――ということは、この曲のテーマはテクノロジーそのものに対する反感というわけではないんですね。そういったテクノロジー全般とのあなた自身の付き合い方はどうですか?
オスカー 僕のテクノロジーに対する態度はかなり混じり合っていて、VineやSnapchatはすごく楽しいから大好きだけど、同時にそれが皆を少し病的にしているとも思う。どこにも空白のスペースがないような感じさ。だから、テクノロジーに対しては愛憎混じり合った感情を抱いているよ。他の人たちが何をしているのか絶えず分かっているから、未知のものや疑問を投げ捨ててしまっているようなものさ。何もかもがそこにあって猥雑ですらあるし、まるでポルノのようにあらゆる写真やイメージが溢れかえることで皆がどんどん刺激に慣れていって、全ての体験に対して感動が薄れてしまう。今起きていることは幻覚みたいでクラクラするね。次の世代がどんな風にそれに適応していくのかが気になるよ。もしかしたら彼らはもっとコミュニケーションを活発にするようになって、孤独感が減っていくのかもしれないし、その逆かもしれない。アーティストの活動にもテクノロジーは大きな影響を及ぼしていて、幸いなことに僕はソーシャルメディアを使ったり、自分の生活の中で何が起きているかを発信したりするのは好きな方だけど、もしもそういうタイプの人間じゃなければ、絶えず人々の目に自分を晒し続けるっていうのはなかなか難しいことだと思う。テクノロジーのおかげで今はアーティストの仕事も倍増しているんだ。
――20年前なら音楽を作って、時折インタビューに答えたり写真撮影をするくらいだったのが、今ではアーティスト自身の私生活を見せたり、直接告知をしたり、選択肢が増えた分負担も多そうですね。
オスカー そう、今は何もかもに告知が必要で、告知には何かしらの画像が必要で、その画像を作るにはグラフィック・デザインが必要で、グラフィック・デザインをするためには時間が必要で、でもその時間がないときだってある。たとえば、ザ・キュアーとかザ・リバティーンズみたいなバンドはそんなことをする必要がなかった。リバティーンズが「今クラックをやってるよ! LOL」とか投稿してたら変だしさ(笑)。だから、アーティストにとってはより仕事が増えたと思う。自分をどう見せるかについて絶えず考え続けなきゃいけないし……セルフィーブームっていうのも独特で、自分でカメラを向けているんであれ、誰か別の人が一緒にセルフィーを撮ろうとしているんであれ、自分をどう見せるのかっていうことを意識させるよね。アンディ・ウォーホルがこれを的確に予言していたと思う、「未来には、誰もが15分間は世界的な有名人になれるだろう。」ってさ。
――ちなみにあなた自身はセルフィーをよく撮ったりするタイプですか?
オスカー 僕はセルフィー大好きだよ! 一番現代的でエキサイティングなセルフポートレイトの形で、セルフィーの境界線を広げるような実験もできるのは、インスタレーションに近いものがあると思う。例えば自分の部屋でセルフィーを撮ったとき、部屋が少し散らかっていたのをあえてもっと物を積んだりしてごちゃごちゃさせて撮ってみたりしたよ、アーティストのポートレイトとして面白いからさ。あと最近はインスタント写真も撮ってるんだ、ちょっと待って……(持っている鞄の中をごそごそし始め、カメラを取り出す)
――おお、これは「チェキ」ですね!
