クラブシーンで話題のトラックメイカー、PSYQUI(サイキ)。

彼とは古い友人関係なんだけど、これまで彼がバンドマン、サウンドエンジニア、コンポーザーと、徐々に表舞台から姿を消す姿を見てきた。とても“苦労”していたと記憶している。

2016年1月、「PSYQUI」名義の活動開始。同年末に開催された『BEMANI NEW FACE コンテスト』ではkz賞を受賞し、瞬く間に注目を浴びる存在となった。

今風の売れっ子トラックメイカー……だと感じる人もいるかもしれないが、今から約4年前、大衆酒場で顔を真っ赤にしながら、彼は以下のように話していた。

「別に音楽で固執してるわけではないんだよね。楽器が好きだし、音へのこだわりが半端いないだけで、ずっと辛いわ。自分にはこれしかないってのもあるけど」

彼は続けた。「自分はずっと裏方でいいと思ってるけど、正直どこにモチベーションおけばいいのか分からないんだよね」

(こんなの、本当に音楽が好きで活動している人が見たらFUNGAIするかもしれない……。)

そして今年8月。そんなPSYQUIが、オリジナルアルバム『Your voice so…』を発表した。

これまでの“苦労”で得たであろう音楽性のエッセンスが随所に散りばめられていて、予測不能な展開に従い続ける楽曲が連なる。数年間で、彼の心境はどのように変化したのだろうか。

そしてなぜ、どん底のモチベーションから「PSYQUI」を立ち上げたのか。

8月31日。バンドマン時代に足繁く通ったという御茶ノ水駅前で彼を待った。

DTMのこと、「ドウテイ・チンチン・ミュージック」って呼んでる

——お待たせしました。お久しぶりです。

PSYQUI 久しぶり〜。

——元気でした?

PSYQUI うん、元気だったよ。

インタビュー | 謎に包まれたトラックメイカー PSYQUI(サイキ)の素顔に迫る psyqui_pickup_psy_img_02-1200x796

——新譜の『Your voice so…』聴きました。巷ではFuture Bassと評されてますね。そもそもFuture Bassの定義が曖昧なので、最適な表現ができているか難しいですが。

PSYQUI 過去の多様なジャンルがクロスオーバーされてごった煮になったジャンル……というので「Future Bass(フューチャーベース)」。それが共通見解だと思う。今のところはね。

——「フィーチャー」ではないんですよね。ちなみに、日本のFutureBassの先駆者ってご存知です?

PSYQUI Pa’s Lam SystemさんRemixの“CAND¥¥¥LAND(tofubeats)”じゃないかな。これがネットでバズったことで、一気に広まった感がある。

——なるほど。あと、つい先日配信開始した星野源の“アイデア”は、2番がジュークサウンドになったり。あれも言ってしまえばFuture Bassなのかなって。

PSYQUI 国内のFuture Bass界隈がジュークサウンドを引用することが多くて、あれが王道のFuture Bassだと認識する人が増えたって背景があると思うんだよね。

——独特のリズムですよね。ドンッドンッドドンドッ、ドンッドンッドドドンドッみたいな(笑)。

PSYQUI そうそう。ジュークは確か、昔から一部で流行ってはいたよ。クラブサウンドとしてもっと盛り上がると思っていたんだけど、全然盛り上がらなかった。だから、今になって湧いてるんだと思う。

星野源 – アイデア【Music Video】/ Gen Hoshino – IDEA

——なるほど。PSYQUIさんの掲げる曲も(月並みですけど)また独特ですよね。具材が豊富というか。

PSYQUI それは意識してるかも。Future Bassってある意味、ドウテイ染みた発想がある程度許される分野だと思うんだよね。

——ドウテイ染みた発想?(笑)

PSYQUI うん。「あれもしたい、これもしたい」って、いろんな要素を詰め込んでおけばカッコよく聴こえる錯覚的な。そういうの、ドウテイがやりがちだからさ。

——あはははっ!

PSYQUI 俺よく「ドウテイ・チンチン・ミュージック」って呼んでるんだけど。俺の曲がそうなんだけど、本当の意味のDTM。例えるなら、BPM早くて、煌びやかなサウンドで、カッコいいコード進行を詰め込みまくり。かと思ったら、次のセクションで情緒不安定かってくらいガラリと雰囲気が変わる。決してお上品ではない構成だよね(笑)。

長年温め続けたプロジェクト「PSYQUI」

——PSYQUIを立ち上げてからの反響をどう受け止めてますか?

PSYQUI 好スタートがきれたかな。2016年末の『BEMANI NEW FACE コンテスト』も、公募に受かるとは思っていた。

——何を基準にしていたんですか?

