圧倒的な個性を持つ役者が揃う東京のクルーLSBOYZ。メンバーで世田谷区三軒茶屋出身のMC、Peedogが、今年3月に単独では初のEP『GRAIL』をリリースした。5曲が収録されている本作にビートを提供したのはCEDARLAW$、FEBB、MASS-HOLEの3人。盟友・META FLOWERが客演している。また、今年初旬にはA-THUGの“BOYS.. DON’T CRY REMIX”に参加。ハードボイルドなリリックと突き通すような力強いラップスタイルで、その存在感を確かなものにした。
本記事では、飛躍を続けるPeedogのインタビューをお届けする。インタビュアーにはアーティスト/映画監督で、古くからLSBOYZを知るUMMMI.を招いた(長編映画『重力の光』は全国各地で上映中だ)。また、取材には〈WDsounds〉主宰のLIL MERCY、META FLOWER、クルーの作品を手掛けるエンジニアのギンジが同席。クルーと縁の深い、三軒茶屋の角打ち鉄板焼居酒屋・三角醉で話に花を咲かせた。
奪うより与える、継続の中の贅沢地点
プードル君(Peedog)にインタビューするために、久しぶりに三軒茶屋の駅を降りる。指定された飲み屋に向かう道を歩いていると、LSB(LSBOYZ)のみんなと夜通し三茶の街を駆け抜けていた数年前の日々の記憶がずきりと記憶を突き破って立ち現れる。酒とゲロ、そこに点滅するリアルな物語。
めちゃくちゃなように見えて真っ当にヒップホップをしている、そんな印象だったプードル君は『GRAIL』(GRAILの意味は、酒を満たす、懐の冷えを満たす、仲間の意識を上げる、など色んな意味を込めたらしい)を通して、2000年代初頭から始まった日本のハスリングラップを2020年代にアップデートさせたかったと語る。ついにリリースをした初となるソロEP『GRAIL』を中心に、今まであまり語られてこなかったプードル君のラッパーとしての変遷を聞いた。
INTERVIEW:Peedog
──久しぶりに会うのにいきなりインタビューするの、ちょっと緊張する。どうやって始めようかな。まずはプードル君がなんでラップをはじめたのか、LSBのはじまりを改めて教えてほしい。
Peedog 元々ラップをはじめたのは中3くらい。中3のとき、友達がみんな捕まっちゃった。その中で俺ひとりだけ捕まってなくて、学校にいる。でも友達がいないから、一人でもできることって言ったらゲーセンでゲームするか、音楽聴くかくらいだった。ラップが好きだったから、この機にちょっとやってみようと思った。それでフリースタイルを自宅でしてたって感じかな。少年のときは。
──それは録音してたりした?
Peedog 録音の仕方もわからなかったから、とりあえずラップをしてみる。オケが入ってる日本人のラッパーの音源に、上から自分でフリースタイルしてた。自分の部屋で。
そこからmixiでサイファーとかあったから調べて行くようになって、そこでエミシ(rkemishi)とチャッピー(Young Cee)君に会った。エミシ君が俺にラップを教えてくれるというか、良い意味で、エミシ君の導きを受けてた。子供だったからけっこう柔軟に受け入れられるじゃん。提示してもらったものをこなしていったら、一丁前にラップができるようになってた。それから、エミシ君とFatslideってグループをやってたんだけど。
──それが何歳くらいのとき?
Peedog 16歳から22歳くらいまで。もうやってない。お互い大人になったし、20歳を超えたあたりから自己形成ができたから、良い意味でも悪い意味でも意見が合わなくなる瞬間が多くなっちゃって。ずっと一緒にいたからさ。俺は地元で落書きとかしたかったし、エミシ君はエミシ君で、俺が地元でやっていたことに首を突っ込みたかったんだろうけど、入りづらさもあったのかなって思う。俺らもエミシ君に対して入りづらさを出しちゃったから。悪いことしちゃったなって思ってる。
──Fatslideを辞めてから、LSBが始まったって感じ?
