⽇⾷なつこ 15th Anniversary -宇宙友泳-」と題し、2024年を通して活動15周年を祝う5⼤企画を展開中の日食なつこ。3月に開催された自身初の展覧会「『エリア過去』〜日食なつこを成したものもの〜」に続き、未発表曲ツアー「エリア未来」がいよいよ5月31日からスタートする。初披露の新曲のみという構成にも関わらず、チケット発売まもなく全公演ソールドアウトという現象は、日食なつこというアーティストへの信頼と期待値をそのまま表していると言っていいだろう。

前回のインタビューに続き、今回は「エリア未来」開催目前の日食に話を訊くことができた。前代未聞の未発表曲ツアーの概要と開催に至るまでの背景と併せて、のちに控える盛岡クラブチェンジでの3デイズ「エリア不変」、そして9月にリリースされるベストアルバム『日食なつこ 15th Anniversary BEST -Fly-by2024-』と同作リリースツアーであり、この1年間の“友泳”を締めくくる「エリア現在」について、現時点で公開できる情報を織り込みつつ、それぞれの企画に込められた意図を日食なつこ本人とともに紐解いていく。

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INTERVIEW
日食なつこ

未発表曲ツアー「エリア未来」出発前夜──日食なつこ、インタビュー interview240530-nisshoku-natsuko5

15周年を平和に終わらせてはいけない

──前回インタビューでは、「エリア過去」開催初日に活動15年を振り返るお話を伺いました。まずは、その後の展示への反響やご自身の所感をぜひ聞かせてください。

「エリア過去」については、音楽をやっている人間として、音楽じゃないところでみんながどれだけ反応をしてくれるかな? っていう不安と見通しのなさのほうが強かったです。だけど、いざ蓋を開けてみると平日でも常に来場者がいるという予測していなかった状況で、すごく嬉しかったですね。私がふらっと会場に行ったときも声をかけてくださったお客さまに「どこから来てくれたんですか?」って聞くと福岡だったり北海道だったり、本当に遠方からも集まってくださっていて。こちらが思っていた以上の熱量をお客さんにもらいました。

──そして『宇宙友泳』5大企画の第2弾「エリア未来」がいよいよ5月31日からスタートします。本ツアーは未発表の新曲のみ披露するという非常に特異な試みでもありますが、改めてそこにはどういった意図や経緯があるのでしょうか。

いろんな理由があるんですけど、誰もやっていないからやりたいっていうことがまずひとつ。あとは、最近新曲を書くスピードがちょっと異常で。2020年くらいからそういうモードに入っていて「この調子に乗っかって書き溜めとこうかな」くらいに思っていたんですけど、まったく止まらず、もう溜まっちゃって溜まっちゃって。早く貯蔵庫から出さないと腐ってしまうような状態なので、リリースを待っていられないし、「どうせ出すんだから別にリリース前ツアーをやっちゃってもよくない?」っていう。今回はコケてもいいから一回試しにやってみようということで、企画を打ってみました。

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──コケるどころか、全公演ソールドアウトです。

本当にありがたいです。

──未発表曲ツアーの開催は、2024年を総括のみの年にはしないという意思表示であると同時に、ご自身がやっていらっしゃる一連のアニバーサリー企画へのアンチテーゼ的な側面もあるのではと感じているのですが、勘ぐり過ぎでしょうか。

それはあると思います。15周年とは言いますけど、個人的にはまだなにもやり遂げていないまま迎えたこの15周年を平和に終わらせてはいけないっていう気持ちがあって。なので、まだリリースされていない楽曲のみをやるっていうのは、15周年の先もちゃんとあるから覚悟しておいてねっていう気持ちと、みんなへの感謝はありつつ、ただ祝うだけの気持ちがそんなに強くない自分自身への「もうちょっとがんばれるよね、ここからは」っていう鼓舞もあるのかもしれないなとは思います。

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観客と共に未来を泳ぐ

──今回の「エリア未来」は来場者にとってはもちろん、日食さんご本人にもメンバーの方々にとっても未知の体験なのではないでしょうか。4月19日に実施されたライブ配信『談話室』では未発表曲が1コーラス披露されましたが、いい空気感でツアーへの準備が進んでいるんだろうなと感じられました。

