Campanella、C.O.S.A.、呂布カルマ、KID FRESINO、折坂悠太といったラッパー、シンガーのビートを手掛けると共に自身のアルバム『pessim』、『sabo』が広義のオルタナティブシーンで高く評価されてきた名古屋在住のプロデューサーRamza。
2枚組ヴァイナルと配信でリリースされた彼の最新アルバム『Whispering Jewels -ひび割れの鼓動』は、ダンサー/振付家の平原慎太郎が主宰するダンスカンパニー、OrganWorksのコンテンポラリーダンス作品『ひび割れの鼓動 hidden world code』の舞台音楽として制作されたものだ。2021年12月にKAAT神奈川芸術劇場で初演が行われ、2022年3月にシアタートラムで千秋楽を迎えた同作品は、古代ギリシャ劇の合唱隊『コロス』をテーマに、6名のダンサーと2名の俳優による6つの物語で構成され、Ramzaはサンプリング、コラージュからなるこれまでのアプローチとは大きく異なる緻密にプログラミングされたミニマルな電子音を用いて、新たなサウンドスケープを描き出している。
コラージュ作家としてアート作品を制作すると共に2018年には<写真都市展 – ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち->で映像作家、Takcomのインスタレーションでサウンドデザインを担当するなど、表現領域を更新し続けている彼の新たな試みについて話を訊いた。
OrganWorks『ひび割れの鼓動/hidden world code』
INTERVIEW:Ramza
──今回、コンテンポラリーダンス公演のための音楽を手掛けることになった経緯を教えてください。
最初にOrganWorksを主宰する平原慎太郎さんを紹介してくれたのは、OrganWorksと何度かコラボレーションをしている呂布カルマなんですよ。それ以前から僕のことを知っててくれていたみたいで、いつか一緒に何かやりましょうって、メールをくれたんです。その後、2021年に呂布さんのアルバム『Be kenja』で僕が1曲(「SAMSAVANNA」)プロデュースしたんですけど、それを聴いて、「ヤバすぎた」みたいな感じで急に連絡が来て、「次の作品でぜひお願いしたい」って。そして、そのままの流れに乗って、今回、音楽を担当させてもらった次第です。
──これまでRamzaさんはコンテンポラリーダンスにどう触れてこられたんでしょうか?
森山未來くんが会話しながら踊るユニット、談スのことは知ってて。後々、クレジットを確認したら、平原さんもその一員だったことが分かって、なるほど、そういう繋がりがある方なんだなって。僕は以前、森山未來くんと辻本智彦さんが2人でやってるコンテンポラリーダンスユニット「きゅうかくうしお」の2019年公演『素晴らしい偶然をちらして』の制作合宿に参加したことがあって。そこで、田植えしたり、俳句を作ったり、酒飲んだり、焚き火したりとか(笑)。それだけだとただ遊んでるだけだなと思ったので、帰る前にアンビエントの曲を数曲作って置いて帰ったんですけど、自分にはコンテンポラリーダンス界隈とのそういう経験があったので、今回の仕事をする前に、平原さんがどういうバックグラウンドの人なのか、自分のなかでなんとなく想像はついていました。
──そして、Ramzaさんはプライベートのパートナーもコンテンポラリーダンサーでいらっしゃるとか?
そうなんですよ。だから、日常のなかで、ダンスのことを自分なりに考えたり、話したりすることはありますし、コンテンポラリーダンスの世界における音楽の扱われ方、捉え方もなんとなく。扱われているのは、分かりやすい現代音楽であるとか、ダムタイプの音楽を担当している池田亮司さんに代表される異常に電子制御された最先端のコンテンポラリーミュージックが主流というイメージで。ジョン・ケージとマース・カニングハム、スティーブ・ライヒとローザス、あとローザスと言えば、2019年にジョン・コルトレーンの『A Love Supreme』だけの面白い公演をやったりしているんですけど、そういう超有名なダンスカンパニーが現代音楽をバチバチに使っているので、一般的にコンテンポラリーダンスといえば現代音楽というイメージが強いですよね。
──平原さんは呂布カルマとのコラボレーションしかり、ダンスを始めたきっかけがヒップホップだったりと、ルーツにヒップホップがある方ということですが、お会いしてみていかがでしたか?
