新世代のエンターテイナー・高岩遼の、ソロ名義でのメジャー・デビュー・アルバム『10』が10月17日(水)にリリースされてから1ヵ月ほどが経った。 2008年、18歳のときに故郷である岩手県宮古市で「俺はビッグバンドを率いたアルバムでソロ・デビューする」と宣言してからちょうど10年目に完成した一枚は、じわじわと業界内外で話題を呼んでいる。

そんな中、今回は高岩遼と『10』でプロデューサーを務めたYaffle氏との対談が実現。それまで接点も無かった両者がどのようにして出会い、『10』という新時代のJAZZサウンドを作り上げたのか。『10』の制作秘話を中心に、ふたりの共通点でもあるJAZZ、そして12月12日(水)にビッグバンド編成で臨むリリース記念ライブについてもたっぷり話を聞いた。

インタビューを通して感じたこと。それは高岩遼という男が、絶賛進化の途中ということだ。

Interview:高岩遼×Yaffle

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『10』に感じたプロデューサー・Yaffleの必要性

——『10』が発売されて1ヵ月ほど経ちましたが、反響はいかがですか?

高岩遼 あっという間でしたけど、聞こえる反応は良いですね。同業の方から燃えてきている感もあるし、バンド含めずっとワガママやってきて良かったなと。メディアの露出に関しても、元々はD.I.Yで顔を合わした付き合いから繋がっていったので。

——確かに『10』のリリース前後、メディアで高岩遼の姿をたくさん見かけました。一方で僕はYaffleさんと会うのが初めてなのですが、インタビュー前の会話などからも高岩さんとの距離の近さが伺えました。ふたりの出会いのキッカケは?

Yaffle ええっと……渋谷のルノワール? 下駄履いてティアドロップのグラサンして、“バンカラ”みたいな格好してたとき。すごい人いるなと思った。

高岩遼 去年の6月か。5度見ぐらいしてたよね。

——フフ。それまではお互いどんな印象を持っていたんですか?

Yaffle 一回、EYESCREAMの撮影で近づいてたんだよね? そのとき雨がちだったんだけど、集合写真でSNABAGAUN.のメンバーの方が傘を差してたから後ろの人に被っちゃってて。「閉じてください」ってカメラマンに言われて「あ?」みたいな感じになってて「こえー」と思った。SANABAGAN.はスーツでマフィアみたいな格好してたんだよね。

高岩遼 それ聞いてたの? 第一印象悪っ。

Yaffle 悪くはない、恐いなとは思ったけど。最近トガってる人っていないからね。そんな感じで近い存在でもなかったし、最初に会ってからいろいろ音源は聴きました。その上で、もう少し声を出したものを作れればなと思って。だからスタジオで合わせたときの方が印象は良いです。

高岩遼 『10』のディレクターが元々はYaffleと知り合いで、そこから繋げてもらいました。僕もYaffleのことは知らなかったんですけど、やってることを聞いて純粋にスゲーなと思って。リアルとっぽいというか、リアル東京の人はバンドでもサナバの大河ぐらいで、それも大河は町田なので。どういう人なんだろうってすごいインタレスティングだったんです。今まで裕規(=Yaffle)みたいなやつとは音楽をやってこなかったし、その必要性を『10』には感じて。「何か面白いことになりそうだな」と、僕はルノワールで思いました。

Yaffle 今までプロデューサーを入れたことは無いんだよね?

高岩遼 スロットルでもサナバでも無い。レーベルのプロデューサーとかはいるけど、最終的に俺のジャッジ。これまではD.I.Yで作ってきたから。

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——ルノワールの出会いからすぐに制作はスタートしたんですか?

Yaffle そうですね。「とりあえずやってみましょう」みたいな感じで。ただ僕もまだ彼のキャラクターをあまり知らなかったのもあって、どういう方向性にするかは決まってなかった。もっと最初はエレクトロニック寄りだったかな。

——キャラクターがわかってきて『10』の内容に固まっていったと。

Yaffle 人間の魅力というか……今まであんまりキャラクターと音楽性を一致させるってことを僕としてもしてなかったんですよ。ただ彼の場合は、そういうのをリンクさせた方が面白いなと思った。そういうのを作りながら感じたというか……ああ、あれの日だ。

高岩遼 ん?

Yaffle あれ。両手に包帯巻いてて。聞いたら居酒屋でジョッキをガッチャーン!ってやったら血だらけになったっていう。

高岩遼 ああ、セッションのときに包帯巻いてたやつ?

