川沿いに落ちているゴミから人々の生活や都市の成り立ちを記録するプロジェクト「RIVERSIDE STORY」。アーティストxiangyuとファッションブランドPERMINUTEのデザイナー半澤慶樹のタッグによって始動した本プロジェクトの展覧会が、2022年9月2日(金)から5日間、恵比寿のKATAで開催された。

この展示では、川沿いのゴミから制作された衣装や作品が展示されている。なぜ彼女・彼らは川沿いゴミを“ファッション”というマテリアルに落とし込んだのだろうか。プロジェクトの経緯を伺った。

INTERVIEW:
xiangyu&半澤慶樹(PERMINUTE)

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展覧会初日と最終日にはトークイベントも行われた(撮影写真は初日)

なぜ川のゴミからファッションの制作へ

2022年9月、恵比寿のギャラリースペース・KATAには一部屋分のサイズに凝縮された“渋谷川”の姿があった。ギャラリーの奥に向かって作られた一本の溝の中を覗き込むと空のペットボトルや缶、持ち主の分からない古びたカバンなどが敷き詰められている。そして、その両岸に並ぶ6体のマネキン。フエルトで固めた板状のキャンバスに、化石のように埋め込まれた誰かの帽子。

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半澤とxiangyuが、川沿いにまつわるフィールドワークを始めたのは、今年の春だった。きっかけを、二人は次のように語る。

「たまたま渋谷を散歩していたら、渋谷の商業施設・渋谷ストリームの脇に渋谷川という川が流れていることに気づいたんです。『渋谷に川がある』という感覚は自分の中であまりなかったので調べてみると、どうやら新宿御苑から流れ始めて、道路の下に潜る川である、と。

あまりに自分がイメージする“川”とはかけ離れているので渋谷川沿いを観察しながら歩いていると、川沿いに捨てられたゴミの様相がエリアによって変わることに気づいたんです。文化服装学院時代の同級生である慶樹(半澤)が地学に詳しかったのを思い出し、『渋谷川って知ってる?』と電話したのが始まりでした」(xiangyu)

「もともとxiangyuとは最近ハマっているものをお互いにシェアするような仲でした。実を言うと、彼女から連絡があるまで渋谷川という川の存在は知りませんでした。話をもらったのはオリンピックが終わり、都市の新陳代謝があったタイミング。渋谷は行き慣れている街であるにも関わらず、まだまだ自分の知らない見え方があったことにも驚きましたね。実際に渋谷から広尾、恵比寿に向かって散歩をしてみると、街の空気や人の動きが変化するにつれ落ちているゴミにも変化があり、面白かったです。

そもそも文明は、川を中心に隆盛していくもの。川と生活はそもそも密着することが多いのですが、渋谷川のように暗渠(あんきょ)する川の場合、その周囲の生活がどう変化するのか、興味をもつようになりました」(半澤)

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「川沿いを散歩しながら街の変化を観察する」という“自由研究”を自発的に始めた二人。では、なぜ「ファッション」というアウトプットを選んだのだろうか。

「共通する言語がファッションだったから、というのはあります。ただそれ以上に、かつて人の手を離れて捨てられた“ゴミ”という存在が服に生まれ変わり、再び体に密接するものとして人のもとへ回帰していくというストーリーにドラマを感じました。

論文やゴミの展示など、他のアウトプットの可能性はあったと思います。でも“装い”というアウトプットを通し、生活のあり方を見直したり、マネキンを見たときの感覚が自分の体に跳ね返ったりできるようになれば、新たな街の見え方もできるようになるのでは、と思ったんです。今回、ショーピースではなく、着ようと思えば普段使いできそうなリアルクローズへ落とし込んだのも、鑑賞者の身体へ帰着させるという目的があったからでした」(半澤)

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30人の学生とともに、即興的に服を生み出していく

展示されているマネキンの足元には、QRコードの書かれたパネルが貼ってある。読み込んだ先には渋谷川の周辺を指すピンの打たれたGoogle Mapが。それぞれの服の材料となったゴミがどこで拾われたものかを示している。なかには「自販機の下に隠すように置いてあった」ゴミもあった。「服を作ることがメインのプロジェクトではなかったからこそ、何が・どういう風に・どこに落ちていたかを示すことが重要だった」と、二人は振り返る。

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「私たちが歩き始めた渋谷のストリーム周辺は、やっぱり人通りもあるぶん一見すると綺麗なんですよ。そもそも業者じゃなければ渋谷川に入れないのもあって、私たちは“リバーサイド”、つまり川沿いからゴミを拾いました。