公演が終わって、飲みの時に「そういえばヒップホップ好きでしたよね」って話したくらいで、分かりやすくヒップホップで繋がったわけではなくて。それよりも喋り方とかそこから伝わっている考えが繊細な印象で、もっと言えば、僕に声をかける前に、どこかのタイミングで(Ramzaと盟友である同郷のプロデューサー)Free Babyloniaに声をかけようとしていたらしくて、自分たちと共通する何かをキャッチする感性の持ち主なんだろうなって。初めて会った時は、わざわざ、そのためだけに名古屋まで来てくれたんですけど、そこで説明された公演のコンセプトは難しくて(笑)。すごい荒い解像度で、古代ギリシャ劇で作品内容や背景を伝える役割を担った“コロス”(Chorus:合唱隊)が題材になっているんだなと理解しました。
──そこからどういう過程で音楽制作に向かっていったんですか?
最初に説明を受けた時、「とりあえず、その説明からイメージを膨らませて、何曲か作ってみますわ」って返して、1か月くらい引きこもって作業に集中した感じです。
──上演された『ひび割れの鼓動 hidden world code』は、ダンスに加えて、俳優2人の台詞が抽象的ながらも設定やストーリーを伝える6章からなる作品でしたが、そうした設定やストーリーありきで、音楽を制作していったんですか?
最初の説明で、人の生死がテーマに関わっているというニュアンスの話はあったんですけど、それ以外に平原さんからの要望だったり、具体的なものは全くなかったので、人が踊っている映像を頭の中に喚起しながら作業していって。記憶が正しければ、音楽が出来上がった時点ではまだ舞台の章分けはされていなかったと思います。
──つまり、Ramzaさんからしてみれば、音先行で自由に制作を進めることが出来たと。
それで5曲作ったのかな。その後、章分けされて、公演1か月前に「あと1、2曲欲しい」って言われて、「ええ!? マジか……」って。そのタイミングで練習風景の映像が送られてきたので、それを観ながらまた勝手に想像して作ったら、その曲が作品構成にバチバチにハマったらしくて、向こうはかなり盛り上がったらしいんですけど、「それはよかったです」と返しつつ、あまりに情報が少なくて、こちらは何が起こってるのか全く分かってなかったという(笑)。
──Ramzaさんは一般的にヒップホップのビートメイカーと認識されていると思うんですけど、このアルバムにはキックやスネアが入っていませんし、分かりやすい形でヒップホップとコンテンポラリーダンスのコラボレーションを意図、具現化したものでもないですよね。
ヒップホップのビートメイカーということで、もしかするとビートを期待した人もいるかもしれないですよね。でも、そもそも僕はビートメイカーのなかでも分かりやすいスネアとかキックがない方というか、特に最近は無理にビートを打ちたいとは思っていなくて、ビートのありなしを超えた次の段階でどういう音楽を作るかということしか考えていないんですよ。だから、平原さんが僕の音楽をどう捉えているのか、何を求めて声をかけてくれたのか聞いてみたいですけどね。
──単純な話として、ダンスのための音楽としては分かりやすいビートがあった方が踊りやすいと思うんですよ。でも、そういう作品にはなっていないわけで、Ramzaさんはどんなことを考えて作品を制作されたんでしょうか?
先に述べたように、コンテンポラリーダンスで使われているステレオタイプな現代音楽や電子音楽はあり得ないというところから始まって、そんな格好つけなくていいし、普通の音楽でいいじゃんって。普通というと語弊があるかもしれないですけど、電子音楽や実験音楽に偏りすぎず、なんとも言えない音楽。なおかつ、巷にはない構成のもの。ただ、分かりやすいキックやスネアは入れなかったものの、「こういう曲で踊ったらヤバいだろうな」というポイントを自分なりに探しながら作りましたね。
──Ramzaさんの制作手法として、2017年のファーストアルバム『pessim』をはじめ、Ramzaさんの初期の作品はサンプリング、コラージュの手法が主軸でしたよね。今回の作品だと4曲目の“immortal”がまさにそういう曲だと思うんですが、それ以外の曲はシンセサイザーで作ったご自身の音で構築されていますよね。
