いわゆる邦ロックを中学生で通過し、高校から大学時代に現代ジャズ、ネオソウル、ヒップホップがロック以上にロックの精神性を体現したタイミングにリアルタイムで邂逅。多くの意識的な20代のバンドに共通する体験を彼らNOMAD POPも持っている。

2019年初頭に現在のメンバーで始動し、同年6月には“move”がSpotify公式プレイリスト『キラキラポップ:ジャパン』に3週連続で選出されて以降も、続々とニューカマーをピックアップするプレイリストに取り上げられてきた。

横ノリのグルーヴを軸に持ちつつ、鮫島竜輔(Vo/Gt)が手掛ける歌詞やメロディーには日本の民話的な世界や、ユーモアを含んだ絵本のような普遍性も含まれている。コロナ禍の渦中に制作されたミニアルバム『PRISMATIC NOMAD LOVE』にはリモート制作ならではの情報量過剰積載なアレンジが時にカオスを呈していたが、それでも歌はまっすぐ耳に飛び込んでくる。

誰かのようで、誰でもないユニークネスで注目されてきた彼らが、6月1日に3ヶ月連続リリースの第1弾“いろはにほへト”を配信リリース。タイトルが示唆するように“言葉”を言語の習得と使用に分解したような切り口で聴かせ、サウンドも次の一手が示されている。ポップの意味が刻々と変化する時代にあってバンド名にPOPを冠したこの5人組のこれまでとこれからとは?

INTERVIEW:
NOMAD POP

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━━まず、結成の経緯を訊かせてください。

鮫島竜輔(Vo/Gt) もともと高校の軽音楽部を通じて結成したんです。ベースの袋本とギターの和田とドラムの高清水が同じ高校で、僕だけ違う高校で。今、軽音楽部って甲子園みたいな感じで大きい大会とかやってるんで、それを通じて知り合って。で、結成して。僕と袋本は幼馴染でもあるんですけど……で、キーボードの狩野は大学を通じてですね。

━━高校時代は共通して好きなバンドはあったんですか?

高清水完太(Dr) 当時は邦ロックバンドばっかりでもないんですが、でも共通点はありましたね。

━━ちなみに最初はコピーですか?

高清水 僕らの高校の軽音部がオリジナル曲をひたすら作ってやるっていうのが方針のひとつだったんで、あまりバンドとしてコピーを何曲もやったって感じではなかったです。

━━面白いですね。

鮫島 僕の高校も夏に最初の合宿があるんですけど、その合宿で1曲、最初にオリジナル作らせるので、そこからずっとオリジナル作ってやっていくみたいな感じでしたね。

━━専門学校の作曲科みたいな。

鮫島 (笑)。確かに良くも悪くもロックじゃないかもしれない。

━━鮫島さんは最初から打ち込みとかしてたんですか?

鮫島 いや、作曲し始めたのは高校からなんですけど、昔ちょっとジャズピアノとかやってて。で、小中がちょっと合唱に力を入れてるような学校だったんで、音楽的な感性みたいなものをそこでちょっと培いつつ、高校で初めて作った感じですかね。

━━どんな感じの曲でしたか?

鮫島 どうだろう。僕、よく言うのはNUMBER GIRLとフー・ファイターズ(Foo Fighters)を足して2で割ったみたいな(笑)。

━━ゴリゴリのオルタナじゃないですか。

鮫島 そうですね(笑)。よく学校の人に言われたのは、僕、結構静かだったんですけど、文化祭とかですごい煽ったりして「ギター持つと人格変わる人」みたいな。

一同 (笑)。

━━高清水さん、和田さん、袋本さんがいた4ピースバンドはどんな感じだったんですか?

高清水 オルタナって言っちゃえばオルタナ(笑)。何系なんだろう? まあでもNUMBER GIRL系かも(笑)。

袋本和寛(Ba) NUMBER GIRLとお祭りを足して2で割ったみたいな。

和田 燎(Gt) あと、お祭りとNothing’s Carved In Stoneみたいな(笑)。それと頭悪い感じを出して。

━━当時の高校生の青春的な感じではあったんですね。

鮫島 そこに力を入れて、みんなで「本当に楽しかったね」っていう青春時代だったなって感じですね、思い返すと。

━━もう終わったみたいな感じですね(笑)。

一同 ははは!

