茨城県出身の4ピースバンド・オレンジスパイニクラブが、10月20日にメジャー1stフルアルバム『アンメジャラブル』を発売することを発表。9月1日には、アルバム収録楽曲“ガマズミ”の先行配信が開始、ミュージック・ビデオも公開された。
本MVで映像監督を務めたのは、My Hair is Badなどアーティストのミュージック・ビデオ制作のほか、映画、広告映像、ファッションムービーなど、幅広いジャンルでの制作を行っている、isai Inc.所属の倉本雷大。かつての恋人との想い出と共に、時が経っても心に残り続ける後悔と空虚感を歌った“ガマズミ”の世界を、写真家・増田彩来が撮影した1200枚以上の写真と共に、切なくも美しく表現した映像となっている。
今回、オレンジスパイニクラブの4人と倉本雷大による対談を実施。楽曲“ガマズミ”について深堀しつつ、互いの音楽と映像に対する印象や撮影時の話を語ってもらった。
オレンジスパイニクラブ – ガマズミ
対談:
オレンジスパイニクラブ
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倉本雷大(映像作家)
互いに共通する、「生活の風景」が表れる作家性
━━まずは今回、倉本さんに監督を依頼した経緯を教えてください。
ゆっきー(Ba.&Cho.) もともと倉本さんに監督をお願いしたいという話は、前作のミニアルバム『非日常』がリリースされた時からあったんです。その時は、互いのスケジュールが合わず見送りになってしまったんですけど。僕も自分でミュージック・ビデオを作っているので倉本さんのことは知っていましたし、知り合いのカメラマンが倉本さんと知り合いだったという繋がりがあり、お願いしました。
倉本雷大(以下、倉本) 前回お話を頂いた時に是非やってみたいと思っていたので、今回改めてお話をもらった時は嬉しかったですね。
━━倉本さんは、オレンジスパイニクラブの楽曲を聴いて、どのように感じていましたか?
倉本 僕は「生活の風景」や日々の暮らしの話を撮るのが好きで、そういった映像を色んなジャンルでやってきたんですけど、オレンジスパイニクラブの楽曲からもそういう生活の匂いというか、暮らしが続いていく様を感じられたんですよね。
スズキナオト(Gt.&Cho. 以下、ナオト) 実際には、「生活の風景」を描こうと思って歌詞を書いている訳ではないんですけど、どの曲にも滲み出ちゃっているんですよね。僕の場合、何かにイライラしている時に自分の部屋で書くことが多いんですけど……。
スズキユウスケ(Vo.&Gt. 以下、ユウスケ) 俺もです。ストレス発散の手段として書くことが多いから、そういう空気感が滲み出ちゃっているのかもしれないですね。
━━今回、念願ともいえるタッグになった訳ですが、互いに会ってみての印象はどうでした?
倉本 いい奴らだなぁ、と思いました。
一同 ははは!
倉本 彼らの事は、ライブを観ていたというよりか、曲やミュージック・ビデオを通じて知っていたので、もっとトゲトゲしていて、言葉を選んで喋っているような人たちなのかな? と思っていました。だけど、直接話してみた時の印象はすごく良かったです。
ユウスケ 俺らも最初、倉本さんは怖い人なのかと思っていました。黒いTシャツに黒いマスク、黒い帽子を被って現れるんですもん(笑)。
ゆりと(Dr.) その姿と、倉本さんが撮る映像とのギャップにグッときましたね。
━━互いに良いギャップがあったんですね。今作“ガマズミ”は、恋人と別れた後の、喪失感や後悔に満たされた男性の心情を歌った楽曲だと思います。そうした心象風景を描き出したいと思ったきっかけはあったのでしょうか?
ナオト この“ガマズミ”は特にそうなんですけど、歌詞を書くのに2か月くらいかかっているので、最初に何を書こうとしたのか忘れちゃってるんですよね。なので、身近な言葉が多い曲を作りたかったというよりは、「できちゃった」という感覚です。タイトルも出来上がってからつけたんですけど、ガマズミという花の花言葉がどれも楽曲の雰囲気にマッチしていたということと、作詞をしていた時期が春だったということで決めました。
※ガマズミの花言葉……「愛は死より強し」、「結合」、「私を無視しないで」
━━そうした楽曲を視覚的に表現する上で、倉本さんが大事にしたことはなんでしょう?