Yaffle それ見てヤベーと思って。俺が求めてるミュージシャン像だなって。

一同 ハハハーーー!

Yaffle 失いかけてるやつと思って。

高岩遼 俺はめっちゃダウナー入ってたけどね。

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壁も皮もすべて取っ払って作り上げた、新たな高岩遼

——制作を経て、現時点でYaffleさんは高岩遼をどう見てますか?

Yaffle うーん……どう見えてるかをめちゃくちゃ意識してる人。自然の俺を見てくれっていうよりは、“こう見せたい”っていう像が先にあって、それを他人に見せたい、共有したいっていうタイプなのかなと。それは『10』でも前面に出そうと思いました。僕自身、元々はあんまりそういうことはやってなかったし、中からでてくるものが芸術みたいなところがあったんですが、その辺りの兼ね合いを図るのが今回の課題というか目標でしたね。

高岩遼 まあそのフシはありますね。

——Yaffleさんからは、こうやってわりとズバズバと意見は言われてたんですか?

高岩遼 そうですね、オブラートに包まず。それが僕はすごい嬉しかったんですよ。逆にそういう人はあんまいないですからね。だから最初の印象は、「こいつズバズバ言ってくるな」だった。本人はそんなつもりじゃないと思うんですけど。

Yaffle そんな言ったっけ?

高岩遼 うん、でもそれがいい。だから今回、裕規(Yaffle)が言うことで学んだことはたくさんありました。単純に「最近はこんな音楽が流行ってる」とか、「この音はこういう風に作ってるんだよ」とかも。僕は知らないことを知るのが大好きなので、裕規との作業はすごい楽しかったし、次に繋がるものだった。高岩の幅が広がったなと思います。

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——そういう意味でも『10』はYaffleさん無しでは成立しなかった。

高岩遼 はい。それに他のプロデューサーが高岩遼のアルバムを作ろうと思ったら、例えば「シナトラの往年のこういう曲で、日本でこういうニーズがあるから、こういう層を狙っていこう」ってなってるかもしれない。でも裕規の場合、「それはダサイから離れたい」がスタートになる。でも俺は「少なからずその要素はファンも求めてるから入れたい」って言う話もして、意見のキャッチボールをした。今回、トラックはすべて裕規が作ってきたものを聴いて、「なるほど。スゲーな」と思いながら仮歌を入れて、セッションして……を繰り返した。出てくるものすべてが新しくて、しかもこれが自分の音源になると思うとワクワクしましたね。

Yaffle 僕としては、いい意味で放任してくれた。モヤモヤの段階で話はしっかりしてスタートするので、制作段階で違うってことは無かったですね。まあ歌詞の世界観とかはけっこう話したけど。けっこう道化っぽい歌詞を書くじゃない。あれってどういうバックボーンなの?

高岩遼 やっぱ冒頭で話した理想がっていうのがデカいんじゃない?

Yaffle これまでは少し茶化してるというか、ガチガチに固めた歌詞は書かなかったじゃん?

高岩遼 元々かも。ストレートじゃないというか……だから自分を語ったのは『10』が初。

Yaffle 最初に歌詞のたたき台みたいのがあって、それを読んだときにまだ何か皮を被ってる気がして。僕はもっとレイヤーの深いところに入っている歌詞を聴きたかった。なので『10』は、歌詞の面でも彼の中でけっこう大きい転換だったと思う。

高岩遼 その通り。それをやるときが来たなと。

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ビッグバンド編成で挑む12/12渋谷クアトロ

——Yaffleさんは大学時代にビッグバンドのアレンジなどをしていたと聞きました。その辺りは高岩さんも話が通じる部分は多かったんじゃないですか?

高岩遼 アルバム自体、最初はどうするか構想もまったく無くて、ただビッグバンドでやるってことだけは決めてたんですよ。

Yaffle そうだったんだ。自分の中で何かあったのかなと思って。ジャズ・スタンダード・カバーとかでも無くて?

高岩遼 それだとただのパクリだなと思って。やるとしても“STRANGERS IN THE NIGHT”とか意味のあるやつ。ただ「オリジナルって何なんだ?」って言われるとわかんないっていう……そこでちょっと悩んだりもして。それでも「いやこっからっしょ」って感じで振り絞った先に何かがあると思って作ったのが『10』になって良かった。自分の人生を吐露するというか、マヨネーズの最後、下に溜まったやつをめっちゃ振ってピュッと出しましたね。

Yaffle 庶民的な例えで良いと思う。

——Yaffleさんが一緒に振ってくれたんじゃないですか?