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NOMAD POPのルーツミュージック

━━NOMAD POPって名前がついたのはいつ頃ですか?

鮫島 これが本当に2019年に始めるタイミングで。

━━NOMAD POPを始める際には狩野さんももう加入していた?

狩野龍太郎(Key) そうですね。最初になんかNOMAD POPって名前じゃない、お試しライブに。

鮫島 公的にNOMAD POPとしてライブをする前に一回、公に何も言わずにライブやろうっていうので、そこでサポートやってもらって。

高清水 最初からいたかのようなぐらいの雰囲気ですごい溶けてこんでくれたんです(笑)。

狩野 その年の5月ぐらいに声かけてもらって一回ライブやって、その日に入って(笑)。

鮫島 二つ返事でオッケー(笑)。

━━その時にはもうすでにその最初のリリースの『move/ジャックとブナの木」みたいな音楽性になっていた?

鮫島 リリースした曲はもうそのライブの時からやってたので、特に毛色は変わってないかなっていう。

━━でも高校時代からは全然違うわけですよね。

鮫島 そうですね。やっぱ各々の音楽的な趣向の変化とかも大いにあったのかな。

━━それって高校生から大学で聴くものがガラッと変わった自覚はありますか?

鮫島 でも、たぶんみんな共通してるのはセッション系が強かったもんね。

和田 R&Bとかに興味を持ち始めました。

鮫島 ロバート・グラスパー(Robert Glasper)とか大学で始まったね?

━━『Black RadioⅡ』リリース時ですかね? ロックの中で違うジャンルを見つけたっていうよりは全然違うものを見つけた感じですか?

鮫島 個人的には延長にあったなって気がして。結局NOMAD POPっていうバンド名をつけたのも理由なんですけど、2016年ぐらいにアメリカでヒップホップがポップスの中で一番売れた頃で、自分たちも自然とそれを聴くようになって。いわゆるその精神性的に果たしてどっちがロックなのか? みたいな話もあるじゃないですか。というところで、音だったりメッセージっていうところで、自然と他のジャンルにもロック的な要素を見つけて広がっていったっていうのが大きいのかなっていう気がします。

━━例えばフランク・オーシャン(Frank Ocean)の『Orange』とか。

鮫島 そうですね。僕の中でフランク・オーシャン以前・以降で本当に音楽の捉え方が変わっちゃったなと思ってます。

━━あの頃バンドやってる人は多かれ少なかれ出会ったのかも。

鮫島 多分、2016年が他のアーティストもエポックメイキング的な作品が多くて。ビヨンセ(Beyonce)も『Lemonade』以降、オリジナルアルバムを出してない。で、チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)もそのタイミングで。やっぱ同時多発的なもので僕らみたいなものでも自然と触れざるを得ないというか(笑)。触れることができるぐらいの波になってたのかなっていうのは思いますよね。

和田 その前にディアンジェロ&ザ・ヴァンガード(D’Angelo And The Vanguard)の『BLACK MESSIAH』も出たし。あれもロックだった。

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(L→R) Gt.和田燎、Vo/Gt.鮫島竜輔、Key.狩野龍太郎

━━ところで狩野さんは割とルーツにジャズがあったりするんですか?

狩野 僕はもともと中学生の時にローリング・ストーンズ(Rolling Stones)から海外の音楽を聴き始めて。最初、ギターをずっとやっていたので、そこからジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)とか聴いて、そのバックミュージシャンに結構興味持ち始めて。ジャズ界隈の人もジミヘンの後ろで演奏したりしてて、そこから結構広がりました。大学時代もソウル・ファンク系のセッションサークルに入って行って、ジャズにもちょっと触れてます。

━━鮫島さんのルーツはどんな?

