ピアノ弾き語りソロアーティスト・日食なつこが、前作『アンチ・フリーズ』からわずか7か月後に4作目のアルバム『ミメーシス』を完成させた。芸術において「模倣」や「再現」という言葉に訳される『ミメーシス』という言葉を日食は「擬態」と解釈し、コロナ禍で感じたことをさまざまな物事に「擬態」させながら13の楽曲をしたためた。

これはどんな感情を、どんなものに擬態させて曲にしたのか?

そんな謎を解くための楽しみと戸惑いを、さらに深いものにしているのがビジュアル面。日食は、昨年3月にリリースされたシングル『音楽のすゝめ』でもタッグを組んだアートディレクター・うざきひろみと再度タッグを組み、時に草案を用意し、時に現場でさまざまな実験を行いながら、アーティスト写真、『ミメーシス』ジャケット、内容物の細部に至るまで、徹底的にこだわりぬいて制作された。

今回は日食とうざきによる対談を実施し、二人の出会いから今回のコラボレーションの話までを聞きつつ、謎の多い『ミメーシス』という作品を紐解いていく。

対談:日食なつこ × うざきひろみ

対談:日食なつこ、『ミメーシス』『音楽のすゝめ』のデザインを手がけるうざきひろみと語る創作の姿勢 interview220415_nisshokunatsuko-uzakihiromi-01

歌からビジュアルに
「材料」と「レシピ」

━━『ミメーシス』の話を伺う前に、お二人の出会いから教えてください。

うざき 私は10年以上前から日食さんのファンだったんです。ラジオを聴いていたら、たまたま“ヒューマン”が流れてすごくいい曲だと思って。それで当時YouTubeに上がっていたライブ動画を観たら、今よりもっと見た目が初々しくてまだ学生さんみたいな見た目なのに、声が力強くて雰囲気もあるし、こんな人がいるんだと思ってそこからファンになったんです。

それで最近、私個人のTwitterアカウントを作った時に、日食さんのことをフォローしなきゃと思ってフォローしたらフォローし返してくれて。なので「ファンです」っていうDMを送ったんです。そしたら返信していただいて。

日食 コロナ禍で、通常の音楽活動ができない!って暇になった時に、何かひねらなければいけないと思ったんです。何か新しい風穴を開けなきゃいけないと。で、実はTwitterのフォロワーをさらうところから始めたんです。

見ていると、プロフ文だけで何かが香り立つ方っていうのがいるんですよ。「この人たぶん何かの人だ」っていうのが分かる謎のアンテナがあって。その中でも、うざきさんはアイコンの時点でかわいいイラストで、「何か作ってる側の人だ」ってビビッときて。それでお仕事を拝見したらそれらがみんな綺麗だったし、アウトプットの個の強さも感じたし。こんな何でもできる方がフォローしてくださっているんだったら、もう何か一緒にやるしかないのではと思い、普段はそんなフォローバックしないんですけど、フォローを返したんですよね。

うざき ちょうどTwitterにたくさん投稿している頃だったので、タイミング的にもちょうど良かったんですね。

日食 作品が全部いいんですよ。手法も毎回アナログだったりデジタルだったり違って、どの角度からも「守備100」みたいな方で。

うざき うれしいです。

━━お二人が一緒に作品を作るのは2021年のシングル『音楽のすゝめ』からですが、DMのやりとりから実際に作品作りに参加するまでの流れはどのように?

日食 その時一番リリースが近かったのが『音楽のすゝめ』だったので、コロナ禍のどさくさに紛れて「一発作ってみませんか?」みたいな、勢いに任せたオファーをしたと思います。

うざき 本当に考えてくださっていたんだとすごく驚きました。

━━『音楽のすゝめ』の時は、日食さんからはどういうオーダーがありましたか?

