今年(2023年)7月に行われたPearl & The Oystersパール&オイスターズ)の初来日ツアー(東京、神戸)は、個人的には今年屈指の音楽体験に数えられる。前作にあたるサード・アルバム『Flowerland』(2021年)で彼らの音楽を知ったとき、もちろん大好きになったけど、同時にこれはベッドルームとコンピューターのなかで作られた“架空のエキゾチカ・パラダイス”だと感じていた。

しかし、新作(4thアルバム)『Coast 2 Coast』での名門〈Stones Throw〉へのレーベル移籍に伴って、YouTube上で発表されたライブ映像『Dungeon Sessions』には度肝を抜かれた。彼らの音楽は実在する!

Dungeon Sessions:Pearl & The Oysters – Pacific Ave

ライヴ・パフォーマンスとしてあの音像を理クリエイトできるめちゃめちゃ高度な演奏力と、トイ楽器も駆使したナチュラルにキュートなポップ感覚の自然な共存にやられてしまった。ドラマー(ベン・ヴァリアン)を加えての3人編成での来日公演でも、待ち兼ねていたファンの興奮に応えつつ、見事なほどに祝祭的な空気を作り出していた。

あの夜の夢のように心地よかった記憶から半年ほど。12月8日(金)、7人のリミキサーを迎えたEP『Coast 2 Coast Remixes』が〈Stones Throw〉からリリースされる。そのリミキサーたちの顔ぶれがとても興味深い。Vickie Farewell、The High Llamas、Jerry Paper、Brijian、Salami Rose Joe Louis、Maylee Todd、Peanut Butter Wolfと、なぜファンの喜ぶポイントがそんなによくわかってるの?と尋ねたくなるほどピンポイント。

Pearl & The Oysters『Coast 2 Coast Remixes』(2023)

Pearl & The Oysters『Coast 2 Coast』(2023)

このラインアップは、DJ的な感覚でのリミックス依頼というより、精神的な同志と感じていたアーティストたちとの出会いであると同時に、カリフォルニア、〈Stones Throw〉という新天地で彼らが得た現実のつながりでもあるのだろう。単なる素材として自分たちの音源を提供しているのではなく、彼らが感じていたリスペクトとリミキサーたちの遊び心が幸福に混ざり合っている。未知の音楽に魅了され、フランスからやって来た彼らは純真なエイリアンのように「なぜこんなに素敵なの?」と音楽への問いかけを繰り返す。それがPearl & The OystersのJojo(ジョキム)とJuju(ジュリエット)が持つフレンドリーで不思議なグルーヴの源泉でもあるのだろう。

東京での追加公演が行われた日(2023年7月6日)、青山・月見ル君想フの楽屋でJojoとJujuに話を聞いた。

INTERVIEW:
Pearl & The Oysters

架空のエキゾチカ・パラダイス──Pearl & The Oysters、インタビュー music231207-pearl-and-the-oysters-6

──今回が初のアジア・ツアーですよね?(台北、東京、神戸、ソウル)

Jojo そうだね。

──台北でのライブを終えて、昨日から東京での2デイズですけど、同じアジア圏でもかなり違うでしょう?

Juju 素晴らしかった。(台湾が)どんな土地なのか予想できなかったんだけど、とっても好きになった。なんていうのかしら、人々がみんな物静かで落ち着いていて、でも楽しそうに生活しているように思えた。

Jojo 街並みも美しかったな。ショーもすごくうまくいった。みんな喜んでくれてたと思う。得難い体験だったよ。

──そして昨日(7月5日)が東京での第一夜でした。

Jojo もちろん最高だった(笑)。

Juju でも始まる前は緊張もしていたかな。私たち、ジャパニーズ・ミュージックからたくさん影響を受けているから。アメリカで演奏していても、向こうのオーディエンスはあまり(日本の音楽を)知らないでしょ? でも、ここ(日本)は本場なわけだし。でも、YMOの大ファンだっていう人たちが私たちを好いてくれて、すごくホッとした(ライブで彼らはYMO“Tong Poo”をカヴァーした)。ショーの後、たくさんの人が私たちに挨拶してくれたけど、話してみたら私たちみんな同じ音楽が好きだってことなんだとわかったのもよかったな。