鮫島 バンドは最初やりたいって思ったのは聴いた音楽で言うとやっぱりBUMP OF CHICKENとかASIAN KUNG-FU GENERATIONが最初の記憶として強いんですけど、僕、6個上の兄貴がいて。兄ちゃんが中学校の文化祭でバンドをやっていてて。それにすごい憧れて始めた要素が強いかもしれないですね。で、そこからレッド・ホット・チリペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)とかジャミロクワイ(Jamiroquai)とか聴くようになってっていう経緯があるんですけど、今の自分のメンター的な部分にあるのはビートルズ(The Beatles)とカニエ・ウエスト(Kanye West)が強くて。

━━すごい、神&神(笑)。

鮫島 やっぱそこだなっていうふうになんか自分の中ではなったって感じですかね。自分が何を作りたいのかと思ったときに、一番思い返すっていうのはやっぱりその2組になるんですね、今は。で、ビートルズはどっちかっていうといわゆるオルタナティヴな色が強くなった中・後期以降が好きですかね。ミックスの感じとかも影響を受けた部分が強いのかなっていう。

━━カニエ・ウエストはどういう部分ですか?

鮫島 「それとそれ一緒にしていいんだ」みたいな(笑)っていうところが聴いててすごいあって。全然違う曲が急に始まったり。あと、やっぱり僕は昔ちょっと合唱に力入れた学校にいたっていうのもあって、声が全部楽器になっちゃうんだなみたいな、フィーチャリングする人も自分の楽器の一種みたいな感じで使っちゃうじゃないですか、カニエって。そこはすごい憧れますね。

━━高清水さんは?

高清水 ドラム始めた理由が単純にゲームの「太鼓の達人」がすごい好きで、当時ひたすらやってて。親に「そんなに叩くの好きなら、知り合いにドラムやってる人いるからそこの教室紹介してもらいなよ」って言われたのが中学生ぐらいで、ドラム始めて。そこから軽音楽部が強い高校を紹介してもらって、そのままバンド始めたって感じだったんです。それで高校卒業してから当時同期で軽音楽部界隈のレジェンドだった鮫島にNOMAD POPの前身バンドに誘われたって事がバンドを続けるにあたっての一番大きなきっかけではあります。

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(L→R) Dr.高清水完太、Ba.袋本和寛

━━なるほど。

高清水 聴いてた音楽とかは割としまちゃん(鮫島)と近くて。 入りはBUMP OF CHICKENをPSPに入れて聴いてたんですけど(笑)。そっからあとは 自分のドラムのプレイスタイルとかにつながってくるんですけど、ロック系のインストとかを聴くようになったり、高校時代に友達にEDMオタクみたいなのがいて、プレイリスト作ってもらって全部貰って聴いてたり、あとはハードコア系とかですかね。共通してるのはドラムという楽器はリズム系の楽器なんですけど、支えるっていうよりかはメロディーラインを表現するようなジャンルが多かったんですね。それが今のプレイスタイルにつながっているなっていうのを感じます。

和田 バンドを始めたきっかけはアニメの『けいおん』なんですけど。バンドを始めてスティーヴィー・レイボーン(Stevie Ray Vaughan)ってブルースギタリストを知って、そっからギターにすごいのめり込んでいっていう感じですね。一番どっぷり浸かったところとしては。

袋本 僕は中学校で鮫島と同じサッカー部だったんで、結構一緒に遊んでいて。鮫島のお兄ちゃんの影響とかもあったのか、レッチリとかジャミロクワイとか自分が聴いたことないバンドっていう音楽を割と結構流してくれて。それがきっかけで、俺もギターやってみたいなと思って。で「バンドやろうよ」って、中学校の催しで一緒にやったんですけど、僕は当時から眼鏡かけてたんで、「いや、眼鏡はベーシストだろ」と言われて。

一同 (笑)。

袋本 じゃあまあいいかってベースやって。でもレッチリのベースとかめっちゃカッコいいじゃないですか。そういうのでどっぷり浸かってったって感じですね。

━━皆さん一応00年代の邦楽ロックは通ってきてるんですね。

鮫島 共通してあるかもしれないです。

━━そういう背景を持ってるバンドがすでにもう2019年の段階で“move”みたいな曲を出してるっていうことに驚きます。グルーヴするSF的民謡世界みたいな曲なので。

鮫島 なんかあんのかな? 変になった理由はあんのかな。

袋本 一番好きなものはそれぞれ違うから、混ざっちゃってる。

NOMAD POP / move

ファンクなサウンド、フォーキーでパンキッシュな歌詞

━━NOMAD POPの曲作りはどんな手法なんですか?

