シンガーソングライターのさらさが、新曲“火をつけて feat. 松尾レミ(GLIM SPANKY)”を配信リリースした。本作は、さらさが昨年12月にリリースしたファーストアルバム『Inner Ocean』の収録曲“火をつけて”を、10代の頃から憧れの存在だったという松尾レミを迎えて再構築したもの。

松尾の歌う新たなパートが加わったり、サビではふたりのハモリがフィーチャーされたり、さらさにとって重要な位置を占めるこの曲の、新たな魅力を引き出すことに成功している。これまでもフェスなどで共演したことがあるというさらさと松尾に、楽曲制作のエピソードやお互いの印象についてなどたっぷりと語り合ってもらった。

ふたりはよく似てる──対談:さらさ × 松尾レミ(GLIM SPANKY)

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「さらさちゃんと出会えたのは、運命みたいに感じていて」(松尾レミ)

──さらささんは、デビュー前からGLIM SPANKYが好きだったそうですね?

さらさ はい。幼なじみがGLIM SPANKYにハマって、高校の軽音部でグリーン・スパンコールっていう名前のバンドを始めたんですよ。

松尾 あははは、最高!

さらさ 私もその幼なじみにグリムを聴かせてもらってめちゃめちゃ好きになって。後夜祭の時にグリムの“ワイルド・サイドを行け”をバンドでカバーしたり、“焦燥”や“大人になったら”を弾き語りしたりしていたんです。特に“大人になったら”は、カバーするたびにいろんな縁を呼び寄せる不思議な力がありましたね。で、高校を卒業するかしないかくらいから「オリジナル曲を作ってみようかな」と思うようになり、それで作った数曲は完全にグリムの影響を受けていました。

GLIM SPANKY – 「大人になったら」

松尾 えー、気になる。聴きたい!(笑)

さらさ 恥ずかしくて聴かせられないです(笑)。でも、例えば歌詞を書くときとか「恋愛の歌詞を書く人、つまんない」みたいに当時は考えていて。自分の考えていることとか、社会的なこととかをテーマにしているレミさんの歌詞が大好きだったんですよ。とにかくレミさんとグリムが憧れだったし、創作における最初のモチベーションでもあったんです。

松尾 ありがたすぎる。こんなふうに言われることって初めての経験というか。私たち来年でメジャーデビュー10周年なんですけど、どこへ行っても一番若手という状況だったんですよね。なので「影響を受けました」とか「学生時代に歌ってました」とか、自分たちより若い世代のアーティストに言ってもらえるようになったのも、本当にここ最近で。自分たちのやりたいこと、やってきたことが、こうやって届いていたんだという喜びをひしひしと感じています。「曲げずにやってきてよかったな」って。

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──松尾さんが、最初にさらささんの音楽を知ったのはいつだったんですか?

松尾 2022年に開催された<Slow LIVE’22 Spring in 日比谷野外大音楽堂>のリハーサルでした。その時さらさちゃんはアコギの弾き語りだったよね? 私、自分も含めてボーカリストへのハードルがかなり高くなってしまうところがあるし、誰かの「声」に惹きつけられることって本当に稀なんですけど、さらさちゃんの歌を聞いた瞬間、思わずマネージャーと顔を見合わせたんですよ。「いいね!」って。

さらさ 嬉しい。

松尾 それでリハのあと挨拶をさせてもらい、本番ももちろん拝見したんですけど、さらさちゃんのことは「バックボーンが見えつつ今のシーンで輝く才能を持っている方だな」と最初から思っていました。私は音楽だけでなくファッションやアートワークも含めた表現を大切にしているのですが、さらさちゃんも自己プロデュース力に長けているというか。楽器や洋服にもすごくこだわっているのが伝わってくるし、そういう姿勢もいいなと思って。「仲良くなりたいな」と思っていましたね。さらさちゃんは、いつ頃からファッションやアートに興味を持っていたの?