そうですね。今のモードになったのは2年くらい前かな。サンプリングというのは、自分でコントロールできない表現というか、偶発的な切り取り方や組み合わせで訳の分からない音が出るところだったり、サンプリングソースの年代とかジャンルによって文脈やタグが与えられたり、それを組み合わせる遊び方に魅了されてきたんですけど、シンセサイザーにはそういう記号性が希薄だったりする。今はそういう文脈やタグを必要としていないというか、もっとシンプルなもの、自分をより色濃く投影したものが作りたいということなのかもしれないですね。そして、なにより、シンセサイザーで自分だけの音を作るのもサンプリングと同じくらい面白いし、未開拓の領域ということもあって、気づいたらシンセサイザーを多用していたという感じですかね。しかも、ここ最近はソフトウェアとかプラグインの進化が著しくて、シンセサイザーもものすごい音が出るんですよ。だから、今はテクノロジーやシンセサイザーの進化を楽しんでる真っ最中でもあるんでしょうね。
──ただ、手法の違いはあれど、ヒップホップで育まれたであろう野蛮さと独自の音を突き詰めることで生まれる美しさが共存したRamzaさんらしい作風は不変ですよね。
音楽もアートもコンテンポラリーダンスも西洋的な美意識が良さの基準になっているし、さらに学校で専門的に学んだアカデミックな表現はそうした西洋的な美意識が主体になっていると思うんですけど、自分にはどうにもピンと来ないんですよ。だから、Ramzaらしいと言ってもらえて、めちゃ嬉しいですね。
──公演を拝見して印象的だったのは、例えば、キックに近い役割を果たすベースや音の立体的なうねり、シンセサイザーのシーケンスフレーズもダンサーにとってはリズムの役割を果たしていたこと。ダンサーの皆さんは繊細な一音に体を反応させていたかと思えば、もっと大きな抑揚のある曲構成であるとかシンセサイザーで表現されたメロディアスな音色が踊るポイントにもなっていて。ダンサーの自由な身体表現に驚かされましたし、Ramzaさんの音楽は自由な身体表現を触発する音楽だと思いました。
そうなっていたらいいんですけどね。メロディアスな要素はダンス作品であるからこそ盛り込んだものであって、パフォーマンスから哀愁を感じたり、エモーショナルになるような瞬間があればいいなって。
──今回の公演は起承転結のある舞台でしたが、終盤にあたる5曲目の“Concrete”、ラストの“Dithurambos”はとりわけエモーショナルで、パフォーマンスのクライマックス感と一体になっているように感じました。
でも、実は僕が想定した順番とは違う順番で使われたんですよ。自分のなかで「この曲が最後だな」と思っていた“Nostalgia”は1曲目に来ましたからね(笑)。まぁ、でも、1曲1曲それぞれに流れや雰囲気があったので、起承転結はどうでもいいかなと思っていましたし、実際、舞台構成と曲は上手くハマっていたんじゃないかなって。
──自分が作った音楽でダンサーが踊っている舞台を観て、どう思われました?
初演の神奈川芸術劇場での公演はサウンドシステムが良くて、理想的な音が出ていたし、素直に感動しましたよ。OrganWorksの方たちは体の可動域もすごいし、パフォーマンスのレベルが飛び抜けていて、ただただすごいと思ったし、そういう飛び抜けたダンサーが自分の音楽でガチで踊ってくれていること自体、本当に嬉しいなと思いました。
──個人的に、ヒップホップの枠にとらわれない表現の可能性を追求しているRamzaさんと第一線で身体表現の可能性を追求しているダンサーとのコラボレーションは、舞台を観ていて、聴いていて、非常に刺激的な経験でした。
自分としては、何かに対するアンチ、破壊であるとか、新しいことをやってやろうみたいなことではなく、日々生活しながらも吐く息がヤバい、みたいな感じで自然に生まれる“生活に従順な音楽”を目指したんですけどね。
──ヒップホップ、ラップって、そういう音楽ですもんね。
ああ、近いかもしれない。CampanellaやC.O.S.A.だったり、自分の周りにいるラッパーはそういうやつらばかりですしね。
──ちなみに今回、作品としてリリースするにあたって、手を加えたりはしましたか?
そもそも、この作品はリリースしようとは微塵も考えてなくて、声をかけていただいたことで作品化が実現したんですけど、さらに手を加えると色んな人に迷惑をかけるだろうなと思ったので、音のバランスだけ調整しました。というのも、本番2日前に、曲を短くしたり、音を抜いたり、めっちゃ変えたことで、皆さんをびっくりさせてしまったので。「あ、これ、やったらヤバいやつだ」と思って、今回は気を遣いました(笑)。
INFORMATION
Ramza『Whispering Jewels – ひび割れの鼓動』
2022.09.16(金)
AWDR/LR2
品番:DDJB-91224
¥4,300(税別)
仕様:2LP(見開きジャケット)
Tracklist
Side A
1. Nostalgia
Side B
1. Ballad
2. Talk show
Side C
1. immortal
Side D
1. Concrete
2. Dithurambos