この1年、Qeticでは、ミュージシャン・Reiの活動を、複数回のインタビューを通じて追ってきた。しかし、彼女が月末に仕上げたアルバム『HONEY』には、今までのインタビューに匹敵するほどのリアルな内面が、歌詞によって表現されていた。
「コロナ禍」というエポックメイキングな出来事に見舞われた2020年、Rei自身が何を考えていたのか、そして「Naked」をテーマとしたこのアルバムがなぜ作られたのか。『HONEY』初回限定版に封入された映像作品『MUSIC FILM #4 “Days of Honey”』をReiと一緒に鑑賞しながら、話を聞いた。
Rei – MUSIC FILM #4 “Days of Honey” Official Trailer
INTERVIEW:Rei
リアルを切り取るような映像は
作りたいと思ってたんです
━━まず昨年の夏に開催されたスペインフェスティバルのライブ映像ですが、このスペイン滞在で印象に残っていることは何でしたか?
まさに、収録されているライブが一番の思い出です。もともとフェスの2日目・3日目に出演する予定だったんですけど、2日目が雨で中止になって。3日目の開催ももしかしたら危ういかも……っていう話まで出ていました。でも、当日はなんとか小雨の中で開催できた。
歌詞は全部英語詞で歌って、MCもスペイン語。それでも自分がどこの誰なのかなんて、現地の人にとっては分からない状態だと思うので、実際はチャレンジングなライブだったんじゃないかな。
━━映像を観る限り、Reiさんも開放的にパフォーマンスをされていますね。
2日目はライブもできず携帯もなくしたので、負のパワーやモヤモヤが溜まっていたんですよね。全部ライブで昇華された感じ。良いライブになったと思います。
音につられてお客さんが集まってくる光景が心地よかったです。自分の実力だけでオーディエンスがステージに近寄ってきてくれる感じ。音楽が国境を超越する感覚を目の当たりにしました。
━━終演後に観客がReiさんの楽曲のコーラスを歌い続けていて「さすが、情熱の国だな」と思いました。ちなみに他の出演者のパフォーマンスも観れましたか?
何組か観れましたよ。衝撃を受けたのが、ジョー・ジャクソン(Joe Jackson)のライブ。演出から舞台美術、構成まで、何もかもがかっこいい。自分が今までに観たライブの中で、片手の指に入るほど最高でした!
今年2月にあった「Rei Release Tour 2020 “7th Note”」の構成にも、自分が彼のライブでインプットしたことを取り入れてみたり。あと、サポートのギタリストの方が最高で、CDを交換しあったりしたのも良い思い出です。
でもライブに限らず、一つ一つの経験がすごく貴重でしたね。実は、フェス会場の近くにヌーディストビーチがあったんです。そこを散歩しながら、当日の曲順を決めました。環境的にも、自然と開放的になりましたね。
━━映像にも収録されていた浜辺ですか?
まさに! 日本でのステージとはちょっと違った選曲になりました。あと、帰国後に『SEVEN』に収録されている“DANCE DANCE”を作ったのですが、その時に現地で学んだフラメンコギターのフレーズを反映してみたんですよね。パーカッションとしてタップダンスの音を取り入れたのも、鑑賞したフラメンコからの影響です。
━━たくさんのことを吸収されたんですね。Reiさんの日記を覗くようなドキュメンタリー映像が、『HONEY』というご自身の内面をさらけ出したアルバムに封入されているのは象徴的ですね。
“音楽へのピュアな気持ち”や“リアリティ”、“秘密のダイアリー” ……アルバムのコンセプトに通じるような要素が詰まった映像作品になったと思います。「映画音楽をやりたい」っていう夢もあったので、映像ありきで音楽を作った“ミュージックフィルム”として楽しんでいただきたいです。アルバムに入ってない曲もたくさん入ってる作品になるので。
━━アルバムを買ったら映画が1本付いてきた感じ。傑作です。
お値打ち価格だと思います(笑)。でも、リアリティのあるドキュメンタリーをこういった映像作品で描いたのは初めてなんですよね。もともとアーティストのメイキングがすごく好きで、いつかこういうリアルを切り取るような映像は作りたいと思ってたんです。いざ、こうやって出来上がった映像を振り返ってみると、いかに人前でライブをする、っていう自分にとっての当たり前の日常が貴重だったかに気付かされますね。
「失うものなんてない」という感情が、
この作品全体のかもし出す“素直さ”につながった
━━映像作品ではコロナに対する考えや、楽曲制作への向き合い方について、Reiさんが率直な気持ちをお話しされていますが、アルバムも映像作品に負けないくらい、パーソナルな感情を吐露した作品に仕上がっていますね。前作のミニアルバム『SEVEN』と比べ、楽曲制作への向き合い方にどういった変化がありましたか?