PSYQUI 最近、クラブミュージック界隈でブイブイ言わせてる友人がいて、受賞した“Still Lonesome”が彼のキラーチューンに並ぶ曲だったから。その評価基準は、長年エンジニアをやってきて育った耳だね。客観的に自分の曲を評価できたと思ってる。

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明らかに光量が足りなかった

——PSYQUIを立ち上げる前に、「俺はずっと裏方で〜」とか話していたじゃないですか。

PSYQUI 「PSYQUI」は5年前から企画していて、あのときはタイミングじゃなかった。絶対に売れてやる! と見切り発車で活動開始するよりも、冷静に確実に、「PSYQUI」が人目につくためのキャリアを積んだ方が得策だと思ってたんだよね。

——かぁ〜、なるほど。

PSYQUI Future Bassがやりたくて、ずっとシーンを追い続けてたかな。それで一昨年、『BEMANI NEW FACE コンテスト』の楽曲募集の告知を見て、ピンと来た。今しかないって。

——PSYQUIの曲は、“中の人”の人生の集大成でもあるわけですか。

PSYQUI そうだね。まだまだだけど。

従来のシーンをぶち壊したい

——今、PSYQUIなりにFuture Bassを体現できてます?

PSYQUI どうだろう。まだまだ表現したい音楽としては練度が低いかな〜。

——練度?

PSYQUI 全然スマートじゃないんだよ。音数が多くて濁ってるとかではなくて、理想に届かない。なんだろうな〜……PSYQUIの曲ってアイディア勝負のところがあって。

——サウンド面で?

PSYQUI そうそう。サウンドデザインとか、理想の境地に辿り着く気がしない。根本的な話をすれば、シンセを作っているメーカーとか、プラグインソフトとか、そういった物理的な技術面ですら天井が見え始めていて。

——だからオリジナリティ溢れるサウンドなんですね。それを深掘りしていくのがアーティストの使命なのかもしれないんですけど、今後理想のサウンドを体現することは……。

PSYQUI ないだろうね(笑)。

——正解がなくて、半ばぬかるみのようなジャンルで、それでもPSYQUIが目指すものって?

PSYQUI 従来のシーンをぶち壊したい。誰かが決めたジャンルの中で表現するのではなくて、誰もが音楽を楽しむシーンをつくりたい。

——意外と、海外アーティスト的な思想なんですね。

PSYQUI うん。Mot ZoっていうUK出身のアーティストがいるんだけど、彼のことを、一生敵わないなっていうレベルで尊敬していて。彼も(きっと)アイディア勝負の人なんだけど、曲に対するサウンドデザインが外からみても完璧すぎるのよ。ジャンルもクソもない、本当のアーティストだと思う。

PSYQUI 俺もその壁を超えたい。もっともっとブラッシュアップしていい音楽をつくって、ジャンルの壁を超えたシーンとして、再構築したい。

——なるほど。今はどんな風にブラッシュアップしてるんですか?

PSYQUI あんまり面白くないかもだけど、適当な音を選んでる。どんな曲を作るにしても、まずワンセクション分のコードワークから作るんだけど、肉付けするにあたっていろんな音を当てはめてみる。シンセの音とか、サンプルとか、パズル的に組み立ててみる。

——実は先日、作曲方法は「引き算」だと語るトラックメイカーの記事を書いたんですよ。10をつくって完璧な1にする引き算方式。でもPSYQUIさんは、0から1にする足し算方式で曲を作るんですね。

PSYQUI ああ〜、違うかも。足し算と引き算、両方同時にやってる感覚かな。コードワークという枠を作った段階で、いわゆる「1(100%)」の状態が見えてるんだ。そのなかで、どれだけ適当なパーツがハマるのかを吟味してる。今の状態だと、隙間が見えてしまっている。1は1でも、スカスカな1。または、1に限りなく近い0か2。

——PSYQUIがバンドだったら即解散しそうですね。方向性の不一致という理由で。

PSYQUI そうかも。バンドやりたいなぁ。

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——割と網羅的に、一人でやってるんですよね。

PSYQUI うん。助力を仰ぐのは、女性にボーカルをお願いするときくらい。

——素朴な疑問なんですけど、女性ボーカルが多い理由ってなんですか?

