シンガー・ソングライター/ギタリストのReiが2021年に始動させたコラボレーション・プロジェクト『QUILT(キルト)』。藤原さくら、長岡亮介(ペトロールズ)に続く第3弾として、彼女が尊敬する音楽家のひとり・細野晴臣とのコラボレーションが実現した。
今回Reiが彼とのコラボレーションに向けて用意したのは、ニューオリンズ風のリズムが印象的な“ぎゅ with 細野晴臣”。細野とRei、いずれのキャリアにおいても「知っているようでまだ知らない」作品が誕生した。お互いの新たな一面を同時に知ることができる、ある意味で“一石二鳥”な楽曲である。
彼女は今回、どんなことを想いながら楽曲制作に挑んだのだろうか。なお、インタビューの後半では“ぎゅ with 細野晴臣”のサポートメンバーである渡辺シュンスケ(Key)、ハマ・オカモト(Ba/OKAMOTO’S)にも取材に参加いただき、今回のコラボレーションについて話を聞いた。
INTERVIEW:Rei
引力に寄せられる感覚があって、細野さんのことをもっと知りたくなります。
━━今回、Reiさんには細野晴臣さんの<細野晴臣 50周年記念特別公演>開催時のトートバッグなど、思い出の品を持ってきていただきました。
ハリーさんとは初対面からの流れが急展開でした。きっかけはラジオ番組にゲストで呼んでいただいたこと。そこで生演奏をさせていただいたのですが、なんとその場で「来週、僕の50周年ライブで弾きなよ」って誘われて。
この<細野晴臣 50周年記念特別公演>の時にビング・クロスビー(Bing Crosby)の“Pistol Packin’ Mama”を一緒に演奏させていただいたのですが、「君も2曲くらい弾き語りすればいいじゃない」って、なんとご自身の周年ライブなのに、ステージを任せていただいたんです。先週、会ったばかりの若造にですよ! 懐の深さを感じましたし、私を信用していただけたのが本当に光栄でした。
━━今回のカバージャケットでは細野さんによく似た犬を女の子がぎゅっとしているアートワークになりましたが、このオレンジはもしかして<細野観光>のポスターをイメージされたんですか?
そうです。これまでの「QUILT」プロジェクトのアートワークと同様に青色が私。細野さんは<細野観光>のロゴカラーからオレンジ色をチョイスしました。犬は忠誠心の象徴ですね。コラボ相手に対するリスペクトを表しています。顔つきはちょっとだけハリーさんっぽくしてみました(笑)。
━━Reiさんは幼い頃からYMOがお好きだったと伺っています。
意識して聴いたのは中学生の頃から。でも、幼少期から触れてはいたんです。幼い頃に乗っていたシトロエン・2CVのカーステレオで、ラジオからダビングしたYMOのワールドツアー音源を聴いていました。
その後、クラシック・ギタリストを志す中で出会ったのが渡辺香津美さんの音楽。小学生の頃からゴッドと崇めてコンサートに通ったり、作品を聴くようになりました。そして中学生になった頃、私が幼少期からカーステレオで聴いていたYMOのワールドツアーに、大好きな香津美さんが参加されていることに気づいたんですよね。さまざまな点と線が繋がった感覚がありました。そこから夢中になってYMOを聴くようになったんです。
━━Reiさんは当時、なぜ彼らの音楽に惹かれたのでしょうか?
時代の先をゆく音楽ですよね。前衛的でありながらも、音楽的な学や素養がしっかりあって品格もあります。豊富な音楽知識を身につけた人があえてポップスをやっていることに、エッシャー(Escher)の騙し絵のようなセクシーさを感じました。
難しいことをやろうと思えばできるなか、あえてポップスに落とし込むのは、相当センスがないとバランスを取れません。あの時代にあの音楽性でメインストリームに乗ることは革命的だったと思います。私にとっても目標とする存在です。
よく私は「赤と白しか知らずに2色の絵を描くのではなく、12色を知ったうえで赤と白の絵を描きたい」と言っているのですが、彼らの音楽が自分のそういった考えの根幹になっているんだな、とはよく感じています。
━━では、今回のコラボレーション相手である細野さん個人の魅力は?
