超絶なギタープレイやテクニック。帰国子女や幼少時からのギターに接してきた環境等々のバックボーン……。シンガーソングライター/ギタリストReiのストーリーは確かに大変豊潤に映る。
かと言って、彼女をヴィンテージロックの旗手的な存在に祭り上げたり、救世主的な存在として過度な期待をかけるのは、ややお門違いと思える。もちろん彼女の放つ楽曲からはそのようなテイストも充分に鑑みれるし、そこかしこから滲み出ている。しかしその実、その音楽性はもっと自由でポップ。フレキシブルで変幻自在なミクスチャー感覚を擁している。そして、個人的にはそこが真の魅力のように映っているのだ。
それらを改めて立証するかのように届けられたのが彼女のニューミニアルバム『SEVEN』だ。様々なタイプの楽曲が収まりながらも、「なな=7」に焦点を当て、結びつけることにより一本筋が通っているのを感じる今作。数多のアメリカン・トラディショナル・ミュージックやルーツ・ミュージックと、森羅のモダンなテクスチャーとが独自のセンスとミクスチャー感覚で取り込まれ、昇華させ合いながら同居/融合している楽曲たちが収まっているのも印象深い。そう、今作でもReiは自身のアイデンティティをキチンと保持し標榜しながらも、また新しい次元へと踏み込んでいく。
Interview:Rei
主人公が直立不動でそこで佇んでいる、今作はそんなイメージ
──今作は再生ボタンを押して、いきなり骨太でブギーの効いた英語詞の“Territory Blues”が飛び出してきたので驚きました。個人的には、よりアメリカン・トラディショナル・ミュージックとポップさとの融合を目指している印象を今作からはお受けしました。ちなみにご自身的には今作の制作にあたり、当初何か目指していたものがあったのでしょうか?
制作当初は特に目指していたものはありませんでした。とは言え制作途中から徐々に、「今回はアルバムタイトルにもなっている『SEVEN』を主軸に置いてみよう」的な発想は浮かび輪郭を形作っていったような感じです。
──収録も7曲入りだったりしますもんね。
はい。7曲入り、そして私にとって今作が7作目だったり、週7で聴ける7色の作品、あとは自然と『SEVEN』に導かれていくように、楽曲に7thのコード(ギターのコードの種)が使われていた等々、色々な意味がこの『SEVEN』には込められていたりするんです。
──なるほど。
あと、「SEVEN」というアルファベットの中にはEVE(イヴ)という言葉も含まれているんです。それは「前夜」という意味も持っていて、革命前夜を彷彿とさせる、これから何かが起こりそうな、新しいことに挑戦する際に伴う痛みや期待、歓びだったり、そのような感情の類いが複雑に交差する感じを音楽で表現できたらいいなとの想いも込めて、作り進めていきました。
Rei – “Connection” (Official Music Video)
──前作のフルアルバムでは各曲でかなり多彩な音楽性を披露しておられました。対して、今作も変わらず様々な音楽性が用いられてはいますが、どこか何か一本太い幹が貫かれている印象がありました。
それはあるかもしれません。というのもおっしゃられた通り、前作は自分の中ですごく様々な曲調で楽しい作品として捉えていて。いわゆる曲毎にまるで万華鏡のように色が変わっていく作風だったんです。対して今回は、もう少しジャンル的にも偏りがあってもいいかなとは思って作っていった面はありました。
──ちなみにその偏りとは?