うざき 最初にお話を頂いた時は、タイトルが文豪っぽいので本っぽく、というオーダーを頂きつつ、これまでの日食さんの昭和レトロみたいなイメージではなくて、もう少し現代の味付けとかポップな印象にしていきたいという話がありました。なので、蛍光色を入れたり幾何学図形を入れたりなど現代っぽいニュアンスは残したデザインにしています。

━━中身の楽曲はもちろんのこと、装丁も素晴らしいもので、個人的には2021年の音楽作品で一番のジャケットだと思います。

日食 そうなんです。このパッケージはモノとしての満足度が凄いんです。もともとCD、歌詞カード、謎の冊子という3点セットが入るのは決まっていて、そこにいろんなアイディアをうざきさんに出していただいて。

うざき 箱にするという案はもともとあって、印刷会社さんのアイディアで留め具(玉紐)を使用するというのがあったので、ニュアンスと合うと思って選びました。

━━この封筒の留め具があると手紙をもらったような気になりますよね。楽曲も決意表明というか、果たし状みたいな歌詞で。

うざき 今おっしゃった通り、『音楽のすゝめ』の歌詞がそもそも決意表明みたいで、日食さんからの強い言葉、目標に掲げるようなメッセージだと感じたので、全体的に本のようにしようと思いました。パッケージの厚みも本当はもっと薄くできたんですけど、本棚に飾っておいていつでも手に取れるように、ちょっと厚みを出していただいたり。

━━冊子の日記の中に挿絵が出てきますよね。これは?

日食 (実物を手に取りながら)わざわざこんな絵を用意していただいて……痒いところに手が届く。

うざき 挿絵も全部私が描いています。ちょうどコロナ禍で会社に行かない状況だったんですけど、手描きの作業は仕事場でしたくて、人がいないフロアで一人で描いてたのが思い出深いですね(笑)。

日食 コロナ禍といえば、このシングルがコロナになって1年休んで第1発目のリリースだったので、私は気持ちが凄く入ってたんです。その気持ちに本当に伴ったパッケージになったから、本当にめちゃくちゃ嬉しくて、普通のケースじゃなくてよかったって思ってます。

うざき その思いは私にも伝わってきました。特にこの(日記の)文章を読んで思いましたね。激しい内容も多かったので(笑)。これが日食さんがふつふつと溜めてた言葉たちなんだ……って気合いが入りました。もちろん、ファンだからっていうのも強いんですけど。

日食 文章の中身だけで言ったら、なんでこんなの出したんだろってくらい恥ずかしくて読めないものなんですけど(笑)。

━━パッケージに描かれたさまざまな模様に意味はあるんですか?

うざき 昔の本の表紙を参考にさせていただいて、お花や植物の装飾的な模様をモチーフとして選んでいます。ただ見たことがありそうで見たことの無い表紙にしたいと思っていて、例えば現実では存在しない架空の花にしています。その中でレトロになりすぎないように幾何図形や、手招きするような手を毒っけのある要素として入れ込んでみたりしています。手の後ろにある丸は日食さんの名前の一部でもある太陽をイメージしています。

日食 今回アーティスト写真も撮影していただいたんですけど、その時もいろんな要素を組み合わせて、結果どこにも属してないビジュアルになるんです。すごいレシピだなと思って。どう辿り着いてるんだろう?って思ってました。

うざき やっぱりちょっと毒っけのある要素とか、例えば綺麗ごとだけじゃない歌詞とか、日食さんから感じるイメージみたいなものをこの中に入れているから、日食さんからのインスピレーションが大きいと思います。

日食 本当ですか? ありがとうございます。他の作品を見ても、いい意味で個性を出さずに、綺麗にオーダーに沿っていく感じ、適応力が高い!っていう。その適応力の高さで、日食にもふさわしいレシピをバンバン出してくれるすごい人なんです。

━━でも、そのレシピの材料ひとつひとつも、元はご自身の歌詞から出てきてるわけじゃないですか。

日食 すごい嬉しい反面、自分の中には「日食なつこと言えばこれ」っていう決められた型があってそれしかできないから、うざきさんみたいにいろんな畑を飛び回りながら、それぞれの畑に適した肥料を撒いていけるのが羨ましくもあります。

