日本でも徐々に定着してきたコライトを活動当初から行っている、ラッパーのTossとシンガーのRyoからなるsankara。2019年12月リリースの“Callin”で初めてタッグを組んだプロデューサー/トラックメーカーであるDJ HASEBEと4度目の共作となる“Best Distance”を3月24日(水)にリリースする。宇宙をテーマにしつつボッサやレゲエ・テイストもある“2100”、MACKA-CHINがトラックメイキングを担当し、トラップを再解釈したニュアンスが新鮮だった“Closely”、そして、今回の“Best Distance”では高度に洗練されたソウル/ファンクを提示。しかもリリックのテーマは、このコロナ禍で感じる「人と人の距離感」が3作を通してつながっている印象だ。

身近な仲間とのコライトを経て、ここ2年はDJ HASEBEやMACKA-CHINら、大先輩にあたるクリエーターと共作しているふたり。刺激を受けながらsankaraの特徴をメロディとリリックで打ち出すには、プレッシャーを良い方向に転化することも必要だという。コロナ禍の中でコンスタントにリリースを重ねるふたりに、アップデートするコライト、そして2021年の展望を聞く。

INTERVIEW:
sankara

「いい距離感で」sankaraが新曲"Best Distance"で見据える原点 music210317_sankara-03

「自分に照らし合わせて
感じてくれたら嬉しい」

━━今回の“Best Distance”まで3作連続で配信リリースすることが目的としてあったんですか?

Ryo 今、こういう状況になってライブもできなくて。それこそ予定していたワンマンも中止になった状況で、「何ができる?」ってなったときに流れを止めたくなくて。ここらで準備期間として楽曲をいっぱい制作して、いい曲できたからリリースしましょうって流れだったんです。意識的じゃないって言ったら嘘になるんですけど、いい曲できたから配信させてもらったみたいな感覚ではあるんですけどね。

Toss でも止まってる人と止まってない人の差ははっきりしてるなと思って。この状況だから動いてないとっていう怖さも正直あるんですけど、それも含めて曲を書くっていうテンションでいました。

━━なるほど。“2100”“Closely”ときて、今回の“Best Distance”もテーマ的に繋がってますね。

Toss “2100”の前にHASEBEさんの周年のアルバム(『Wonderful tomorrow』2020年)に参加したときの“One Wish”という曲が、そもそも今のコロナのことを歌った曲で、そこからの流れなんです。今回の曲もなんだかんだ今の世相込みの曲になっていて。その中で僕らもただそのことを言うだけだと面白くないし、僕らなりにいろんなエッセンス入れて曲を繋いでいったんですけど。でも、この4作品すべて意識して繋げようとしたわけじゃなくて、1曲1曲やっていって、自然とそうなっていくっていうのはある意味ヒップホップのいいところっていうか。

Ryo 結局、吐き出したいものがこれだったって感じです。

━━2019年の“Callin”を含めて4度のHASEBEさんとのタッグですが、今回、曲のイメージはありましたか?

Toss 話はした上で、HASEBEさんからテーマいただいて、「こんなのどう?」って言われて、大体そこから僕らが作っていくみたいな感じなんですけど。そもそも“Best Distance”自体も、恋愛の曲というか男女の話が基本になっていて、ただ裏テーマで自分たちは意味がある曲にしたいなっていうところから始まって。実際にコロナで離ればなれで会えなくなっちゃった人とかいると思うし、彼氏彼女だけじゃなくて、家族とか。まずそういう人たちに聴いてもらった時に、どういう風に感じるのかなっていうのはあって。プラス、自分に照らし合わせてそういうのを感じてくれたら嬉しいなと思っているので、まぁ「いい距離感で」という意味で“Best Distance”というタイトルにしています。