全部新曲なので、やっぱりメンバーさんは大変だと思います。この半年をかけて1曲1曲仕上げてきたとはいえ、全部新曲をいきなりツアーでやるって「ふざけんなよ」って思っていたでしょうけど。メンバーさん各々に他の音楽のタスクがいっぱいある中で「なんてことしてくれんだ」って思われている可能性もちゃんと自覚しつつ進めています。まさに昨日もリハをしたんですけど、みんなが演奏に集中しないと本当にいつ転げ落ちてもおかしくないっていうような状態。でも、それがあるからこそ曲がちゃんと仕上がってきている段階ではあるので、重たくて面倒くさい荷物を「がんばろうぜ」ってみんなで引っ張り上げているような感覚です。準備の段階でアレンジもどんどん変わっていっているので、そこは楽しんでやっています。

日食なつこ – スタジオライブ配信『談話室』

──「エリア未来」で披露されるタイミングが一旦の完成だとしても、今後リリースされたものはまったく違うアレンジになっている可能性もあるということですよね。つまりこれ、日食なつこ史においても貴重なタイミングを目撃することになのでは。

そうです。まだレコーディングをしていないからこそやれる遊びがいっぱいあるし、お客さんの反応を見てアレンジを変えていくこともできるので。リリースされていないからこその自由度をこれからのツアーで実感して、きっと味をしめるだろうなと。それに、このやり方こそ曲を作ってアレンジを決めていく作業の一番正しいかたちなのかなっていうふうにも感じているところがあります。私に限らずリリースってなると、とりあえずレコーディングに間に合うようにアレンジをつくって、出来たものを繰り返し練習してツアーをやるって流れだと思うんですけど、そこにもっと時間をかけてアレンジを深められる余地があるんだとしたら、このやり方はたぶんある種の正解なんじゃないかって。

──観客にとっても「お決まり」がないからこそ楽曲そのものに没入できるところがあるのかもしれません。今回のライブでは、曲名に代わるアルファベット一文字と歌詞の一部が書かれたセットリストが配布されるそうですが、そちらも今まで見聞きしたことのない試みですごくワクワクしています。

今回披露するのは全10曲。セットリストに歌詞を少しだけ載せることで、得られる情報はないけどなんとなく手触りだけは伝わればいいかなと思っています。ちなみにアルファベットは、曲名の頭文字ではなくアレンジを始めた順です。『談話室』で披露した”H”もお客さんは「H=叡智?」なんて難しく考えてくれていましたけど、8番目という意味の”H”。それで、ワンマンで10曲だと時間が余るので、最後に客席からリクエストを募って、聞こえたアルファベットを無差別に決めて最後に3曲やって終わりっていうのが、このライブのパッケージになるかなっていうのを考えています。

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さらに、10曲のうちの1曲をすごく低い音質でグッズとして出します。どれだけ音質が低いかっていうと、普通にボイスレコーダーをリハスタでポンって置いて録ったものをちょっと整えて出すっていうレベル。ちょっとこれニュアンスが伝わるのか難しいですけど、高音質を追いかける時代にあえてお金を出して買えるレベルではギリギリの音源をあくまでグッズとして売り出すっていうことちょっとやってみたくて。

──体験することが総じて後々の語り種になるという意味で、「エリア未来」というタイトルが効いてきますね。あのとき目撃した我々も未来の一部だった、という。

まさに、「俺たちも未来の一部だったんだ!」って感じになるといいかなって思って。実際に浴びないとわかんないっていうところが本当に多い企画ばっかりなんで、私たちまわしている側も情報に溺れつつ、なにしろ私が一番溺れつつやっているところです。でも、楽しいですね。お客さんが浴びた瞬間が、私たちにとって気持ち良いなってなる瞬間だったりするしので。「エリア未来」では、お客さんと私、私とメンバー、日食本人とチームっていう、いろんなところで「してやられた!」の応酬と相互通行があると思うので、楽しみにしたいなと思っています。

