2002年から約20年、進化を続ける世界規模の音楽チャリティプロジェクト・Playing For Changeが、以前からその活動に共感し参加してきた日本を代表するギタリスト・Charをプロジェクトメンバーに迎えて6年ぶりに日本ツアーを敢行。東京では福原みほ、大阪では押尾コータロー、横浜ではIchika Nitoをゲストに招き各地を回ってきた。そんなPlaying For ChangeとCharが、21日に寺田倉庫KIWAにて、Playing For Changeの活動をサポートするオーディオテクニカの企画でシークレットアンコールライブを開催。

Playing For Changeの代表/プロデューサーであるマーク・ジョンソンが、ライブの合間に行われたピーター・バラカンとのトークショーで、Playing For Changeの発端にある出来事について教えてくれた。

ジャクソン・ブラウンのレコーディングのためにカリフォルニアのサンタモニカにいた頃、スタジオに向かって歩いていたら、ロジャー・リドリーというストリートミュージシャンの歌声が聞こえてきた。(中略)わたしが『あなたはオーティス・レディングのような素晴らしい歌声を持っているのになぜこんな路上で歌っているんですか?』と尋ねると彼は言いました。『わたしは人々の喜びのための仕事をしているんです』。以来、それが私たちの信条なのです。ただ音楽を作るだけでなく、音楽で人々の生活をより良いものにしたい

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-12
ピーター・バラカン
Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-13
マーク・ジョンソン

また、Playing For Changeが世界中に音楽学校を作り音楽教育をサポートする理由をマークはこう説明する。

政治や様々なネガティブなニュースなど、私たちを分断しようとするものではなく、音楽というレンズを通して世界を知る機会を与えたい」(要約)

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-5

この日観たライブからもPlaying For Changeの理念はひしひしと伝わってきた。さまざまな国や地域から集い、ステージ上で会話し、音や表情、身振り、雰囲気を通してコミューケーションを取るメンバーたち。Charのギタープレイはもちろん、ギターを弾いていないときにも笑顔で踊る姿。そこには音楽の持つ力のとてもポジティブな面を感覚的に理解できるようなエネルギーが充満していた。

一方でコロナのパンデミック以降、そうした音楽の持つエネルギーを感じる機会がめっきり減っていたことにも気がつく。無論、有観客ライブ自体が極端に減っていたことの影響もあるが、ミュージシャンからその力を信じる声があまり上がらなかったのも理由の一つだろう。ライブそのものが人命に関わる問題なのだから仕方ない。そう言い切れるかもしれないし、あるいは音楽の持つ不特定多数の聴衆を一つにしてしまう性格が歴史的に戦争をはじめとしたさまざまなシーンで利用されてきたことに対する反省があったからかもしれない。こういった無視できない、無視してはいけない事柄に囲まれた状況で、葛藤を抱きながら、Charは“POWER OF MUSIC”という曲を作った。すでに自身のライブでプレイされているこの曲で、Charは歌う。

あいつがもしも叫ぶなら
どんな歌を綴ってくれるだろう
たぶん泣きのブルースかファンキー・ダンス・ミュージック
なんとかネガティブをポジティブに
変える手立ての一つが POWER OF MUSIC
だから信じるしかない POWER OF MUSIC

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-2

桑田佳祐が企画し昨年発表されたチャリティー・ソング“時代遅れのRock’n’Roll Band”にも参加しメッセージを放っていたChar。長きにわたって音楽と共に生きてきた彼の考える「POWER OF MUSIC」について、Playing For Changeとのステージついて、ライブの直後に話を訊いた。

INTERVIEW:Char

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-3

──まずは今回のPlaying For Changeとのツアーの感想を教えてください。

前回はゲストという形で出ていて、それこそ後半の数曲だけの参加だったような気がするんだけど、今回はそうじゃなくて、もうプロジェクトメンバーの一員になっていて(笑)。そういう意味では覚えなきゃいけない曲がたくさんあったから久々に譜面を書いたりして。あとギターが多いときは3人いるから、自分が入れるフレーズとかを久しぶりに考えながらやったから勉強になりましたよ。ラテンがあったり、アフリカンがあったり……そういうものをもちろん聴いてきているし、プレイしてきているけど、本場から来た人といっしょに演る機会はそう滅多にないから。ギターを60年弾いてきているけど、新しい発見がいっぱいあったね。

──今回のツアー前に公開されていたインタビューでは「良い意味で緊張感があるステージはこのセッションしかないんじゃないかな」とお話されていました。Playing For Changeの今回の来日で初めて一緒に音を出したときの感触はいかがでしたか?

6年前に一緒に演ったアーティストと今回初めて会うアーティストだと、どちらかと言えば後者の方が多かったから、どういうアプローチをしてくるのか音源を聴いてもわからない。そう言う意味で初日は、この人はどういうギターを弾くのかな、どういうサックス吹くのかな、どういうベースを弾くのかな、どういうドラムを叩くのかなとか、一人ひとりのキャラクターを探りながらだよね。まあ2日目もそうだったんだけど(笑)。探りながらやっていって、今日やっと「わかった!」という気がしたかもしれないね(笑)。

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-6
Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-8

──コロナの影響もあって、新しく出会った人とこういった形でセッションするのは久々だったと思います。

そうだね! 特に外国の方とはね。

──以前からCharさんにはそういった出会いをすごく楽しんでいらっしゃるイメージがあります。

Playing For Changeというプロジェクト自体がすごく前向きなテーマを持った人の集まりで、例えば何かのジャンルが好きでバンドをやっているという人の集まりではない。だから初めていっしょにやるときは緊張しているけど、一曲一曲、もっと言うと一音一音を丁寧に気持ちを込めて弾くということで通じるものがあるんだと思う。それにツアーをやっていくとだんだんその人のパーソナリティや人間性のようなものをステージじゃない場所での会話で知ったり感じたりして、それがまたステージに生きてきたりもする。だからここで終わるのはもったいないっていう印象だよね(笑)。