いや、そんなに具体的なことではなく、もっと観念的な話になるのですが。いわゆる偏りや単色のようなキーワードが頭の中にあって。それをずっと頭の片隅に置きながら制作していったんです。
──その偏りって、捉え方によっては、前作がわりと「これもこれもこれも私です!」的な作品だったのに対して、今作ではもう少しピンポイントに「これが私です!」と本質を提示してきたとも捉えられるわけで。
主人公が直立不動でそこで佇んでいる、そんなイメージでした。迷ったり、悩んだりというよりかは、1つの意志を持ってそれを達成するために突き進んでいる人。そんなパーソナリティを想像しながら歌詞を書いたりサウンドメイキングをしていきました。
──今おっしゃられたことって、個人的には1曲目の“Territory Blues”とどこか被る部分もあります。これは私の勝手な憶測なのですが、今作はまず“Territory Blues”が生まれ、そこからインスパイアされるように各曲が生まれてきたのかな……? とも。
そうでしたか。でも、実際は違うんです。逆にそれぞれ全部無関係に出来た曲ばかりで。でも、そのような印象を受けることも想像が出来るようにと、あえて1曲目に“Territory Blues”を据えたところもあります。
“Territory Blues”が完成した時に物語の始まりというような印象を私自身が受けたんです。「ここから快活な感じでアルバムが始まるのは幕開け観があっていいな……」とは、完成した曲たちを並べてみて感じました。
Rei – “Territory Blues”(Official Music Video)
──分かります。“Territory Blues”はメッセージ的にもアイデンティティの誇示を感じます。では、これまで以上に今作でReiさんのルーツ的なアメリカンのトラッドミュージック性がより前面に出た印象を受けたのは何故だったんでしょう?
正直、ジャンルのことは全く意識していませんでした。これは普段からそうなんですが、自分自身が女性だとか、20代だとか、日本人だとか、帰国子女だとか、そういったもので一括りに決めつけられることにすごく違和感や憤りを感じているんです。
なので、音楽もなるべく、ポップスとか、オーセンティックとか、ブルーズとか、それぞれもちろん好きな音楽ではあるんですが、それを自分が曲を作る中で意識するのは、自分の子供たち(各楽曲)にレッテルを貼っているようでイヤだなって。
──そうなんですね。
人によっては楽曲の聴かれ方ってバラバラじゃないですか。なので、あえて自分はそのようなレッテルを貼らないようにはしました。楽曲を聴いて、どんな風に受け止めてもらったり、捉えてもらっても大丈夫ですが、自分としては、「これを取り入れよう!」とか、あまりそのようなことは意識せずにナチュラルに作っていったんです。そうして作っていく中で出来たものを、どうやって美味しく聴かせるか? との思考回路の下、各楽曲を制作していきました。
前作はそれこそ年頃の女の子のような作品だった
──今のその「美味しく聴かせる」の部分をもう少し詳しく教えて下さい。
植物でいうと、種から芽生えた植物が何かによって育て方を変えるようなことですよね。
──それはいわゆるインスピレーションやモチーフの類い?
そうです。曲を作る時は、毎回同じルーティーンにならないように気をつけています。生まれてくる植物も様々じゃないですか。マーガレットもあればトマトもある。なすびだったり、ハーブやたまねぎだったり。それを、これは可愛いポットに入れた方が良いのか? 畑に植えてあげた方がいいのか? それとも切って部屋に飾ってあげた方がいいのか? とか。
──それぞれ最善、最幸なメソッドがあるでしょうから。
そうなんです。それによって色々と仕立て方も違ってくる。私の場合だと、例えば弾き語りで生まれた曲があったとして、「これは編成的にどこまでの楽器を増やしたら良いのか?」ってことも、その植物のポットを移し替えて、写真を撮り、俯瞰で見たりといったことに似ています。色々な編成で聴き比べてみて、その中で最良な方法を選び、育てていくやり方もしました。
対してメロディから生まれた曲に関しては、それに対して歌詞は英語詞がいいのか? 日本語詞がいいのか? どのようなバランスがいいのか? とか、その生まれてきた植物に対してどういった環境やどのようなシチュエーションで観てもらったらその最も本質的な部分が光るのか? 吟味しながら作っていきました。
──では浮かんで来たものをインスピレーションでガーッと制作するというよりかは、もっと試行錯誤して、トライ&エラーしながら完成まで持っていった曲ばかりだったんですね?
そうです。語弊を恐れずに言うと、自分的に、前作「REI」は丹精を込めて音楽にぶつかりに行った作品だったんですが、ネガティヴな意味合いで「ポップだ」と評されたことに憤りを感じました。それに対して、いやいや、そうじゃないし、みたいな。あの作品は私にとってはそれこそ年頃の女の子のような作品で。
──それは?