Peedog LSBOYZは名前を決めたのが俺とチャッピーなんだけど。俺らで勝手に盛り上がり始めたのは2014年くらいかな。
ギンジ 2013年くらいにあったよ。うちにあるステッカーに2013って書いてあった。
Peedog 俺らが大学一年生くらいのとき。
──じゃあ私たちはまだぜんぜん出会ってないね。
Peedog 会ってないね。そのときはMETA FLOWERも一浪してて、その悩みを聞く会とかをやってた。俺は2013年、土方をやってた。親父の仕事が土方だったから、その会社を手伝ってた。ストリートビジネスとかはまったくしないで、そっちでお金を貯めようと。平日の夜中と休日は、チャッピーたちと10kmくらい歩いてボムをしまくる。SCOTCHとかSOSが出てきて、みんなで毎晩やる。俺とチャッピー、SCOTCH、SOSで夜な夜なボムをする。そのときのオリジナルメンバーがLSBOYZ。それが元々のはじまりかな。
──じゃあLSBOYZはグラフィティのメンバーとかも含めてLSBってこと?
Peedog そうだね。もともとグラフィティをやりたくて、LSBって名付けて。名前はLONG SLEEP BOYZの造語。24時間遊んで、24時間寝て、24時間後に集まる。それでゼツってるからLONG SLEEPだねって話をチャッピー君がしていて、LSBOYZになった。
──初めて名前を聞いたとき、LSDBOYZだと思ってた(笑)。
Peedog よく言われるんだけど、ぜんぜん違う、アシッドとかではないんだよね。この話はNGなんだけど、チャッピー君がはじめて手に入れたときに電話してきて……。
──(笑)。グラフィティやるところから音楽、ラップにシフトしたきっかけは?
Peedog チャッピー君がちょこちょこいなくなったりしてたんだけど、ついに長い間いなくなることがあって。いなくなることが分かった瞬間に「頼んだわ!」ってチャッピー君に言われた。なにを頼まれたのか、それから一人でずっと考えていて。自戒の念とかも込めて、彼には手紙とかも出さなかったのよ。でも一回だけ会いにいったら、すごいダサいセーターを着てて(笑)。どんな柄のセーター着てんだよって。そのとき「ラップやっといてよ。俺もリリック書いてるから。帰ってきたときのためにフィールドを作っておいてよ」って。それだったらやるわと。その帰り道に速攻レコーディング・スタジオを押さえて、ARASHI(LSBOYZ)に電話して日程を空けさせて、次の週にARASHIと3曲くらい録った。
──もう曲はあったんだ。
Peedog そうそう。書いてたんだよね。
──ライブはやってたの?
Peedog ときどきやってた。チャッピー君のスタイルとか含めて、結構ウケてたんだ。沖縄のイナグ INAがやってくれたPVとか、界隈の人たちには届いてくれてた。彼らのパーティーにも呼ばれたりもした。そのときは新宿BE-WAVEとか中野heavysick ZERO、渋谷ASIAの2階のフロアとか。いろんなところでやってた。でも俺らも本当に適当だから、もらった15分の枠で8分で帰るとか(笑)。「曲ねぇわ」ってなっちゃったり。まあでも、チャッピーのことがあって、ARASHIと作りはじめて、はじめてビートを買ったりもした。それが2015年かな。
──グラフィティに対する思いとかはどうシフトして行ったの?