Jojo その通りだね。ジュリエット(Juju)とも話したんだけど、日本のファンはみんな音楽をすごく好きだって感じた。音楽への敬意にあふれているっていうか。僕らミュージシャンにとって、それはすごく心に響くことなんだ。それと同時に、音楽スタイルを隔てるボーダーがどんどんなくなってきてる時代ゆえだとも思う。すごくニッチでマニアックな音楽も、大ヒットしている音楽も、両方好きなのが普通なんだよね。日本ではタワーレコードに行けば、ヒット作も名作も日本のシティ・ポップもたくさんあるし、ちょっと掘るだけでいろんな音楽に巡り会える。それは本当に興味深いことだよ。

Pearl & The Oysters ❍ Konami(Official Music Video)

Juju 日本ではCorneliusの新作(『夢中夢』)が出たところよね? 私たちはCorneliusの魅力を知っているけど、一般的には難解な音楽だと思う。でも、それが大きなショップにずらりと並んでいるのはすごいこと。

Jojo 確かに。すごく洗練されて複雑な構造を持っている音楽がこれほど受け入れられているような状況は、ヨーロッパやアメリカではまだそんなにないんじゃないかな。

──その視点はすごく興味深いです。あなたたちのジャパニーズ・ミュージックへの愛と関心についてはこのインタビューの後半で聞いていきたいんですが、まずは私生活でもパートナーであるあなたたち2人=Pearl & The Oystersの成り立ちから解き明かしていきたいと思ってます。2人とも出身はフランスですよね? 音楽との出会いはいつ頃?

Jojo 君から話す? 君のほうが音楽を始めたの、ちょっと早かったよね?

Juju 私、子どもの頃からトランペットを習ってた。オーケストラの一員として演奏したし、10歳でジャズを歌ったりもしてたな(笑)。

Jojo 彼女の父親は打楽器奏者で、何度も来日したことがあるんだ。ブロードウェイの曲を演奏するようなビッグバンドのメンバーとしてね。僕のほうは、音楽好きな両親の勧めで子どもの頃からヴァイオリンを何年か習っていた。ティーンエイジャーになったら、友だちとロック・バンドを組んだ。

──どんなロック? 1990年代や2000年代に流行ってたような?

Jojo ガレージパンクだね。僕は自分のバンドをソニックスみたいにしたかった。『Nuggets』(アメリカ60年代のガレージパンク・バンドの名曲集)に入ってる60年代のバンドの音を出したかったんだ。あの時代のサウンドにのめり込んで、素晴らしい音楽をたくさん見つけた。やがてゾンビーズを知り、サンシャイン・ポップやバロック・ポップを知った。それが僕が90年代のジャパニーズ・ポップに出会うきっかけにもなっていたと思う。Corneliusにはビーチ・ボーイズなどいろんな音楽からのリファレンスがあった。ジュリエットと出会ったのは高校生のときで、2人とも同じタイプの音楽が好きだとわかって仲良くなったんだ。

──高校からの仲なんですか!

Jojo ゾンビーズが大きかった。もちろんビートルズもね。

Juju そう、ゾンビーズは私たちのターニング・ポイント。

Jojo そこからブラジル音楽にも夢中になったね。そうやって音楽への興味が一気に広がったわけ。でもそれは逆にいえば、自分たちの好みがはっきりしていく経過でもあった。

──その頃、あなたたちと同じような音楽を聞いてた友だちは他にも結構いました?

Jojo 小さなサークルだったかな(笑)。フランスでは僕らみたいな趣味は少数派だった。

Juju フランスの高校生としては珍しかったかも。でも、みんなすごく仲がよかったし、いつも音楽の情報を交換してた。「好きなバカラックの曲は?」みたいなね。

Jojo 自分たちの好きな音楽をもっと認めて欲しいという気持ちは日増しに強くなっていったな。

Juju それで、高校卒業後すぐにJojoと一緒に音楽を作るようになったの。まだPearl & The Oystersとは名乗ってなかったけどね。

Jojo 19歳だった。

Juju フランスでは全然ウケなかったけどね(笑)。

Jojo さっきのタワーレコードでの話だけど、トッド・ラングレン『Something / Anything?』やビーチ・ボーイズ『Pet Sounds』、ゾンビーズ『Odyssey And Oracle』みたいなアルバムを「これは必携!」だと飾ってあったんだよね。僕らがティーンの頃、そんな光景はフランスではありえなかった。今はだいぶ違ってきてるかもしれないけど。