……不思議な人ですよね。魅力の絶えない方なので、語り出したらキリがないです。相当なキャリアを積まれているのに、それでも今なお“予想の斜め上”の音楽を生み出されるので。しかもアンビエントからロック、テクノと作品性は多岐に渡るのに、すべてがちゃんと細野さんの曲に聴こえるのが不思議です。引力に寄せられる感覚があって、彼のことをもっと知りたくなります。
もともと大ファンだったことは前提としてありますが、私と同様、細野さんもブギウギやフォークといったルーツ・ミュージックを辿っているんですよね。僭越ながら近いところを感じました。
そして、何より私は細野さんの声が好きなんです。日本語で歌っていても、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)のように聴こえてくる。「この声と一緒に歌いたいな」というシンプルな気持ちはありました。
細野さんとコシミハルさんとのユニット・Swing Slowでも感じたのですが、細野さんの声はすごく女性ヴォーカルと親和性があって素敵なんですよね。私は子供みたいな声をしているので、なんとなく良いコントラストが生まれるんじゃないかと想像していました。
「日本一の細野晴臣オタクになろう」と決意した
━━今回の楽曲はReiさんがデモ音源とアレンジを担当されましたが、どういった経緯で“ぎゅ with 細野晴臣”が生まれたのでしょう?
当初はカバー曲も視野に入れていました。でも「せっかくご一緒できるなら」と書き下ろした曲もお送りしていて。カバーという選択肢がありながらも「オリジナルをやろう」と言ってくださったことが本当に嬉しかったです。
しかも細野さん、アレンジだけじゃなくて、歌詞も私に委ねてくださったんですよ。その行為自体に愛を感じて、感無量でした。今思い返すと、曲を早く完成できてよかったです。一度悩んだら一生書けなかったと思う。
━━Reiさんは年明けに放送されたラジオ(2022.01.09 Daisy Holiday!|InterFM897)でも、細野さんに「過去の作品が重責になる瞬間はありますか?」と聞いていましたよね。Reiさん自身がそういった悩みに直面していたんですか?
そうなんです。過去の作品が自分の背後に覆いかぶさってくるというか。繰り返すことでイメージを定着することはできるけど、私はできれば同じような曲を何度も作りたくはない。ただ、それによって自分の首を絞めていることも事実で「これはあの曲に似てるからやめよう」って新曲を作れなくなるループに陥ることはあります。
細野さんはたくさんの音楽を世に送り出している中で「これ以上の素晴らしい作品を作れない」となった時はどうしてるんだろうって思ったのですが、質問に対し「(過去の作品を)忘れちゃうんだよ」って答えていらっしゃって。そのあと「本当に忘れてるわけじゃないんだけどね(笑)」と微笑みながら付け加えていましたが、固執しないことは大事なんだと学びました。
━━その意味では、今回の“ぎゅwith 細野晴臣”でReiさんの新たな一面を垣間見た気がしました。正直、最初に聴いたときは細野さんが作曲に携わっていると思ったんです。
それは作曲者冥利に尽きます!(笑) ファンが「おっ」て思うようなポイントを曲に散りばめつつも、聴く人が聴けば「本人はこういうのをやらないだろうな」と気づくようなギミックを施しました。
『QUILT』シリーズの曲はそれぞれが自分にとっての“挑戦”。実は藤原さくらさん、長岡亮介さんの時も「コラボ相手にまつわる日本一のオタクになろう」と研究ノートにすべてをまとめました。細野さんとのコラボは特に、半世紀分の奥深い歴史があるので「自分が今できる全てを込めよう」と入念な準備を重ねました。
━━細野さんについてはどんな研究を?
ディスコグラフィーを時系列で聴くだけではなく、「スネークマン・ショー」とYMOのコラボレーション・アルバム「増殖」のスキットを書き起こしたり、細野さんが鈴木茂さん、林立夫さんたちと出会った伝説のイベント<PEEP>について調べたり。アートワークの参考にするために、はっぴいえんどのレコーディングを撮影された写真家の野上眞宏さんの個展で写真集を買ってご本人とお話もしましたね。
━━歌詞は今までの『QUILT』で描いてきた「共生」というテーマを引き継いでいますが、今回言葉を紡ぐにあたってどういうことを意識しましたか?
図らずともこれまでリリースした3曲はつながっている曲調と歌詞になりました。今回はその中でも「生きている」ということそのものについて深くフォーカスを当てました。普遍的に長く愛される曲にしたいと思ったので、子供でもわかる言葉選びを意識しましたね。
「人を抱きしめる」ということは人と一緒に生きることを象徴するような行為。人との触れ合いって、生きている証拠だと思うんです。そしてやはり最後のフレーズに「お別れ」を入れたことで「生きる」が完成しました。
━━では細野さんとの“ぎゅwith 細野晴臣”含め、「共生」について考え続けた「QUILT」のシングルリリース3作は、Reiさん自身にどういった影響を与えたと思いますか?