PSYQUI ドウテイが喜ぶからだね。

——ははは。それにしても、“Your voice so…”とか“ヒカリの方へ”とか、ボーカルの乗っかり方がすごい。キャッチーなメロディが、違和感なく歪なトラックにノッてる。

PSYQUI それ、こだわりポイントなんだけど、イントロのメロディができた時点でボーカルにお願いしてるんですよ。「これ、歌ってくれませんか」って。それに単純なトラックを投げるんじゃなくて、シティポップ的なメロウなオケを別で作って渡してる。“Your voice so…”の元オケとか、ブラックミュージックだった。

——それはそれで聴いてみたい。

PSYQUI まだ渡せないけど、いつか公開しようかな。“Your voice so…”のBPMは174くらいなんだけど、歌録り用に作ったオケのBPMは140くらい。歌ってもらったら、それを早回しにしてノせる。だから、クラブサウンドにありがちな細切れボーカルってよりも、ちょっとメロウな雰囲気なノリ方になってるんじゃないかな。

——なるほど。日本のFuture Bass界隈でありがちなKAWAII系ボーカルではなくて、あえて低い声の女性ボーカルを採用している理由は?

PSYQUI 外観的にも内観的にも、本物のFutere Bassがやりたいから。いろんなジャンルの音楽で、本物のサウンドをだしたくて。欲張りだね。

——実はドウテイ?

PSYQUI 気持ちはドウテイ。

フロアが盛り上がればそれでいい

——Future Bassというジャンルで、どうポジションを取っていこうと考えています?

PSYQUI サウンド面でも立ち回り面でも孤立はしたいけど、さみしがり屋だからいろんな人を巻き込みたい気持ちはある。

——ビジネスメンヘラですね。

PSYQUI メンヘラマインドでありたいよね。かといって、周りに足引っ張られるのは怖いから、独走態勢を保ちたい。

——足を引っ張られる?

PSYQUI 人としてよくないとかは当たり前なんだけど、シーンを大事にしすぎてる人たちが怖い。音楽をやり続けている人だと分かると思うけど、(悪い言い方だけど)邪魔になってしまう存在だよね。ブレイクスルーを許さない存在。そういう人たちをリスペクトできても、一緒にやってはいけない気がして。

——あえて保守的な意見をしますけど、ブレイクスルーを許さないアーティストって、ファンがそうさせてることってあるじゃないですか。「メジャーデビューで遠くへ行ってしまった」と嘆く系の。

PSYQUI バンドにありがちだね。自分らしさを出そうと、変に海外サウンドにこだわって、日本ならではの良きエッセンスを失ってしまう光景を往々にして見かける。それが古いファンに伝わらない。

——あるあるですね。

PSYQUI 俺たちトラックメイカーがバンドと違うのは、文化として成熟と衰退が早いのもあるけど、歌詞とか情緒を含む音楽を作っていないから、そこに感情が介入する余地がないことだよね。クラブサウンドが好きな人たちは、クラブサウンドが好きだから付いてきてくれてる。だから極端な話、俺たちがどうなろうが、フロアが盛り上がればそれでいいというか。

Listen to your voice so…

——ここまで話を聞いて思ったのは、プロデューサー力が高いな、ということです。

PSYQUI 才能なければ頭を使うしかないからね。PSYQUIを立ち上げてみて、ここまで育つのは、活動当初から計算していた。活動の仕方とPRの手法は変わらないんだけど、ハードウェア面で天井が見えてからは、アプローチの仕方ひとつで売れる/売れないが気がしてる。

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資料を探すために通っていたヴィレッジヴァンガード

——よくタッグを組んでるSuchとはどういう関係なんですか?

PSYQUI 昔からの音楽仲間だね。今から2年くらい前に、彼女から「本気で音楽やりたい」って連絡がきて。最後に声を聴いたときは、高くて黄色いような声で、今と全然違っていて。

——それから、PSYQUIに必要な<声>になった。

PSYQUI そうだね。最初に作ったのが“Your voice so…”で、冒頭から<Plese tell me 声を>と言わせてるんだけど、あれはSuchに言わせてるよね。今のSuchの声を聴かせてほしいという思いがあって。低くてクールなキーで依頼したら、しっかりマッチした。

——アルバムタイトルは、PSYQUI×Suchタッグの現在地を示すような意味でもあるんですね。

PSYQUI そうだね。それとSound Cloudの曲をTwitterでシェアしたとき、デフォルトで「Listen to」って文言が表示されるじゃん。最近だと「heve you heard」とか。

——そうですね。

PSYQUI その仕様を裏手にとって、「あなたの声が聴いてる」とか「あなたの声を聴いた」になるような意味合いにもなるなと。

——地頭いいなぁ……。

PSYQUI ははは。ドウテイぽいって言われるかと思った(笑)。

・PSYQUI(サイキ)

トラックメイカー。「MÚSECA」や「Arcaea」など各社音ゲーに収録実績を持ち、ニューカマーが引っさげる鮮烈Future Soundでフロアを揺らす。1st Album『Your voice so…』好評発売中。
sound cloud
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撮影協力:ヴィレッジヴァンガ—ド お茶の水店

Interview&Text by 石川優太