Juju 私たちの音楽は「難解だし、ミュージシャン向けの音楽だと思う。気楽に聴きたい人向けじゃない」ってよく言われてた。それが日本ではそんなふうには言われない。その違いは感じたかな。

Jojo 「ミュージシャン向けの音楽」なんて存在しないのにね。音楽は音楽だよ。

Pearl & The Oysters ❍ Read the Room feat. Lætitia Sadier(Official Music Video)

──そんなフランスでの葛藤の日々が変わってきたのはいつ頃? Pearl & The Oystersとしてのデビュー・アルバムのリリースは2017年ですが。

Juju アメリカへ移住したの。

Jojo 僕の大学での仕事の関係でね。

Juju 移住を決める前にフランスでリリースしたのは2、3曲だけ。ファースト・アルバムのレコーディングはフロリダに行ってからはじめた。フロリダの小さな大学街(ゲインズヴィル)に住むことになったんだけど、その街に小さなレーベル(〈Elestial Sound〉)があった。DIYでやってる人たちだったんだけど、彼らが私たちの音源を聴いて、「うちから出すべきだ! ツアーもしろ!」ってすごくプッシュしてくれた。それがファーストになったの。

Jojo 僕らにとってもその後押しは必要だった。なぜって、その当時、バンドを名乗ってはいたけど実際には僕とジュリエット2人で宅録していただけ。いわゆるベッドルーム・ポップさ。レーベルからの助言がなければ、バンドを組んでライブができるなんて考えもしなかったかも。僕らはすごく運がよかったとも言えるよね。自分たちの作品を世に出してくれるレーベルと出会った。しかも、フランスから越してきたばかりの街で。同じタイミングで、高校時代からの友人が兄弟とパリで始めたレーベルでもその音源を気に入ってくれて、フランスではレコード、アメリカではカセットでリリースされることが決まったんだ。

Juju それからしばらくはアメリカとフランスでの2国リリースが続いたかな。(今回のアルバムから移籍した)〈Stones Throw〉が初めてのワールドワイド・レーベルよ。

Pearl & The Oysters『Pearl & The Oysters』(2017)

Pearl & The Oysters『Canned Music』(2018)

──フロリダに移住したことは、Pearl & The Oystersのトロピカルでドリーミーなイメージ作りにすごく関わりがあるのでは?

Juju フロリダの自然にはすごく影響を受けたな。

Jojo 移り住む前からそれなりのイメージはしていたんだけど、着いてみたら想像以上にクレイジーな街だった(笑)。クレイジーっていうのは変な意味じゃなくて、僕らが持っているイメージを超えていたってこと。ヨーロッパでは自然はすごく管理されている。特にパリではね。でも、フロリダでは自然の力があふれかえっているんだ。

Juju フロリダの政治的な状況は右傾化していて、アメリカ人でもあの州が嫌いな人は多いと思う。でもね、自然の存在感の凄さについては、「ここは別の星なんだ」って認めざるを得ないの。

Jojo 台北にいたとき、フロリダを思い出していたんだ。虫たちの鳴き声の大きさのせいでね。あの環境のおかげで、よさがわかった音楽がたくさんある。僕たちの最初の2枚のアルバムをミックスしてくれたエンジニアが教えてくれた細野晴臣のアルバムもそう。『COCHIN MOON』(1978年)は、シンセサイザーを通して自然の虫の声が音楽の一部になることを教えてくれた作品。僕らもそういう世界を作り出したいと思った。そういう気づきはフロリダならではだね。フランスでは気が付かなかっただろう。

Juju フロリダのいろんなものが、私たちのイマジネーションを焚き付けたよね。

Pearl & The Oysters ❍ Fireflies(Official Music Video)

──そのフロリダでの生活を経て、今は2人は南カリフォルニアを拠点にしていますよね。

Jojo 引っ越したのは2020年の初めかな。1月1日にしたんだ。新年を新しい街で迎えたくて(笑)。ロサンゼルスに行くと決めたのは、僕とジュリエットの血縁者がすでに住んでいたからなんだけど、思ってたよりずっと引越まで時間がかかってしまった。僕がフロリダの大学で授業を持っていて、博士号も取得する予定だったせいなんだけどね。いろんな手続きを経て、2020年1月に待望のLAにやって来た。でも、着いてからわずか2ヶ月ですべてがシャットダウンされてしまった。

──前作(サード・アルバム)『Flowerland』(2021年)がLAに移ってから最初の作品ですか?

