大貫妙子が毎年恒例で開催している冬のコンサートより、2023年11月の東京公演の模様を完全収録したライブ映像/音源作品『Taeko Onuki Concert 2023』が5月22日(水)にリリースされた。

サポートを務めるのは、前年に引き続き小倉博和(Gt)、鈴木正人(Ba)、沼澤尚(Dr)、林立夫(Dr)、フェビアン・レザ・パネ(Pf)、森俊之(Key)に、大貫の近年の楽曲でアレンジを担当している網守将平(Key)が加わった、「パーマネントメンバー」ともいうべき布陣。昨今、再評価が進むシティポップの代表曲“都会”をはじめ、“色彩都市”や“新しいシャツ”、“Happy-go-Lucky”など各年代の人気曲・代表曲を、当時のマルチテープから抜き出したトラックを織り交ぜながら「現在進行形のバンドサウンド」にアップデートした本作は、コアなファンからビギナーまで楽しめる内容となっている。

今回Qeticは、そんな大貫への単独インタビューを敢行。作品の見どころはもちろん、楽曲制作の背景や坂本龍一との思い出、「孤独」と向き合うことの大切さなど、さまざまなトピックについてたっぷりと語ってもらった。

INTERVIEW
大貫妙子

孤独を知らないと作品は作れない──大貫妙子が語るアンサンブルの構築論、そして坂本龍一との日々 interview240522-onukitaeko

凸凹から組み上げた盤石のアンサンブル

──『Taeko Onuki Concert 2023』は、大貫さんの歌や楽曲はもちろんのこと、サポートを務めるバンドメンバーの演奏がとにかく素晴らしくて。

大貫妙子(以下、大貫):まずツインドラムというのが珍しいですよね。いろんな時代の曲をやるので、一人だと手が足りない時があるんですよ。もちろん、二人ドラマーがいるからといって二人で叩きまくるわけでもなく。(林)立夫さんはブラシが得意だから、沼澤くんのドラムにそれを混ぜてみるなど、曲ごとに考えてくれていますね。

鈴木正人さんも、ウッドベースとエレキベースの両方を弾けますし、(小倉)博和さんは「山弦」とのライブでもお馴染み。パネさん(フェビアン・レザ・パネ)ともすごく長いし、森俊之さんもずっとレコーディングメンバーです。

──最年少の網守さんは、どんな経緯でメンバーに加入したのですか?

大貫:ある日、自分のパソコンを立ち上げて、「最近の人ってどんな音楽をやってんのかな?」と思って色々聴いていたんですよ。普段はあんまりそういうことをしないんですけど。そうしたら、たまたま網守くんの“偶然の惑星”(2018年『パタミュージック』収録)という曲が流れてきて。それが私好みの曲調だったんです。「えー、誰だろうこの人?」と思ったら、私のマネージャーが<Yellow Magic Children(YMO結成40周年記念イベント)>でちょうど彼と仕事をしていて。「一度、会って話しましょう」となったのが最初の出会いですね。

彼は坂本(龍一)さんの後輩でもあるわけじゃないですか(注:網守は東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了)。網守くんの曲を聞いたときに、ものすごく自分と「近い」感じがしたんですよね、世界観が。そうしたら、やっぱり近いところにいたという。それで早速メンバーに加わってもらいました。

──結果、非常に幅広い年齢層のバンドになりましたね。

大貫:年齢のこととか考えたことはないんですけどね。そのミュージシャンが出す音やセンスはもちろん、いちばん大事なのは人間性です。そういえば先日、ジェイムス・テイラーを観に行ったんですけど、もう感動して。私は1970年代から音楽を始め、ああいうサウンドを聴いてきたわけだから、やっぱり話が合うのは私と同世代か少し上の人たちになってくる場合が多いんですよ。

網守くんはちょっと若いですけど、彼には彼の良さもある。積み木でもそうですが、普通に積んでいっても面白いものはできないですよね。三角の積み木を差し込んでみるとか、「これを載せたら崩れそうだな」と思うものをあえて載せてみるとか(笑)。そういう凸凹したところがないと、積み木って楽しくない。音楽も同じで、「上手なのはわかってます」という人だけ集めても、結局予定調和になっちゃう。やっぱり年代も含めて少し凸凹している方が楽しいですよね。

【都会/Tokai】 from 『Taeko Onuki concert 2023』Short

──7人それぞれが確固たるバックグラウンドを背負っているわけですが、すぐに打ち解け合いました?

大貫:新しく組む人って、探り合うわけじゃないけどちょっと緊張感があって。友だちでも最初は話していて硬かったりするでしょう? でもだんだん、「こんなことで笑っちゃうんだ」みたいなこととかが分かるようになってきて。音楽ってほとんど言葉にできないことなので、その辺のセンスというか共通言語がある人じゃないと、なかなかバンドを組むのは難しいでしょうね。

──前回の『Taeko Onuki Concert 2022』では、オリジナル・マルチトラックからのサウンドや、シークェンサー、シンセサイザーを使用していました。今回も、たとえば“船出”や“Volcano”のコーラスなどは、オリジナル音源をそのまま使用していますね?