うざき いやいや。私は私に適応したクライアントにアサインしてもらってることが多いのかな、って思うこともあります。どうしても作るものがポップになりがちで、シャープでモノクロ、みたいな案件が出来なかったこともあったし、なかなか適応できない現場もありました(笑)。大人になると、できること/できないことが勝手に出てきちゃいますよね。

日食 いや、私から見たら十人十色に変えていけてますよ。去年かな、うざきさんのTwitterで「与えられた課題に応える方が向いている」みたいな呟きを拝見して、それを言い切れるってすごいなって思ったんです。我を出していきたくなってしまわないのかなって。未だにそれを割り切れずによく分からないことになってる表現者って凄く多いと思いますよ。

うざき 作り続けるってことが一番難しくて、芸大にいた時に自分の作品を作ってはいたんですけど、世に求められてるかも分からないものをずっと作り続けられるほどのエネルギーが私の中には無かったんですよね。「何を世の中に発信していきたいのか」とか、「どういうメッセージを込めたいか」とかがなくて。どちらかというと求められることに対してどう応えるか、っていう方が向いていて。だから日食さんのようにゼロから生み出し続けられる人には尊敬しかないし、何を原動力に作り続けられるのか知りたいです。勝手に出てくるものなんですか?

日食 勝手に出てくるものですね……。

うざき すごい! だからできるんですね(笑)。

日食 だからすごいペースでリリースしないと、どんどん曲のストックが腐っていっちゃう。もったいないけど、気分が変わったから一生歌わないみたいな曲もあるんですよ。モチベーションもないけど、勝手に出てくるから。

うざき ここが違いですよね。芸大でもそういうタイプの人はいて、どんどん創作意欲が出てきて作れちゃう。そういう人はアーティストとして活躍していくんです。

━━でもミュージシャンでも、映画やCMの数秒ぴったりに曲を書くとか、そういうオーダーに応えるのが得意な方もいますからね。

日食 適不適っていうのは本当に人によって違いますね。

対談:日食なつこ、『ミメーシス』『音楽のすゝめ』のデザインを手がけるうざきひろみと語る創作の姿勢 interview220415_nisshokunatsuko-uzakihiromi-09

「日食なつこといえばこれ」をハズす

━━さて、日食さん4作目のアルバム『ミメーシス』が3月30日にリリースされました。まず、『ミメーシス』とはどういう意味の言葉ですか?

日食 「ミメーシス」という言葉は「擬態」とか「擬病」━━その病気にかかっていないのに症状が出ること━━とかいろんな意味がある言葉なんですけど、要は何かをまねっこしているという意味ですね。

━━その「擬態」というのは、何が何をまねっこしていることなのでしょう?

日食 どの曲も、何かの作品について書いていたり、とある作品の主人公の気持ちで書いていたりしています。元ネタを分かる人には一発で分かるようにしてるけど、でも分からない人には絶対分からないように全部擬態してるんです。そういうのがたくさん隠れているのが今回のアルバムで。うざきさんには一緒に作ることになった時に、13曲分のセルフ注釈みたいな文を1曲ずつ書いてお送りしました。

うざき かなり意外な元ネタの曲ばかりで面白かったです。

━━その元ネタの正解は明かされないんですか?

日食 明かすつもりはないんですが、本当に分かる人には分かるので、どこかから流れてくると思います。ワードチョイスからして絶対アレじゃん!っていう感じで緻密に歌詞を書いたので。聴いた時点で分からないということは、それは元ネタを知らないだけなんです。

うざき 私も「これは明かさないんですか?」って聞いたら、「元ネタはあるけど、それぞれ個人の曲になってほしいから言わないんです」って言われて、そうなんだ……って思いました。

日食 元ネタを聞いたら嫌な気持ちになるお客さんもいると思うんですよね。もうそれ用の曲でしかないじゃんって。今回はそういう曲が溜まっていたので、たまたまこういうコンセプトにしたんです。そしてビジュアル全般は、今回もうざきさんにオファーしました。

━━なるほど。……というオファーがあり、うざきさんはどういうデザインにしようと思いましたか?