Peedog 俺は器用じゃないから、いくつかのことを一緒にできなくて。ラップとグラフィティだったらライフスタイルの延長線だし出来てたと思うけど、チャッピーがいなくなったことによってストリートビジネスの穴が空いて。みんなで手分けしてそれを埋めるタイミングで、俺もやることになった。ただ、その仕事をするのはリスクがあるから、グラフィティをやりながらは俺の性格上無理かなと。臆病だから。あとは、そのときのグラフィティの流れをみて、自分のバイブスがあってないと思って、グラフィティよりラップをしたいと思った。それでシフトした。
──ライブはやってたけど、音源を出したりリリースはしてなかったよね。
Peedog そうだね。リリースはしてなかった。
──LSBがリリースしたのは2020年か。私がみんなと遊んだのは3~4年前とかで、ちょうど空白のときだよね。
Peedog そのあたりで、チャッピー君が出てきてた。彼のテンション自体は高いんだけど、リリックが書けない状態になっちゃってて。俺らも俺らでちょっと大人になっていて、居酒屋で飲むのが楽しくなってた時期だった。外で飲んだり家でチルったりするのが楽しいというか。その時代にマーシーさんとの距離も徐々に縮まっていって。精神年齢も上がっていったから、大人の人とも話せるようになって。
──(笑)。マーシーさんに憧れてるっていうのはみんなから聞いていて。
Peedog 俺が最初にプードルに会ったのはもっと若い、15歳とかのときですよね。FEBBが紹介してくれて。そのあと挨拶はしてくれるけど、特に話したりはしないみたいな。FEBBが亡くなるちょっと前とかは結構会ってたから。
ギンジ FEBBが亡くなる前くらいはチャッピー君も戻ってきていたり、いろんなことがぐちゃぐちゃに重なってたよね。
──FEBBが亡くなった時、謎にみんなで一緒に焼肉食べに行ったよね。イツキ(META FLOWER)もゆかりちゃんもいて。4人で行ったけど、プードル君は一言も喋らないで。
Peedog 金だけ払って帰ったんだよね(笑)。
──あの日はめっちゃ心配した。
Peedog チャッピー君もそのとき心配してくれたりして。チャッピー君が出てきたのとFEBBが亡くなったのがほぼ同じタイミングだから、自分も結構落ち込んでいたけど、酒を飲むことで忘れるみたいな。×××と酒で忘れるみたいな時期が一年間くらい続いちゃって。LSBOYZ全体がそうだったかな。
──私はそのヤバい時期にLSBOYZのみんなと遊んでたから、昔も今もずっとあの感じなのかと思ってたけど、最近みんなちゃんとしてるなって。大人になってるよね。
みんなが『LSBOYZ』を出したとき、全然聴けなくて。あの頃のすごいダウナーなバイブスに食らってしまいそうで。でも、あの状態から私も脱出して、2枚目からは距離もできてみんなのラップがちゃんとまた聴けるようになったの。でも聴いたときに「やばい道を突き進んでるのは私しかいないんだ」、あのときの傷を引きずってるのは私しかいないって。
Peedog (笑)。大人のふりをするのが上手くなったんだと思う。大人にはなってないんだけど。社会にフィットすることを覚えた。
──プードル君にとって「大人になる」ってどういうこと?
Peedog 俺にとって、大人っていうのは自立してることではないんだよね。人を導けるっていうことが大人だと思う。別に他人の評価とかじゃなくて、自分が思う身内の大人は、イツキだし、シュン(COCO|LSBOYZ)とかもそうだと思う。でも家のなかでは、それぞれの彼女からみたら、みんなクソガキかもしれない。これは同性に対しての話なんだけど、同性の士気を高められる存在が大人かなって思う。みんな身内の作品は聴くじゃん。作品を一枚出すごとに、「俺もやらなきゃ」って、バイブスをあげることができる。その行為が、作品を出すことが、大人になるためのものかなって思う。
Peedog “P.R.O. feat. 018” prod. CEDARLAW$(THE OTHER MIX VERSION)
──“Platinum Place”の「奪うより与える」ってリリックにめっちゃ食らって。それってプードル君にとっての大人になるっていうことと繋がってるというか、「みんなをあげてく」ことイコール「与えていく」ことなのかもしれないと思った。今までライブを見たこと何回もあるけど、なんでこのタイミングでリリースになったの?
