これまでに多彩な作品を生み出し、SIRUPや韻シストとのフィーチャリング楽曲も発表するほか、音楽塾「ルンヒャンゼミ」を立ち上げ若手アーティストのサポートやプロデュースも行うなど、多岐にわたり活動するシンガーソングライター・RUNG HYANGルンヒャン)。彼女のニューシングル“AWAKE”が2022年7月27日(水)に配信リリースされた。

プロデューサーにShin Sakiuraを迎えた今回の楽曲では、ハードボイルド映画の一場面のような描写の狭間で“Wake up!”と聴き手を煽る。2012年のメジャーデビューから10年目を迎える彼女が、今、“AWAKE”のようにパワフルな楽曲を生み出す背景とは。彼女自身のキャリアを辿っていくと、そこには受け手との“セッション”を重視する彼女自身のスタンスが深く関係していることが伺えた。

INTERVIEW:
RUNG HYANG

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楽曲制作って「あるある」を集める遊びなんですよね。

━━RUNG HYANGさんは、現在の“RUNG HYANG”名義で活動を始める前はどういった活動をされていたんですか?

<DRAMATIC SOUL>というイベントを2012年から2016年まで企画していました。当時のR&B、ヒップホップ好きが世代を超え集まれる、月一ペースのパーティで。竹本健一、MARU、Hiro-a-key(現:Nenashi)、MAR、KYOtaro(現:SIRUP)をレギュラーメンバーに、志や肌感覚の似ている人が集まる場でした。

毎回ゲストを大御所とニューカマーからそれぞれ1組ずつ呼んでいて、大御所ならゴスペラーズの黒沢薫さんやPUSHIMさん、椎名純平君など、ニューカマーならeill(エイル)や向井太一も出てましたね。ミュージシャンの出会いの場になっていたと思います。

━━錚々たるメンバーですね。もともとそういったR&Bの界隈と交流するきっかけとなったのは?

origami PRODUCTIONSのCEOでもあるYoshi Tsushimaさんが主催する<JAMNUTS>という深夜のジャムセッション・イベントがあったんですよ。いわゆるオープンマイクスタイルで様々なミュージシャンやアーティストがお客さんとして訪れるような感じの自由な遊び場で。そこで20代前半の時に、さかいゆう、 鈴木渉をはじめとする音楽仲間に出会いました。

<JAMNUTS>からはすごく影響を受けていて、お題をもとに各々が即興で音楽を作る「お題セッション」もその時から流行ってましたね。その企画は<DRAMATIC SOUL>でも踏襲されました。

━━「お題セッション」って、現在Block.fm『恋と音楽のマッチングサプリ」でもやられていますよね。

まさに! 時々自分のライブでやるのですが、もともとは<DRAMATIC SOUL>の名物コーナーなんですよ。お客さんにお題を募ってそのテーマに合う曲を作るのですが。例えば「お水」というテーマだったら、それぞれが「お水」をイメージしセッションする。誰が一番整えられたか、で勝敗を決めて。

毎回ホストバンドがいて、彼らが決めたコードをもとにずっとループし続けながら、即興で作詞・作曲するんです。フリースタイルラップのシンガー&バンドバージョン、って言った方がわかりやすいかもしれません。ちなみにBlock.fmの番組内では、贅沢にも局長の☆Taku Takahashi(m-flo)さんが毎回トラックを用意してくれています。

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━━当時のRUNG HYANGさんは何のパートでセッションに参加されていたんですか?

歌い手です。しかも難しいのは「お水」とストレートにテーマを汲み取るのではなく、「なにも“みず”にここまで来てしまった」のようにダジャレっぽい変化球でアプローチするのが主流で。お客さんもその変わり種を楽しんでいましたので、かなり鍛えられましたね(笑)。

━━ではルンヒャンさんの名前が世に出るきっかけとなった“さくらびより”のようなポップスの音楽に足を踏み入れたのは、その後?

A面・B面じゃないですけど、<DRAMATIC SOUL>と並行して作っていました。<DRAMATIC SOUL>とはやっていることが全然違うので、自分でも別人格のように捉えていましたね。

“さくらびより”は2010年に自主制作で出していたのですが、2012年にワーナーミュージック・ジャパンから正式にリリースされて。まさか“B面”だと思っていた方の活動が一気に動くとは思いませんでした。

━━その当時はR&Bがご自身の軸だったと思うのですが、ポップスの領域にも興味・関心はあったのですか?