今までシングルでリリースした3作は宝物です。1人でいることの強さを身につけ、自立しているからこそ共存できる。己と徹底的に向き合い「個」をテーマとした前作の『HONEY』から、思考の幅が広がったように思います。
理想はまだまだあるけれど、一流の仕事をやらせてもらった。特に今回の“ぎゅwith 細野晴臣”は自分の音楽に誇りをもっていいんだと、自信がつきました。いまだに寝る前にほっぺをつねることはあります。「ああ、これ夢じゃないんだ」って(笑)。
Rei × 渡辺シュンスケ × ハマ・オカモト
最後に細野さんの声がソッと乗せられた瞬間、本当に鳥肌が立ちました
━━渡辺シュンスケさんとハマ・オカモトさん、そして石若駿さん(Dr)、後関好宏(Sax)といったサポートメンバーのラインナップをどのように決めたんですか?
Rei 細野さんを迎えるにあたって色んなミュージシャンの顔が浮かびました……。でも自分と正直に意見が交わせて、ルーツ・ミュージックに理解があるミュージシャンにお願いしたいと思っていたんです。
(渡辺)シュンスケさんは、教授(坂本龍一)が好きなことを知っていましたし、Schroeder-Headzの音楽からもYMO好きを感じていました。大貫妙子さんとも共演されているし、何より私がツアーや制作で長らくお世話になっているのもあってお願いした次第です。
ハマくんは昔、私が人生で始めてYMOの話ができた友達なんですよ。それまでインターナショナルスクールにいた時はYMOを知っている同世代がいなかったので、ひとりで好きだったんです。知名度も知らなかったから、福岡のライブでご一緒した時にハマくんが話を聞いてくれて「YMOが通じるなんて!」って……。
もちろん細野さんとも関わりをお持ちであることも知っていました。でも、それ以上にパーソナルな思い出がやっぱりあるんですよね。チルドレンとして一緒に共演したいなと思ったのが、今回のオファーのきっかけでした。
考え抜かれていない作品を人にお渡しすることは自分の性格上許せなくて、いつもデモは事前にアレンジまで自分で作ります。
でも、このメンバーなら私の想いを汲みつつ、崩してくれると思っていました。細野さんのことを考えながら、みんなでコミュニケーションをとってアレンジに挑めたのは贅沢な体験でした。
━━お二人は最初にデモ音源を聴いた時、どういった印象を受けましたか?
渡辺シュンスケ(以下、渡辺) 細野さんと一緒にやると聞いて実際のデモを受け取ってみたら、すごく細野さんへのリスペクトと愛に溢れていると感じました。同時にアレンジの狙いもはっきりしていたので「怖いもの知らずだな」という印象もありました。
パッて聴いたときに「ああ、あの頃の細野さんだね」とすぐ分かる。でも、今の音楽に落とし込んでいたので、そのさじ加減の良さには感心しました。最終的にはすごく『泰安洋行』(細野晴臣の3rdアルバム)っぽい仕上がりにはなりましたよね。
泰安洋行 – 細野晴臣
━━そのうえで、音作りではどういったところを意識されましたか?
渡辺 いろんな細野さんの作品を聴き、咀嚼してきたからこそ、そこを自分の演奏に落としこもうと思いました。「あの頃の細野さんが好き」だけじゃなくて「細野さんを聴いてきたから、今の俺はこういうミュージシャンになりました」ということを表現したかった。実際にそういうサウンドになったと思います。
ハマ・オカモト(以下、ハマ) 僕も「あの頃、細野さんがこれを使っていたから、この楽器で音を再現します」だけで完結しないように心がけました。その一方で音作りに時間がかかった印象もなくて、みんなレコーディングが始まったら「やっぱそういう音だよね〜」ってお互いに納得しながらスムーズに進みました。細野さんが引き受けた時点で何をやっても正解だったとは思うからこそ、あまり心配もなかったです。
Rei ハマくんは今回のメンバーのなかでも特にご本人とのコミュニケーションを多く取っているので、ハマ君からのストップが入らなければ大丈夫、みたいな安心感はありましたね。
でもやらせておいた側が言えることでもないと思いつつ……ベーシスト細野晴臣のバックで演奏するのってすごく勇気がいるんじゃない?