Peedog みんなのおかげでクルーのファースト・アルバムを出して、去年の夏に突如MIKIとのタッグアルバムを制作することが決まったときに、もちろんLSBの中でいざこざとか、意見の衝突があったわけ、ガキだからさ。制作していると自分の行動が間違ってたなって思うことがあるじゃん。とくに海ちゃんは映画を撮ったりしてるから、いろんな人の顔を見て感情を汲み取らないといけないことがあると思う。去年の夏くらいに、みんなの話を聞いたりラップを聴いたりして、それを毎日繰り返してると「こいつ俺に言ってるのかな?」っていう、良い意味での勘ぐりが入る。それで勝手にひとりでバイブスがあがってて、いまだと思ってリリックを書いた。
──すべての人が、与えたいって思えるわけではないわけじゃん。まずは、自分が大人にならないと与えられない。いつくらいから人に与えたいとか、仲間のためって思えるようになったの?
Peedog LSBOYZのファーストを出した時、ラップのスタイルが自分にはまだないなって思って。ストリートビジネスをして、そのことを普通にラップをしてても……ぶっちゃけ隠さなきゃいけない話じゃん。だから、それを綺麗に昇華する。そういうビジネスについて、俺は別に悪いことをしてる気持ちはないから。だからそれを踏まえて、求められてるんだったら与えるよっていうスタンスをラップに昇華して、それを自分のものにする。ストリートビジネス自体に、いわば嫌味があるわけじゃないですか。女を侍らせて、ブリンブリンが、とか。そうじゃなくて、奪って金を稼ぐとかえはなく、綺麗に提示する。そういうスタイルを作りたくて、そういうリリックを最近書いてる感じかな。
──ちょっと話が逸れるんだけど、最近すごい好きなDJがいて、女なんだけど。その人がストリートビジネスをやってることは前から知ってたんだけど、初めてDJを聴いて、そしたらその人のDJがめちゃくちゃ良くて。この人はみんなを気持ちよくさせたいがための、その仕事なのかなって思った。もうこれってサービス業じゃんみたいな。
Peedog そう。俺もすごいそう思ってて。
──やっぱりみんな気持ちいいことが大好きじゃん。みんなを気持ちよくさせたいじゃんって。
Peedog それでギャングスタラップのなかでも、気持ちよくなるギャングスタラップってないなって思って。それがいま目指してるところかもしれない。ハスリングラップ、ギャングスタミュージック的なところで、いかに綺麗に昇華できるか。それをちゃんとUSのスタイルを消化させながらやりたい。
──プードル君の『GRAIL』を聴いて、みんなをいい気分にさせたいという欲望があるんじゃないかなって思った。
Peedog そういうビジネスって一般的にはダークと思われるかもしれないけど、俺はけっこう明るいことだと思っていて。“GRAIL”で言ってるように「善悪を決める テメェで」って話なんだよね。そこに縛られてないから。タイトル自体は自分に対する問いかけ。お前が欲しいなら俺は満たしてやるよっていう意味でずっとこれからも活動してきたいなって思う。タイトルの『GRAIL』はいろんな意味。酒を満たす、懐の冷えを満たす、仲間の意識を上げる、とか。俺が1つの作品を出せれば、みんなが徐々にあがっていく。それと、2000年代初頭からはじまった日本人のハスリングラップを2020年代にアップデートすることを目指してるから、「飢え」や「枯渇」について考えていたり、いろんな意味が重なって、『GRAIL』ってタイトルになってる。
Peedog “GRAIL”(Official Video)
LIL MERCY アップデートはしてるよね。A-THUGの曲の客演(“BOYS.. DON’T CRY REMIX”)をやってもらったけど、SCARSのなかでもA-THUGはとくにポジティブにハスリングラップをしてるじゃん。
──あの曲、マジで良かった。めっちゃカッコいい。どういう気持ちであのリリックを書いたの?