渋谷では人目につかないところに、空き缶やお弁当のゴミがこっそりと置いてあることが多かったです。お酒やコンビニで売られているコーヒーのカップなどが捨てられていました。次第に恵比寿のエリアに差し掛かると、食べ残しの入ったお弁当などの生ゴミが目立つようになりました。そして河口付近である浜松町エリアではそもそも隠す気もなく、不法投棄されたような旧型のミシンや、自転車のホイールが多かったのは面白かった。

今回の展示ではギャラリーの中央にゴミを並べてみました。入り口側が起点となった渋谷ストリームの周辺。奥に行くにつれ河口付近の浜松町エリアで拾ったゴミを並べています。手前側はここ最近捨てられたような印象のあるゴミが多いのですが、河口付近は年代が古く、資料の入ったカバンや、テレホンカードが落ちていました」(xiangyu)

「新陳代謝のスピードが違うんですよね。高速の下だったりして、人が立ち入らないぶん時間もゆったりだった。前の持ち主の姿や暮らしに思いを馳せ、『どんなシーンでここに捨てたんだろう』と想像するようにもなりました。特に古いゴミは捨てられた時期のことを考えると、ある種の“念”のようなものを感じて。

僕たちは『川を綺麗にしよう』『サステナビリティな提案をしよう』という感覚が起点にあるわけではありません。ファッションという身体性に帰着するアウトプットを経て、そこから生まれる副産物との距離感を再考する余地を生みだすことが、むしろ今回の肝でした。渋谷や恵比寿のエリアに限定していたらモダンなゴミしか収集できなかったはず。さまざまなエリア、いろんな年代のゴミをミックスすることで、より想像力のはたらくアウトプットを目指しました」(半澤)

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会場では、ゴミ拾い・衣装制作の模様を収録した映像も公開された

これらのゴミを回収したのは主宰者の二人に加え、彼女・彼らの母校である文化服装学院の在学生だ。学生らは授業の一環としてプロジェクトに参加し、ゴミ拾いから洗浄、ルックの制作から展示まで、ほぼ全ての工程に携わった。

テーマとデザイン画から生地を調達し、型通りに裁断し縫合する、というのが一般的な服作りの工程。しかし今回は用意された素材をもとに服を生み出す、というプロセスをとった。

「30人弱の学生とともに制作したのですが、みんなでコックリさんをやっている気分でした。トップダウンで誰かが動かすわけでもなく、全員の力が作用してモノがアップデートされていく感じ。

そしてあり合わせの材料をどう活かすか、学生たちと話し合いながら、リアルクローズに落とし込んでいく工程は即興料理をするような気分でした。拾ったものをくっつけるだけでも“服”にはなります。でもあえて切ったり溶かしたり、と遠回りな手の加え方をすることで、愛着が湧いてくるんです。 

そのうちに、僕たちも学生たちも『ダンボールを編むのって気持ちいいな』と、ゴミのもつ質感が好きになったり(笑)。“生地”として落とし込んでいく過程までにたくさんの気づきがありました」(半澤)

「普段、私が音楽制作をする時もせいぜい関係者は2〜4人程度。大勢で一緒に作業するのはどちらかというと苦手だし『ミニマムでやったほうが楽だ!』とプロジェクト当初は思っていました。

でも、一人だとたどり着けなかった発想に導いてもらうことはとても多かったです。例えば、素材に対し“編む”“溶かして固める”といった調理方法の相性が合わない、という失敗は何度も経験しました。でも、そのなかで『こうするのがマストだ』という考えを覆すアイディアが学生から出てくるんです。

『糸状にすると丸まっちゃうならその質感を活かしてこう縫えばいい』のように、徐々に素材を活かす考え方が生まれていくのも面白かった。自分以外の思考がどんどん入ってくるからこそ、『やってよかった』と言いきれる仕上がりに到達できたと思います」(xiangyu)

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そして、最終的に完成したのは6体のルック。それぞれのマネキンがまとう服をよく見ると、ダンボールを編み込んだ生地やペットボトルを細長く切って糸状にしたニットが使われている。これらのルックも、トップスやボトムスの組み合わせ・スタイリングを事前に決めないまま縫製作業を行った。

「スカートが先にできた時、いろんな素材を当てていくとプランAでもBでもなくプランCが生まれることがあるし、次の日にはC+の案も出てくる。ルックの担当者も特に決めていたわけではないので、他のルックを作業していた子が、次の日には別のルックに取り掛かることもありました。

いろんな人のアイディアが介在し、全員が6体のルック全てに愛着を持つようになったんです。展示も学生たちと一緒に『どうプレゼンテーションすればルックの魅力を引き出せるか』を考え、準備しました。

学生たちは良い素材を丁寧に縫って、綺麗な形を作ることが“洋服づくりの手本”だと思ってしまう。手の感覚を信じながらインスタントに服を合わせる方法や、素材を見つめ直してアウトプットを探ることもひとつのファッションの答えなんです。『こういう作り方も面白いんだよ』と提示できたことは嬉しかったし、僕ら自身の気づきにもなりました」(半澤)

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文明が生まれた川に捨ててあるものは何か?