うざき 初回盤のジャケットは日食さんの草案があって、すでにそこにアイディアが詰まっていました。昔の図鑑のようなイメージで、14枚のカードが付いてくる。カードには日食さんの顔があって、(最初の1枚以外の)13枚にはそれぞれの曲をイメージした加工がしてある、と。

━━図鑑のようなジャケットに窓枠があって、そこから笑顔の日食さんの顔が覗いてるのは面白いですね。しかもそれが14パターン入れ替えられる作りになっています。

日食 コレクター要素みたいなもので、この曲が好きだからこのカードにしようとか、今日のモード的に砂で隠そうとか、そういう個人個人の好きな擬態をしてほしいっていう遊び要素ですね。日替わりにするとか、1枚だけどこかに貼っておいてもいいですし。私もそうやって好きなアーティストのコンテンツで遊ぶのが好きなんですよね。

━━日食さんって一般的にクールなイメージがあると思うんですけど、この笑顔の写真を見た時に「これ作った人は分かってる!」って思ったんです。本当はこういう人だから。

日食 実はこれも私からこういう写真でというお願いをしていて(笑)。

━━えっ。これはうざきさんの案じゃないんですね。

日食 はい。これまでのアーティスト写真はずっとキリっとクールな感じで作っていたので、それはそれでいいんですけど、こういうのがあってもいいんじゃない?って思ったんですよね。初回盤のイメージとしてはずっと図鑑が頭の中にあったので、そこに使う写真は文庫本とかにある作者の写真、それも笑顔の文豪みたいなのがいいなと思ってて。だからこれはインタビューに答えてる写真なんです。Twitterでお客さんから来た質問に対して喋ってる最中の写真っていう。

うざき 私も普通に考えたらクールな日食さんを撮ると思うし、さっきも話のあった「日食なつこといえばこれ」っていうものを作ってたと思います。でも、この笑顔の写真ってそこからハズしてますよね。それをチョイスするっていうのは、変わっていきたいという意思表示なのかなって思いました。意外性がありますよね。

日食 まさにその通りですね。このタイミングでこういうハズした姿を見せなければ、このあと一生それを見せるタイミングはないぞって思ったので。

━━なぜ決められた型からハズしていくんですか?

日食 なんででしょうね……。クールなだけの一面で戦おうとすると、いつか絶対限界が来る。なぜなら私は全くクールではないから。それに、長く音楽を続けていらっしゃる歴代の先輩方って、自分自身を遊ばせるためのこういうハズしを絶対どこかのタイミングで入れてるんですよ。そうしないと生き長らえることはできないから。だから私も寿命を長くするために、そういうことをしておいた方がいいと思ったんですよね。お客さんも笑ってましたよ、「めっちゃわろてるやんけ」「どうしたなつこ」って(笑)。

━━その一方で、通常盤にも使われているアーティスト写真はプリズムで撮ったものになっています。これはなぜですか?

日食 こちらはうざきさんのアイディアで。

うざき いろいろなものを擬態で表現しないとなと思って、アーティスト写真はその場でいろいろ検証しながら撮ったんです。最初はブックレットの中にもある、レンズの中に影を入れたギミックで撮れないかと思ったんですが、プリズムで撮るのも面白いなと思ってその場で実験しながら撮ってみたんです。

日食 その場で作っていく感覚がめちゃくちゃ面白くて、決め切っていないで写真を撮るというのが面白かったんです。この写真も擬態っぽさを感じますよね。最初は全然違うアイディアの予定だったんですけど、もういいじゃん、これで行きましょうって。

━━ジャケットのモチーフとして「図鑑」というキーワードが出ましたが、何かひとつひとつの動植物に意味はありますか?