“さくらびより”をきっかけに面白いと思うようになりました。もともとこの曲は友人から依頼を受けての制作だったのですが「卒園式で子供が親に向けて歌う曲がないな」という気づきから生まれました。

楽曲制作って「あるある」を集める遊びなんですよね。「嫉妬」というテーマを一つとっても、世の中に出ていない表現はまだまだある。発明みたいなもので、誰よりも早くそれを探し当てることに面白さがあるんです。世の中にありそうでないものを作る、ということの興奮はその時に学びました。

また、初めて言葉の持つ力を再認識できたのも大きかった。音楽好きじゃない人にも伝わる表現の仕方を研究する日々。それが後々自分自身のシンガーソングライティングに影響を与えたと思います。

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世の中が評価するかどうかと、いい作品かどうかはイコールではない

━━RUNG HYANGさんは現在、教える立場から、アーティストをサポートしていますよね。<DRAMATIC SOUL>時代から講師業も行っていたんですか?

10年ほど前に先輩から「教える仕事に興味がないか?」と連絡が来て、音楽の専門学校でシンガーソングライティングの教鞭をとることになったのがきっかけでした。

当時はちょうど音楽だけで生活することが大変な時期で、「自分が何を教えられるかはわからないけれど、とりあえず仕事をしなきゃ!」と藁にもすがる思いでしたね(笑)。ちなみに当時受け持った学校では、先生の名前をそのままゼミ名にする慣習だったんです。現在の音楽塾は、当時の「ルンヒャンゼミ」という名称を受け継いでいます。

━━そのまま学校法人でゼミを受け持つのではなく、「ルンヒャンゼミ」が独立した理由というのは?

その学校が閉校することになったんですよね。でも、当時通っていた生徒も素晴らしかったし、卒業生が「これどう思います?」と音楽の相談に訪れるような場になっていて。彼らの行き場がなくなることはもったいないと思っていました。

そこで、独立して週一で人が集まるような秘密基地を作ったところ、徐々にルンヒャンゼミに人が集まるようになって。瑛人やeillや松本千夏、ビートボクサーのYAMORIもそこで出会いました。まだまだ面白い人たくさんいます(笑)。

━━当時から現在に至るまで、どういった立場で彼女・彼らの活動をサポートしているんですか?

あんまり講師の感覚がなく、むしろライバルでした。毎回テーマを与えて曲を作ってもらい、発表するのですが「すごい!なんでこんな歌詞思いついたの!」みたいな(笑)。自分にない感性が溢れているからこそ、「教える」というより「一緒にディスカッションしている」という感覚です。年や世代も関係なく、お互いが気になりあっていますね。私のことを、生徒も「先生」とは言わないんです。「ルンさん」とか「ルンヒャンさん」とか。

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━━その中でも瑛人さんのように感性が光る生徒さんと出会うことが幾度もあったと思います。「この子は良いな」とRUNG HYANGさんが感じる存在に、共通点はありますか?

世の中が評価するかどうかと、いい作品かどうかはイコールではなくて。みんなそれぞれにオリジナリティや魅力があります。いい意味でバランスの悪い子は多いかもしれない。どこかが突出しているけれど、どこかが抜けている(笑)。ライブ以外の生活面が酷いけれど、人前で何かをかますときの集中力は凄まじかったり。ただ、それは周囲のプロとして活躍するプレイヤーを見ていても思います。

━━今年、2022年から大阪音楽大学の特任教授に就任しましたよね。18歳〜22歳のアーティストと関わる中でどういったことを感じますか?

一時期までは「これキャッチーですよね」「売れる要素で作ってみたんですけど」と狙う子が一定数いたんです。でも、最近の子は「かっこいい」と思うものを追求することに対し、足枷がありません。だって自分たちで自分の音楽をいつでも発信できるじゃないですか。

より自分たちが面白いと思うものに対し貪欲で、枠を意識しない。可能性を感じますね。むしろ大人たちですら彼らの動向やアイデアをチェックし、意見を聞いているくらい。

自分の頃は情報をキャッチするのにも手間がかかったし、親戚のお兄さんお姉さんが聴いている音楽やテレビ番組からやっとかっこいい物をディグれたじゃないですか。でも今の子たちはすぐ情報にアクセスできるからこそ、ジャンルで聴かない。混ざっているのが面白いです。世代ごとの面白さや魅力がある、と感じました。

━━その上で、RUNG HYANGさんの世代は次の世代に対しどうアプローチしていくべきだと考えますか?