倉本 歌の物語色が強いからこそ、最初は画のイメージを想像するのが難しかった印象があります。なので、僕から一方的に提案するというよりは、メンバーの皆とじっくり話しながらイメージを詰めていきました。メジャーでの一発目のミュージック・ビデオですし、がっつりとドラマ仕立てにするというよりは、バンドの姿をしっかりと見てもらいたいという話はしていました。
そして、特に僕はこの曲の《染み付いた生活の匂い/過去に見た未来と今の暮らし》という歌詞が刺さったので、その部分をテーマとして広げていって、限定的な解釈にならないようなストーリーを映像として加えつつ仕上げていきました。
━━「生活の風景」に惹かれる理由は、言葉にできますか?
倉本 何故でしょうね……。自分が想像できるもの、自分が想像しやすいものを、しっかりと描いていきたいという意識が強くあります。物語でいうと、極論、惚れた腫れたの話が一番面白いと思っているんですよ。もちろん宇宙に行くような映画やドラマも好きですけど、「自分が経験したこと」や「誰かが経験していそうなこと」を、改めて映像で繰り返していくということが面白いと思ってます。
ユウスケ 分かります。倉本さんの考えに通じるんですけど、僕も普通に生活していて味わうことしか書けないんですよね。
「あり得なくはないけど、狂気じみている」というバランス
━━今回バンドシーンの撮影に対しては、倉本さんから何か指示はありました?
ユウスケ 「笑わずに」という指示はありました。
倉本 バンドシーンが入ると、どうしてもストーリーが切れちゃうからね。全体の世界観を保持しつつ、部屋の中で4人が集まってセッションしているくらいの温度感でプレイしてもらいました。ミュージック・ビデオでは、バンドをストーリーテラー的な立ち位置として、歌詞を映像化したドラマ、そして写真で語る過去、という3つの軸で構成した作品です。
━━今のお話にもあったように、今回のビデオの特筆すべき表現法として「写真と映像の組み合わせ」がありますが、あのアイデアはどのように生まれたのでしょう?
倉本 物語としては、奇をてらいたくはなかったんです。観る人が経験したものをそれぞれ補完しながら観てもらえるものにしたかったので、ストーリーとしては変なことをしたくなかったし、生活のシーンを丁寧に撮りたかったんです。その上で、表現として何ができるか? と考えた時に思い浮かんだアイデアが、動いていないもの(写真)の中にいる彼女が映像の中で動き出す、という表現方法でした。
ナオト この表現方法にはめちゃくちゃグッときましたね。写真の中にしかいなかった彼女が動き出した時には、自分の曲でこんなに感動できるものなんだと思いました。
━━今回、増田彩来さんに写真撮影を依頼したのは何故だったんですか?
倉本 元々、僕と増田さんは知り合いで、何か一緒にやりたいとは話していたんです。それで、今回の映像の中で使うのであれば、写真自体にも説得力があるものでなければならないと思ったので、彼女にお願いしました。企画の段階で「オレンジスパイニクラブというバンドの曲なんだけど……」と話した時に、彼女が今回のアーティスト写真を撮っていることを知って驚きました。
ユウスケ これが完全なる偶然だったんですよ。だから、僕たちも驚いたんです。
倉本 こういった偶然はしっかり繋げていきたいと思いましたし、良いと思っていたものが一緒だったという感性の合致を感じた瞬間でもありました。
━━ 一枚一枚に力がある写真だからこそ、写真が壁一面に貼られているシーンは狂気的でもありますよね。
ユウスケ あそこはゾッとしますよね。
倉本 ビデオの作りがシンプルだからこそ、「あのビデオと言えばこれだよね」と言えるような尖ったものをひとつ撮りたかったんです。少し間違うと気持ち悪いけど、男の子の心情的にはなくはない、という「あり得なくはないけど、狂気じみている」というバランスを考えて入れたカットです。貼る順番も、笑っているところから悲しんでいる顔へ移行していくように意識しつつ、ストーリーを立ち上げていきました。
ユウスケ あれって、何日もかけて撮っているんですか?
倉本 いや、実は一日なんだよ。服も場所も変えて、数日かけたように見せてるんだよね。
━━すごいですね……。あのシーンの狂気さがあるが故に、最後の《つま先立ち覗くフェンス越えて/地面に音を立てた》という歌詞が、別れた彼女に想いを募らせた末に高いところから飛び降りてしまった、という解釈になるというか。
ナオト あぁ……あれは多分飛んじゃってるんですよね。
ユウスケ え、お前も分かんないの?