KATAの展示には200名ほどの来場者を動員し、盛況に終わった。「ファッション学生だけではなく、環境問題や、都市のフィールドワークに興味のある若い人も多い印象」と半澤。「デザインだけではなく、素材そのものの産地や実際に手に取った情報に価値を感じてもらえたことは嬉しかった」と語る。

「渋谷のような都市部は駅を中心に街が形成され、ベッドタウンでは商業施設を中心に街が成り立っています。街の見方を“川中心”にシフトすることで新しい発見を得たことが面白かったです。今回は渋谷川を取材しましたが、今後は隅田川や多摩川など、川を変えることでどういったゴミが取れ、作るものがどう変化するか探ってみたいです」(半澤)

「渋谷川の違う支流も行ってみたいし、暗渠の中にも潜ってみたい。あとは、インドのナイル川やガンジス川など、文明が生まれたプリミティブな川にもチャレンジしたいです。『この川がなければ生活に困る』ほど暮らしに密着した川だと、捨ててあるものがどう変化するのかは興味があります。

今回は文化服装学院という服を作る学校に通う学生たちが、“ゴミ拾い”という作業にネガティブな感情を抱かず、むしろ楽しんでくれた。本当にプロジェクトの励みになりました。今後、もっといろんな人を巻き込みたい。プロジェクトを継続する仲間が一人でも増えればと思っています」(xiangyu)

現在、「RIVERSIDE STORY」ではクラウドファンディングを実施している。集まった資金は今後のプロジェクトを継続させていくための制作費として活用される。

「僕らの実生活にこのプロジェクトがどう帰着するか。それが今の課題になっています。例えばどこかの業者と組み、“本当に着れるマテリアル”にアップデートさせることも一つの目標。その土地で採れた野菜をその土地で食べると美味しいように、局所性とプロダクトをもっと強く結び付けたいです。そこに行かないと買えない靴や鞄を身につけ、その土地で再びゴミ拾いをする……といった循環性が生み出せたら面白いと思っています。

必ずしも潤沢な資金が集まればそれを実現できるとも限りません。僕らで興味を持ってもらえそうな企業、メーカーを探すことも重要。ただBtoBのお金のやりとりだけではどうにもならない部分があるからこそ、今は活動にベットし続けたいです」(半澤)

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Text:Nozomi Takagi

INFORMATION

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RIVERSIDE STORY

川沿いに落ちているゴミから着想を得たxiangyuと半澤のプロジェクト。人の生活や都市の成り立ちを記録したいという思いから始まり、渋谷ヒカリエ周辺のエリアから川の河口付近までのゴミを収集し手を加え、衣服へと仕立てていく。

クラウドファンディングはこちらInstagram

P.O.N.D. 2022 〜IN DOUBT/見えていないものを、考える。〜

2022年10月7日(金)~10月17日(月)11日間
11:00-20:00
会場:渋谷PARCO館内外
*RIVERSIDE STORYの展示場所は、4Fエスカレーター側

オフィシャルサイトP.O.N.D. Instagram

PROFILE

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xiangyu

2018年9月からライブ活動開始。 日本の女性ソロアーティスト。読み方はシャンユー。 名前はVocalの本名が由来となっている。
Gqom(ゴム)をベースにした楽曲でミステリアスなミュージックビデオも公開中。2019年、5月22日に初のEP『はじめての○○図鑑』をリリース。2020年にも6月5日、デジタルEP「きき」をリリース。2021年5月にはドトール愛が爆発した「ミラノサンドA」をシングルリリース。
毎年夏に開催している自主企画イベント<香魚荘>では音楽のみならずxiangyuが今面白いと思うヒト・モノ・コトが集うイベントを開催している。音楽以外でも元々活動しているアートやファッション、映画への出演など、垣根を超えた活動を行っている2022年の7月16日からはxiangyu自身が主演・主題歌を担当した、映画『ほとぼりメルトサウンズ』が新宿のK’s cinemaより順次、全国公開されている。

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半澤慶樹

1992年福島県生まれ。文化服装学院、ここの学校を卒業し、2016年より「パーミニット(PERMINUTE)」をスタート。また、TAV GALLERYでのキュレーション企画展や、パルコ広告のファッションディレクションを行うなど、多岐に渡り活動を行っている。

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