コロナ禍を通して相手に何かを直接伝えることが難しくなった結果、言葉に対し繊細に、神経質になって。言葉への責任が増して、とにかく乱暴な表現にならないように意識しました。初めて自分らしい言葉に出会えた感覚があったんです。それが自分の弱さを克服できる武器になるとは限らないけど、それを認めることで、自分の本音を言葉にする術は見つけられたかなと思います。
あと、今年は自分にとって必要なもの・不必要なものがはっきりした年。自分が一番欲しいものを手にいれるために、いらないものを排除して、世界が変わっていくタイミングでした。“What Do You Want?”を作っていた頃はコロナ禍ではなかったけど、結果として2020年にぴったりな曲になった気がする。
━━―方で、“Categorizing Me”のように、自身のルーツや言語のエピソードなど、葛藤や悩みを吐露した歌も収録されていて。ここまでご自身の内面を吐き出した作品は、今までになかったんじゃないかなとも思いました。
“Categorizing Me”は、自分自身を象徴する歌になったのかもしれないです。これだけコロナによって世界中がかき乱されて、多くの人が亡くなったからこそ、これ以上に失うものは何もないんじゃないか、と思ったんですよね。それが作品に向かうモチベーションになった。「失うものなんてない」という感情が、この作品全体の醸し出す“素直さ”につながった気がします。
ただ作品全体を通して伝えたいメッセージは、必ずしもコロナ禍の今だけに当てはまるものでは決してないんですよね。もっと普遍的な思いを込めた作品になっていると思います。心細さから生まれる“人を求める愛情”が入り乱れた、すごくパーソナルな作品になったんですけど、それと同時にこれまででは最も間口が広くて、外に向かっているアルバムな気がするんです。
Rei – Categorizing Me
自分の扉も開きつつ、
相手も開いてくれるのを待つことが正しい姿かなって
━━では、なぜ今回の『HONEY』はパーソナルであり、かつ普遍的な作品に仕上がったのでしょう?
映像でもちょっと話してるのですが、世の中が自粛モードに差し掛かった今年の3月中旬頃からボロボロだったんです。6月くらいまではずっと落ち込んでいたと思います。ただ、自分が大切にしている人たちが自分に弱みを見せてくれることが、その数ヶ月の中であって。それにすごく安心を覚えました。傷ついているということを私に見せてくれて、頼ってくれたことへの愛おしさと安心感がありました。
ただ、それって逆の立場でもそうかもなって。人の弱みを見ることで「自分と一緒なんだ」って思えるなら、自分も見せてみれば、受け取り手が安心するのでは、って思ったんです。
━━ドキュメンタリー映像を封入したのも、そういった意図から?
そうかもしれない。映像は『HONEY』を制作する中で、作品として成立した映像でもメッセージを伝えたいと感じたのがきっかけでした。「私自身のドキュメンタリー映像を作るならどうなるか」を意識しながら、コロナ禍で失われた数ヶ月を映像と音で表現しました。
━━そういった意識で『HONEY』という作品を生み出した先、Reiさんの活動にはどういった変化を期待していますか?