ナオト ポジティブに考えると、今まで部屋の中にいた彼が、やっと外に出ることができた時の着地音にも捉えられると思うんだよね。でも、これは多分飛んでます(笑)。
ユウスケ ビデオの方もシリアスな仕上がりではあるからね。俳優さんの表情もいいですよね。
ナオト 今回の撮影は、僕らもかなり頑張ったというか、気合の入り方が今までとは違ったんです。今までの僕らはレコーディングでも手を抜きがちだったし、それが味だとも思っていたんですよ。でも今回は絶対にそういうことをしたくなかったし、“ガマズミ”に関してはその想いが特に強くありました。
ユウスケ メジャーデビューするということもあって、関わる人の数が圧倒的に増えたことで気合は入りましたね。今まではセルフでやってきたところが多かったですし。
ゆりと インディーズとメジャーの規模の違いは強く感じたよね。結構、僕らは根が真面目なので、周りの人に迷惑を掛けたくないという思いもあったしね。
映像によって変化した、曲の聴こえ方
━━まさに渾身の作品と呼べると思うのですが、映像として出来上がったものを観た時に、皆さんはどう感じました?
ユウスケ 楽曲を初めて聴いた時は、《優しい人》という言葉が入っているくらいなので、優しい曲のイメージだったんですけど、映像によってガラリと印象が変わりましたね。自分的には泣ける曲じゃなかったのに、ミュージック・ビデオを観たら泣けたんですよ。それは、映像化してもらわなければ得られなかった感情だと思います。
ナオト 自分の中でイメージがなかったので、映像を観た時にようやくこの曲の世界を理解できた感覚でした。ユウスケが言っていた通り、曲の聴こえ方が変わりましたし、あれは初めての体験でしたね。
ゆりと 倉本さんと好きなポイントは似ている気がします。映像ならではの緩急があって、そこに倉本さんの技が光っているなと思いましたし、“ガマズミ”はすごく好きな映像です。
ゆっきー ナオトが書く曲って、棘というか、危なっかしさがあると思うんですけど、それがしっかり映像でも伝わってきました。映像で味付けがしてあるというよりかは、曲と映像が一緒の立ち位置にあるというか。
倉本 そうだね、オレンジスパイニクラブは棘や危うさがどの曲にもあるバンドだと思います。彼らのような裏側がある音楽の映像化というのは、映像作家としてのやりがいもあるし、裏側の想いを想像して、意図を汲み取りつつ表現するということは、難しくもあり面白いですよね。実際、今回の映像は僕自身も良い作品ができたという手応えがありますし、作ることができて良かったなと思います。
━━この機会にお互いに質問などありますか?
ナオト 倉本さんに訊きたいことがあるんですけど、男性がひとりでいる部屋では花が枯れてますよね? あれは、時間の経過を表現したものですか?
倉本 そうだね。彼女がこの場所に居たことで成り立っていた空間だったことと、彼女が居なくなったことで崩れ始めている空間ということを、同じシチュエーションでやりたかったという意図はありますね。
ナオト バンドの演奏シーンにも花が置いてありましたけど、あれはどういう意味があったんですか?
倉本 タイトルが“ガマズミ”だからといってガマズミの花をそのまま映像に出すのは野暮だと思ったので、違う花なんだけどね。でも、今回の曲は花言葉に込めた意味もあったと思うし、花と言う表現は少なからず入れたいなと思ったので用意しました。
ナオト あと、最後にあの女の子って泣いてますよね?
倉本 そうそう。あの写真でふたりの関係が崩れていく瞬間を表せないかな? と思って、同じ構図の写真を並べることでそれを表現しました。
━━中盤の、男性がひとりでいる部屋に彼女がフェードインしてくるシーンにもグッときました。
倉本 あそこ良いですよね。生活をしていく上で必要不可欠な「家」という存在が好きですし。だからこそ、ふたりの物語は家の中に全てあるはずなので、その部分を表現できたと思っていました。
ゆりと 自分の好きなシーン言ってもいいですか? あの、机の下で足が絡み合うシーンが好きですね。
ユウスケ 俺は、一緒に寝てるシーンで、くっつき過ぎて少し暑がっちゃっているところがグッときましたね。布団が落ちちゃったりしてね。
倉本 (照れた様子で)地獄のような時間だ……。
全員 ははは!
━━ゆっきーさんはどこがお気に入りポイントですか?