鮫島 基本は誰かが作曲の元となる楽曲をDTMでバンド音楽として、ワンコーラス作っちゃって。で、だいたいそこにその他の楽器の音も入ってるんで、「こういう曲にしたいんだよね」っていうコンセプトを最初にその作ってくれた人が提示して。で、それに合わせてメンバーがちょっとずつ自分の色を追加してアレンジして行くみたいなのが多いですね、今は。

━━これまでにリリースされている曲はどれも特徴的なんですけど、動画が多く見られた曲でいうと“45のセカイ”とか。この曲の種は誰ですか?

鮫島 僕が持ってって。G-ファンクが好きなんで、その感じを……見ても分かる通り、僕らはイケイケの陽キャラとかではないんで(笑)、ちょっとナードな日本人のバンド解釈みたいなことができたらどうなるかな? みたいなことを考えて作りました。

━━サウンドはファンクなんだけど、鮫島さんの歌詞は描き方がフォーキーでもありますね。

鮫島 そうですね。あと、先輩から「パンキッシュな側面はあるよね」みたいなことを言ってもらえたりしますね。オタクっぽい中にも棘があるのかもしれないですけど(笑)。

━━いや、棘だらけでしょう(笑)。2020年のミニアルバム『PRISMATIC NOMAD LOVE』にはなかなか濃い曲が集まってました。

鮫島 ラーメン二郎みたいなモリモリな曲が五曲も入ってる(笑)。今思うのはやっぱコロナで自粛期間になっちゃって、で、ちょうどその時期にマネージャーのTOKIOさんと会って。で、一緒にやっていこうって話になったんで、「自分らでやってやるぞ」って意気込みと、コロナ禍の鬱憤みたいなので、元気過ぎちゃったんだろうなっていう。

━━(笑)。その頃、集まれる状況はあったんですか?

鮫島 その時はコロナだったんで、データをオンラインでやり取りして作ってました。

袋本 ほぼオンラインでアレンジ完成させて、後スタジオでちょっとレコーディングみたいな。それも二郎系になった原因かもしれない(笑)。

鮫島 実際にスタジオでやり取りしてたら「こういうフレーズ弾くんだな、弾けるんだな」ってことが分かると思うんですけど、オンライン上なんで「これぐらい行けるっしょ」みたいな過激な物をガンガン入れてくんですよ(笑)。

━━あのミニアルバムが完成したことで、二郎系になってしまう第一章が終わったのかもしれない。

鮫島 まあ明確にちょっと二郎と別れを告げたかもしれない(笑)。 周りには面白いって言ってくれる人も多いんですけど、僕ら的にはちょっとクールダウンしようと。

PRISMATIC NOMAD LOVE/NOMAD POP

海の向こうへ届ける音楽よりもまず身近な人に届く音楽を

━━NOMAD POPの音楽は海外とのリンクより、時代を変えてきた日本のバンドを思い出させるんですよ。その辺はどうですか?

鮫島 他のメンバーはちょっとわかんないんですけど、僕は今のとこ世界的にどうのとかはそんなに思ってなくて、自分たちが一番最初に触れたいわゆるJ-POPと言われるようなものを作りたいなっていう気持ちがありますね。あと根底のところで思うのはやっぱり今って日本そのものがすごく辛い場所になってる気がするんで、それを差し置いて、じゃあ海の向こうへっていう風に個人的に思えてないっていうのが大きいですかね。まず身近な人に明るい気持ちになってもらえるものを作りたいなっていうのはすごく大きいですね。

━━それすごい感じます。今現在、同世代ぐらいのバンドでシンパシーを感じる人たちはいますか?

鮫島 まあでもあれだよねさっきのLINEで出たけど、単純にビアリ(Bialystocks)とか。

袋本 あとGhost like girlfriendとか。

━━先人っていう意味ではサカナクションとか、Base Ball Bearとかそういう人たちの名前も浮かぶんですよね。

鮫島 今出たバンドは全部結構自分たちの憧れのところにあるので(笑)、すごく嬉しいですね。

━━ボカロは皆さんの世代だとどうなんですか?