大貫:前回はリズムトラックなども使ってはいたのですが、今回は割と削ったところもあります。ただ、“虹”や“Happy-go-Lucky”、“Volcano”、“船出”などのコーラスは、どうしても必要なんですよね。しかも自分の声じゃないとうまく混ざらない。ハーモニーを自分でやっていることには意味があって、例えばバックコーラスでも、もし自分とは違う声で重ねたとしたら、同じメロディとハーモニーであってもまったく別モノになるんです。それだったら当時のマルチトラックから引っ張り出してくる方がいい。スタッフは大変だったと思いますけど。

──そういえばジェイムス・テイラーのライブでも、ジョニ・ミッチェルの声が使われていました。「そこにいない人の声を出すのはおかしい」と誰も思わないのは、あの声そのものがアンサンブルのフレーズとして必要だからなのだろうなと。それと同じことですよね。

大貫:うん、まさにそうですね。

(ドラマーとしての)坂本龍一との日々

──今回のセットリストでは、個人的に“色彩都市”(『Cliché』収録曲)がすごく好きです。2020年12月に開催された<Onuki Taeko Symphonic Concert 2020>では坂本龍一さんがサプライズ出演を果たし、網守さんが編曲を手がけた新たなバージョンの“色彩都市”を披露されていました。

大貫:この曲、リリースは1982年でしょう? すごい昔(笑)。当時のことはもうほとんど覚えていないですね。ただ、坂本さんがアレンジしてくれていた頃は、曲を書いていて転調しすぎて戻れなくなった時とか、「戻しといて」って渡すと「ああ、いいよ」ってすぐ直してくれて。それがすごく楽というか、助かっていました。

──(笑)。あの曲、オリジナル音源では教授がドラムを叩いているんですよね?

大貫:あれ、別に「叩いて」なんて頼んでないんですよ(笑)。確か「ドラムどうしよう?」という話になって……ごめんね間違ってたら(と、天に向かって言う)。「誰か呼ぶと言ってもなあ……」みたいに、二人とも全然思いつかなかったんです。この世界観だとポンタ(村上秀一)でもないし。そしたら坂本さんが「じゃあ、俺叩こうかなあ」って。まんざらでもない顔をしてブースに入って行ったのを覚えていますね(笑)。

大貫:でも結構、時間、かかってしまって。「時間がかかるならキックから先に録る?」とか提案してみたんですけど。あまり言うと怒られそうだから(笑)、エンジニアさんと「待ちましょう(小声)」って。

──“色彩都市”が収録された『Cliché』では、他にも“黒のクレール”や“ピーターラビットとわたし”、“LABYRINTH”も教授がドラムを叩いていますね。

大貫:そう。だから、ビートが重いんです。なんだかんだ言って「やりたがり」ですよね、坂本さんは。というか……アレンジャーとしては、たとえばドラマーを呼んで「ここをこうして」と細かくリクエストをしても、彼の頭の中で鳴っているサウンドを正確に再現はしてくれない。当たり前なんですけど、「だったら俺に叩かせてくれ」みたいなことを言いやすかったのが、当時の私だった。

──教授自身もこの曲のアレンジは「自信作」とおっしゃっていて。

大貫:そうですよね。名曲です。

──教授といえば、先日放送された大貫さんのラジオ番組『THE UNIVERSE』でも、坂本さんとの思い出をいろいろ語っていらっしゃいましたね。ものすごい早食いだった話とか、パーソナルなエピソードも明かされていてとても興味深かったです。

大貫:「そんなノロノロ食ってて、もし爆弾が落ちてきたらどうするんだ!」ってスタジオでよく怒られましたよ。何を言ってるんだろうな? と思っていましたけどね(笑)。変わった人だったなあ。でも歳を重ねてからは、まるで人が変わったように優しくなった。

──それは、なぜだと思いますか?

大貫:環境問題や、子供たちの未来に関心を持つようになったことも大きかったのではないでしょうか。子供たちの未来もそうですし。私たちは、この星の美しさをもっと大切に考える時が来ているのだと思います。いつからか……私がネイチャーマガジンの執筆で、アフリカや南極へ行ったりしていて、その話を彼にするたびに「そっか、そっか」と聞いていて、それで彼も行ってみようと思ったのではないですかね? と私は思っているんです。「いや、関係ないよ」と、言うかもしれませんが(笑)。

──(笑)。ちなみに大貫さんは、どうして90年代に雑誌『マザー・ネイチャーズ』で連載を持ち、積極的に海外へ行くようになったのですか?