さらさ それこそ子どもの頃からビジュアルアートに興味がありました。高校の頃からコラージュとか作っていたし、雑誌や本を読むのも大好きで。高校を卒業するときも、大学とか全然興味がなくて、「留学するか、進学するなら美大だな」と思っていましたね。洋服も幼稚園の頃から大好きで、自分で選んだ服じゃないと絶対に家から出ないような子だったんです(笑)。自分が好きだな、かっこいいなと思うアーティストは服まで可愛かったりして。

松尾 同じだ!(笑)

さらさ だからこそ、高校生の頃にグリムに出会い、レミさんが自分でアートワークを手掛けていたり、ビンテージの洋服にこだわっていたりするのを知って、「こういう人いるんだ!」とすごく感銘を受けて。ビンテージの服とかたくさん集めて60’sっぽい格好をしていたのもレミさんがお手本でもあったんですよね。

そういえばレミさん、「バンドを始めた頃は、好きな服を着てロックをやっていることに対して批判的な声があった」と以前おっしゃっていたじゃないですか。「だからこそ、下の世代の私たちが自分の好きな服を着て歌っているのが嬉しいよ!」って。

松尾 そう。私がグリムを始めた頃は、「ロックやるんだったら革ジャンにギブソンだろ、なんでワンピースなんて着てるんだよ」とか、「可愛い服とロックは合わないよ」みたいな謎の価値観を押し付けられそうになって。「いや、合うだろ」と思ってましたね(笑)。だって日本には野宮真貴さんがいたし、海外にも可愛いファッションでロックをやっているアーティストが今も昔もたくさんいるわけで。なので、そういう上の世代の変な価値観とは闘ってきましたね。さらさちゃんみたいなアーティストが今、活躍しているのはすごく頼もしいし嬉しいです。

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──<Slow LIVE’22 Spring in 日比谷野外大音楽堂>以降もおふたりは交流があったのですか?

さらさ 去年、新潟の<ヨルソライロ -夜空ライブ- in 南魚沼>でご一緒した時に、レミさんが“大人になったら”の前のMCで、私のことを話してくださいましたよね?

松尾 そうなんですよ。“大人になったら”は大学生だった頃に実家の寝室で作った曲なんですけど、「今は知らない誰かがいつかきっと、この曲をどこかで聴いてくれる日が来るといいな」と思ったんです。だから、この曲をずっと大切に歌ってきてくれたさらさちゃんと出会えたのは、運命みたいに感じていて。歌詞にある、《知らないあの子が私の歌を そっと口ずさむ夜明け 優しい朝》の〈知らないあの子〉に、やっと出会えたという話をMCでしたんです。

さらさ それを私はお母さんと一緒に、客席のど真ん中で見てたんですけどふたりで号泣しました(笑)。

松尾 私も話しながら涙が出そうでこらえてた(笑)。

さらさ そういえば昨年末の人見記念講堂でのワンマンで、“大人になったら”を歌っている時のレミさんが涙声になっていたのがすごく印象的でした。やっぱりレミさんにとってもこの曲は特別なんだなって。

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──そんな、相思相愛のふたりが今回コラボをすることになったのは、どんな経緯だったのですか?

さらさ “火をつけて”は、私が年末に出したファーストアルバム『Inner Ocean』に入っているんですけど、コロナ禍でスランプに陥ってしまい、曲作りが「楽しい」と思えなくなって「このまま曲が作れなくなってしまうかも」という状態が2、3年続いた後、ようやく書けた曲なんです。しかも、今までの延長線上ではなくて、新しく自分が目指すべき場所というか、新たな可能性が見える曲になったなと。“火をつけて”が書けたことで、「この先もきっとやっていける」と確信することができたんですよね。

さらさ – 火をつけて (Live from Inner Ocean Release Party 2023)

そんな、自分自身を救ってくれたこの大切な曲を、もっと聴いてもらうきっかけができたらいいなと。最近だと藤井 風さんとJVKEのコラボ“golden hour (Fujii Kaze Remix)”みたいに、もともとヒットしていた曲を他のアーティストの方、それも国境とか世代を超えたコラボレーションで再構築していく、みたいなことがここ数年増えてるじゃないですか。そういうことを“火をつけて”でやったらすごく面白いんじゃない? という話になって。真っ先に思い浮かんだのがレミさんだったので、ダメ元でオファーさせていただいたんですけど、そうしたら快く引き受けてくださって実現することができました。