大人は遊んでなんぼだと思うんです。チャレンジする姿は常に見せていいんだな、と思います。次の世代にとって「歳を重ねることがつまらなくなる、しんどくなる」という印象をつけないこと。むしろ彼らがもっと自由になるために、私は自分の世代をもっと面白いところに連れていきたいです。だからこそ、世代を超え、みんなが遊べる現場やシチュエーションを作り続けたい。

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音楽って予測不可能で、触れると形を変えるアメーバみたいなもの

━━ルンヒャンさんがご自身よりも下の世代をプロデュースすることも、一つのサポートになるのでは、と感じました。アーティストの楽曲をプロデュースする際、意識することはありますか?

インタビュアーになったつもりで挑みます。アーティストの脳内にはまだ言語化されていない情景や伝えたいことがあるんですよ。その言語化されていないことを紐解くために、こっちからどんどん質問していく。

瑛人の1枚目のアルバム作りの時もそうでした。彼は言葉足らずだけど、頭の中ではっきりとした絵を持っているんですよね。仲間たちの遊んでいた場所を描くときも、そこに何があって・誰がいて・住所はどの辺で……とディテールはインプットされている。Google mapを見たりしながら会話した上で作品に落とし込んでいくんです。

その人じゃないとイメージできないことがあるからこそ、プロデュースに強制力はないと思っています。ただ、肝心なのは楽曲を届ける先にリスナーがいるということ。本人が意図している言葉や歌詞が、リスナーに理解されにくいこともあるじゃないですか。そこが独りよがりな表現にならないよう整えることを意識しますね。

それは“シンガーソングライターのRUNG HYANG”として楽曲を作るときもかなり気にします。正直、自分のことはあんまり信頼していません。「確実にこれは伝わっているだろう」と思うことはなくて、仕上がってからも普段音楽にあまり興味がない友人にまずは聴いてもらったりしますし。多分、一生信用することはないです、自分のこと。

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━━逆に、今回はShin Sakiuraさんをプロデュースに迎えシングル“AWAKE”をリリースされましたよね。もともとEP『DOCUMENTARY』の収録曲“Movin’ & Groovin’”でもShinさんはプロデューサーとして参加されていましたが、再び“AWAKE”でタッグをお願いした理由は?

Shinくんの楽曲プレイリストを聴いている時、とにかくベースラインでグッとくるポイントがいくつもあったんですよ。本人にも「ベースラインがすごい」という話をしたら、実際に彼自身がベースを弾いているらしくて。最近聴く好きな音楽の話を話をしても、すごくリンクしている。かっこいいと感じることや、グッとくるポイントも同じだったので全面的にトラック制作を任せたいなと思いました。

━━制作過程でこだわった部分は?

人に話したいことを歌詞にいっぱい詰め込みたかったので、言葉が立つように“隙間” をたくさん作ってもらいました。あと彼はベースを歌うように弾くんですよね。作業工程を後ろで見ていて、本当に素晴らしかった!

━━歌詞ではどんなテーマをもって言葉を選んだのでしょうか?

「時間がない」っていうことをとにかくリスナーと話したかったんです。世界も人生も変わりゆくなかで、心の中で本当はやりたいこと・もやもやしていることがあるのに、行動を起こせない瞬間ってありません?