リスナーとの距離が縮まってほしいと思っています。これまでの私は傲慢な部分があって、リスナーが心を開いてくれるのを待っていただけだった。自分がノックした扉を向こうが開けてくれないことに苛立った時もありました。
でも『HONEY』の制作を通して、自分の扉も開きつつ、相手も開いてくれるのを待つことが正しい姿かなって。ライブも同じような姿勢で向き合いたい。私が扉を開き、お客さんもライブを楽しめる構図ができるようになればと感じてます。「どうぞ! 私のお家へ」って感じ(笑)。
あと、今年は初めて出会う人が多かったです。スタイリストさんから、“Categorizing Me”のアニメーションを作ってくれたクリエイターまで。色々悲しいこともたくさんあったけど、巡り合わせがあった年。純粋に感謝してます。
━━今回1年間を通し、私もReiさんに何度もインタビューできて嬉しかったです。最後に、リスナーへのメッセージをお願いします。
今回のアルバムは「フィジカルさ」を意識しました。だって、ヒステリックグラマーの北村信彦さんとも「フィジカルでも残さないと!」って話をしましたもんね(笑)。(『Rei × HYSTERIC GLAMOUR 北村信彦 対談』:https://qetic.jp/interview/rei_hysteric_glamour-feature/360400/)リーフレットやジャケットのデザインにも、たくさんの秘密や仕掛けを用意しているので、手に取って繰り返し楽しんでもらえればと思います。自分と同じ孤独を抱えている人にメッセージが届けば嬉しいです。
Text by Nozomi Takagi
Photo by Kana Tarumi
Rei
卓越したギタープレイとボーカルをもつ、シンガー・ソングライター/ギタリスト。兵庫県伊丹市生。
幼少期をNYで過ごし、4歳よりクラシックギターをはじめ、5歳でブルーズに出会い、ジャンルを超えた 独自の音楽を作り始める。
2015年2月、長岡亮介(ペトロールズ)を共同プロデュースに迎え、1st Mini Album『BLU』をリリース。
FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、RISING SUN ROCK FESTIVAL、ARABAKI ROCK Fest、SXSW Music Festival、JAVA JAZZ Festival、Les Eurockeennes、Heineken Jazzaldiaなどの国内外のフェスに多数出演。2017年秋、日本人ミュージシャンでは初となる「TED NYC」でライヴパフォーマンスを行った。
2019年11月7作品目となる 4thMiniAlbum『SEVEN』をリリース。
2020年4月3日に専門学校モード学園(東京・大阪・名古屋)新CMソングの「What Do You Want?」をリリース。
RELEASE INFORMATION
HONEY
2020年11月25日(水)発売
Rei
Reiny Records/ユニバーサルミュージック
Limited Edition(SHM-CD+DVD)UCCJ-9227
¥3,600(+tax)
Standard Edition(SHM-CD) UCCJ-2185
¥2,800(+tax)
収録曲:
01. B.U.
02. COLORS
03. Categorizing Me
04. What Do You Want?(HONEY mix)
05. Lonely Dance Club(w/SOIL&“PIMP”SESSIONS)
06. Broken Compass
07. Stella
08. Today!
09. ORIGINALS
10. ERROR 404
11. matatakuma
12. my honey pie
・Limited Edition 付属DVD収録内容
MUSIC FILM #4 ”Days of Honey”
2019年のスペインフェスティバル出演風景、“What Do You Want?”や“Categorizing Me”ミュージック・ビデオのオフショットや別テイクなどを収録したドキュメンタリー調ミュージック・フィルム。
ダウンロード/ストリーミングはこちら
HONEY diary
EVENT INFORMATION
Rei Release Tour 2021 “SOUNDS of HONEY” -the Lonely Set-
2021.01.30(土)
1st 14:15 open / 15:00 start
2nd 17:45 open / 18:30 start
名古屋 THE BOTTOME LINE
2021.02.07(日)
1st 13:15 open / 14:00 start
2nd 16:45 open / 17:30 start
大阪 BIGCAT
Rei Release Tour 2021 “SOUNDS of HONEY” -the Band Set-
2021.02.14(日)
17:00 open / 18:00 start
東京 EX THEATER ROPPONGI
※東京公演のみオンライン有料配信あり。