高岩遼 そうっすね。最後のうーん!ってやってくれたのが裕規かも。

Yaffle ハサミで切っちゃうかな。

高岩遼 そのやり方あったかみたいな。

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——Yaffleさんらしいですね。少し話は戻って高岩さんとJAZZとの関わり合いはけっこう語られていると思うのですが、YaffleさんのJAZZとの出会いは?

Yaffle 初めは母親が持っていたJAZZのコンピを聴いたのですかね。そこから高校でも作曲とかしていて、大学でもギル・エヴァンスのサークルに入ってビッグバンドをして……ただ別にJAZZの道に進むつもりもなくて。そこから卒業前後はバンドとか、ジャズとか、ロックとかばっかり聴いてたんですけど、大学出て下界に下りてみたら、ハウス・ブームになってた。そこらを掘りつつシフトしていって、ロバート・グラスパーの『ブラック・レディオ』とかがあったおかげでヒップホップも聴きつつ……。彼と同じで、いろいろなところをフラフラしてたんですよ。だから今回ちょうどよかった。打って付けの案件というか、キャリア全部活かせると思いました。

——Yaffleさんにとっても『10』は今までにない案件だったんですね。お互いやっていて楽しかったんじゃないですか?

高岩遼 楽しかったですよ。まああとはアレンジャーが2人いるアルバムで、千葉はスタンダードの味の濃いJAZZを現代っぽくやるっていうので、方向性が全然違う。そこをどう最初から最後までリンクさせてやるかっていうのを裕規は考えてた。俺もどうしようかなってなってて、最後の最後の思いついたのが間に入ってるMCですね。

Yaffle 道玄坂を歩いてるときに思いついたんですよね。Spotifyでシナトラのサンズ聴いてて、「この人、MCのときめっちゃ陽気だな〜」っていうのがきっかけ。まあskitとかinterludeとかって自分語りが多いですけど、人に向かって話してるのはあまりないなと思って。そこからエンターテインメントとして語りというか、そういうのをやってみたらハマった。高岩遼というキャラクターで、曲と曲の間を“接着”してもらいました。

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——アルバム一枚を通して、高岩遼のショウのようだなとも感じました。12月12日には渋谷クラブクアトロで『10』のリリース記念ライブが控えています。準備は順調ですか?

高岩遼 この間ちょうど曲順について話しましたよ。まず『10』の流れは気にしないでいいんじゃないかと。繋がりとかを別に作るかもしれませんが、まあ結果的にいい曲順になりましたよ。

Yaffle いやー……ライブ絶対に大変ですよ。ビッグバンド編成でどう落とし込もうかっていう。せっかくライブハウスですし、ただ変に野暮ったくもしたくないなと。

高岩遼 まあアンコールでも面白いこともやる予定です。まああとビッグバンドなので、スケジュールを合わせるのがまず大変ですね。ギターとかもし入れると20人弱……。

Yaffle ギター入れなくても20人弱だね。入るの?

高岩遼 制作チームに検証してもらった。ギリギリ入るけど、俺、畳一畳分ぐらいしかなかった。

——畳一畳の広さで高岩遼がどれだけ魅せられるかは注目ですね。改めて今回『10』をリリースして、Yaffleさんとの制作も経験し、新たに得たものは何だったでしょうか?

高岩遼 音楽の幅は広がりました。自分の張ってる部分だけじゃなくて、例えばギアを戻さないとエンストするじゃないですか? ずっと今は4、5ぐらいで走ってたので、それを一回エンジンブレーキをかけながら、信号までゆっくりポンピングブレーキで止まると。そして全部ニュートラルに戻して……っていう作業を覚えましたね。これってすごい高岩の中で大事で。「アイドリングしてる音だけでもいいよね」みたいな……バイクの表現っていうのがナンセンスですけど。

一同 ハハハハハ!

高岩遼 それを裕規が教えてくれたし、『10』ができるまでの468日間で学ばさせてもらったっすね。

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interview&text by ラスカルNaNo.works

Photo by 横山マサト

高岩遼ソロアルバムリリースパーティ“10”

2018.12.12(水)
OPEN 18:15 / START 19:00
渋谷CLUB QUATTRO
ADV ¥4,000(1ドリンク代別)

チケット一般発売中
主催:VINTAGE ROCK std.
企画/制作:高岩遼、UNIVERSAL MUSIC JAPAN / Bauxite Music wy. / VINTAGE ROCK std.
お問い合わせ:VINTAGE ROCK std.

詳細はこちら

高岩遼

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Yaffle

オフィシャルサイトTwitterTokyo Recordings