オスカー そう、これでセルフィーを200枚撮ってアルバムの予約特典に付けるんだ、いま179枚撮ったところだよ。すごく楽しいし、自分自身の一部分を手渡すみたいな感じで素敵な感じがする。2年前にファーストアルバムについて考えていたとき、何かパーソナルな物体をアルバムに付けて出したいと思っていたんだ。それでこれをやることになった。
――ファンにとっても特別感のある特典ですね。アルバムの話に戻ると、もう一曲、“Only Friends”も特にパーソナルな繊細さを感じさせる曲ですが、この曲の歌詞についても簡単に教えていただけますか?最初からデュエットにするつもりで作詞したんでしょうか。
オスカー うん、この曲は作曲旅行を兼ねてスウェーデンに僕の友人でもあるマリカ(・ハックマン)を訪ねに行ったときに書いたんだ。彼女と一緒に作曲したり、僕自身で作曲したりもしていた。スウェーデンの風景はとても綺麗で、すごくインスピレーションを受けたよ。それであの曲を書き始めたときに、彼女に歌ってもらったんだ。最初はひとつのヴァースを歌ってもらって、そこからデュエットに発展していった。歌詞は僕の父について歌っているんだ。父は僕が8歳のときに亡くなったんだけど、父について書いたことはそれまで一度もなかった。だからとても特別な曲だよ。そして一緒に歌ったマリカは僕の幼馴染で、僕らがお互い赤ちゃんのころから知っているから、彼女に歌ってもらうのはぴったりだった。人々がいなくなっても、そこに何らかの形で存在しつづけるってことについての歌詞だよ。
――アルバム全体に流れるテーマのようなものはありますか?
オスカー アルバムの曲は多くがパーソナルで、中にはもっとパンキッシュなアティチュードのものもあるけど、全体的には周りの人々についての曲など、パーソナルなものが多い。テーマは成長することと、その過程で自分を見出していくことについてだよ。それは人々との関係性を通してであったり、年を重ねてより周りをよく見るようになって、自分を取り巻く世界について発見することからだったりする。そういったことを内省的に、体験的に、ある面では哲学的に見た、一種の成長物語だね。アルバムに入っている曲のひとつは15歳のときに書いたもので、僕が初めて書いた幾つかの曲のうちのひとつなんだ。まだギターの弾き方がよく分かっていなくて、自分で習いながら書いた曲だよ。だからそれだけでも、僕の成長を表していると思う。
――ちなみにどの曲でしょう?
オスカー 名前もそのまま“Fifteen”だよ。覚えやすいでしょ。
――確かに。その当時の録音は今も保存してあったりしますか?
オスカー うん、まだ持っているよ! 母が全部そういうテープをカセットでとっておいていて、「この曲とかいいんじゃない?」って出してくるんだ(笑)。大抵は「その曲は駄目だよ」ってなるんだけど、あの曲は母に聞かせられたときに「あ、いいかも」と思って拾い出して、少しアップデートした。僕は前は自分の声が大嫌いで、母が僕の音楽のテープをかけだすと部屋から逃げ出していたよ。今も自分の音楽を聴くのは好きじゃないけどね、自分のビデオも絶対見ないし。自分の作品に自信はあるし気まずいわけでもないけど、僕は細かいところにうるさいから、ちょっとでも自分の気に入らないことがあるとイライラしてしまうんだ。ビデオを観ながら「ああー、僕の髪が変だ!」とかさ(笑)。 僕は生まれつきそうなんだと思う。ある特定のものに関しては、その全てがあるべき形でないと駄目なんだ。
――ファインアートのコースでより視覚的なアートを学んでいた経験は、ビデオにも反映されているのかなと思ったのですが、ビデオの制作にはどの程度関わっていますか?
オスカー 僕は編集から色の補正まで、撮影のあとの全ての工程に関わっているよ。コンセプトはできるだけ監督に任せるようにしているんだ、監督に対するリスペクトもあるしね。もちろんコンセプトが良くなかったらそこにも関わるけど。そもそも最初に監督と話して、僕はこれとこれとこれがやりたいっていう要旨を書いて、その上で監督が脚本の概略を送ってくれるから、その時点でも関わっているよ。
――特に先日公開された“Sometimes”のビデオは観ていてもとても楽しいビデオになっていますが、あのビデオの制作はどのようなものでしたか?
Oscar – Sometimes
オスカー うん、あのビデオは気に入っていて、あれは唯一自分でも観れるよ(笑)。すごく楽しかったし、冒険だった。アメリカで撮影をするのは初めてで、色々な人と会ったし色々な場所に行ったし、最高だった。
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