Jojo いや、あのアルバムはフロリダで全部制作した。リリースまですごく時間がかかってしまったんだ。LAで作ったのは今回のアルバムが初めてだよ。

──そうなんですか。2年くらい待たされたんですね。でも、そういえば去年11月に来日したKhruangbinにインタビューしたんですが、ベースのローラ・リーは「最近、Pearl & The Oystersを聴いてる」と言ってました。たぶん、彼女は『Flowerland』を愛聴してたんだと思います。

Juju 本当?

Jojo すごいな。フロリダでドライブするときは、Khruangbinをよく聴いてたよ。嘘みたいだな(笑)。

Pearl & The Oysters『Flowerland』(2021)

──Jujuさんが弾くオムニコードなど、ヴィンテージなレトロ電子楽器やトイ楽器もPearl & The Oystersにとっての重要なパーツですよね。

Juju フランスから渡米するとき、私たちスーツケース2個ずつしか持っていけなかったから、トイ楽器しか入らなかったの(笑)。

Jojo だけど、トイ楽器には僕らが出したいと思うサウンドがあるんだよ。子どもの頃に遊んでたビデオゲームの影響なのかもしれないけどね。ああいうヘンテコな音がずっと好きなんだ。僕らのアルバムは出すごとに洗練されていってると思う。だけど、どのアルバムにもオムニコードやおもちゃテルミン、トイ・パーカッションの音が必ず入ってるんだ。

──YouTubeでも見ることができる最近のあなたたちのショーの様子を見ていると、すごくみんなを楽しませてますよね。バンド・サウンドだし、ダンス・ミュージックでもある。宅録から始まったとは思えないくらいです。

Juju 私たちのバンド・メンバーはみんなすごい才能だからね。今回一緒に来日しているドラマーのベン・ヴァリアンもすごくグルーヴがある。

Jojo アメリカではベーシストも加わって4人編成が基本かな。その4人であちこちをツアーしてきた。パーカッショニストもレギュラーで入ってもらえたら、もっと音楽のスケールが増すと思う。

Dungeon Sessions:Pearl & The Oysters – Konami

Juju 私たち、だんだんダンサブルになってるし。

Jojo サード・アルバムの頃からダンス・サウンドになってきてるかな。AORっぽくなったとも言える。

Juju 私たちの音楽で踊ってる人たちを見るのは大好き。

Jojo 僕らはアルバムにカラフルな要素がいろいろ入ってるのが好きだからね。踊れる曲もあれば、すごくスローな曲もあっていい。ファンクやシティポップも次のアルバムには入るかもしれない。僕らとつながっている音楽なんだから。

──日本もようやくCOVID-19の規制が解除されて、フルスペックでのライブが楽しめる状況になったので、このタイミングでの初来日はよかったと思ってます。自由に踊りたい人たちにも、音楽オタクの人たちにも、Pearl & The Oystersの音楽は祝祭的に響くから。

Juju それは私たちも同じよ。COVIDの3年は最悪だったから(笑)。

Jojo でも、そのおかげで「ここから逃避したい」という気持ちが新作に全開で反映されたから、それはよかったかもね(笑)。

──ぜひ次回はフルバンド編成で来日を期待します。野外フェスもすごく似合うと思います。

Pearl & The Oysters ❍ Paraiso(Official Music Video)

──では、ここからは2人のジャパニーズ・ミュージック愛についていよいよ聞きます。最初に好きになった作品やアーティストは?

