じました。<ウェイヴ・グッドバイ>を最後に、1度は「激しいロック・パフォーマンスのショウはこれでおしまいにする」と言って活動を休止したあなたにとって、新機軸を打ち出した昨年の<テンション2013>ツアーから、さらに変わった今年のツアーは、<ウェイヴ・グッドバイ>と比べた時にどこがどう違っていると感じていますか?

いい質問だ。今のツアーと<ウェイヴ・グッドバイ・ツアー>のどちらもラインナップは4人だしね。違いはというと、まずひとつは、今回のほうがループや打ち込みのドラムが多いことで、なぜなら4人編成で生じる課題を今回は違う形で対処したからだ。その点については、これまで考えたことがなかったな。似たラインナップではあるけど、どういうわけか違う感じがする。曲が違うからなのかもしれないね。最新アルバムにフォーカスしているために、自ずと違うアレンジが求められるからかもしれない。いい点をついてくれた。自分でも今初めて気付いたよ。

──では、まもなく映像作品としてリリースされるであろう<テンション2013>でのツアーを今から振り返ってみてどう感じていますか? ああいったショウでの方向性は、このあと将来のNINで再び発展させられる可能性が残っているでしょうか?

昨年アメリカで行った<テンション2013>ツアーは、セットや演出が非常に派手なライヴだった。美術監督のロブ・シェリダンと2人で<ライツ・イン・ザ・スカイ>ツアーの手法から発展させて、1年がかりで完成させたものだ。そのツアーの映像をおさえておくべきだということもわかっていたし、今年のどこかのタイミングで何らかのフォーマットでリリースされるだろう。だから、今年以降に行なうものに関しては、それと距離をおきたいと思った。アルバム『ヘジテーション・マークス』をフォローする今回の一連のツアーは、昨年の<フジロック>から始まり、今年の夏まで1年ほど続くことになってるけど、その間中ずっと同じ形でやり続けることはない、と考えるようになったんだ。何区切りかごとに、独自の特性と感触を持たせていいんだってね。だから今年からはもう、ステージ・セットやバンドのラインナップを変えた。そうするに至った理由はふたつあって、ひとつは自分たちにとって面白いものにするため。もし自分に魔法の杖があって、ツアーを望み通りの長さにできるのであれば、3週間にするだろう。最初の週でライヴの感覚を取り戻して、次の週で満喫して、3週目で「もう終わるんだ」って気付くっていう感じでね。ただ現実には3ヵ月は続くわけで、どうしてもルーティーン化してしまい、その瞬間瞬間を肌で感じるのが難しくなる。頭でいろいろ考えることを強いられているような感覚になるーーこれを避けるためというのが第一の理由だ。もうひとつは、YouTubeなどの動画サイトの存在。いまや、みんながポケットに入る動画カメラを持っているおかげで、それから多くの音楽フェスが世界中にネットで生中継をするようになったこともあって、ファンにしてみれば自分の好きなバンドの近況を簡単に映像で見ることができるようになった。しかもネット上で永久保存とくる。だから、ツアーの一区切りをミニ・ツアーと捉えて、それぞれに独自性を持たせることにしたんだよ。今回のツアーは完全に前のに対する反動だ。前回は微に入り細に入り、とことん作り込んだ壮大で重厚感のあるライヴで、しかも毎晩毎晩、基本的に同じことをやっている感覚だった。それに対して、今回のほうがずっと即興的で、音楽に焦点を当てていて、内容も毎晩変わる。何が起こるかわからない危うさもあり、細かいことにこだわらず、完璧を求めないものになっているんだ。

Nine Inch Nails<Tension2013>

──昨夜のライヴでは、映画『ソーシャル・ネットワーク』のサウンドトラックから“Hand Covers Bruise”が演奏されましたね。今後は、サントラ用にトレント・レズナー&アティカス・ロス名義で提供した曲とナイン・インチ・ネイルズとしての作品との境界は薄くなっていくかもしれないという予感を持っていますか?

おそらくそうなるだろうね。最初はそれぞれ違う容器に入れて区別するつもりだった。ただ、実際どれも俺が手がけたものであり、繫がりがある感覚は持っている。だから、境界線は少し薄まっていくだろう。今夜もNINとは別名義で出した曲をやろうと考えてるんだけど、そういう柔軟性があってもいいと思っている(※前述の通り、この晩のショウでは、ハウ・トゥ・デストロイ・エンジェルズとしての楽曲を披露した)。上手くいけば上手くいったでいいし、もしも上手くいかなかったら2度とやらなければいいだけのことさ。やったら面白いんじゃないかと思ったんだ。『ソーシャル・ネットワーク』用に書いた曲をNINでやったのは昨日が初めてだよ。

──わかりました。では、最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

世界の裏側にある、まったく異なる文化圏に来て、自分の作品に何らかの形で心が動かされた人たちを前にステージに立てるということ自体、今でも驚かされるし、そういうオーディエンスの姿を見飽きることは絶対にない。そういったファンの存在に感謝している。長年ずっと応援し続けてくれて、新しいことに挑戦することを見守り続けてくれてありがとう。また何度でも戻ってくるよ。

text&Interview by Yoshiyuki Suzuki
photo by TEPPEI


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