実際「自分の人生はこんな感じだろう」と思っていたのに想定外の出来事が起こりまくったのが、ここ2〜3年じゃないですか。何かをやれるはずだったはずの数年間が後ろ倒しになっちゃった。「そのまま一生生きていけると思うなよ!」って感じたんですよね。だから「やりたいことないの?」と友達と話すつもりで歌詞を作りました。

RUNG HYANG / AWAKE – Music Video
supported by ADAM ET ROPE’

━━《100円ライター》《ミスタードーナツ》と固有名詞が頻出するのは、先ほど瑛人さんのアルバム作りでもおっしゃっていた「絵」に通じるのではと思いました。

“AWAKE”は映画が頭の中でどんどん進んでいくような感じだったんですよね。家の中で閉じこもってYouTube観て、「ダイエットしたいな」って思いながらドーナツを食べているような情景。それをそのまま描きました。その時に脳内で浮かんだ光もZippoじゃなくて100円ライターだったんです。日常にあって100円で買えるもの。「豊かなわけじゃないけれど、これ一個でやれることあるよね」って。

あと、今の環境でモヤモヤしていることがあれば、思い切って逃げちゃおうと。見ないふりをしていると、本人が気づかないうちに心の中で膨れ上がることもあるんです。それって全然ヘルシーじゃないし、きっかけがないと気づかない。暗闇の中、前を向いて歩かないといけない、でも100円ライターがあれば少しは前に進める。そういう絵が頭の中に広まっていき“AWAKE”の歌詞につながりました。

━━その描写の背景には、何かご自身の経験も関係しているのでしょうか?

自分の中でずっと残っているのは、貧乏でご飯が食べられなかった時期ですね。九州から上京したのですが、お金が尽きた時があったんですよ。初めて親に泣きついた時に母が「いま使っている携帯なんなん?あんたは本当の貧乏を知らん。全部解約しなさい。自分の贅沢を捨てればまだいけるはず。」って。無人島には何もないかもしれないけれど、ライターやナイフが一つでもあれば何かができるかもしれない。それを思い出しました。ある日、銀行口座を見たらそっとお小遣いが振り込まれてましたけどね(笑)。

━━そのエピソードが、コロナ禍のある意味「手も足も出ないように思える状態」とリンクしたんですね。

コロナになってしばらくみんなが家に閉じ込められていた時、伝えたいことがなくなってしまったんですよね。だから当時は心地よく家の中で過ごせることを考え、サウンド的に気持ちよかったりアンニュイだったりする方向へと変化していったんです。そして今は世の中の動きも変わり、音楽業界もアクティブになり始めているタイミング。すごく自分の中でも変化を感じます。

実は“AWAKE”でリスナーに向けた「やりたいことないの?」というメッセージは、自分にも問いかけているんです。この曲が、自分も覚醒するきっかけになるかもしれないなって思っているから。

私自身はライブでも音楽を“コミュニケーション”のツールとして捉えながら、お客さんと会話するつもりでパフォーマンスしています。それでいて音楽は予測不可能で、触れると形を変える変わるアメーバみたいなもの。シチュエーションはそれぞれ違えど、リスナーと一緒に“AWAKE”するきっかけになったら、ただただラッキーだな、と思っています。

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PROFILE

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RUNG HYANG (ルンヒャン)

福岡県・筑豊生まれの在日コリアン3世。卒園ソングをテーマにした「さくらびより」がYouTubeで話題を呼び2012年にメジャーデビュー、情報番組や音楽番組に多数出演。自身の活動のみならず多くのプロデュースも手掛け、eill、瑛人、YAMORI、松本千夏など話題のアーティストを輩出する「ルンヒャンゼミ」が各方面で注目を集めTVでも特集が組まれるほど。 SIRUP、韻シスト、向井太一、Claquepotといった音楽シーン重要人物との フィーチャリング楽曲も次々と発表し話題。 誰かの生活を覗き見しているようなリアルなリリックと、Jazz、Hip Hop、Soul、フォークと様々なジャンルを取り入れた「雑食」スタイルで進化を続けるシンガー ”ソウル” ライター。

パーソナリティーを務めるBlock fm『恋と音楽のマッチングサプリ』(通称 ラブサプ)第二第四火曜日23:00-24:00 生放送。 番組内ではリスナーの無茶振りに応える「お題セッション」や、お悩みに応 える即興アンサーサプリソングが話題。
2022年より大阪音楽大学 特任教授就任 音楽イベント『TOKYO CHILL CITY』キュレーター。

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RELEASE INFORMATION

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AWAKE

2022.07.27(水)
作詞:RUNG HYANG
作曲:RUNG HYANG / Shin Sakiura
Produced by Shin Sakiura

詳細はこちら

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