LIL MERCY あの曲はA-THUG名義で作ってて最初はCHIYORIさんとやりたいなって考えていたんだけど、制作していてもう一人必要だなと思って。結構ずっと考えてて。peedogだったら入れられるかもって思って、それでやってもらったんですよね。
──2022年一番最高な曲が既に出てきたなって。
META FLOWER うらやましいよ。
──(笑)。
BOYS.. DON’T CRY(Remix)(feat. CHIYORI & Peedog)
Peedog 俺の中で爆笑ポイントがあって。リリック書いてレコーディングして提出して、そうしたらA-THUGさんの作品(『FOREVER』)にすでに入ってた。その曲のタイトルが“BOY.. DON’T CRY”で、「男は泣くな」と。でも、俺のヴァースの締めには「成功には涙光る」って言っちゃってるんですよ。
一同 (爆笑)
Peedog あのメンツで俺だけ反対のこと、涙はきれいだよって歌っていて。A-THUGさんとCHIYORIさんは泣かないでって歌なんですけど、俺は泣いちゃいなよって。
──プードル君的なやさしさが出ちゃったんだね。
LIL MERCY 最初のトラックのタイトルは“Serious”ですからね。そのタイトルで渡してて、『FOREVER』(A-THUG、2021年)が出したときに、これタイトル違くない!?って(笑)。でも、こっちの方が合ってると思う。
Peedog CHIYORIさん最高だったし、いつかライブでやりたいなと。
META FLOWER そう考えると、俺もマーシー君にBESとやろうって言われて“FLOW”を作ってるし、“BOYS.. DON’T CRY REMIX”もマーシー君だし、相当腕利きのプロデューサーだよね。
Meta Flower feat. BES “FLOW” OFFICIAL MUSIC VIDEO
LIL MERCY 2人とも同じ世代だし、ラッパーとして見て目立ってるよね。今回のEPも本当に出せて良かったなって。
──“BOYS.. DON’T CRY REMIX”もそうだけど、『GRAIL』を聴いて、重いのに優しいみたいな、そんな印象を受けた。
Peedog もろそれを目指していて。明るい曲を作ろうと。気づいてくれる人は気づいてくれる。
──ドライブのデートとかでも流せるような明るさがあって、でも聴けば重いみたいな。不思議なバランスだよね。
Peedog 俺が意識したのは全局面対応。夜でも昼でも、ドライブでも寝る前でも、いつでも聴ける。唯一使えないのはピロートークかな(笑)。
──言葉が重いからね(笑)。でも、本当にそうなってると思うよ。
Peedog なりたいものになれるってすごい贅沢な環境だと思うんだ。やっぱり選べない人が多いじゃん。でも、いま自分は選べる環境にいるから。ビートもそうだし、人選もそう。もちろんアートワークもそう。やりたいと思ったことをやれる。逆に、贅沢だからこそめちゃくちゃむずかしくも感じる。そこを考えて、聴きやすい物を作ろうって思った。人間にとって一番贅沢な時間って、自分勝手な状態になっちゃうから変な作品ができたり可能性があるから、そのことに一番気をつけて作った。
──タイミングがいまになったのも、完璧な、贅沢な状態でやりたかったから?
Peedog 贅沢な状態でやりたかった。一番金が潤ってて、一番自分が満たされてる状態のときに出しておきたかった。今後さがるかもしれないし、さらにブチあがるかもしれない。そのときにもう一回聴き直したくて。
──さがるっていうのは、どういうこと?
Peedog 人生的に。なにがあるかわからないじゃん。身内がみんな死んじゃったり、俺が死んだりするかもしれない。だからこそ、満たされてるときに書きたい。逆に満たされてるときにしか出てこない。落ちてるときにリリックかけない。
──だから『GRAIL』は明るいのかな。LSBOYZでやってるときと今回のソロってどう違うの?
Peedog 一切遠慮してないと思う。
META FLOWER 結構遠慮してたもんね。
──遠慮ってどういうこと?