ハマ 音源として残るものに参加するのが初めてだから、緊張よりも感慨深さの方が勝ったかもしれない。確かに本人をバックに初めて生演奏した時は緊張しましたけどね。
━━実際のレコーディングはどのように進めたのでしょう。
Rei 去年の夏からレコーディングを始めて、最後に細野さんの声を加える流れで収録を進めました。
トロピカル三部作でエスニックな楽器も弾いてらっしゃったので、細野さんにはスパイスを加えるような形でのアレンジもご相談したのですが、細野さんと話して最終的に「これ以上足さなくてもいいんじゃないか」ということになって。
すべてのパートのレコーディングが終わって、最後にプリン・ア・ラ・モードのさくらんぼのように細野さんの声がソッと乗せられた瞬間、本当に鳥肌が立ちましたね。夢みたいでした。
渡辺 「よくぞやった!」と思う人はたくさんいるんじゃないかな。そういう仕上がりになったよね。
ハマ 近年、細野さんがこのテンションで歌うのを聞いたことがなかったんです。外部からの刺激がない限りは自発的にやらないような感じ。すごく楽曲のなかで握手しているような気分でしたよね。
細野さんのことはみんな好きだし、誰もが「コラボしたい」と思っているはず。でもそれを実行に移せることは滅多にない。そのうえで、細野さんのフレッシュな声を引き出せたこともすごいなと思いました。
Rei 細野さんから「好きなことをやればいいよ」って言われて全部任せてもらえたからこそ、ソングライターとしての力量が試されたなと思いましたね。今回参加してくれた他のミュージシャン、ドラマーの石若駿くんもサックスの後関さんもそうですが、2022年の第一線で活躍されていて、かつルーツミュージックに理解のあるプレイヤー。自分が信頼できる人をお招きできて、本当にうれしくって。今は喜びで身体がチクチクしています。
Text:Nozomi Takagi
Photo:Kana Tarumi
Hair & Makeup:Haruka Miyamoto
Rei(レイ)
卓越したギタープレイとヴォーカルをもつ、シンガー・ソングライター/ギタリスト。幼少期をNYで過ごし、4歳よりクラシックギターをはじめ、5歳でブルーズに出会い、ジャンルを超えた独自の音楽を作り始める。2015年2月、長岡亮介(ペトロールズ)を共同プロデュースに迎え、1st Mini Album『BLU』をリリース。2017年秋、日本人ミュージシャンでは初となる「TED NYC」でライヴパフォーマンスを行った。2021年11月25日専門学校モード学園(東京・大阪・名古屋)新CM ソングの「What Do You Want?」、SOIL&“PIMP”SESSIONS とのコラボレーション楽曲「Lonely Dance Club」を含む 2ndアルバム”HONEY”をリリース。2021年2月26日 1st Album『REI』の International Edition が、US/Verve Forecast レーベルより全世界配信。2021年10月よりコラボレーション・プロジェクト“QUILT” を始動し、これまでに3曲のデジタル・シングル「Smile! with 藤原さくら」「Don’t Mind Baby with 長岡亮介」「ぎゅ with 細野晴臣」を発表。そして4月13日、プロジェクトの集大成的アルバム“QUILT(キルト)”をリリースする。
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RELEASE INFORMATION
ぎゅ with 細野晴臣/Rei
日本音楽界の至宝、細野晴臣とのコラボレーションが実現したQUILT配信シングル第3弾。
誰かを抱きしめる=他者と共生する尊さを歌ったナンバーで、ニューオリンズ風のリズムと色とりどりのサウンドをバックに微笑ましいデュエットを披露。
2022年2月18日(金)リリース
Reiny Records/ユニバーサルミュージック
QUILT/Rei
Reiが、東京に出てきてから10年間で築いてきた音楽仲間たちとの繋がりを具現化するコラボレーション・プロジェクト“QUILT”の集大成的アルバム。配信シングル3部作をはじめ、音楽スタイルや世代、国境までも飛び越えた多彩なアーティストたちとのコラボ・ナンバーを11曲収録。
2022年4月13日(水)
Limited Edition(SHM-CD+DVD):UCCJ-9238 ¥3,960(tax incl.)
Standard Edition(SHM-CD): UCCJ-2205 ¥3,0800(tax incl.)
Reiny Records/ユニバーサルミュージック
EVENT INFORMATION
Rei Release Tour 2022 “QUILT”
4月22日(金) 仙台darwin
4月24日(日) 札幌PENNY LANE24
5月07日(土) 京都 磔磔
5月08日(日) 岡山 YEBISU YA PRO
5月13日(金) 名古屋 DIAMOND HALL
5月15日(日) 福岡 BEAT STATION
5月19日(木) 大阪 BIGCAT
5月21日(土) 東京 EX THEATER ROPPONGI