ハイテクスニーカーを履いて、ストリートスタイルに挑戦してみたい。ドレッシーな格好もしてみたいけど、ノーメイクでデートに行く日もある。はたまた赤いリップを塗りたい気分の時があったり。そんな好奇心旺盛で色々なスタイルをやるんだけど、素っ裸になったら結局同じ人間、みたいな。それって、自分にとっては全くブレてはいなかったんです。だけど、受け取り手によっては色々な意見があったようで。
納得していなかったり、思ってもいない表現をするぐらいならリリースしない方がいい
──ある意味、それにショックを受け、今作に至った面もあるわけですね。
もちろん中には良い評価もありました。だけど、「演じているんじゃないか?」的なネガティブな意見もあって。自分としては全くそんなことはなかったんですが。そこで様々な学びがあったんです。
──そうだったんですね。
それを踏まえて今作では、「自分はいつでも本気だよ」というのを表現したいところはありました。いつも音楽に対しては真摯であるし、納得していないことや周りに言いくるめられて思ってもいない表現をするぐらいだったら、いっそリリースなんてしない方がいいとさえ思っています。
今のところ、それを直接歌として書くことはないけど、自分のアティチュード的には、キチンと反骨精神も持っているし、本気でしかやらないから。……というのは今作で表したかったことの1つではありました。
──その本気度はすごく伝わってきます。あと、ある種の挑戦感とでも言うか、そんなものも察しました。
今作においては、新しいことに挑戦したいと思っている方や、挑戦したいんだけども、勇気が出ない方への後押しをしたいというのはありました。自分自身もこの作品を作ることで勇気を出したい面もあったんです。なので、あまり臆せず色々な新しいことに挑戦はしています。あとは、自分の音楽のキーワードの中にミクスチャーというのがあって。
──ミクスチャーですか。
そうです。今、音楽に限らずファッションなどでも、ハイ&ローのミクスチャーが流行っていたりして、けっこう世の中的にタイムリーなのかな? って。なので、自分なりの配合でミクスチャーしたものを聴いてもらって、何か新鮮さを味わってもらえたらなと思っています。街や人間観察をして、音だけではなく時代の空気を感じて、それを封入していくみたいな。それも私にとってはある意味ミクスチャーではありました。
──ちなみに“DANCE DANCE”でのクラップのようだがクラップじゃなさそうな音が気になりました。あれは?
タップダンスですね。そこにギターと歌というミニマルな編成で挑みました。
──ヴィンテージ性とは対照的にDAWで作成したかのような楽曲もありますね。
“Tourbillon”で印象的なアプローチですね。このギターはエレクトリックギターのクリーントーンの丸い音で、あとはシンセと打ち込みのドラムで成立させたインスト曲だったりします。
──対して“Bon Appetite”は賑やかな編成で。
その辺りの楽器編成の幅の広さにおいても、みなさんの日常の色々なシーンにフィットしてくれるんじゃないかな。夜に聴きたい曲や、「忙しい時にはこの曲だな」とか、必ずみなさんのその時々にピッタリな曲があると思うんです。
個性が際立った楽曲ばかりなので、
気分によって好みの曲が変わったり、編成の幅の広さも変わる
──ここからはアートワークの話に移りたいのですが、最新のアーティスト写真は衣装もかなりモコモコしてますね(笑)。
ボリューム感がありそうでしょ(笑)? これ、こう見えても服なんです。ガウンタイプで、一点物の素敵なお洋服でした。
──インパクトはあるけどキチンとポップなのが、これまでの一連のアートワークと共通していますね。
そうなんです。まずは覚えてもらうこと、その辺りは今でも非常に大事にしています。インパクトや驚き、それらはこれからも惜しみなく提供していきたいです。
──Reiさん的に今作『SEVEN』の聴きどころを教えて下さい。
週7で7色、毎日聴ける。他には、それぞれの個性が際立った楽曲ばかりなので、気分によって好みの曲が変わったり。あとは編成の幅の広さかな。
──12月1日(日)からはアコースティックギターによる弾き語りソロツアー<Rei Acoustic Tour “Mahogany Girl” 2019-2020>と、来年初頭からはバンドを従えてと、それぞれ全国ツアーも控えています。