大貫:1986年に初めてアフリカへ行った、旅行記「神さまの目覚まし時計」が、角川文庫から出ているんですが。その時の話を、坂本さんにはよくしていて。その後、新潮社から「マザーネイチャー」と言う雑誌が創刊されて、その旅行記を書いてみないか、と言う話になり。ガラパゴス諸島、南極などなど、いろいろ行きました、音楽を作るのも楽しいけれど、たとえばアフリカのサバンナでは、遥か地平線まで連なる、ヌーの群れや、ライオンの狩りも、目の当たりにして、生きると言うことの壮絶さを知ることになった。そこで目にしたことは生涯、忘れることのない肌感覚として、今も残っています。

「孤独を知らないと作品は作れない」

──楽曲についてももう少しお聞かせください。“都会”や“街”など、今の若い人たちから再評価されている「シティポップの代表曲」は、都会の「喧騒」に対するアンチテーゼが含まれています。それは今、どんなふうに受け止められていると思いますか?

大貫:今の若い方たちのことは、正直分からないです(笑)だからといって、「若い方」と言う、ひとくくりな感覚では見ていません。印象としては、スマホばかり見ている、という印象はありますが……。

──たとえば《その日暮らしは止めて 家へ帰ろう一緒に》(“都会”)という歌詞は、当時の浮かれた時代へのアンチテーゼとしてインパクトがあったと思うんですけど、今の人たちは普通に家に帰るんだろうなって思うんですよ。

大貫:あははは。確かに、羽目を外すみたいなことってないのかもしれないですね。坂本さんも、新宿のゴールデン街へ飲みに行って、そのまま道端でダンボールをかぶって寝てしまって。で、朝パッと目が覚めたら、目の前を通勤する人の革靴が行き来してたって! 「こんなところで横たわっている自分はなんなんだろう?」と思い、通勤時間が過ぎるまで段ボールから出られなくなったらしい(笑)。「世界のサカモト」と言われている彼にも、若気の至りはあるんです(笑)。

──今のミュージシャンは、そういうのほとんどないでしょうね。

大貫:飲まない人が増えましたしね。別に飲むことがいいとは思わないけど(笑)、お酒も飲まずにどこで発散しているのかな? とは思う。だから、若者のことはよくわからない。

──“街“は孤独であることの大切さを歌っていますが、以前のインタビューで「あのときの(孤独な)気持ちを忘れないっていうことが、きっと素敵な大人になる秘訣なのかな」とおっしゃっていました。今は社会との断絶が進み、人々の孤立が進んでいることをどう思いますか?

大貫:うーん……人はみんな孤独だし、そこは今も昔も変わらないのではないですかね。たとえ長年添い遂げたパートナーがいたとしても、一緒にお墓に入るわけではないし。時間差があっても、みんな死ぬ時は一人です。私はずっとひとりですが、音楽を仕事として続けている限り、新たなものを生み出そうとする限り、今の環境が自分には適している、と思っていますので。もう、このままで(笑)。誰かと食事をしたければ、会いますし!

大貫:そして、孤独を知らないと作品は作れないとも思います。作家でも音楽家でもそう。「孤独」をテーマにしていなかったとしても。それに向き合うと辛いからみんなでワイワイ騒いでいたとしても。何かを作るときは、そこと向き合わなきゃならないから大変なんですよね。そういう思いで歌詞を書いてきたので、今も多くの方々に聴いてもらえているのかなという気がします。

──大貫さんの音楽を聴いていると、孤独であることや一人でいることを肯定されている気がする理由がわかりました。

大貫:だからみんな、私のコンサートに一人でくるのかな(笑)。

──(笑)。今年は<フジロック>にも出られますよね?

大貫:初日にね。フェス自体、これまでそんなに出ていなかったんですよ。福岡の<CIRCLE>と<WORLD HAPPINESS>くらいかな。去年出演した軽井沢の<EPOCHS 〜Music & Art Collective〜>がとても楽しかったので、フジロックはそのときのメンバーで出る予定です。楽しみにしていてください。

Interview&Text:黒田隆憲

INFORMATION

孤独を知らないと作品は作れない──大貫妙子が語るアンサンブルの構築論、そして坂本龍一との日々 music240406-onukitaeko

Taeko Onuki Concert 2023

2024年5月22日(水)
CD:COCB-54368~9 ¥5,500(税込)
BD:COXA-1360  ¥7,700(税込)
LP: COJA-9511~2 ¥6,050(税込)
※LPのみ7月24日発売

収録楽曲:
1.横顔
2.都会
3.船出
4.幻惑
5.街
6.朝のパレット
7.One Fine Day With You
8.Mon doux Soleil
9.Volcano
10.新しいシャツ
11.夢のあと
12.星の奇跡
13.虹
14.色彩都市
15.Happy-go-Lucky
16.突然の贈りもの
17.dreamland
収録日:2023年11月18日(土) 
会場:昭和女子大学人見記念講堂

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