Jojo 12年くらい前かな。フランスのレーベルが作曲家別のトリビュート盤をシリーズで出していたうちのアントニオ・カルロス・ジョビンのトリビュート盤『A Tribute To Antonio Carlos Jobim』(1997年)を教えてもらったんだ。そこにピチカート・ファイヴの“The Girl From Ipanema”が入っていた。その当時、僕はジョビンの研究で博士論文を書いていたから、すごく興味を持ったし、何しろピチカートのカヴァーは素晴らしかった。それでもっといろいろ知りたくなった。その次がCornelius。その2組の存在が大きかったな。

Juju 2番目の大きな波が『PACIFIC』(1978年)よね。最初は美しい写真のジャケットに惹かれたんだけど(笑)。

Jojo あれは重要なレコードだよ。シーンのキー・プレイヤーたちが揃っている。

──細野さんの“最後の楽園”、そしてYMO以前のヴァージョンで“Firecracker”が収録されています。ということは、YMOを聴いたのはその後なんですね? 海外のリスナーはYMOを入り口にしてジャパニーズ・ミュージックに入る人が多いですが。

Jojo そうなんだよね。なぜ後回しになったのか……。確か20歳の頃に初めてYMOを聴いたと思うけど、その頃の僕らはシンセサイザーにあまり興味がなかった。フロリダに越してから、YMOマニアの友人と過ごすうちに彼に導かれて、あらためて好きになったんだ。今ではすっかり大好きなんだけどね。僕とジュリエットは、なぜか1978年前後のレコードが好きみたいなんだ。『はらいそ』(細野晴臣)に、『PACIFIC』に、『千のナイフ』(坂本龍一)に、YMOのファーストもそう。78年ってなんてぜいたくな年なんだ!(笑)

──そういったジャパニーズ・ミュージックがあなたたちの音楽に与えている影響ってどんなものだと思います?

Juju 私たちがやりたいと思っていることがあの音楽のなかにあるのは確か。あなたたち日本人の聴き方とは違うかもしれないけどエキゾチカ的な部分でも好きだし、シンセサイザー・サウンドを通じて自然な声で歌っているところとか、いろんな影響があるなあ。作曲面でも影響がある。

Jojo 僕にとっては、その魅力は折衷主義なんだ。クラシック音楽とR&Bが融合しているような曲とか。僕ら2人ともクラシックが好きで勉強もしてきたから、よけいにその素敵さを感じるというか。すごく豊かな音楽じゃないかな。

Juju ジャズの要素もあるよ。

Jojo たとえば、ブロードウェイ・ソングみたいなメロディをシンセサイザーやシーケンサーを駆使した初期テクノを組み合わせたり。日本のミュージシャンが受けた影響をある意味ごった煮にしているんだけど、そこにはこの日本だから成立しうる物語性がちゃんと宿っている。そこに僕らは近しさを感じてる。同じ一家で育ったんじゃないかとすら思う。そういう感覚って、音楽それ自体だけの話じゃなく、音楽を探すときどういうことにワクワクするのかにも通じてるよね。だから、僕らが受けた最大の影響は、折衷主義からこんなに素晴らしい音楽が生まれ得ると信じさせてくれたこと。

Juju その感覚が、私たちにとってまったく新しいアイデンティティとして作用してる。

Jojo テクノロジー面での影響も大きいよ。当時は革命的なサウンドだったパーカッションやシンセサイザーの質感に僕らは今魅了されている。『千のナイフ』は昨日聴いたとしても今なお耳の感覚を大きく広げてくれる作品だ。

Juju 坂本龍一以前には冨田勲の素晴らしいレコードもあるしね。

Jojo 僕らの使うシンセサイザーのサウンドがある意味レトロと言われることは認めるけど、僕らはそのサウンドを面白く使うんじゃなくて、先に進むために使っているんだ。

Pearl & The Oysters ❍ Pacific Ave(Official Music Video)

──最後の質問です。今回の東京滞在で、いちばんワクワクした場所はどこでした?

Juju ちょうど今日、クラシックのレコードをかける喫茶店に行ったの。渋谷にある「ライオン」ってお店。

──わ、すごい。名曲喫茶ライオンですね。あの店は100年近い歴史があります。

Jojo 内装も雰囲気もすごくて泣きそうになったよ。

Juju いちばん感動したのは、お客さんがみんな熱心に聴き入っていたこと。音楽を愛してる人たちがこんなにいるって思った。あの店は今回のハイライトだったね。あ、でもディスクユニオンも行ったけど……。

Jojo 観光をもっとしなくちゃいけないと自分に言い聞かせていたから、今回は4軒しかレコード店には行かなかったよ(笑)。そういえば、君はCymbalsってバンドを知ってる?