ライブはCDで表現したものを一度解体して再構築できる。そんな楽しみが演者としてはありますし、お客さんとしてもCDに入っていた楽曲たちをライブで聴く。そんな更なる高揚感があるでしょう。今回のツアーではそれぞれ今作に収録している曲以外にも沢山演奏する予定です。その時には、みなさんにとっても耳馴染みのある曲たちが今回どのようなアプローチでくるのか? 的な部分も楽しみにしてもらいたいです。
対して、弾き語りの方は、逆にどれだけみなさんの耳の想像力を掻き立てられるかが自分の中にテーマとしてあります。それらを用いて、みなさんを躍らせ、歌わせ、手を叩かせる。それらを大事にしながら演奏したいと考えています。
──なんでも<Rei Acoustic Tour “Mahogany Girl” 2019-2020>の方はお客さんからの当日やって欲しい曲のリクエストを現在募っているそうですが。
そうなんです。お客さんからのリクエストには答えますが、「Reiが弾いたらこの曲はこうなるよ」と、そんな光景を楽しんでいただけたらなと思っています。
“my mama”/”BLACK BANANA”|Rei
Photo by Madoka Shibazaki
Text by 池田スカオ
Rei
卓越したギタープレイとボーカルをもつ、シンガー・ソングライター/ギタリスト。
兵庫県伊丹市生。幼少期をNYで過ごし、4歳よりクラシックギターをはじめ、5歳でブルーズに出会い、ジャンルを超えた独自の音楽を作り始める。
2015年2月、長岡亮介(ペトロールズ)を共同プロデュースに迎え、1st Mini Album『BLU』をリリース。
FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、RISING SUN ROCK FESTIVAL、SXSW Music Festival、JAVA JAZZ Festival、Les Eurockeennesなどの国内外のフェスに多数出演。
2017年秋、日本人ミュージシャンでは初となる「TED NYC」でライブパフォーマンスを行った。
2018年11月7日 1st Album『REI』をリリースし、2019年2月より全国10箇所でRei Release Tour “Rei of Light”を開催。
2019年11月13日Mini Album『SEVEN』をリリース。
同年12/1(日)- 1/26(日)『Rei Release Tour 2019-2020 “Mahogany Girl”』を開催予定。
INFORMATION
Limited Edition
Standard Edition
Mini Album『SEVEN』
2019.11.13(水)
Rei
Reiny Records
Limited Edition CD+DVD 紙ジャケット仕様
UCCJ-9220
¥3,200(+tax)
Standard Edition CD 紙ジャケット仕様
UCCJ-2173
¥2,200(+tax)
Rei Acoustic Tour “Mahogany Girl” 2019-2020
2019.12.01(日)福島・LAST WALTZ
2019.12.07(土)京都・紫明会館
2019.12.15(日)北海道・札幌市時計台ホール
2019.12.21(土)石川・もっきりや
2019.12.22(日)富山・村門
2020.01.13(月・祝)東京・雷5656会館(1st & 2nd)
2020.01.18(土)長崎・旧香港上海銀行長崎支店記念館
2020.01.19(日)熊本・CIB
2020.01.24(金)広島・Live Juke
2020.01.26(日)神戸・クラブ月世界
TICKET:全公演SOLD OUT
Rei Release Tour 2020 “7th Note”
2020.02.22(土)仙台|darwin
2020.02.24(月)札幌|cube garden
2020.03.01(日)福岡|DRUM Be-1
2020.03.13(金)名古屋|THE BOTTOM LINE
2020.03.19(木)大阪|BIGCAT
2020.03.27(金)東京|Akasaka BLITZ
Tickets ¥4,000(+1Drink/整理番号付)
プレイガイド最速先行
11月13日(水)12:00~11月18日(月)23:59
詳細はこちら
Rei OFFICIAL WEBSITE