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盛岡クラブチェンジに帰る「エリア不変」

──ここで一旦、お話を「エリア不変」に移します。ご自身にとってホームグラウンドである岩手・盛岡クラブチェンジでの3デイズ、思い入れも相当なものなのでは。

すごく正直に言うと、岩手になにかを還元しようとはまだまだ思っておらず、強いて言えばクラブチェンジが私をずっと見ていてくれたところへの意思表示です。そもそもそこまで地元愛がある人間でもないし、地元になにかを還元するための日食なつこでも絶対ないから。

──音楽に限らず、どこの分野でも同郷ということで地元愛を期待したり、なにかしら想いを託してしまうようなことはあると思うんです。

田舎だから特にそうなりがちというか、東京や大阪みたいに多種多様な街からアーティストが出ることに比べたら岩手からアーティストが出ることって珍しいので、そこにみんな着いて行きがちになると思うんです。でも、だからこそ潰している可能性もあるんだよっていうのは、この15年私なりにずっと見てきたから思うところがあって。

──この節目の年に意思表示をすることに重みを感じますね。

正直まだ考えが纏まりきってはいないところもあるし、私が意固地になっているだけという可能性ももちろんすごくあるんですけども、この15周年で帰る場所は岩手ではなく日食なつこの原点、盛岡クラブチェンジにあるという意思を組んでもらおうかなと。

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すれ違っても進み続ける歴史

──そして「エリア不変」のあとに続くのが、9月にリリースされるベストアルバム『日食なつこ 15th Anniversary BEST -Fly-by2024-』。本記事公開時点では収録曲など具体的なことは発表されていませんが、コンセプトなどについてお話を聞かせてもらうことはできますか?

まず、アルバムタイトルの「フライバイ」という言葉。同じタイトルの曲が活動一年目にすでに存在しているんですけど、これは惑星の近くを宇宙船が通り過ぎるときのことを表す言葉なんです。日食にはじまり、天文用語や宇宙にまつわる言葉をたくさん使ってきましたけど、18歳の時点で「フライバイ」にビビッときて拾ったところが始まりだったっていうのは、やっぱり大事にしたいなあと。惑星の横を宇宙船が通り過ぎる瞬間、言ってみれば人と人とのすれ違いにも置き換えられますよね。少ないけども私もそういうすれ違いをいっぱい重ねての15年だったなって。たまたま見たライブとか聴いた音とか、いろんな人と掠めてきた人生の分岐点みたいなものの積み重ねがこの15年間だよっていうところで、この言葉を使おうかなって。

──あくまで、すれ違うだけ。着地はしないんですね。

そう、すれ違って通り過ぎていくだけ。日食なつこらしさが一年目にしてすでに出てたいたなという。歌詞の中にも《対向車線をすれ違ったあの人とは もう出会わないだろう/さよなら お元気で」っていう一節があって、そのときすでに自分の人生を示していたのが今になってみると面白いなってちょっと感じています。多分一生そういうスタンスでやっていくんだろうなって。

──素敵です。アートワーク的なところでもすでにイメージが固まっていたり?

それは、まだまだですね。どうしようかな。

──「エリア過去」で披露された日食さんの絵の才能が発揮されるのかなとか、「宇宙友泳」のアーティスト写真や別カットのコンセプトフォト的なものをもっと見たいなと勝手に期待を膨らませています。

「エリア過去」に展示した絵は十年以上前のものなので、あれを今描けるかっていうとちょっと心配ですね。描くとしてもメインのビジュアルにまで持ってこられるクオリティではないので、みんなからの反響もあったし趣味プラスα程度でやっていこうかなぐらいの感じです。「宇宙友泳」のコンセプト写真は好評で、チーム内でも「これいいね」っていうふうになっているので、ベストアルバムのビジュアル周りにまで反映させてもいいのかもしれないです。さて、どうしましょうかね。

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──ひとつ伺ってみたかったのは、「アーティスト本人にとってのベストアルバムとはなんぞや?」という疑問です。世の中にはベストに前向きではないアーティストもいらっしゃいますが、日食さんご自身はいかがですか?