高清水 黄金期って言われてる時に小学生だったんで。中でも僕は一番聴いてるかもしれないですね、当時。

━━ハチさんとか。

鮫島 そうですね。僕も作曲では結構、初音ミクを使うんですけど、ボーカロイドは高清水ほど聴いてなくて、自分の好きな女の子がハチさんのこと好きだったりして、嫉妬したみたいな(笑)、そういう記憶。

一同 ははは。

━━曲作りをする人には遠くもない世界なのかなと。

鮫島 そうですね。でもその要素で言うと僕は結構ニコニコ動画そのものが大きくて。 当時の歌い手さんを勝手にたくさん集めて合唱曲にしちゃうみたいなのが結構流行ってて。今、実際に僕らもごちゃ混ぜの合唱みたいなのを曲として作ったりしてるのはそういう違和感とか面白さみたいなのが強いのかなって気はしますね。

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一人でも多く明るい気持ちを見出せる音楽でありたい

━━今回、6月1日から3ヶ月連続で配信シングルをリリースするいうことで、今回からは曲作りからフィニッシュまで考え方は変わりましたか?

鮫島 結構変わった気がしますね。なんか生身のバンド感みたいなものを追求したいなって思ったですかね。肉体的な部分をもうちょっと音楽として落とし込たいなってのがあって、1年前に出した曲とかに比べると、スタジオでみんなでセッションして考えて作っていくっていうのが多くなったし、多分これからもそういう作り方をしていくんじゃないかなって気がします。

━━今回はデモを必要以上にごちゃごちゃさせずに?

鮫島 そうですね。そういう意味だと今までより多分デモは簡素にしてあって、それをこうおのおのでどうバンドナイズして行くかみたいな側面は強かったかもしれないです。僕らもこの辺がバンドの土台になっていくんじゃないかなと、今回の三部作に関しては思っているところです。

━━だけどやっぱりなんか相変わらず歌詞はすごく聴いてしまいます。

鮫島 ありがとうございます。

NOMAD POP / いろはにほへト

━━ちょっと絵本みたいな世界観を持ちつつも毒があるみたいな感じなのかなと思って。鮫島さん的に詞のインスピレーション的なところって例えば詩を読んだりとかあるんですか?

鮫島 たとえば僕が山口一郎さんぐらいめちゃくちゃ詩集を読み込んでいるかというとそうではないと思うんですけど(笑)、たださっきの合唱っていう話もあったんですけど、詩集を読むぐらいに好きなのは谷川俊太郎さんで。簡単な表現を使ったりもするし、ものすごく遠回しな言い方をしたりもするんですけど、その中に人の根源的な部分だったりとか、はっとさせられるようなことを、時に笑っちゃうように、時にちょっと残酷なような書き方をしたりするっていうところで言うと憧れではありますね。

━━読書家ですか?

鮫島 本の虫かって言われたら全然自信ない(笑)、まあ上には上でひたすら上ががいるんで。これとは歌詞とは違いますけど、村上春樹さんもめちゃくちゃ好きですね。世界の書き方、なぜ異界とか異形のものを出すのかっていうところとかに、人間の根源的な悩みだったり、あとはすごく孤独というものを優しく書くっていう印象があって、そこはすごく好きですし、詞に反映されているか分かんないですけど人生観として影響はされてると思います。

━━なるほど。新曲の「いろはにほへト」はまさに合唱的なところも特徴的で。

鮫島 今回は今までで一番その側面を前に出してて。コーラスライン、男性のテノール、バスと女声もあって、混声四部の合唱で、おのおのがどういうメロディーをたどってどうハモっていくかっていうところを今までより一番楽しんで作っているのが、まあ今回の三部作の特徴かなって感じはします。

━━今回の曲に関してのそれぞれのアプローチとしては?