俺以外のこのバンドの連中はコロナ禍でも会ったりしていたかもしれないし、ここ何年間かいつも一緒にやっているメンバーは多いだろうし、楽曲も身体にもう入っている。そこに俺が入って何ができるのか。期待されていることもあるだろうし、邪魔はしたくない。自分でサイドギターをやるというのが本当に久々だったんだけど、それはそれで楽しみ方があるわけ。何でもかんでもリードを弾けばいいっていうわけじゃなくてね。ギターのもう一つの楽しみ方というか。やっぱりフロントにいるヴォーカルが主役で、自分も歌を歌うからどうすればその人たちが歌いやすいか、どうしたら歌いにくいかというのがわかる。だからサイドギターで同じことを繰り返している中でもメリハリがある演奏ができたんじゃないかな。楽しかったよ!

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-1-1
Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-11
Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-14
Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-15

──観ているこちらもとても楽しかったです。

普段は自分もデジタルを相手に仕事しているけど、こういうデジタルの時代に8カ国もいろんなバックグラウンドを持った人が、本当に集まってアナログでいっしょに演奏するっていう、まあ僕の原点と言えば原点なんだよね。だから今回のツアーはすごく楽しかった。

──原点回帰の面もあったんですね。

単純にすごく良いときもあるし、スリリングな時もある。特に今回は東京、大阪、横浜って場所ごとにゲストが違ったからね。

──ゲストが変われば演奏全体の雰囲気も変わりますよね。Charさんはそういった場の空気を掴むことも楽しんでいるのだなと今日のステージを観ていて感じました。

まあね、それはやっぱり音楽の一番面白いところ。って思わないとギターなんかが4人もいたらめんどくさいでしょ?(笑)

──コロナの影響でこういった形でのライブができない状況はフラストレーションにもなっていたと思います。

もちろん。それは僕だけじゃなくてみなさんもそうだったと思う。

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-9
Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-10

──今日トークショーでプロデューサーのマーク(・ジョンソン)さんが話していたことと、Charさんの“POWER OF MUSIC”という曲が自分の中で重なりました。“POWER OF MUSIC”を作ったとき、どのような心境だったんですか?

自分もライブができなくなって、唯一できることと言えば曲を作って、自分でスタジオに入ってデモを作るくらいで。そうしていたら“POWER OF MUSIC”という言葉が自然と出てきた。理由の一つは、どんな表現でもいいんだけど、そこをやっているアーティストが世界中どこにもいなかったってこと。あと、もしもあいつが生きていたら、どんなことを歌っているだろうなっていう気持ちもあった。俺にはこういう風にしかできないけど、(忌野)清志郎が生きていたらこのコロナ禍でどんな歌を歌ったんだろう。外国人も含めて今まで長いこと付き合ってきて天に召されてしまった人たちは何を表現したんだろうって。

コロナで、そうそう経験できないことを人類は経験してしまったじゃない? だから“POWER OF MUSIC”というかね、音楽に言語は基本的に関係ないし、その人のバックグラウンドも関係ない。それって人間に与えられたギフトというか、才能だと思うんだよね。音楽を理屈抜きで理解できるっていうのは。学問とは違って、どこの人でも悲しい曲を聴いたら悲しいってわかるし、楽しい曲を聴けば楽しいってわかる。これって俺らのDNAに入っているとしか思えない。まあまあ、そこまで研究している方もいらっしゃるようだけどね(笑)。でも不思議じゃない? 俺だって子供の頃に洋楽を聴いて、何を言ってるか分かんないけど「なんかいいな」とか「悲しいなー」とかって感じてきた。先生に「この曲は悲しい曲ですから悲しくなりなさい」って言われた覚えはないわけ。その時代の流行りもあるかもしれないけど、基本的なものっていうのは共通している。その中で微妙にね、日本人だったら感じ方が少し違ったり、もしくはその表現が少し違ったりするっていう、そういうところが面白いなって思う。それが今日のこのライブでは8カ国の微妙な表現の違いがある。同じギターでも、俺とルイス(・ムランガ)とジェイソン(・タンバ)も違うだろうし。共通していながら、違っている。その違いは俺っていう個人だからなのか、日本人だからなのかはわからない。どっちもだと思うんだけどね。そういう違いをステージ上に持ち寄ってみんなで会話しているのがすごく面白い。

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-16
Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-17

──興味深いです。

みんな家にいてデジタルな生活を送ってきて、やっとこうしてライブに行けるようになって、スポーツ観戦に行けて、マスクも外せたり、酒も飲めたりするようになって、人間の日常にある最大の楽しさって本当に当たり前だったことだったんだなって気がついたというか。もちろん今は家の中でたくさんのことがなんとかなってしまうと思うんだけど、それを超えたものが人間同士のやっている音楽、演劇などのアートやスポーツには必ず含まれているんだよ。

──こういったライブの場にまた来れるようになって、自分がこんなに敏感だったことに驚きました。

そうだよね、最近使っていなかった脳の部分が触発されるというかね。本能的に「あー良い声だな」とか。心と頭が繋がっているのがすごくよくわかる。理屈っぽく言うとね(笑)。

Playing For Changeのはじまり、Charが語る普遍的感覚|レポート&インタビュー interview230511-playingforchange-char-4

Interview, Text by 高久大輝
Photo by @_andys_pics_

INFORMATION

「Char Live 1976」

1976年にCharが行なったファースト・ツアーの模様を収めた貴重なライブ音源が公表発売中。

詳細はこちらPlaying For Change