━━Tossさんのラップで現実を描く部分と、Ryoさんのメロディに乗せる歯の浮かないポジティブさのバランスが良くて。

Ryo ありがとうございます。

Toss “One Wish”からの繋がりはありつつ、その時よりもうちょっと具体的に今の世の中のポジティブな側面を表現してみよう、というのが大きなテーマだったので。まぁ僕らなりに、今の距離感でもやれることはあるし、楽しめることはあるし。今ある環境で全力で楽しむって言い方は変ですけど、そういうのができたら一番、多幸感はあるのかなって気持ちも込みで書いてます。

━━距離の再定義をしてるというか。

Toss そうですね。実際この状況になって逆にハッピーな人もいるからね、っていう。もちろんそうじゃない人も自分たちの周りにいるし。じゃあ僕らの場合、どこなんだろうっていうのって、音楽で離れた部分もあれば、逆に近寄った部分もあったりする気がするので。なんか結局、そこの無い物ねだりじゃないけど、なくなったものはなくなったで思うこともあるし、あったらあったで思えないこともあるしっていうのは、どんな仕事でもそうかなと思います。

「いい距離感で」sankaraが新曲"Best Distance"で見据える原点 music210317_sankara-02

「ゆくゆくは原点に立ち戻ろうと」

━━HASEBEさんは毎回、全然違うトラックを持ってきますね。

Ryo 毎回、チャレンジというか新しいことをやりたいみたいで。

Toss 俺らにもやりたいことやらせてくれるんで、ダメ出しとかもない。ほんとに基本的なこと以外は「いいじゃん」って進んでいくんで。あと、僕らも若い頃、クラブで遊んでたりしたので、そこも含めて色々フラッシュバックして、レジェンドだったHASEBEさんと一緒に曲作りながらそういう気持ちも込みで熱くなれるっていうか。そうなるとリリックとか曲にも乗ってくるのかなっていうのは思います。

━━そして高度に洗練されたトラックですね。

Toss 大人なトラックですね。一歩間違えると子供っぽくなるんだけど、乗っかり方も含めて。

Ryo 僕らから発注したら絶対ないよね、こういうトラック。常に僕らもHASEBEさんのトラックでチャレンジできたらいいなとは思ってるので。「この前と一緒じゃね?」ってsankaraに思われたくないからやべえトラック作ってやろうって感じだったら嬉しいですね。

━━それが分業の良さという気がします。昔はプロの作詞作曲家とアレンジャーがいて完成度の高い作品を作ってたわけで。

Toss 確かに。分業のよさって、ほんとにそれですね。僕らは分業でしか音楽やってきてないって言い方も変ですけど、完全にそうなんで。HASEBEさんも「こいつらある程度、なんでも乗っかってくるな」っていう前提で、でもそれって信頼関係がないと絶対できないことだし。逆もしかりでいいトラックじゃないと、乗っかったところで……みたいなことって、しみじみ今まで感じてきたことでもあったので。HASEBEさんとやれることもMACKA-CHINさんとやれることも、そこに全幅の信頼を寄せて、俺らはいい歌詞やラップを書くことに集中できるのが良さかなと思いますね。

━━HASEBEさんとの制作でふたりが触発される部分ってどういうところですか?

Toss 「もっとこうしてほしい」とか意外に言わない方で、でもそれって逆にプレッシャーで。いい意味でも悪い意味でもR&Bだしヒップホップだし、日本のストリートのアンダーグラウンド知ってる人で、自分もずっと聴いてきているし。だからこそ、そこのハードルってちゃんとあると思うので、そこを油断して僕らがハードルを越えられないと、多分それっきりで終わるっていうのは常に思っています。自分の中ではちゃんとヒリヒリして、曲作るときにはやんなきゃなと。そこはいつも背筋伸びながらやってるみたいなイメージはあります。

━━MACKA-CHINさんはおふたりからしたらNITRO MICROPHONE UNDERGROUND って大きい存在があって、今も先を行ってるトラックを作ってる存在なわけで。