Peedog リリックだね。英語、スラングの使い方とかはLSBOYZのフロウに変えてるから。ソロのときはUSの現行のスラングをいれまくる。だけどLSBOYZのときは入れずに日本語にしたりする。『LSBOYZ』に入ってる“SKIMASK”って曲だったらわかりやすく説明したりする。たとえば「JapのKidsはSippin’してるHenny」とか。日本人なのにヘネシーとか飲むじゃないですか、カッコつけて。俺は飲まない。一回頼んだら高くて萎えたし。
一同 (笑)。
Peedog あるクラブに行って……スモーク・DZA (Smoke DZA)を観に行って、カッコつけてヘネシークランベリーって頼んだら2,700円って言われて。
一同 (爆笑)
Peedog それから頼んでない。
META FLOWER お茶割だって1,000円くらいするよね。
Peedog ふざけてるなって思って。そういう経験とかをいかにクールに言えるか……俺らは焼酎でいいと。焼酎のほうが身体にあうよねというか、ふだん飲んでるし。
LSBOYZ/SKIMASK(Official Video)
──さっきプードル君が、自分にはスタイルがないなって話をしてたじゃん。私はUSの影響がすごいあるなって思うし、それがプードル君のスタイルだとも思ってる。今まで、どういうものに影響を受けてきたの?
Peedog 影響を受けてるラッパーのなかで一貫してるのはファッションなんだよね。ファッションがクソカッコいいやつはラップもだいたいカッコいいから。
──ファッションって、洋服の話?
Peedog そう。アメリカのシーンはジュエリーとか、どのブランドを着るだとか、そこで人間を見てるところもある。日本はまだその部分がうまく組み合わさってないというか、マーケットも広がってないと思うし。俺はそれも目指してますね。ファッション的要素というか、太ってようが痩せていようが、どういうアイテムをピックしているのか、とか。通ずる物は絶対にあって。ファッションとかもあわせて、いかに雰囲気を作れるか、そういうことは意識している。友達も、カッコいいほうが良いじゃないですか。ダサい友達は必要かもしれないけど……基本的にどこかカッコいいやつじゃないと絡みたくないから。
──カッコいいっていうのは?
Peedog カッコいいのは……武器のある人かな。武器がある奴は超カッコいいと思う。あとは自分にできないことをやってる人。俺はエンジニアをできないし、映像も撮れないから、それができる人間はカッコいいとは違うかもしれないけど、リスペクトしてる。
──自分がやってないことを尊敬するっていうのはもちろん私にもあるんだけど、同じフィールドというか、ラッパーに対してもカッコいいって思うわけじゃん。同じラッパーで、カッコいいと思う存在って誰?
Peedog 固有名詞は出したくないけど、日本人やアメリカのラッパーも含めて、かっこいいなって思うラッパーは、まず人を楽しませてる。ライブじゃなくてもイヤホンで聴いていても、言葉が分からなくても、言葉が分かっても、情景を浮かべさせることができる。歌だけで足取りが軽くなっちゃうようなフロウがある人はカッコいいと思う。それはラップだけじゃなくて、ビートとどれだけマッチさせているかでもある。それがフュージョンできてる人間はめちゃめちゃカッコいいと思います。BAD HOPやJP THE WAVY、LEXとか、メインストリームで売れてる人たちもカッコいいと。俺には相見えないかもしれないけど、ぜんぜんカッコいいと思う。楽しませてるという面では、彼らがすごいクールだと思う。
──プードル君、やっぱりベースがやさしいよね、本当に。今回はFEBBのビートを使ってるじゃん。
Peedog “Platinum Place”とMUD君とやってる“QUIQ”がFEBBのビート。
──最後に「BOW BOW BOW」ってプードル君が言うところ、あれがすごいFEBBっぽいなって思った。
Peedog それをやりたかった。最初、本当は入ってなかったんだけど……。
ギンジ あの「BOW BOW BOW」はすごい録り直したよね。これじゃないって。決まった瞬間は全員一致だった。
Peedog COCKROACHEEE’zが中野heavysick ZEROでやってた<SLOWLIGHTS>ってパーティーに昔出ていて、“Platinum Place”は、それを思い出して書いた曲。ILL-SUGIがみんなをまとめてるお兄ちゃん的な動きをしていて。<SLOWLIGHTS>の前に<Vomit>っていうパーティーを毎月第一月曜とかに渋谷NoStyleでやってて、そのパーティーはFatslide、COCKROACHEEE’z、Fla$hBackSの前身のKKKって、アカイ君(NOSH)と佐々木(KID FRESINO)、FEBBのクルー。あとはADAMS CAMP、いまはKOOL G 88って名前でビートメイカーやってるBFのクルーが出てるパーティーがあって。それを思い出して書いた曲。
──なんでFEBBのビート使って、この曲を書こうと思ったの?