──はい。1990年代から2000年代前半にかけて活動していた、いいバンドです。

Jojo 実は最近発見して、大好きになったんだ。『Mr.Noon Special』(2000年)ってアルバムがすごくよかった。ベース・プレイヤー(沖井礼二/TWEEDEES)とコンタクトすることができて、今夜見に来てくれるんだって。TWEEDEESのCDを見つけたから、今夜、彼にサインをもらわなくちゃいけない。

──なんと! それもハイライトのひとつになりそうですね。

Juju 待って。訂正。やっぱり東京のハイライトは、昨日のショーよ(笑)。

Jojo そうだったね! 今日もそうなると思う(笑)。

架空のエキゾチカ・パラダイス──Pearl & The Oysters、インタビュー music231207-pearl-and-the-oysters-2

取材・文/松永良平
(2023年7月6日、青山・月見ル君想フにて)

Pearl & The Oysters ❍ Loading Screen(Salami Rose Joe Louis Remix)

INFORMATION

架空のエキゾチカ・パラダイス──Pearl & The Oysters、インタビュー music231207-pearl-and-the-oysters-5

Pearl & The Oysters(パール&オイスターズ)

コラボレーターでありライフパートナーでもあるジュリエット(通称ジュジュ)とジョキム(通称ジョジョ)の二人は、高校時代にパリで出会い、共通の音楽とポップカルチャーの趣味などですぐに意気投合。70年代のジャズ〜90年代のスペース・エイジ・ポップなどを聞いて育った二人の幅広い音楽的感覚は、その後2015年に米フロリダ移住への決め手になった。現地のDIYな音楽シーンを体験した後、2020年には現在の拠点になるロサンゼルスへと移る。3枚のアルバムをリリースした後、LAのローカルアーティストたちとの交流を重ねていく中で2022年にロサンゼルスのレーベル:Stones Throwと契約。「Pacific Ave」「Konami」「Paraiso」などのシングル曲をリリースし、2023年4月21日には待望のニューアルバム『Coast 2 Coast』をリリースした。

ステレオラブのようなあたたかなサイケデリアを散りばめながら、レーベルメイトのベニー・シングスやジェリー・ペイパーなどのポップスの王道的な系譜も引き継いだサウンドで、サイケなシンセポップ/ドリームポップ・サウンドで人気を誇る。

アルバムには、ステレオラブの レティシア・サディエーがゲストボーカル、マイルド・ハイ・クラブのアレックス・ブレティンなどもギターで参加。日本のレジェンド:YMOやコーネリアスなどからも影響を受けたと語る二人、制作 やLiveに使用しているオムニコードなどの楽器、先行シングルのMVや曲名タイトル「Konami」からも、日本の音楽やカルチャーへの愛着も伝わるであろう。

LinktreeInstagramStones Throw

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Pearl & The Oysters “Coast 2 Coast Remixes” EP

2023.12.08(金)
Stones Throw
Tracklist
1. Fireflies(Vicky Farewell Remix)
2. Moon Canyon Park(The High Llamas Remix)
3. Konami(Jerry Paper Remix)
4. Pacific Ave(Brijean Remix)
5. Loading Screen(Salami Rose Joe Louis Remix)
6. Paraiso(Maylee Todd Remix)
7. Joyful Science(Peanut Butter Wolf Remix)

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架空のエキゾチカ・パラダイス──Pearl & The Oysters、インタビュー music231207-pearl-and-the-oysters-4

Pearl & The Oysters『Coast 2 Coast』

2023.04.21(金)
Stones Throw
Tracklist
01. Intro(…on the Sea-Forest)
02. Fireflies
03. Konami
04. Pacific Ave
05. Timetron
06. Loading Screen
07. Space Coast
08. Moon Canyon Park
09. D’Ya Hear Me!
10. Paraiso
11. Read the Room(feat. Laetitia Sadier)
12. Vicarious Voyage
13. Joyful Science

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