うざき 昔の図鑑にあるような植物の他に、これも『音楽のすゝめ』とリンクしていて手を入れたり、寅年だからトラを入れたり。

日食 あ、やっぱり?(笑)。

━━今回ツアーグッズにもトラがいますよね。

日食 そうなんです。グッズにも使用させていただいています。

うざき あとは、やっぱり少し毒を入れるために蝶々ではなく蛾を置いてみたり、何かの幼虫を入れてみたりっていうことですね。

━━それは収録曲からインスパイアされたものですか?

うざき もちろん曲は聴いているんですが、この曲からこの要素を入れたというよりかは、どちらかというと全体的な印象を意識しています。

日食 毒っけがあるのが好きなんです。投げたら投げた3倍くらい返していただけるので、私も押し負けないように頑張らなきゃって思います。

━━それは、中の音楽にそれだけパワーがあるからじゃないでしょうか?

日食 だといいなとは思いますけどね。

うざき この隙間のない感じがうまく表現できたらいいなって思ったんですよね。図鑑って情報がすごくたくさん載ってますし、『音楽のすゝめ』以上にぎゅっと情報量が詰まった印象にしたかったんです。

日食 このイラストもうざきさんが描いてるんですよね。

うざき はい、描いてみようと思いまして。

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尊敬する相手の作品をモノとして残す意思表示

日食 元々のスタートは絵描きなんですか?

うざき 私の原点は子供の頃描いてた絵で、それしかできないから大学は美術の道に進んだんです。でも美大って課題があっても手法は自由で、「時の形を表現せよ」って言われたりした時に、絵よりも立体物の方がやりやすかったんですね。だから大学では立体ばかりを作っていて。で、仕事を始めてから絵が好きだったことを思い出して。でも最終的には自分の絵を使うことってあまりなくて、プロのイラストレーターさんにお願いすることが多かったんです。日食さんのものに関しては自分も一緒に作っていきたいという思いがあったので、昔得意だったイラストで参加させていただいているっていう感じですね。

日食 だから何でもできるんですね。写真もできるし絵もできるし立体もできる。

うざき いやいや……(笑)。

━━『ミメーシス』の収録曲で印象に残っているものはありますか?

うざき 私がいただいたイメージの中だと“シリアル”という曲はシリアルキラーの曲だったりして、強めの曲が多い印象がありました。

日食 あれも元になるシリアルキラーがいて(笑)。

うざき 明るくハッピーなイメージの曲もあるんですが、強くて暗いイメージに引っ張られた感じがありますね。白より暗めの色だなとか。

日食 色に音がそのまま出てるって感じですね、とても嬉しいです。これがこのアルバムの色なんだな。

━━なのに笑顔なのがまたいいですね。

うざき そうなんですよ!

日食 こいつマジのシリアルキラーですよ(笑)。

一同(笑)。

日食 酒井さん(インタビュアー)は、「日食なつこは年々優しくなってる」ってよくおっしゃっていて、それは悪い意味ではないというのも言っていただいてるんですけど、今回その優しくなってる日食なつこの最先端としてどう聴こえました?

━━僕も強さとか毒っけは感じるんですが、それすらも心地いいんですよね。それは優しさとは別で、グロテスクでも居心地がいいとか、例えば『最下層で』という曲ではどん底にいるのに気持ちいいみたいな。それはさっき話に出た、暗いのに笑顔のジャケットのミスマッチ感に通ずるところがあると思います。

うざき そうかもしれないですね。

日食 それは狙ってたところではあるかもしれないですね。明るくウェイト軽めにいきたい私がこの笑顔で、でも曲の中では聴く人をめちゃくちゃ責め続けたいという気持ちがこのジャケットの暗い色であり。今私の中にはいろんな要素があって、どれでも攻められる状態になっている。そのプチ万能感みたいなものが「喜怒哀楽グチャ」の中にいるのかもしれないですね。だから初回盤のビジュアルは今の私をそのまま落とし込んでいただいていると思います。

