――特に今ではパソコンひとつで音楽をレコーディングすることもできるので、いつでもやりたいときに作れるというのは音楽の大きな利点ですよね。

オスカー 今は携帯電話ひとつでだって音楽を作れるからね。テクノロジーはアーティストの作品作りを大きく変化させていて、それはこのアルバムでも触れていることのひとつだよ。

――当時はあなたも自宅でパソコンを使ってレコーディングしていたんですか?

オスカー うん、まさにラップトップレコーディングの典型だったよ。よく自分のベッドの上でレコーディングしていたから、そこから「ベッドルーム・プロデューサー」っていうカテゴリに入れられるようになったんだと思う(笑)。何かしらのラベルが必要なんだろうね。僕自身は自分の音楽をプロデュースはしているけど、自分を「プロデューサー」だとは思っていないんだ。全部自分のベッドルームとパソコンで始まったけど、それは僕が持っていたのがそれだけだったからさ。使える道具を使って上手くならなきゃいけなかった。

――そのベッドルーム・プロデューサーというカテゴリ分けからはローファイなサウンドが連想されがちですが、スタジオやエンジニアを含めて制作されたこのアルバムを聴くとそれ以上に、深みのあるハイファイさも感じさせるサウンドになっていますね。

オスカー ローファイ・レコーディングにも独特の美点があって、それはスタジオに入るときにも忘れちゃいけないものだと思うんだけど、ここではローファイとハイファイの中間地点のものを作りたいって強く思ったんだ。キャンバス全てを塗りつぶしたようなものや、全ての皺にアイロンを当てたような、スムースすぎるものにはしたくなかった。人間は不完全なものだから、ミスや欠点はリアルなもので、音楽自体も完全無欠であるべきじゃない。このアルバムでは、そういうローファイの個性と、ハイファイなサウンドのクオリティの中間を上手く実現できたと思う。制作ではベッドルームでレコーディングしたものをスタジオに持って行ってミックスして、それとスタジオでもドラムやベースなど楽器のレコーディングも少ししたんだ。

Oscar – Beautiful Words

――ドラムは全曲においてプログラムされたビートとスタジオ録音された生のドラムの両方を使っているんでしょうか?

オスカー ほとんどの曲で両方使っているけど、1曲だけ生のドラムが入っていないのがあって、それが最後の曲“Gone Forever”なんだ。あの曲は制作の終盤で付け加えたからさ。元々は別の曲を最後に持ってこようと思っていたんだけど、しっくり来なくて差し替えたんだ。でもその時にはもうドラマーはロンドンを離れてしまっていたから、そのまま生のドラムなしで続行することにした。でも結果的にそれで良かったと思うよ。

――その“Gone Forever”はアルバム中でも特にスケールの大きな、広がりを感じさせるサウンドで、極端な例えかもしれませんがプラネタリウムのようなロマンチックな空間で流れてもぴったりきそうな美しさのある曲だと思いました。

オスカー ワーオ、プラネタリウムか! それビデオのアイデアに使えそうだね。うん、あの曲はアルバムの他の曲と比べても独特のサウンドになっていると思う。あの曲はある意味、次のチャプターの始まりを告げるような曲にしたいとも思っていたんだ。このアルバム、現在のチャプターが終わって、もしかしたらあの曲が次のアルバムへと導いているのかもしれない。そういう物語性も入れたかった。

――ということは、ファーストアルバム制作の時点から既に次のアルバムへの流れを考えていた?

オスカー うん、僕はファーストアルバムに大きな期待をしているわけじゃないから–今のご時世何がどう転ぶか分からなくて、もしかしたら全く人々に気づかれないかもしれないし、1年後に突然人々がこのアルバムを発見しだすかもしれないし、とにかくまずは完成させて世に出すことが大事だと思う。だから、もちろんこのアルバムには成功して欲しいし沢山の人々に聴いてもらいたいけど、今はまず完成させて一安心ってとこだね。 ファーストアルバムっていうのは、自分のそれまでの人生全てをひとつの作品に凝縮させるわけだから、かなりクレイジーだよ。とてもパーソナルだし。でもそこで力みすぎるんじゃなく、ある程度流れに任せることが必要なんだ。

――パーソナルというのは歌詞にも表われてくるところだと思うんですが、作詞についても少し聞かせてください。歌詞は曲と一緒に自然に出てくるタイプですか? それとも先にじっくり考えて書くタイプ?

オスカー 僕は歌詞をそれほど詩的に捉えるタイプじゃないから、意識の流れの中で作っていくタイプだと思う。曲を書いてヴォーカルのレコーディングを始めると自然と言葉が出てきて、それがそのまま歌詞になったりもするし、あるいはヴォーカルを録ってそれを聴き返して、自分が口走った言葉を書き留めてそこから作詞をすることもある。だから僕の歌詞はいつも曲が出来てから生まれてくるよ。

――そういった作詞中に、自分の内から自然と出てきた言葉や歌詞に驚かされたりはしましたか?

オスカー まさにそういう感じだったよ、考えずに歌っているときに出てきた意外な言葉に「ワオ、多分これが自分が無意識に考えていることなんだろうから、これを曲に含めるべきだな」と思ったりさ。曲を書く前に歌詞を書き上げて、「さあこれを歌にしよう」っていう方法をとるミュージシャンもいるから、これは人それぞれだと思うんだけど、僕の場合は例えばバスに乗っているときにふと口ずさんだものが歌詞になったりするタイプなんだ。

――具体的な曲の歌詞についても是非お伺いしたいんですが、特に興味を惹くタイトルの“Breaking My Phone”の歌詞にはどういうテーマがあるんでしょう?

オスカー あの曲はいかにテクノロジーが僕らの人間関係を型作っているかとか、テクノロジーを通して生まれる関係性についてなんだ。僕自身は使っていないけど、デート用アプリから生まれる出会いや関係性というのもその一種だよね。たとえば絵文字やミームが人々の感情のやりとりの仕方を変えたり、コミュニケーションや人間同士の繋がりっていうのはテクノロジーを通して全く違ったものになってきていて、僕らは周りの人々の感じている物事について絶えず意識するようになっている。実際にはそれらは機械であって、本来それぞれの人間とは全く繋がっていないものなのにさ。そしてこの曲は要は失恋についての曲でもあるけど、同時にそれらのものが機能しないことに対するフラストレーションについてでもある。必要なときにテクノロジーや機械がちゃんと機能しなくて、「このクソ電話!」って当たり散らしたりとかさ(笑)。最初にレコーディングしたとき、それを母に聞かせたんだ。そのときの歌詞は《I keep on breaking my bones(自分の骨を折ってばかりいる)》って言っていて、失恋のあとにヤケになってふらついたり、自分を傷つけたりすることを指していた。それを聴いた母が「なんだか『breaking my phone』って言ってるように聞こえるね」って言ったんだ。それがすごく気に入ったから、タイトルを変更したんだよ。

Oscar – Breaking My Phone

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