松尾 めちゃくちゃ面白そうだったので、連絡をいただいてすぐ「やりたい!」って言いました。もちろん、やるからには最高のものを作らなければと。フィーチャリングってすごく難しいんですよ。もともと完成しているオリジナル曲が「正解」なので、それよりも良くなくなるか、あるいはオリジナルと違う要素をちゃんと入れられるか? しかないと思っていて。そういう意味でのプレッシャーもあったのですが、さらさちゃんとは感覚的な部分で「いい」と思うものが似ているし、繋がる部分が多いと思ったので、自然な気持ちでこの曲に愛情を持って向き合えば、きっといいものになるだろうと。

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おふたりの出会いの話や、コラボ曲のきっかけについて語ってもらい、意外な?過去も明かされた前編。後編では、楽曲制作の背景から、今回の制作を経て変化したことなどの話題に…。

後編はこちら

Text:黒田隆憲
Photo:Takaki Iwata
Special Thanks(Location):1LDK

PROFILE

さらさ

湘南の“海風”を受け自由な発想とユニークな視点を持つシンガーソングライター。SOUL、R&B、ROCKなどあらゆるジャンルを内包し、ジャジーでオルタナティブ、どこかアンニュイなメロディと憂いを帯びた歌声は観るものを虜に。 学生時代はジャムセッションに明け暮れ、高校3年の時に制服のまま出向いた元SOIL&”PIMP”SESSIONS 元晴、勢喜 遊 (King Gnu)、MELRAWらが主催するセッションにてMVPを獲得したことが自信となり本格的にシンガーを目指す。
2021年7月にリリースしたシングル「ネイルの島」でデビュー。
僅か1年でFUJI ROCK FESTIVAL’22へ出演を果たし、シーンに衝撃を与えた。そして、2022年12月に1st Album「Inner Ocean」をリリース。
リード曲「太陽が昇るまで」が各ラジオ局から評判を呼び、J-WAVE「TOKIO HOT 100」では、3週連続1位を獲得。二度目となる、Spotify「Soul Music Japan」のカヴァーにも抜擢。 さらに「Inner Ocean」リリースパーティーのチケットが即日ソールドアウト。急遽、会場を大きくして開催することになった追加公演も即日完売するなど注目度が高まっている。
また自身の活動以外にも鞘師里保、Michael Kaneko feat. 大橋トリオへの歌詞提供をはじめ、さかいゆう、清 竜人、s**t kingz、碧海祐人などの楽曲に参加。
悲しみや落ち込みから生まれた音楽のジャンル“ブルース”に影響を受けた自身の造語『ブルージーに生きろ』をテーマに、ネガティブな感情や事象をクリエイティブへと転換し肯定するさらさ。音楽活動だけに留まらず美術作家、アパレルブランドのバイヤー、フラダンサーなど、時に絵を描き、時にダンスを踊りながらマルチに、そして自由に活動の場を広げている。
 
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松尾レミ (GLIM SPANKY)

松尾レミ(Vo/Gt)&亀本寛貴(Gt)からなる男女二人組ロックユニット。ハスキーでオンリーワンな松尾の歌声と、ブルージーで情感深く鳴らす亀本のギターが特徴。 2007年結成、2014年メジャーデビュー。2018年日本武道館ワンマンライブ開催。同年、「FUJI ROCK FESTIVAL」GREEN STAGE出演。ドラマや映画、アニメなどの主題歌を多数手掛け、ももいろクローバーZや上白石萌音、DISH//、野宮真貴、バーチャル・シンガーの花譜など、幅広いジャンルで他アーティストへの楽曲提供も行なっている。
 
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INFORMATION

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火をつけて feat. 松尾レミ (GLIM SPANKY)

2023年4月12日
さらさ

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「Tiny Ocean」 supporting radio J-WAVE

2023年6月22日 (木)
恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:さらさ(Band Set) / GLIM SPANKY
チケット:¥5,000+1 Drink
主催 ASTERI ENTERTAINMENT / SMASH
後援 J-WAVE
 
チケット発売:
一般発売 4/29 (土) 10:00~

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