うざき 元ネタを聞いたからかもしれないですけど、曲と歌詞の感じが歪な感じなんですよ。合ってるのか合っていないのか真っすぐ表現しきっていないというか、あえてのずらしを入れてるというか。今の話を聞いて思いましたね。みんなが想像できる範囲のものをあえてしないようにしているのかなって。

日食 そうですね。例えば“√-1”っていう曲は、サビに《いくら手繰って寄せ合ったって存在しない数を それでもiや虚ろと呼んで知った気になったあの夏を》っていう歌詞があるんですけど、《それでも愛や》って聞こえると思うんですよね。でも歌詞では虚数を表すiを使っているとか、他にも歌詞をよく読むと当て字になっているとか、そういうのを拾っていくことで元ネタにたどり着ける人はたどり着けるようになっていて。そういう個人的なこだわりで擬態して擬態して、聴く人を惑わせているっていう感じなんです。

━━そうやっていろいろ考察して惑わされるのがだんだん気持ち良くなってくるんですよ。

日食 そういうのが今回、アートワーク含めてうまくできたなと思います。数学に詳しいわけではないんですけど、このカードの計算式は虚数を用いた等式を書いています。

うざき 式だけじゃなく、色分けの指定もあったんですよ。だから、何だったんだろう?って思ってました。

日食 こだわりが過ぎてすみません(笑)。分かる人には分かるように、いろんなところにヒントを込めすぎて。

うざき 答え合わせが欲しくなっちゃいますよ。

日食 でも答えは本当に言わないようにしようと気を付けます。そういうコンセプトの作品なので。

━━さて最後に、音楽の聴かれ方がストリーミングだったり動画サイトだったり、あるいは情報に付随したりして聴かれることが主流になっている中で、ちゃんとデザインにもこれだけこだわって、モノとして欲しくなる商品としての音楽にこだわっているのはなぜでしょうか。

日食 やっぱりうざきさんみたいな素晴らしいクリエイターを見付けて一緒にやりたいとなると、その尊敬する相手の作品をデジタルだけに留めておくのってすごくもったいないことですよね。やっぱり手に取って愛おしいと思いたい。だからモノにするっていう感じですかね。それにデータなんて飛んだら一瞬で消えますから。モノだったらそのリスクがちょっと低いですからね。残したいモノとしての意思表示です。

うざき うれしいです……。

━━ある意味レコーディングですよね、記録しておくという意味で。最後にもうひとつだけ。先日の<ドリップ・アンチ・フリーズTour>はパーカッショニストの木川保奈美さんと周られて、木川さんも元々は日食さんのファンだったとおっしゃっていました。今回、うざきさんも日食さんのファンということで、日食さんがファンと一緒に作品や音楽を作るというのはなぜなんでしょう?

日食 それは私がずるいだけです(笑)。私のことを好きだという人と一緒にやった方が理解度は深いに決まってるじゃないですか。よく知らない人とやってどうするの?っていう。ありがたいことに私のTwitterには数万人のフォロワーがいらっしゃって、その中にものすごい感性を持った方って絶対にたくさんいると思うんです。だから、いろんな方と出会っていくのがTwitterやってる人の義務じゃないの?と思うんです。

▼記事はこちら
LIVE REPORT|日食なつこ<ドリップ・アンチ・フリーズTour>@横浜・1000 CLUB

━━先日のツアーファイナルのMCでは、「10年選手のファンもいると思うけど、次一緒に作品を作るのはあなたかもしれない」と言っていましたよね。

日食 それは本当にそう思ってます。うざきさんも昔、“ヒューマン”と出会ってくださったおかげで今ここにいるわけで、10年の想いを熟させて実らせた人たちがまだまだいると思っているので、こっちも頑張ってアンテナを張り巡らせていないといけないですよね。

うざき Twitterやっててこんないいことがあるのかって思いましたし、ファンからしたら夢のような話でしかないですよ。フォロワーの人はアピール頑張った方がいいかもしれないですね(笑)。