狩野 今までと考え方は結構変わったなっていう印象で、スタジオで多分一番ジャムって作ったところが大きいかもしれないですね。だから『PRISMATIC NOMAD LOVE』みたいに自分らの力量の上を行くってよりは、もっとグルーヴとかを大事にして、自分らの範囲内で、よりちょっと新しくやるっていうところは意識したというか。

袋本 例えばドラムがなんかフィルしたら、じゃあそこ行こうとか、そういう話し合いでアレンジを組み立てて行ってるんで、バンド力はより強くなってるなっていうところはあると思います。

狩野 今までのアレンジは5人じゃ絶対できない音数を入れてて、ライブでも同期の音に頼って演奏してたんですけど、今回シンセみたいな音を例えばギターで出すとか、そういうものを人力で全部やっちゃうみたいな。昔クイーン(Queen)のレコードに「これはシンセ入ってません」って書いてたあの感じには結構憧れて作りましたね。

和田 結構ベタなソロを入れたりとかね(笑)。

━━アレンジのせいか、「言葉は教えられたけどちゃんと使えてんのかな」みたいな歌詞がすごく入ってますよね。

鮫島 確かに一番人として根源的な部分っていうか、嬉しいのか悲しいのかみたいなところに結局生きてるってことも全部あるのかなっていう気がするんで。そういうかなり根っ子の部分のことを訴えているのも、納得もあるし楽しさもありっていうような感じですかね。

NOMAD POP /サメシマの楽曲解説 #14『いろはにほへト』

━━今回は、いわばインディーズやメジャーレーベルの枠組みとも違う形でやっていらっしゃるわけですが、この時代の活動形態について考えていることはありますか?

鮫島 それこそそのHYPE、TOKIOさんとの出会いもそうですけど、自分たちが何を作りたくて、どういう人にシンパシーを感じるのかとか、どういう人と一緒にいたいのか、そういう人といたらどういうものが作れるのかっていうところだと思うんで。単純にインディーなのかメジャーなのか、小規模なのか大規模なのかっていうところじゃなくて、結局は人対人で共感できるか、人対人で自分たちの理想に近づけるのかっていうところなのかなとは思ってますね。で、結局自分たちが面白いなと思う人たちもメジャー、インディー問わずに動いているような気はしてます、僕は。

━━今後バンド総体で目指していきたい方向ってありますか?

鮫島 でっかいことを言うべきところだと思うんですけど(笑)、やっぱ一番根底の部分が大事だと思ってて。さっき言ったように本当に目の前の人に、何か明るい気持ちになってもらえるものを届けたいっていう、本当にちょっとほかのメンバーかどうかわかんないですけど僕はそこに尽きるってところがあって。明日がくるのが嫌だなって思う人って今たくさんいると思うし、実際に自分もそういう期間が長かったから、自分たちの音楽でそれが変えられるとまでは思ってないですけど、一人でもそういう気持ちに対して明るいものを見出せる音楽でありたいなあっていうのが、僕個人的には全部ですね。ないですね、それ以上。どうです?(笑)

高清水 鮫島くんが言った通り一人でも多くこういう言葉や歌を聴いて、こういう考えでもいいんだみたいに肯定してあげられる、一人でも多く増やすためには自分らがある程度大きくなっていく必要はあるなというのがあって。そのためにやっぱり大きい存在にはなりたい……(笑)、ちょっと言葉にはしにくいんですけど、そういうざっくりとしたものは常にありますね。

インタビュー:NOMAD POP|“ポップス”が多様化する時代に“POP”を冠したバンドが目指すもの interview220610_nomadpop2_06

Text:石角友香
Photo:渡辺誠司

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NOMAD POP
ロック、R&B、HIPHOP、エレクトロを基調に、大和情緒を感じさせる詩とメロディー、極彩色のバンドアンサンブルによってジャンルに囚われないポップスをアップデートしている。

6月にリリースした『move』は、Spotify公式プレイリスト『キラキラポップ:ジャパン』に3週連続で選出される。
12月、1st EP『355』のリリース2マンライブ『POP INVADER』@下北沢DaisyBarがソールドアウト。
2020年1月、いきものがかり水野良樹氏がナビゲーターを務めるJ-WAVE『SPARK』にてリード曲『45のセカイ』がオンエア。
活動開始から1年、コンセプチュアルなミュージックビデオが話題を呼び、「文学的でSFチックな世界観がクセになるバンド」としてライブハウス、キュレーター、耳の早いリスナーの間で注目を集めている。

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いろはにほへト

2022.06.01(水)
NOMAD POP

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