私もそっち派です。単純に「だって、もう出てる曲じゃん!」っていう。それをまたまとめなおすことのズルさは、ちょっと自分の心に引っ掛かるところではあります。一度出したものを出すからには、相当考えてこの企画を走らせなければいけないし、この15周年にそれ相応の意味を持たせなければいけないわけで。

──そこは、アーティストとしてのプライドであると同時に、受け手への誠意なんだろうとお話を聞いていて感じます。この取材時点では「日食なつこ楽曲総選挙2024」と題した楽曲投票の真っ最中。つまり収録曲は確定していないということですよね?

選曲的なところは、実はもうほぼ決まっています。よっぽど揺らぐことがあるとしたら、私が入れるつもりのなかった曲が総選挙でドンっときたとき。そこは日食の民たちの民意を組んでいこうかなと思っています。ただやっぱり、難しいですよね。日食なつこの曲にどう出会ってくれたかっていう質問項目もあるんですけど、回答を見てるとみんなバラバラだし、表が散らかっちゃっていい意味で参考にならないんですよ(笑)。たぶん、みんなもそこをわかって遊んでくれてるんじゃないかな。どちらにせよ収録曲の決定は投票結果をもうちょっと見守ってからかなって感じがしています。

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──そして、11月から翌年始にかけてベストアルバムを引っ提げたツアー「エリア現在」が控えています。過去最大規模であり、5大企画の締めくくりとなりますが、現時点での意気込みはいかがですか?

15周年の最後の企画ではあるんですけれど、このツアーを新しい原動力にして16年目以降にやろうと思っていることをすでにいっぱい考えているので、終わりでありブーストにせねばと思っているところではあります。「エリア現在」でも「エリア未来」でやった楽曲をやれたらいいのかなとは思ってますね。うん……今ちょっとお漏らししそうになりましたけど、これ以上はちょっと言えないな。でも、まあ15周年の最後の企画だから、過去・未来・不変、そして『日食なつこ 15th Anniversary BEST -Fly-by2024-』と、先に走った4つの企画を全部まとめて出せるといいかなとは思っているので、楽しみにしていてほしいですね。

──ツアーのラストは、2025年1月10日(金)TOKYO DOME CITY。『宇宙友泳』の締めくくりであり、新年堂々の幕開けですね。16年目以降もやろうと思っていることはいっぱいあるとのことですが、そのひとつは「エリア未来」への到着だったりしますか?

未来への到着は、もうちょっと先かもしれないですね。ただ、2025年からのなにかをツアーファイナルで発表することになるんじゃないかな。2024年が始まってからのこの半年間、私としてはずっと忙しくしていましたけど、5月末時点ではまだ5大企画のひとつしか実施されていないので、ここからはみなさんが忙しくなる番ですね。5〜6月で「エリア未来」、7〜9月にかけてはいろんなフェスに出演して、10月に「エリア不変」、そして11月からツアー「エリア現在」が始まり……と、ここからテンテコ舞いになると思うので、今が最後の息抜きの時間だと思っていろいろ調子を整えてもらって、ここからの半年を一緒に走り切ってもらえればうれしいです。

未発表曲ツアー「エリア未来」出発前夜──日食なつこ、インタビュー interview240530-nisshoku-natsuko1

Interview & Text:野中ミサキ
Photo:横家暉晋

日食なつこ 15th Anniversary -宇宙友泳-
特設サイト

INFORMATION

日食なつこ15th Anniversary -宇宙友泳-
未発表曲ツアー『エリア未来』

全公演sold out
5月31日(金)大阪|BIGCAT
6月1日(土)愛知|ボトムライン
6月7日(金)札幌|cube garden
6月14日(金)福岡|DRUM LOGOS
6月15日(土)広島|Reed
6月21日(金)東京|EX THEATER ROPPONGI
6月23日(日)新潟|LOTS
6月29日(土)仙台|Rensa
追加公演
7月6日(土)東京|duo MUSIC EXCHANGE

日食なつこ 15th Anniversary -宇宙友泳-
盛岡3DAYS『エリア不変』

10月12日(土)岩手 the five morioka
10月13日(日)岩手 盛岡Club Change
10月14日(月・祝)岩手 盛岡CLUB CHANGE WAVE

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