日食 プロフ文からどんどん匂わせてほしいですよね(笑)。

日食なつこ – 4th Full Album「ミメーシス」Trailer

Text:酒井優考
Photo:寺沢美遊

PROFILE

対談:日食なつこ、『ミメーシス』『音楽のすゝめ』のデザインを手がけるうざきひろみと語る創作の姿勢 interview220415_nisshokunatsuko-uzakihiromi-08

日食なつこ

1991年5月8日岩手県花巻市生まれ、ピアノ弾き語りソロアーティスト。
9歳からピアノを、12歳から作詞作曲を始める。高校2年の冬から地元岩手県の盛岡にて本格的なアーティスト活動を開始。直接人の心の琴線に触れるような力強い歌声、そして緻密に練り込まれた詞世界、作曲技術が注目を集め、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』、『FUJI ROCK FESTIVAL』など大型フェスにも多数出演。2021年にリリースした3rd Full Album「アンチ・フリーズ」が第14回CDショップ大賞2022・入賞作品に選出。ギターやベースなどの楽器、そして時にドラムのような打楽器のパートさえもピアノひとつで表現する、独自のプレイスタイルを軸に活動を続ける。ライブではピアノ弾き語りのほかに、ピアノ×ドラムのみのシンプルな形態で臨むがことが多く、ライブハウスやホールだけでなく、カフェやクラブ、お寺や重要文化財等でもライブを行い、数々の会場をプレミアムな非日常空間に作り変えてきた。強さも弱さも鋭さも儚さも、全てを内包して疾走するピアノミュージックは聴き手の胸を突き刺さし、唯一無二の音楽体験を提供する。

INFORMATION

対談:日食なつこ、『ミメーシス』『音楽のすゝめ』のデザインを手がけるうざきひろみと語る創作の姿勢 interview220415_nisshokunatsuko-uzakihiromi-07

ミメーシス

2022年3月30日(水)
日食なつこ
<初回限定盤>
¥6000(+tax)
366-LDKCD
形態/仕様:窓付BOX仕様(通常盤CD+標本風カード) フルアルバム

<通常盤>
¥3000(+tax)
367-LDKCD
形態:CD フルアルバム 

<収録曲>
01 シリアル
02 √-1
03 クロソイド曲線
04 meridian
05 必需品 (album ver.)
06 夜間飛行便
07 vip?
08 un-gentleman
09 hunch_A (album ver.)
10 小石のうた (Natsuko singing ver.)
11 悪魔狩り
12 うつろぶね
13 最下層で

「蒐集行脚」(しゅうしゅうあんぎゃ)

2022年4月9日(土) 岩手 岩手県公会堂 OPEN 16:30 / START 17:30
2022年4月16日(土) 北海道 共済ホール OPEN 16:30 / START 17:30
2022年4月23日(土) 広島 ブルーライブ広島 OPEN 16:30 / START 17:30
2022年4月24日(日) 香川 香川県文化会館 芸能ホール OPEN 16:30 / START 17:30
2022年5月14日(土) 愛知 名古屋市北文化小劇場 OPEN 16:30 / START 17:30
2022年5月20日(金) 東京 LINE CUBE SHIBUYA OPEN 18:00 / START 19:00
2022年5月21日(土) 宮城 シルバーセンター交流ホール OPEN 16:30 / START 17:30
2022年5月27日(金) 大阪 森ノ宮ピロティホール OPEN 18:00 / START 19:00
2022年5月29日(日) 福岡 電気ビルみらいホール OPEN 16:30 / START 17:30
2022年6月4日(土) 新潟 LOTS OPEN 16:30 / START 17:30
2022年6月18日(土) 沖縄 桜坂セントラル OPEN 16:30 / START 17:30 [追加公演]

全席指定/前売 ¥6,500(tax incl.)

<一般発売>3月5日(土)10:00〜
<沖縄公演 チケット先行>3月25日(金)12:00〜4月3日(日)23:59

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