Toss めちゃくちゃ思春期に聴いてますからね。HASEBEさんとかMACKA-CHINさんとやったときに、僕らの仲間とか今まで一緒に音楽やってたヤツらがアガるって、すごく健全なのかなと思っていて。僕らもテーマとしてそういうのを大事にしてるので。僕らの周りの人たちが僕らの曲聴いてアガってくれれば、まず第一関門突破というか、「正解」と思っているし。

Ryo 見習うとこしかないですよね、実際。一周回って生き残ってるってことは相当アンテナ張ってるか、相当吸収するのがうまいか。柔軟じゃなかったら無理なんでしょうね、音楽で生きていくって。

Toss でもほんとにふたりとも柔らかさにびっくりしたよね? クラブにいた時は怖いイメージがあったんで。わかんないですけど、HASEBEさんもMACKA-CHINさんも俺らのことを理解しようとしてくれるスタンスだったと思うんですよ。それってなかなかできることじゃないと思っていて。僕らが同じぐらい年下の人に今、それができるか? て言われたらめちゃめちゃカッコよかったら話は別ですけど。なかなか難しいことなんですけど、すごくナチュラルにそれをやるんで、ほんと頭上がらないです。やっぱりリスペクトできる人たちだなって、曲一緒にやってすごく思いましたね。自分もそうなんなきゃって。やっぱりそういうところもないと音楽続けるのって難しいのかなって、ちょっと深すぎるかも知れないですけど、それぐらい思いながら今も接してます。

━━ところで今度はどんなクリエーターとコライトしたいですか?

Toss ゆくゆくは原点に立ち戻ろうとは思ったりもしていて。実際この後、もう1曲HASEBEさんとやるんですよ。それを挟んでからは、それこそ1stEP『BUD』(2019年)の時の感覚じゃないんですけど、自分たちの周りの身内と一緒に曲を作ってみて、2年経ってみて、「どう進化してるんだろうね、俺ら」って思う節があって。もともとHASEBEさんとか他の人たちとやったりするのは武者修行じゃないですけど、自分たちの新しい一面とか、殻を破りたいっていうのも込みで始めたことでもあったので。それを経て原点に立ち戻ってみて、どんな新しいものを作れるんだろう? っていうのはなんとなくふたりで考えて動いているところです。

━━楽しみです。今、どんな傾向が気になるとか、最近ガツンときたビートメーカーとかいますか?

Ryo ビートメーカーではないですけど、「あ、ついにやっちゃったか、このふたり」と思ったのがアンダーソン・パーク(Anderson .Paak)とブルーノ・マーズ(Bruno Mars)。あれやられたらどうすんの? みたいな。

Toss 俺は洋楽よりもGreen Assassin Dollarさんとかあの辺がくるのが日本で、ヒップホップでいいよねと。Nujabesとかの流れというか。もちろんラップしてる人のキャラクターとかいろんなもの含めてですけど、リリックにちゃんと説得力があった上で、いいビートがあると日本でもちゃんと売れるっていうのが、なんとなく希望っちゃ希望だよねと。全然、僕らと違うんですけど、でも希望があるなっていうのは思います。

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「動いてれば何かあるかもしれない」

━━今、まだなかなかライブができない状況ですが、今後の展望としては?

Toss 2ndEPの『SOP UP』も出してから、リリースワンマンができなくて、でもその間に結構曲を出してるので、ワンマン前にめちゃくちゃ新曲が増えていった状態で、これはこれで面白いなと。あと、シングルが続いたんでパッケージするというか、全部新しい曲で構成するとかもできたらいいなっていうのも構想としてあります。シングルはシングルで良さがあるし、EPになった時のパッケージで聴いて欲しい気持ちもあるので、ゆくゆくは両方の見せ方ができたらいいなとは思ってます。

━━現場からの発信がしにくい中でsankaraはどんな手法を取ろうとしてますか?