ゆっきー 僕の演奏シーンです。
ユウスケ ははは! 確かにあの時の顔、調子良いもんな。
ゆっきー 前の日にたくさん野菜食べたから(笑)。ちなみに、あの編集はPremiere Pro(動画編集ソフト)を使ってますか?
倉本 そうです……って、今回は監督がもう一人いるみたいで嫌だったんですよ(笑)。
ゆっきー いやいや! 僕なんて全然ですよ!
倉本 でも、自分たちの曲を自分たちで映像として撮っている人たちと一緒にやるのは面白かったですね。めちゃくちゃ嫌だなとも思いましたけど(笑)。こうしたい、という意志疎通がしやすかったというのもありますし。
今回一緒に作れたことで、僕がどういうアプローチをする人間なのかも分かってもらえたと思うので、その上でまた一緒に作れたらいいですね。いつか「次何やる?」って話をしたいです。
ゆりと 映画でも2って難しいですからね……。
倉本 本当に2作目って難しいからね。だけど、そこの面白さを感じながら、一緒に出来たらいいですね。
PROFILE
オレンジスパイニクラブ
スズキユウスケ(Vo、Gt)、スズキナオト(Gt、Cho)、ゆっきー(Ba、Cho)、ゆりと(Dr)からなる茨城県出身の4人組バンド。2020年1月に初全国流通1stミニアルバム「イラつくときはいつだって」をリリースし、収録曲の「キンモクセイ」がSNSを中心に話題となり、音楽配信サービスの総再生回数は1.5億回をこえる。またApple Music、Spotify、LINE MUSICなど各音楽配信サイトのチャートでも1位を獲得した。同年11月に2ndミニアルバム「非日常」を発売。そして2021年10月にワーナーミュージック・ジャパンよりメジャー1stフルアルバム「アンメジャラブル」をリリース。日常を連想させる歌詞やどこか哀愁を漂わせるメロディー、その中に垣間見える熱量やパンクロックの精神がライブシーンのみならず、若者を中心に注目されているバンドである。
倉本雷大
1988年生まれ。大学卒業後、映像制作をスタート。短編映画の制作を経て、2015年に商業映画監督デビュー。2017年、長編映画第2作目の『恋愛奇譚集』が日本、台湾、中国、タイなどアジアを中心に公開。同作はスペインで開催されているAsian Summer Film Festival のほか国内外の映画祭に出品された。2019年より、isai Inc.に参加し、Music Video、広告映像、ファッションムービー等も手がけている。
RELEASE INFORMATION
アンメジャラブル 通常盤(CD)
2021年10月20日(水)
■通常盤(CD+DVD)
WPCL-13328
¥3,300(tax incl.)
【CD】
1.ガマズミ
2.退屈かも知れない
3.ハクビシンのユメ
4.日和見の暮
5.バカのしりぬぐい
6.アイヘイトマイバースデー
7.イヤーワーム
8.ringo
9.Worst of myself
10.Cho ru ryo
11.睫毛
12.理由
アンメジャラブル 初回限定盤(CD+DVD)
2021年10月20日(水)
■初回限定盤(CD+DVD)
WPZL-31900/01
¥5,280 (tax incl.)
【DVD収録内容】
1.みょーじ
2.駅、南口にて
3.パープリン
4.急ショック死寸前
5.37.5℃
6.眠気
7.コーヒーとコート
8.タルパ
9.キンモクセイ
10.モザイク
11.東京の空
12.スリーカウント
13.ドロップ
14.リンス
15.たられば
16.敏感少女
17.イージーゴーイング
EVENT INFORMATION
1st Full Album Release LIVE TOUR「アンメジャラブル」
TICKET:¥4,000(tax incl./+ 1drink)
10月26日(火)札幌BESSIE HALL
10月28日(木)青森Quarter
10月29日(金)仙台CLUB JUNK BOX
11月5日(金)高崎club FLEEZ
11月6日(土)郡山HIPSHOT JAPAN
11月12日(金)水戸LIGHT HOUSE
11月19日(金)高松DIME
11月21日(日)福岡BEAT STATION
11月24日(水)岡山YEBISU YA PRO
11月25日(木)神戸VARIT.
12月5日(日)金沢Eight Hall
12月7日(火)大阪UMEDA CLUB QUATTRO
12月8日(水)名古屋NAGOYA CLUB QUATTRO
12月12日(日)新潟GOLDEN PIGS RED
12月16日(木)恵比寿LIQUIDROOM