Peedog そのときのクラブが、俺は一番吸収した時代かなと思っていて。だからインプットしたものをいまアウトプットしてみようと。そのとき俺もいたし、FEBBもいたから、それで吐き出したいなと思って書いたのが“Platinum Place”。
──さっき、プードル君が自分の一番贅沢なタイミングで出したかったって言ってたのがすごい印象に残ってて。
Peedog たぶん自分の性格で、音楽以外のことがうまく行ってないと、音楽ができないから。俺はいま生活も、LSBOYZも、物事を円滑に進めたいと思ってる。落ちてるときは、リリックも書けない。
──落ちてるときはなにしてるの?
Peedog 本当に落ちてるときはマジでなにもしてない。ベッドでYouTube観てる。昔のお笑い、『エンタの神様』とか観てる。
──懐かしい(笑)。超世代なんだけど。
Peedog 昔のお笑いみて、さらに落としてる。昔を思い出すと落ちるじゃん。小学生だったな、いまなにやってるんだろう俺って。落ちるときはとことん落ちて、誰とも連絡を取りたくない。
LIL MERCY そういう時期あったよね。
Peedog 落ちきったら、やらなくちゃなって仕事をはじめたり、全部やるから。
──全部タイミングだね。
Peedog そう。リリースもいいタイミングでできたと思うし。あと、めっちゃいいなと思ったのは、〈WDsounds〉でやってること。LSBOYZのファーストもそうだけど、〈WDsounds〉でやってるとマーシーさんの動きが分かるじゃないですか。他のアーティストのリリースインフォも届くから、それで鼓舞されてることもある。
LIL MERCY リリースしてるアーティストにプレスリリースとか流してるからね。音源も聴けるようにして、ライターに投げるような形で。
Peedog MULBEさんだったり、昔から知ってる方のリリースインフォが届くとあがりますね。〈WDsounds〉でやってて良かったと思える要素の1つです。
──プードル君の『GRAIL』を聴いて思ったのは、やり続けるのっていいなと思った。みんなで遊んでた時は、まさかプードル君がリリースするなんて思ってなかったから。ライブでかまして、存在感がすごいっていうのがプードル君のイメージだった。でも、ここで贅沢な瞬間だって、プードル君が自分で言えるくらい満たされたタイミングでリリースして、ラップし続けている。それがすごい重要なことだと思った。
Peedog リリースすることが精神衛生上良いかなって思った。
LIL MERCY 出してみて思ったよね。SNSとかもテンションいい感じじゃん(笑)。それ見て、俺も手伝って良かったなって思うもん。
Peedog やっぱり気持ちいいし。俺もイツキも言ってるけど、2年後とかに、奇跡が起こればLSBOYZのセカンドが出てると思う。
META FLOWER なんやかんや言ってるけど、みんな仲良いからね。結局リリース直後はまじでやんねぇってなってると思うけど(笑)。
Peedog たぶん2年後辺りに出てるから。コロナが完全に終わったくらいのタイミングで、絶対出てる。出てる気がする。
Interview, Text by UMMMI.
Photo by Sab! Ryuse!
SP THX TO 三角醉
INFORMATION
Peedog『GRAIL』
2022.03.02(水)
LSB/WDsounds|LSB005
流通:P-VINE
¥1800+税
GRAIL prod. CEDARLAW$
QUIQ feat. MUD prod. febb
P.R.O. feat. 018 prod. CEDARLAW$
Platinum Place prod. febb
Shape feat. Meta Flower prod. MASS-HOLE
Mixed by YAB
Mastered by Naoya Tokunou
Artwork by Fisto the parlour