Ryo 僕らは最初はやってたけど、配信ライブをやめた側ですからね。それより曲を作ってためて、現場でできるようになるまでちょっと頑張りましょうっていう。膝曲げて、一気に飛びましょうっていうスタンスに今はなってるんで。

Toss 常に動いてることって今だからこそ大事で。止まっちゃったら何もなくなっちゃうし。ていうのは、まぁまぁシビアにはなってきてる反面、動いてれば何かあるかもしれない。楽曲のストリーミングとか諸々含めてちゃんと可能性を残していくって意味でも、動くことは大切かな。

━━去年は10月に自主企画<SIMCITY>を立ち上げて。今や大注目のKroiも呼びましたね。

Ryo あのタイミングで呼べてよかった。彼らの“Network”と俺らの『SOP UP』のリリース日がちょうど一緒で。

Toss ジャケットが剣道のお面みたいに見えて。「この剣道の人たち、カッコよくない?」みたいな(笑)。で、呼べるかな? って声かけたら出てくれたっていう。

━━これからより先入観のない状態で面白いもの好きが集まれるようになるといいですね。

Toss 自分たちが「かっこいい!」と思った人がドーン! ってのし上がっていくのって、悔しい気持ちもあるんだけど、何だろうね? 選球眼間違ってなかったというか。

Ryo でもそれがリアルな感じがする。今、みんなが簡単に音楽聴ける環境があるし。

━━他のカルチャーとかコラボする計画はないんですか? アートとか。

Ryo やりたい気持ちはあるんですけど、俺ら合うの? っていう(笑)。

Toss 今、原点に戻ろうマインドにだんだん進もうとしてる最中なので、それができて、面白いコラボとか曲ができた後に思いつく、みたいなパターンの方がありえそうだなって思いますね。でも絵とかはいいけどね。なんか上手にお互いに身になるような、かっこいいもので、いろんな人に見てもらえるものができた時にそれができたら一番いいなと思います。

━━今回の連作のアートワークにはストーリーがあるので、原画が見れたら楽しいのかなと思ったんですよ。

Ryo それちょっと面白いですね。

━━特にこの3作はふたりの人間の関係が視覚化されてるので。今ってスマホの画面でしかアートワーク見ないのがもったいなくて。

Toss 確かにそうですね。原画に関しては事務所が持ってて、売れたら僕らが買い取ろうって。そういうのってハッピーだよねって話はよくしています。そしたら原画展できるからね(笑)。

━━sankaraに紐づいてるストーリーを見せるという。

Toss そこもある種の分業なので、そこはそこの専門家に頼んで、フィーリングの合う人が僕らの音楽聴いて、何割の人がフィールしてくれるんだろうっていうのは面白いですね。

━━じゃあ、次は原点に戻ったスタイルでの3rd EPですかね?

Toss まぁ、僕らが思ってるだけなんでわからないですけど。

Ryo 3rd EP出して、年末にワンマンやって、フルアルバム出して、ツアーやって。

Toss 原画も手に入れて(笑)。

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sankara – Best Distance

Photo by 中村寛史
Text by 石角友香

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sankara
ヒップホップ発、東京シティ経由で現在進行形のポップカルチャーを切り開く、ラッパーのTossとシンガーのRyoによる二人組。二人とも幼き日を海外で過ごし、90年代のヒップホップ/R&Bをルーツに持ちながら、10年代以降の“シティポップ”や“チルアウト”といったドメスティックなシーンも捉えたトラックと、英語と日本語をシームレスに行き来するリリック/フロウが話題に。2020年は、EP『SOP UP』が3月度の渋谷タワーレコード・ヒップホップチャートの1位、内田理央の出演したシングル「Elevator」のミュージックビデオは13万を超える再生回数を記録。また、DJ HASEBEの活動30周年記念アルバム『Wonderful Tomorrow』にも参加するなど、さまざまなアーティストとのコラボレーションにも積極的な動きをみせる。そして10月には、カテゴリーや世代を超えたニューカルチャーの創造を目指し、自身の主催イベント「SIMCITY」を立ち上げた。

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INFORMATION

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Best Distance

2021年3月24日(水)
sankara