約2年半振りとなるオリジナルアルバム『プリズナー(Prisoner)』を2月17日(金)に世界同時リリースするライアン・アダムス(Ryan Adams)。最新作のリリースを前に、2016年12月には新木場スタジオコーストで待望の初単独来日公演で日本のファンを魅了した。

1994年にオルタナティブ・カントリーバンド、ウィスキータウン(Whiskeytown)を結成し3枚のスタジオアルバムをリリース。その後、バンドを脱退しソロ活動に移行すると多作家として才能を存分に発揮! ソロデビュー作『Heartbreaker』(2000)から『Gold』(2001)、『Cold Roses』(2005)、『Ryan Adams』(2014)など多くの名盤を世に送り出してきた。

また、オリジナルアルバムの他にも、カントリー、パンク、ロック、フォーク、メタルなど幅広いバックグラウンドを持った彼はカバー曲にも定評があり、オアシス(Oasis)の名曲“Wonderwall”をカバー、テイラー・スウィフトの『1989』に至ってはアルバムごとカバーしている。楽曲をカバーされたノエル・ギャラガーやテイラーからも好意的な評価を得た。

そんな、多作家で広大な音楽的背景を持つライアン・アダムスが最新作『プリズナー』をリリースする。ほとんど一人で行ったというレコーディングから、離婚を含めた人生経験を通して生じた変化までを語っている。是非、インタビューを読んで、最新作『プリズナー』に込められたものの片鱗に触れてほしい。

text by Qetic・

Interview:ライアン・アダムス

——ようやく実現した単独の来日公演でした。あなた自身、東京でのショウは楽しめましたか?

最高だったよ。I loved it!! 自分が日本語を読めないせいもあるかもしれないけど、英語ってすごく平坦な感じがするけど日本語の文字は色々あって、起伏がありとても美しいよね。

——同じ話を、初めて会った時にもしたのを思い出しました。今から15年前ですけど。私のノートに興味津々で。曲のタイトルはどう書くの? とノートを覗き込んだのに、私が曲名を英語で書いていたから、あなたはがっかりして……。

そうだっけ? 失礼なこと言ってたら、ごめんね。

——いえいえ、面白いなぁ、という話ですから。さて、今回ツアーのメンバーが一新されましたね。

全く新しいメンバーだよ。まだごく初期段階。一緒に演奏を始めて2ヶ月くらいかな。以前のバンドのメンバーは、子供が生まれたり、マイク(・ヴァイオラ)はもうレーベルの人間になっちゃったりしたからツアーはできない。でも僕は“バンド”を続けたかったからね。ネイト(・ロッツ)は知っていたんだ。ホールジーのバンドにいたりして。ベニー(・ユルコ/Gt.)とベン(・オールマン/Key,)はグレイス・ポッターのバンドにいて。お互いにみんな知り合いだった。ツアーって大変なんだよ。演奏する曲を150曲くらい覚えなくちゃいけなくて、そのリストを渡した時、みんな「うわぁ」って言ってた(笑)。

——新作『プリズナー』のレコーディング自体は、ほとんど一人でやったと聞いています。

最初は、ニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで始めたんだ。前回のツアーの最後の方は、2週間ごとにブレイクを取っていたんだ。バンドは家に帰してあげて、僕はスタジオに入った。ロサンゼルスに自分のスタジオも持っているけど、別の場所でやる必要があったからね。そこで曲を書き、レコーディングして、自分が目指すもののコアができたかなと思ったから、ロサンゼルスに戻って完成させたんだ。

Ryan Adams – Do You Still Love Me?

Ryan Adams – To Be Without You (Audio)

——別の場所でやる“必要があった”というのは……。

離婚問題の真っ只中で……同じ町にいるのも嫌だったし、同じ通りを見ることすら避けたかったんだ。全く別の場所に行きたかった。世界における自分自身を、違う視点で見るためにもね。別に不幸せだったわけじゃないよ。ただ、ニューヨークには前に住んでいたこともあるし、あそこに戻るのがいいんじゃないかと思えたんだ。あのスタジオ(エレクトリック・レディ)には、(元妻との)婚約の1週間前までいたんだよね。これはまったくピュアなアクシデントなんだけど、今回の旅って、あの時と同じ行程なんだよ。僕達はシドニーで婚約して、そこから日本に来たんだ。今回のツアー行程と同じ。世界ってやつは、まったくおかしなことをしでかしてくれる(苦笑)。

——二人でマイク・ヴァイオラのライブを下北沢に観に行った時ですね。

そう。あそこで初めてマイクに会ったんだ! 泊まったのも、このホテルだったな(苦笑)。

——新作はまだ1回しか聴いていないのですが、生々しい感情、たとえば、悲しみや苦しみや寂しさが、湧き出た泉のようなアルバムで、この先、それらの感情がどこへ行くのか見届けたいという思いにかられるような、そんな感想を持ちました。

その表現、すごくいいね。アリガト。正直になることを、自分に許したんだ。離婚というのは誰にとっても辛い、よくわからないミステリアスなもの。でも、そこから美しく、意味のあるものをクリエイトして、自分が救われなければ意味がないと思うんだ。こういう感覚を経験するのは、大人として当たり前のことなんだ、みんなが経験していることなんだ、と思うようにしたよ。

——以前、あなたに「曲を書くことで気持ちは癒されますか?」と聞いたことがあります。その時にあなたは「癒されない。曲を書くことは一緒に哀しんでくれる友達を作るようなものだ」と答えてくれました。そのスタンスは年を経て変化しましたか?

当時は、そう思っていたんだろうね。今は……(すごく考える)。人生は駅みたいなもので。各駅には人がいて、電車が来るのを待っている。音楽は、やって来る電車のどれに乗るかを選ぶようなものなんだ。目的地という名の感情が、どの感情なのかを自分で選ぶんだ。電車に乗っていく旅が長いか短いかはわからない。でも、最終的には行って、また帰ってくるんだと思う。同じ駅にね。

——曲作りがそういうものである、と? それとも今の話は音楽そのもののことですか?

音楽って、すでに起きていることの抽象的なヴァージョンなんだと思うんだ。E.T.みたいな宇宙人がやってきたとして、耳もない。その異星人たちにどうやって曲を説明する? それは、愛を説明するのと同じで、手には触れられないコンセプトであって、でもそれは人間みんなの中にあって、自分の中のヴォリュームを誰かが上げてくれたら、もっとよく自分の声が聞こえるということ。

——なるほど。今も日常的に曲は書いていますよね?

ほとんど、常に書いているよ。